世界を巡る異邦の救砕者   作:サウィンドゲッアウシー

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菜の弐「帰宅」

 よーしそうと決まればお宅訪問だ。俺は少年の手に引かれるまま歩き出そうとして…止まった。

 

「坊主」

 

「なにおじさん?」

 

「そういや名前も言わずに話し込んじまってたな。世話になるんだ今更だが名乗ろう。俺の名はゴーマ。苗字は…サイヤだ。坊主の名は?」

 

 俺の知る世界の過去かはさて置き此処は明治時代の日本だ。江戸時代と違い庶民でも苗字を持つのが一般的な筈なので無いのは不自然だろうと思いなんとなく種族名を苗字にしてみた。安直だが名前も見た目も比較的日本人に酷似している事だし無難な選択だろう。漢字にすると菜野護摩ってとこか。苗字の当て漢字はそのまんま。名前は…なんかの拍子に筆を取る機会があった場合さすがに胡麻なんて書けんから適当に当てた。ちなみに護摩は密教における護摩焚きから。祈る時に焚く焚火の事だ。業魔なんてのもあるが悪○合体やら格ゲーのキャラ名みたいなのでこっちにした。さすがにな…。

 

「ぼくのなまえはたんじろう。かまどたんじろうだよ。よろしくねごーまおじさん」

 

「おう。こちらこそよろしくな。たんじろう」

 

 手は繋いだままだったんでそのまま握手。お互いに軽くブンブン上下に振って挨拶とした。ハンドシェイクは紳士の嗜みってな。

 

 名乗り合いも終わり再度手を引くたんじろうの先導のもと歩き始める。さすがにこの年頃の子供が家からそう遠く離れる事もない筈なのでさほど時間も掛からず着くだろう。

 

 地面を覆う雪をサクサク音を立てながら踏み進む。周囲は陽が落ち始め夕焼けに辺り一面染まり始めており夕陽を遮る樹木の影が地面に長い線を幾つも刻み込んでいる。枝葉から垣間見える空にまだ一番星は見えない。

 

「タケノコタケノコうれしいな〜ほくほくあつあつおいしいよ〜」

 

 ふんふん鼻歌まじりにタケノコの歌(たぶん自作)をたんじろうが歌う。よほど好きなのだろう超ご機嫌だ。冬は山の幸が激減する季節。それだけにタケノコは貴重なタンパク源の食材として珍重されるのだ。アク抜きさえすれば炒め物に煮物汁物と基本なんにでも使えるからな。家庭ごとに味付けも変わるし今から楽しみだ。ひさびさに味わう(予定)のタケノコ料理に想いを馳せルンルン気分で歩く俺だが、ふとある事が脳裏をよぎる。夕飯を頂くのはいい。が、このまま手ぶらで訪問するのは如何なものかと。ならばやる事はひとつ。遠慮なく食べるため食材を確保し手土産とせねばっ!

 

「たんじろう、ちょっと聞きたいんだが山の動物って勝手に狩っても大丈夫か?」

 

「どうぶつ?いのししとかかな?おじさんかるの?」

 

「うむ、たんじろうの家への手土産にしようと思ってな」

 

「だいじょうぶ?だれでもかっていいけどやまのぬしがいのししだからみんなおおきいよ?」

 

「なに、見た目通り腕っ節には自信がある。どんなに大きかろうが狩っていいなら問題ないぞ」

 

「でも、いまからごはん…」

 

「心配すんな。さほど時間はかからん。十も数えない内にすぐ終わる」

 

 時間を気にするたんじろう。腹が減ってるんだろう、その顔はちょっと悲しげだ。なので手早く終わらせるべく一旦たんじろうと繋いだ手を離し額に右手の人差し指と中指を添え周囲一帯の気を探る。悟空譲りのスタイルだが集中するのに最適なので細かく気を感知する場合に俺も真似て使っているのだ。虫や小動物は小さ過ぎて無理だが猪クラスなら戦闘力が2〜3程度はあるので問題なく探れる。他にスカウターで探すって方法もあるが気を探る方が手っ取り早いので今回は使わない。あれは気の感知に長けた者にとっては無用の長物。気の使えない者には便利だろうけど俺が使うのはほぼ戦闘力の数値を計るのと通信する時くらいのものなのだ。ちなみにブリーフ博士と共同で魔改造してあるので結構便利機能が付いてたりする。詳細は後の機会にでも語ろう。

 

「………いた!ちょっと待ってろ。すぐ戻る」

 

 集中すること3秒弱。それらしき気を500mほど離れた位置に感知したんでたんじろうに一言声を掛けすかさず舞空術で空中を高速移動。ほぼ一瞬で目標の上空へ到着し目視で眼下を確認したら予想通り猪の雄(雌は子供がいる可能性があるので除外)だったので急降下し首筋に手加減した手刀を一閃し仕留める。するとゴキっという音と共に猪は息絶えた。手加減が上手くいって一安心。下手すりゃ首チョンパで辺り一面血の海になるからな。それから素早く猪の首根っこをひっ掴み元の場所へ超速で戻る。狩り始めてたった3秒の早業。かかった時間は気を探り始めてから合計7秒と少し。宣言通りに完遂した俺であった。

 

「あれ?おじさんそれっていのしし?…え?え?」

 

 一瞬でパッと消えパッと帰ってきた俺とその手に突如として現れた(ほぼズレもなく同じ場所に戻ったのでそう見える)猪を見て混乱するたんじろう。さもありなん。誰だってそうなる。タネも仕掛けもないマジック(物理)だぜ。(*゚∀゚*)ドヤ。

 

「言ったろ?すぐ終わるって。幸運にも比較的すぐ近くに居たんだ。これでおかずが増えるぞたんじろう。肉だ肉!思う存分腹いっぱい食べようぜっ!」

 

 嘘は言ってない。俺にとってこの程度の距離など有って無いようなものだし。

 

「おお!わーい!おにく!おにくだ!おにくだよ!おじさんすごーい!」

 

 たんじろうの混乱も肉の魅力に上書きされたのか一瞬で霧散した。子供は単じゅ…素直だなぁと思いましたまる。

 

「はっはっは、なに礼には及ばん。俺はいっぱい食べるからな。こんくらい持っていかんと逆に申し訳ないのさ。さあたんじろうタケノコ…いやお家へ向けてレッツゴーだ!」

 

「れっつごう?」

 

「イギリスって外国の言葉で行くぞーって意味だ」

 

「わあー、おじさんすごーい!ぼくがいこくのことばってはじめてだよ!れっつごー?」

 

「じゃあ勉強になってよかったな。発音もいい感じだぞ。美味しいご飯が俺達を待っている。さあ行こうぜ!レッツゴーッ!!」

 

「れっつごー!」

 

 きゃっきゃ喜ぶたんじろうは楽しげに再度繋いだ手をブンブン振って小走りに駆け始めた。そうすると必然的に歩速も上がるので俺も猪の後ろ脚を掴んで右肩に担ぎ若干早歩きでついて行く。外気は寒いが心はホッコリ暖かくなるそんな一幕だった。俺も昔はあんな風に無邪気な頃があったなぁと懐かしく思いながら。……………………嘘です。嘘こきました。転生前も転生後もそんなもんありません。若干スレた何処にでもいるちょっと生意気なガキでした。サーセン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猪を狩ってから歩くこと1分少々。俺の予想通りたんじろうの家はすぐ近くにあった。森を抜け50m四方ほど開けた場所に出ると周りを畑に囲まれた一棟の日本家屋があり夕餉の煙が台所と思しき場所の雨戸を開いた窓から良い匂いと共に盛大に上がっているのが見て取れる。

 

「おかあさんただいまー!」

 

 繋いでいた手を離し勝手知ったる我が家の扉を勢いよく開け元気よく帰宅を告げる炭治郎。それに対し扉を潜り帰ってきた我が子の声を聞き割烹着姿で調理していた母親は一旦その手を止めて顔を扉口に向け帰宅そうそう元気いっぱいな息子の姿に微笑む。

 

「お帰り炭治郎。ご飯もうすぐできるから禰豆子達と一緒に座って待ってなさい」

 

 そしていつも通りにお帰りと返事を返し夕飯まで妹達と待つ事を指示すると視線を手元に戻し調理を再開した。

 

「はーい!あ、おかあさん!」

 

「なあに炭治郎?」

 

「まいごのごーまおじさんつれてきたよ!」

 

が、このたんじろうの言葉で再びたんじろうに視線を向ける事に。すると必然的にその後ろの扉外に立って中の様子を伺っていた俺と目が合う。瞬間、無言で視線を交わし合う俺達。だが訪問した者が先に挨拶をするのが礼儀というもの。それを遵守しこちらからリアクションを起こす。

 

「失礼、御母堂。夕餉刻にすまない。突然の訪問だが俺の名はゴーマ。そちらのたんじろう君の言う通り森で迷っていた所をたんじろう君と出会いまして。ご迷惑かと思うがお尋ねしたい事もあり伺わせていただいた次第です」

 

 一息に現状と詫びの言葉を言いつつ勢いよく頭を下げる俺。その拍子に右肩に担いでいた猪も前のめりになり背負い投げのように足下に叩きつけてしまったのは……見なかった事にでき…んよなぁ。しまらん。

 

「ふふふっ」

 

 場に緊張が走る前に仕出かした俺の所業を見て微笑ましそうに笑う声が土間中に響く。

 

 バツが悪い俺は何とも言えず頰をかく事しかできない。

 

 ひとしきり笑って一段落したんだろう、たんじろうの母親は優しげな笑みを浮かべながら俺に向かって話し掛けてきた。

 

「それはまた大変でしたね。丁度ご飯も出来たことですし事情を聞く前に一緒にいただきませんか?」

 

「ええと…よろしいんですか?自分で言うのもなんですが怪しい事この上ないと思うんですが」

 

「ええ、かまいません。炭治郎が連れてきたのですから悪い方ではないのでしょう。それに私はこの子の感性とこの子自身を信じていますので」

 

 ああ、なんという母性。子を信じると言い切るその言葉と表情には深い愛情があふれている……。

 

「おかあさん!にく!おにく!いのししにくだよ!ごーまおじさんがとってくれたんだ!おみやげだって!」

 

 俺が母性に圧倒され感動に打ち震えていると足下からペシペシっというモノを軽く叩く音と共にたんじろうの肉肉宣言が母親に向かって告げられた。

 

「まあ、これは随分と立派な猪ねぇ」

 

 

「グウウウゥゥゥ〜〜〜」

 

 しかしそんな御母堂の言葉と重なり二度目となる俺の腹がTPOをわきまえず盛大に鳴り響く音が土間どころか家中にこだまするとは…ほんとしまらん。

 

「おじさんまたなったね」

 

 更に追い討ちでこれが二度目だとたんじろうに暴露されたぜ。恥ずかしすぎる……。

 

「くぅ」

 

「あ、ぼくもなっちゃった。へへへ」

 

 続けて鳴ったたんじろうの腹の虫の声に御母堂と共に堪らず吹き出してしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

あとがき

 

はい二話目でした。どうだったでしょうか?まだまだ冒頭にもなってませんが流れは不自然ではないと思うんですが。

ではまた。読んで楽しめたのなら幸いです。次ももうちょっとで二時間後に。




予想外に閲覧ありなので早めて投稿
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