「さ、さいやじん?さいや…様と言うんですか?」
俺のセリフに少々困惑する女性。サイヤの部分が苗字だと思ったらしく震え声ながらも聞いてくる。しかも様付け。…ふっ、通じないとわかっていてもやってしまうよな。これが理解を得られない寂しさというものか……ボーヤダカラサとか赤グラサンに時空を超えて言われたようでなんかムカつく。まあただの被害妄想だが。
「まあ一応…苗字はサイヤだからその通りだ。様はいらんから付けんでいいぞ。それはいいとしてだ妊婦さん、確認だが此処はあんたの家か?」
「は、はい私の家です」
「そうか…。すまんな、なんか変なモンが襲ってきたんでつい咄嗟に殴って戸を壊しちまった」
「い、いえ。もう既に壊れてまヒッ!?」
「ん?おかしいな手加減したとはいえ普通ならまだ動けるはずないんだが」
「キザグガァァァァァァッ!ゴゴジデヤグゥゥゥゥゥゥゥーーーッッ!!!」
突如、戸を壊して家に押し入り襲ってきた異形。襲われる寸前一瞬目の前が光ったと思ったらいつの間にか目の前に現れたさいやと名乗る男(着ている着物は変わっているが綺麗だし苗字持ちなのでお侍様かもしれない)に殴られ戸を更に壊しながら外に吹っ飛んでいったらしいそれが再び敷居を越えて襲ってくるのを男越しに見てうたは言葉途中に短く悲鳴を上げ息を呑む。最初に襲われた時はよくわからなかったが、その姿は熊のように巨大で睨みつけてくる眼は蛇の様であり鋭い牙が覗く口から血を流し金切り声を上げながら瞬く間に近寄ってくる化け物としか言いようのない存在に今度こそ駄目だと目を瞑る。いくら男が強く一度退けたとは言え人があんな化け物に敵うとは思えなかったからだ。男がやられたら次は自分だろう。身重の体では逃げる事さえ適わない。お腹の子だけでもと思うがどうしようもなく脳裏に愛する夫である縁壱の顔が浮かぶ。双子の忌み子として生まれ母を亡くし生家を出て彷徨っていた所を流行り病で家族を失い天涯孤独となった自分と出会い「なら一緒に家に帰ろう」と言ってそれからずっと寄り添ってくれて…赤子を授かったと話したらもの凄く喜び平凡でいい家族で川の字になって眠りただ平穏に暮らしたいと言って笑った…そんな夫を独りぼっちにする事を悲しみ涙が零れる。一秒、二秒、三秒と時が過ぎた。だがおかしな事に一向に痛みは訪れない。それどころか直前まであれ程うるさかった化け物の声すら聞こえなくなっている。恐ろしいが見えない方が余計恐怖を増すので恐る恐る瞼を開き見るとそこには……、
「うるせえな、話の途中だ。邪魔なんでちょっと空でも暫く飛んでろ。妊婦さんと話し終わったら相手してやるからよ」
いつの間にやら戸口の外にさいやと名乗った男だけが居て空に片腕を振り上げ仰ぎ見ている姿があった。
何がなんだか分からないがとりあえず戸口に近付き周りを見渡すがあの化け物の姿は何処にも見えず影も形もない。
「ああ、妊婦さん話の腰を折ってすまんな」
「い、いえ」
「さっきのアレは遠くにやったから心配ない。さ、身重の体に夜の寒さは障る。すまんが家の中で話の続きを聞かせてくれ」
空を仰ぎ見ていた男はこちらの視線に気付き先程の事がまるで無かったかの様に平穏な声で話しかけてきた。本人も言ってるが状況的にあの化け物をこの男がどうにかしたんだと思う。思うが…その方法がとんと思いつかない。あんな昔話に出て来るような化け物じみた存在をどうにか出来る男に本来なら恐怖するところなのだが…。
「は、はいわかりました。あ、あの」
「ん?」
「あ、ありがとう、ごさいます。その…た、助けてくれて」
命の恩人なのだ。それも自分だけでなくお腹の子と二人…いや夫の縁壱も入れて家族全員の。なら怖がるよりも何よりもまずお礼を言わねば。それに男の纏う雰囲気は強面にもかかわらず和やかで不思議と安堵するものだ。なら不必要に怖がるのは失礼にあたる。さっきの化け物はもう本当に居ないようだし心から感謝を伝えるためにも今は男の要望通り会話しようとうたはそう思うのであった。
◇
とりあえず邪魔な輩は振り向きざま顔面を片手で鷲掴みにして外に連れ出しそのまま操気弾の応用…というよりゴテンクスのゴスーストカミカゼアタックに似た人型っぽい気で構成したもので拘束しつつ2㎞ほど上空に投げ飛ばし滞空させておいた。そんくらい距離がありゃうるさい声は聞こえんだろという思惑からだ。拘束するならギャラクティカドーナツって方法もあるがあれは操るより拘束に特化した技なので今回は却下。あんなの地上に置いてたらそのまま口汚く喚き散らすに決まってるからな。一応言葉は喋れるみたいで後で相手してやると離れぎわに言っておいたが聞こえたかね?まあどうでもいいが。そうして空の彼方で点になるアレを見ていると妊婦さんが家の中から出てきた。流産とか怖いんで動いて欲しくはないが状況が状況だ仕方ない。幸い戸口で立ち止まっているので家の中に戻るよう促すとしよう。話はそれからだ。そう思っていたら、おずおずと礼を言われた。まあ、妊婦にしたら命の恩人か。しかも二人分の。偶然…ではないだろうが確かに助けたんだからそう思うのは当然の事だ。なら素直に受けておこう。話もスムーズにいきそうだしな。そう思いつつ俺は軽く頷き家の中に入るよう妊婦に促すのだった。
「さて、まずは改めて自己紹介からだな。俺の名はゴーマ。サイヤゴーマだ。先に言ったジンは忌み名みたいなもんでなゴーマと呼んでくれ。で、妊婦さんアンタの名は?」
吹っ飛んだ戸は幸いにも歪んだ程度だったので元の位置に立て掛けておいた。後で直す必要があるが今は寒気を防げればいいだろう。そして家に入りお持て成しをと動こうとする妊婦さんに待ったをかけ「でも恩人に」「いや気にすんな」と押し問答のすえ座ってもらい囲炉裏の火に掛けてあったちょっとした加湿器がわりの鍋の白湯を湯呑みに移し二人で啜る。しばらくお互い無言で飲んで落ち着いた頃合いを見計らい俺達は会話を再開した。まずやったネタの後始末としてちょっと内容を訂正しつつ名前交換だ。死ぬ前の名が偶然にも仁なので嘘ではない。何処ぞの幕マーツにタイムスリップした現代医シーではないのであしからず。したのは転生であるからして。
「はい、私はうたといいますゴーマ様」
「さっきも言ったが様は付けんでいいぞ?」
「で、でもお侍様を呼び捨てにするなど」
…なぜか名前を聞いたらお侍よばわりされたで御座る。サ、サムラーイ!
「いや、俺は侍じゃないから気にせずゴーマでいい。俺もうたさんて呼ぶし」
「そ、そうなのですか?私はてっきりお侍様とばかり…。あ、でも命の恩人を呼び捨てには」
「いい、いい。俺は気にしない。うたさんも気にしない。堅っ苦しいのは苦手でな。気遣うのも判るんでゴーマさんとでも呼んでくれ。それならいいだろ?」
「そうですか…わかりました。ではゴーマさんとお呼びしますね」
「ああ、よろしくなうたさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますゴーマさん」
お互い納得…は無理だろうがそういう事にしてもらおう。遜られる方が逆に気をつかうしな。
「と、いう事で色々と聞きたいが、まず初めに定番のこれを聞こう。うたさん今の年号は何かな?知ってれば年数も教えてくれ」
「年号ですか?えっと…確かこの前文亀って言うのになったとか。年数は二つ」
何故年数はともかく年号を聞くのかと疑問に思うようだが恩人効果で飲み込んでくれた模様。情けは人の為ならずって感じだぁねぇ。
「なるほど…。わかったありがとう」
これで何処に飛ばされたか判明したな。場所は多分同じだろう。外で見た周りの景色がほぼ変わらんから間違いない。そうか…ここは戦国時代真っ盛りの400年前か。信長が台頭する70年前位になるから丁度日本各地が群雄割拠でかなり荒れてる時期だな。まあこれはいい。予想の範疇内だ。次いこう次。
「じゃあ次はさっきのアレだが何か知ってるか?」
「いえ…私も初めてで」
「まあそうか、あんなの普通知らんよな。一生関わらん方が幸いの類だし」
「はい、ゴーマさ…んにはいくら感謝しても足りないです。本当にありがとうございました」
感謝しながら手が震えてるな。恐怖も思い出させちまったか。しまったな。アレは後で直接聞けばいいし話題を変えよう。
「あ〜すまん。ちょっと軽率だった。さっきの今だ、まだ心の整理も付いてないだろうに。ほんとすまん」
「い、いえ。大丈夫…とは言えませんが気になさらないでください」
「わかった。なら次だが…その左耳に着けてる耳飾りの事を教えてくれ」
「へ?これですか?」
前の二つは質問する意味はわかる。一つ目の年号年数はただ知らないから聞いたと納得出来るし化け物の事は言わずもがな。だが三つ目の耳飾りは意味がわからない。今聞く必要があるとは自分には思えないからだ。光と共に突然現れた謎の人物。だが危ない所を助けてくれた恩人なので問われた以上答えねば。うたはそう訝しげながらも知りうる限りを答えるのだった。と言っても借り物なので持ち主本人から聞いた事しか知らないのだが…。
「これは私の夫である縁壱の物です。なんでも亡き母様から御守りとして作ってもらった物で今は唯一の形見だと言ってました」
「ほうほう、形見か。そりゃ大事なもんだな」
「はい、今は私がこれを半分持っていますが普段は産婆さんを呼びに出掛けた夫の縁壱が両耳に着けています」
「なるほど、なら出かける際に半分を御守りとして渡された訳か」
「ええ、優しい夫なのです。私には勿体ないほどに…」
とても嬉しそうな愛しそうな顔をしてお腹を摩るうたさん。今とても幸せなのだろうと察せられる。
なるほど…ね。謎は解けた。って最初から予想はしてたけど。まあ、炭十郎氏の話から急転直下であれよあれよと今に至るが…助けられて良かった良かった。多分この現象は前のFate世界のアレが原因なんだろうけど実質的に俺の負担は然程でも無いので問題なし。あるのは元に戻る条件なんだよな。ある意味これって俺の力でも制御できん類いのもんだし。なんて思考していたら俺の気の感知範囲(今はアレがいるので2kmに設定中)に急速にこの家へと近づいてくる気を察知した。さっきの謎のゲテモノとは違い人のものだが気の強さ総量ともにあれとは段違い。少なくとも常人ではないな。アレに関係する輩なのかもしれん。狩人的なやつ。剥ぎ取る部位は無さそうだけどな。しいて取れるとしたら牙くらい?なんてハンター思考ってやつをしている間にも気はどんどん近づいてきてもう家の近くまで来ていた。なので出迎えるべく俺はうたさんに向けこう言い放つ。
「うたさん、話はここまでのようだ。誰か来た。一応聞くが客人が来る予定とかあるか?」
「い、いえ。こんな夜更けに訪ねてくる知り合いなどいません」
「ふむ、なら招かれざる客…もしくは…。ま、出迎えてみるか」
不安げな表情をするうたさんを安心させるべく軽い口調で俺が対応すると言い切るとうたさんはあからさまに安堵した。さっきのアレの同類とかだったら怖いだろうからしょうがない。ま、人間なんだがな。普通とは言い難いが。
すでに戸の前まで来たので蹴破られて今度こそ戸が再起不能になるのを防ぐべくこちらから戸を持って横へどけ俺は外へと足を踏み出すのだった。
◇
外に出るとそこには一人の男が立っていた。年の頃は二十歳前後。結構な男前で服装は簡素なものだがそこはかとなく気品が感じられる佇まいをしている。炭治郎と同じ様に額から左首筋まで特徴的な痣があるがあれより痣の濃さが段違いでまるで炎の様な模様にも見えてタトゥーかと一瞬思ってしまった。
「あなたは誰だ。なぜ俺の家から出てくる」
男の容姿等を観察していると痺れを切らしたのか向こうから話しかけてきた。どうやら招かれざる客ではないらしい。それどころかうたさんにとっては待ち人だ。その証拠に男の右耳にはあの耳飾りが夜風に吹かれて揺れている。
「ふむ、聞かれた以上は答えよう。俺の名はゴーマ。通りすがりの……旅人だ。あんたがうたさんの旦那の縁壱か?」
反射的にネタをぶっこもうとしてしまったが二度も同じとは芸がないしうたさんに説明したのをもう一度やるのは面倒なので自重した。うたさんを早く安心させたいってのもあるがな。妻を安堵させる一番の薬は目の前の旦那だろうしさ。イケメンめ爆ぜろとは思ってない…。
「縁壱!」
「うた!?」
そんなどうでもいい事を思っていると俺の背中越しに夫の姿を確認したうたさんが小走りで抱きつき抱擁しだした。名前を呼ばれ抱きつかれた縁壱もうたさんの突然の抱擁に動揺するもすかさず抱き返す。
こうして俺は新たなキャストたる只者ではないうたさんの夫である縁壱と邂逅するのであった。
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はい、五話目でした。ただいま自転車操業執筆中。ストックはマジありませんので出来次第の投稿です。ほんと気長に待っていただきたくかしこみかしこみお願いたてまつりまするーm(_ _)mでは次の投稿まで( ̄^ ̄)ゞ