菜の壱「出会い」
「おじさんだれ?」
揺蕩《たゆた》うような微睡《まどろみ》みから一転、急速に意識が浮上する感覚と共に覚醒した俺の耳へと初めに聞こえた音は…幼い子供特有のちょっと甲高い誰何《すいか》する声だった。
「ん?」
音の次は薄暗く全く見えなかった視界。単純に目を瞑っていただけだと気付いたのですぐさま瞼をパッと見開く。そして開かれた双眸に写り込んできたのは白色に彩られた森の様相。鬱蒼《うっそう》という程でもないが樹木が疎らに生い茂り積雪で地面が辺り一面見渡す限り白く覆われているのが見て取れる。
「おじさん?」
うーん何処だ此処は?と辺りを見渡していると再度響く幼い声。誰だ?何処にいる?と訝しみ周囲を見回すも姿は見えず。すわ幽霊の類いか?と疑うも次の発声の内容により居場所が判明した。
「おじさんした、しただよ」
下?そう言えば足下は見てなかったな…と思い告げられた言葉に従い顎を下げ視線を声がした方へと向けて見てみると其処には緑と黒を基調とした市松模様の防寒着を着た五歳前後の幼い少年が首を後ろに逸らしながら此方を見上げている姿が。不思議そうな表情を浮かべるその顔は黄色系人種特有の肌色で特徴的なのが額の左隅に火傷でもした様な痣が少々痛々しく見える。ぱっちり開いた瞳は日本人にしては珍しい赫灼と呼ばれる虹彩《いろ》で髪は染めているのか隔世遺伝なのかは定かではないが薄っすらと赤みを帯びた黒髪。口にした言語が日本語な事から総合的に判断し此処は日本のどこかだと推察できたのは僥倖と言えようか。
「ねえおじさんはだれ?どうしてこんなところにひとりでいるの?」
とりあえず今いる場所が心の故国と言っていい日本だった事に安堵する俺。心身と言わないのはこの身がサイヤ人であるからだ。尻尾の感覚があるので間違いない。三度目だが、どうやら種族だけは世界が変わろうと変わらんらしい。まあポンポン変わっても混乱するし赤ん坊からやり直すなんて勘弁だからいいけどよ。つまり心は日本人で身体はサイヤ人なる日本属サイヤ種ヒューマンってこったな。略して日系サイヤンだぜ。今更かハハハ。
「あれ?きこえてないのかな?」
おっとしまった。つい話し掛けてきた幼児をほっぽってつまらん解説?に耽ってしまったぜ反省反省。一応おおよその現状を教えてくれた恩人(小)だ。さらなる情報を得る為にも真摯に対応せねば。
「いや聞こえてるぞ坊主。すまんな、ちょっと考えに耽ってしまってな」
「ふける?わかんないけどそうなんだ。よかった。みみがきこえないのかとおもってしんぱいしちゃった」
「おう、心配させて悪かったな。あんがとよ」
よかったーと安堵する表情に見ず知らずの人間を本心から思い遣る事のできる良い子なんだな〜とほっこりしたぞ。日本もまだまだ捨てたもんじゃないって知れて安心したぜ。やはり子供の頃からの教育と道徳を学ぶ事が肝要だよな。特に教室とか身の回りの清掃すら自分達でさせず業者任せになんてするからゴミがあっても片付けようって自発的な気持ちが湧かないし他人の迷惑になるんじゃないかって思考が働かず平気で色々汚して放置すんだよ。これって礼節や犯罪抑止などの面でかなり効果があるって統計も出てるし大多数の国はそこらへん失敗してんだよなあ。清掃片付け超大事。
「うん、それでおじさんどうしたの?まいご?」
おっと、またまたしまった。いかんな、つい余計な事まで考えちまう。悪い癖だ。今は会話に集中せにゃ。
「うーん、話せば長くなるんだが…」
「ながいの?」
「ちょっとな。まあ、諸々省略して端的に言うとすれば……わからん」
「え?わかんないの?」
「うむ、気付いたら此処に立っていてな。元は冬木市って所に居てなんやかんやあって死んだはずなんだが…」
「おじさんしんじゃったの?ゆうれい?でもあしあるよ?」
「信じるのか?」
「うん、おじさんうそいってないもの。ぼくにおいでわかるんだ」
「匂い?凄えな坊主。匂いで嘘かどうか判るのか」
「うん、でもおじさんはちょっとにおいがうすいんだ。ゆうれいだから?」
「いや幽霊じゃないぞ?」
「ちがうんだ。じゃあなんでだろう?」
疑問に小首を傾げ悩む少年。
普通ならありえない突飛な能力だが気による摩訶不思議現象やら超能力を筆頭とする超常現象に異端異常が常という魔術(偏見)などを実際に体験しまくってきた身としては今さら驚く程の事でもない。それに何より目の前の少年が嘘を付くとは到底思えないんだよな。純朴そのものだし。なら本当の事なんだろう。
それより匂いが薄いってなんだろうな。そっちの方が気になるぞ。元サーヴァントだからか?それで匂いが薄く?だが匂いって目に見えないが物質だよな?サーヴァントの身体って物質なのか?受肉は…してねぇな。だが実体はある。って事は…やはりまだサーヴァント?霊体化は…ふむ出来ると。試しに尻尾だけやってみたが出来た。腰横でふりふりしてみるが坊主には見え
「わー!おじさん!これ!これなに!?しっぽ?!しっぽなの!?」
るらしい……なっ!?
「坊主おまえ…これが見えんのか?」
「うん、みえるよ?」
なんでそんな事聞くの?って顔してんのな。見えてんのが異常なのに。霊体化は…ちゃんとしてるな。普通、霊体化したら同じサーヴァントだろうが気配は感じても見えないもんだ。唯一見える可能性があるとしたらパスの繋がったマスターのみ………ってマジか!?その考えに思い至り確認してみると…ある。確かに目の前の少年とパスが繋がってる感覚がある。しかしこれは…魔力じゃないな…気か?魔力も素は生命力を変換したもの。即ち気だ。魔術師が魔術回路というフィルターを通して使える様にした力が魔力。なら大元の気でパスが繋がっても不思議じゃない?だが更に深く探ってみると今の俺はサーヴァントの時と違い自身の体の内側から発生する気を感じるぞ?これは最初のサイヤ人時代の生身と同じ感覚。というかこの感じ…Fate世界で抑圧されていた枷が消えてるな。今の状態ならDB世界レベルで星すら容易に破壊出来るぞ。まあしないが。仮にやれても全力で気功波の類いを放ったら回復する前に存在自体が消えそうな予感がする。一応そんな機会あるとは思わんが思考の片隅に留めておこう。
「すごーい!」
まさかの事態に困惑し原因を探るべく思考に耽る俺。だがそんな俺の状況をよそに件のマスター?少年は尻尾をキラキラした目で凝視し歓声を上げている。
「ねえおじさん!おじさん!しっぽ!しっぽにさわっていい?」
やはりと言うべきか万国…いや万世においても尻尾は年齢問わず魅力的なものらしい。俺も猫の尻尾とか目の前でフサフサゆらゆらされたら堪らず触っちまう自信があるしな。仕方なし。
「いいが…坊主おまえさん俺が怖くないのか?」
「え?こわくないよ」
即答かよ。
「自分で言うのもなんだが俺は背も高く大きい上にけっこう強面だ。あ、強面ってのは顔や眼に迫力あって怖く感じるって意味な。で、さらに尻尾なんてものがある。幽霊じゃないのは確かだが怪しさ満点だ。坊主は俺以外で他にこんな姿したやつ見たことあんのか?」
「ううん、ないよ。ぼくやまおりたことないし。でもおじさんからはやさしいにおいがするからこわくないんだ。ぼくのうちはだれもしっぽないけどとかいのひとはあるんじゃないの?」
いや都会でもコスプレでもしない限り居ねーよ。居てもDB世界みたいに獣人が普通に存在するなら話は別だが。…ん?山?さっき坊主は山を降りた事ないって言ったよな?なら此処は山中な訳で五歳くらいならまだ義務教育も始まってないけど尻尾生えてる人間が都会なら居るかもって普通思うか?山育ちでもTVくらい観るだろうし限度が………あ、もしかして。
「坊主ちょっと聞きたいが今の年号って知ってるか?」
「ねんごう?」
そういえば世界が変わるたび時代もその都度変化してたわ。前のFate世界が近代だったからついその認識のまま今の世界を判断しちまった。少年の格好と会話の中で都会って言葉を知っていたのを考えるに少なくとも江戸時代以降の筈だ。なら…。
「正月を迎えると何年ってやつだ。例えば…明治一年とかな」
「あ、それならめいじ…うーんとぼくが三十ねん?にうまれたってまえにとうさんいってたよ」
「ほうほう、なるほどなるほど。…なら今は明治三十五年くらいって事か」
そうかそうかあの明治さんか。アイスが美味いっスよねー。あと十年もしたらデモが暮らしーする大正さんですなー。……約百数十年前かあ。文明開化つっても黎明期だろうし美味いもんあるかなぁ。
「あ!もうかえらなきゃ」
現代から一転、近代への転換期といえる年代に降り立つとは…なんて感慨深く思っていると毛艶が自慢の俺の尻尾を存分にモフり倒していた少年が突如声を上げちょっと焦った顔をするなり俺の左手を取って引っ張り始めた。
「おい坊主。どうした」
「おじさんも」
「おいおい、会ったばかりの他人を家に連れて行こうってのか坊主?不用心だろ」
「だいじょうぶだよ。おとうさんたちがまよってるひとがいたらつれてきなさいって」
「迷ってる訳じゃねぇんだが」
「わかんないならまよってるんじゃないの?」
あー、そういう解釈になんのか。ふーむどうしたもんか…。
「グゥゥゥゥゥゥ〜〜〜」
さすがの俺も会ってすぐの子供の家に厄介になるのは躊躇する。なもんでどうしたもんかと悩んでいると腹部が突如音を奏でた。それはもう盛大に。
「おじさんおなかなったね。うちでごはんたべれるよ?きょうはたくさんたけのことれたからたけのこじるなんだ!ぼくたらのめがいちばんすきだけどたけのこもだいすき!」
…よし決めた行こう。どのみちこの世界を知るにはどっかである程度情報を集めにゃならんしな。なら大人親に会って話を聞くのもいいだろう。誤解しないでもらいたいが…決して腹が減って思考が単純化した訳じゃない。あくまであくまでも好意を無にするのは人としていかんしパスの件も含めまだまだ検証やらなんやらしなきゃいけないしその為にも当分この子から離れる訳にはいかんという理由もあるからなのだうむ。
結論、タケノコはキノコに勝るとも劣らない!チョコ論争ぉぉぉナウ。異論は認める。
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初めまして。作者のサウィンドゲッアウシーといいます。
読んで気付いた方もいるでしょうが、この作品は転生して三つ目の世界から始まってますが仕様です。前の作品はないのであしからず。
実のところ、この作品はとある作者の方の作品をリスペクトして書いております。
具体的には作者名「魚拓」さんで「世界を巡る異界の放浪者」というタイトルで物語の流れとしては、赤子転生DB世界→Fate世界→11eyes世界って感じの転生に若干転移っぽく味がある作品なんですが今は更新されてなく停滞中。作者さんが後書きに設定は使ってよいよーと書いてあるんで一応本作品では流れがDB世界→Fate世界→そんで鬼滅の刃世界の流れとなってます。誓って言いますがコピペ等は一切していません。設定以外は立ち回り描写の類いも全て自力執筆です。主人公の言動性格は大分リスペクトしてますが。なので……億が一これを魚拓さんが読んで更新の意欲が湧いてくれたりしたらマジ嬉しいです。今後も書いていきますが遅筆でどうなるかはわかりませんしなろうのオリジナルも五年も更新してないので(書いてはいるけど色々あって満足に足る出来では…)マジ完結なんて夢…なんて頭をよぎる豆腐メンタルの作者の拙い作品に罵倒なしの適度にやんなエールでお付き合い頂けたら幸いです。
PS・鬼滅の刃なのは無限列車編を観たからです。初期開始DB世界からだと鬼滅の刃まで熱意が持ちそうになかったので…。そこら辺は過去話って感じで書くかもと言っておきます。情報的にはちょこちょこ話にでるんですが。煉獄さん……煉獄さん………煉獄さん!思い出すたび観るたび涙が止まりません。ああ叶うならFate時空みたいな別ルート生存編とか創られんかなぁ。
ストックはちょっとなので不定期です。二話目は二時間後くらいに。