さて、ちょっと気まずい土下座タイムというイベントのせいで現実逃避気味に過去を回想するなんて真似をしちまったがそれも程なく終了。緊張していた空気も若干薄れ一息つく俺達。縁壱氏の雰囲気も先程までと比べ柔らかく平常と変わらない様に見える。まあ平常と言っても会って間もないのでそんな感じに見えるってだけなんだが。ともあれ残っていた白湯を一気飲みし床にコトリと置くと俺は口を開いた。
「大まかな話の流れはさっきのでわかったと思う。それで後は…」
俺が話し始めると背筋をピンと伸ばし傾聴の姿勢をとる縁壱氏。傍のうたさんもそれにつられたのか身重の体を俺の方へと向けてくる。正直もっと気楽にしてくれよと言いたい。
「今回の件の元凶に話を聞こうと思う。具体的には上で拘束中の奴な」
言葉と共に俺は右手の人差し指を立て天井を指し示す。正確には天井を突き抜けて遥か上空をだが。
「いいかげん空も堪能した筈だしそろそろ大地に戻れっと」
そして言葉と共にその指を下に向けて振り下ろした。そして待つこと一、二、三、ドンッ!ジャスト四秒後に家の外から何か重たいモノが地面にぶつかる様な音が響き渡る。その音を聞きうたさんがビクッと体を震わせた。
「ああ、すまないなうたさん。今の音は襲ってきた奴を下に降ろした音なんだ。事前に知らせるべきだった。驚かせちまって本当にすまん」
「い、いえ。大丈夫…です」
俺の言葉を聞いて気丈にも大丈夫と口にするうたさん。本当は怖くて仕方ないだろうに。あ、隣にいた縁壱氏がうたさんの手に自身の手を重ね慰るよう包み込み握りしめた。……ふ、この妻想いさんめ。妻だからなぁしょうがないよなぁ。…生姜ないかな?口に入れて仏頂面でやり過ごしたい気分です!
見せ付けられる(被害妄想)のを耐えかね俺は「先に行く」と一言告げ一足先に敷居を跨ぎ外へ出る。背後では「うた、ここにいて」「ううん、私も外に」「だが」「お願い縁壱。怖いままじゃ嫌なの」「…わかった。なら何があってもうたは俺が護る。行こう」「ありがとう縁壱。…大好き」っていうやり取りが聞こえたが気にしない。…気にしてなんかしてやんないZorz。ちょっと背中が煤けそうなゴーマさんです。
ここで一句。【月の夜の、外に出る我、独りもの、鈴虫鳴いて、意図想いけり】お粗末!
※意訳:ヤムチャ風味「かつて荒野のハイエナと呼ばれたヤムチャ様も落ちたもんだぜ。都会に出ていろんな女の子にうつつを抜かしてる内に肝心のブルマをベジータの野郎に取られちまうなんてな。妊娠もしたって言うし…もう此処には住めん。ハァ…今までの礼を言ったら明日の朝には出て行こう。長引かせるだけ惨めだ。室内では今ブルマ達が妊娠三ヵ月を祝いパーティの真っ最中。凄く嬉しそうだよな…ブルマのやつ。ベジータは仏頂面だが俺は見た。ブルマのお腹を見て口元を微かに上げる奴の仕草を。それに耐えきれず夜風に当たると言い残し外に出たが鈴虫供が鳴いていやがる。奴ら相手を欲して一生懸命らしい。…俺もそうしてればよかったのかもな……。なあプーアル…プーアルはどう思う?あれプーアル?隣にいる子は誰だ?え?妖怪幼稚園の時の同級生?先週の月曜に偶然町で再会した?パーティに誘って実は両想いだったと発覚したからこれから彼女と添い遂げるつもりだって?…ちょ、ちょっと待ってくれプーアル!そうしたら俺はどうなる?!ヤムチャ様はもう一人でも大丈夫!?女友達もいっぱい居るし歳も歳だしこの際本格的に身を固める為にも自分は離れた方がいいだって?!まあ確かにセイラさんはお姉さん気質で頼り甲斐があるしチェーンはチャーミングでベルトーチカは脱いだら凄いが…って違う!そんな事ない!いや無くはない!?だがないんだプーアル!待ってくれプーアル!俺を!俺を!俺を独りにしないでくれプーアルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!!」
注:これは俺の主観と偏見によるアフレコである。が、ブルマの妊娠の発覚を機にヤムチャが長らく居候していたカプセルコーポレーションを出たのは事実で尚且つこの時期プーアルに彼女が出来たのも本当である。女友達の名Xもマヂで…。
ナカノヒト………ヤムチャしやがって(完)
◇
リア充夫婦を背に率先して外に出た俺。アレなアフレコは忘れてくれ。ともあれ一応例の奴は畑がある場所から少し離れた所に降ろしたので被害は無いと思うがちょっとしたクレーターは出来てる筈なので後で整地する必要があるだろうと考えながらその場所に視線を向けた。
急速に降ろしはしたが着地の反動はゴーストカミカゼアタック擬きが全部負担したので拘束中の奴に被害はない筈だ。まあ、急激なGで目を回すぐらいはしただろうが、なんて思いながら見ると案の定ぐったりして顔を伏せていた。異形の化け物のくせにちょっと柔過ぎないか?とも思うが個人差もあるのでそんなもんかと歩を進め近寄る。
襲撃時は即ぶっ飛ばし拘束したんでよく姿は見ていなかったのだが、こうして改めて見ると人との差異が微妙と感じる姿をしているな。まるで元は人間のような…。少し気になるがそこら辺も踏まえ聞けばいいかと思考を中断し俺は声を掛けてみる。
「おい、大丈夫か?」
大柄で歪だが一応は人の形をしているし言葉も不明瞭とはいえ使っていたので意思疎通は出来るはず…なんて思ってると瞼がピクッと震え反応した。すると急速にそれが全身に波及するなり唐突にピタッと止まる。まさかさっきのフォールダイブで心臓麻痺でも起こしたのか?とか思っているとカッと目を開いたその次の瞬間、
「ガアァァァァッ!」
突如叫びながら飛び掛って…これる訳もなくその場で喚き散らしはじめた。
「貴様ァァァァッ!離せ離しやがれッ!!」
力は強いようだが所詮それは人よりもってだけなので拘束から脱する事は当然できずにもがく異形。嫌な事に濁声が耳障りで非常にうるさい。やはり上空に飛ばしておいて正解だったとしみじみ思う。
「うるせえな。離せって言われて離すやつなんているわけねぇだろ。馬鹿かお前」
「その妊婦は俺が先に見つけたんだ!俺のもんだ!いいから離しやがれッ!!」
「いや聞けよ。つーか見つけたから俺のもんって何処の蛮族だよ」
「こんな芸当が出来る以上お前も鬼だろう!?なら半分だ!半分わけてやる!だからこの血鬼術を解けッ!解きやがれッ!!」
「ハア…ほんとうるさいなお前。俺が鬼?ならそう言うお前の種族って鬼か?酒呑童子とか茨木童子や赤鬼青鬼とかの?しかも拘束方法の呼び名がけっき術?意味わからんな」
「とぼけるな!目は擬態か知らんがそんな尻尾生やして怪力に加え人ごときに無い力が使えるとくれば鬼以外にありえるかっ!ならお前もあの方の血を戴いた鬼だろうがッ!!」
「ふーん、あの方に戴いた血ねぇ…。ならけっき術ってのはさしずめ鬼の血の術で血鬼術ってとこか」
おうおう、
「なあ鬼の…名前知らんから何ちゃらさんよ。俺ド忘れしたんだがあの方の名前ってなんだっけ?」
「貴様本気か!?元はよほど低脳な凡俗だったようだなっ!我等を人という惰弱で矮小な存在から鬼という強く素晴らしい存在へと変えてくれたあの方の貴き名を忘れるなど恥を知れッ!この鬼の面汚しがッ!!」
ほう?なるほどなるほど。もしやとは思っていたが予想通り鬼は元々は人間と。血が鍵か?まるで吸血鬼みたいな増え方だな。弱点とかも同じだったりして…。それも要確認だな。
「そう言われてもなぁ。ならお前がその貴き名ってやつを教えてくれ。そしたら二度と忘れん…かもしれん。それともお前も忘れたとか?そんな事ない…よなぁ?」
「当たり前だ!そんな訳あるか!俺は今よりもっと人を喰い強くなる!そしてあの方の一番の側近となり栄華を極めるのよ!そうあのお方!鬼舞つッ!?」
「おいどうした。きぶつで止まって。きぶつ様だったか?まったく記憶にないんだがよ。あと側近ってのはなんだ?鬼に序列の様なものがあるなんて初耳なんだが」
「貴様…本当に鬼じゃないようだな。あの方は自身の名を人ごときに明かす事を固く禁じている。鬼同士ならよいが人に言おうものなら即座に粛清されるぞ。昔そんな阿呆を俺はこの目で見た。だがこの場に人が居るというに名を容易く語る貴様にはその恐れが無い。なら鬼では無いという事!貴様の甘言で危うく命を落とすところだったぞッ!よくも珍妙なナリで謀ってくれたな!方法は知らんが血鬼術の様なこれも何らかの
チッ、以外と冷静な部分もあるじゃねぇか。俺を鬼と勘違いしてるから話を適当に合わせたんだが…まさか名前にそんなローカルルールを課しているなんてな。ちょっと想定外だったぜ。ま、それはそれで情報の引き出し方を変えればいい話だが即命を落とすってなんだ?常時監視でもされてんのか? いや違うな、さすがにそんな手間暇かける訳ないか。なら…ゲゲゲ妖案件的に考えて条件付きの呪いの類いかもしれんな。もしくはリ○グのサ○コ?みたいな?配下にそんな仕込み(憶測)するなんて…そのきぶつ何ちゃらって相当にロクな奴じゃねぇわ。これも要検証か。今回はさすがに無理だろうから後に別の奴に遭遇したときにでも確認してみよう。確定ではないが鬼って多分この世界の害悪っぽいし。
「騙すもなにもお前が勝手に勘違いしたんだろうが。俺は自分が鬼だなんて一言も言ってねぇぞ?」
「ぐぬぬ、…チッ、口達者な奴め」
おっと淡白な反応。怒りが一周回って逆に落ち着いたってか?ならこっからは会話の方法を変えて聞こうか。具体的には…拳で語って口を滑らせてもらおうかい!という事で拘束を解いてっと。
「パチッ」
俺は右手の親指と中指で音を鳴らすと同時にカミカゼゴーストアタック擬きを搔き消した。すると必然的に鬼も自由になるのだが急に拘束を解かれた鬼は訝しげな表情をする。
「貴様…なんのつもりだ」
「なんだ、解いてくれって言ったから願い通り解いただけだろ?」
「…チッ、本当に口の減らん奴よ」
口で散々煽ったお陰で懐疑的なようだ。願い通りにしてやったってのに疑い深い奴だよなぁ。ま、思惑あるからその反応は正解だけど。
「さて、口での口論もいいがそろそろ別口で語ろうと思う。こいつでな」
そう言うと俺は胸の前に開いた右手を掲げ小指から順に握り込み拳を作ると鬼に向け突き出す。
「ふん、いいだろう。出会い頭は不覚を取ったが、まともにやれば鬼である俺が負ける道理は無い。今までの分まとめて熨斗つけて返してやるッ!」
拳を構えた姿を見てまんまと俺の挑発に乗り身構える鬼。その意気込みは暑苦しいほどに高い。だが二度も突っ込んで返り討ちにあったからかその場から動かず待ちを選択するようだ。ま、どっちでも結果は変わらんがな。さーてと、いっちょ揉んでやりますかねぇと思いつつ前に歩を進めようとしたが寸前で思いとどまる。
「どうした?こんのか?今さら臆病風にでも吹かれたか?」
動きの止まった俺に鬼から催促とも挑発とも取れる言葉が飛んでくるが気にせず脳裏をよぎったある事柄に思考のリソースを割く。そして決めた。
「いんや?まさか。そういえば俺よりよほどお前に恨み骨髄な御仁が今この場に居るのを思い出してな。なら先を譲った方がいいかなとふと思ってよ。なあ縁壱氏?」
背後にいる縁壱氏にチラリと視線を向けそう言うと話を振られた縁壱氏はいいのか?って感じの顔をする。恩人の手前という事で我慢しているがさっきから凄まじい怒気と殺気で殺らしてくれって無意識か知らんが訴えて来てたからな。戦闘力の差を考えれば万が一も無いだろうし丁度いいからこの鬼とやらは縁壱氏の強さを測る案山子になってもらおう。鬼の検証と合わせ一石二鳥の良案だぜ!そう算段をつけ親指でうたさんを背に隠し殺意も顕な縁壱氏を指し示す。
「はっ!妙な手管を持つ貴様ならともかく只の人如きとだと?ククク、いいだろう。ならそいつを殺したら次は貴様だ。いや両方半殺しにして目の前で妊婦を貪り尽くすのを拝ませてやるのがいいか。その後は俺の気が済むまで嬲って嬲って嬲り尽くしてから殺してやるッ!!」
あ、馬鹿だ、馬鹿がいる。そのセリフを吐いた瞬間に縁壱氏の殺気がさらに膨れ上がったぞ。極寒レベルと言っても過言じゃない。しかも極小だが大気が若干震えてやがる。やっぱこいつ尋常じゃねえな…。読み取れる気が戦闘力換算で100近くなってら。教えりゃかめはめ波くらい余裕で撃てんじゃねえの?ってレベルだわこれ。確実だな。確実に死んだわこの鬼(自己申告)…。
「ゴーマ殿、配慮感謝する」
「被害を被ったのはうたさんだ。ならそれを返すのは旦那の役目ってな?うたさんは俺に任せて存分にやってやれ」
「重ねて感謝を」
戦意も顕に礼を述べつつ背後の不安顔なうたさんに問題ないと夫として父として家族を守る最初の試練だとうたさんの頬とお腹の子にそっと手を当て語り終えるや踵を返し鬼の眼前に立つ縁壱氏。うたさん幸せそうだなぁ…ははは。ここまで行動心身イケメンだといっそ清々しいぜ。妬む気にもならん。
「クックックッよかろう。尻尾付きの前座として妊婦より先に腕一本くらい摘み食いするのも一興よ。ほら初手は譲ってやる。動かないからやってみろ。まあ無駄だろうがな」
そんな男前+夫+父の覚悟を魅せる縁壱氏とは対象的に実力差さえ測れない馬鹿は更なる怒り燃料投下をかまし余裕綽々とばかりに動かないからやってみろとのたまい縁壱氏が近付くのを許す。はっきり言ってアホの極みである。
「只の人如きには勿体ないが冥土の土産だ名乗ってやろう。俺の名は髪鬼!お前に絶望を」
「うるさい黙れ」
「ギゲッ!?」
ファーストヒットは顔面に一発。続けて錐揉み状に吹っ飛ぶのを追いかけ瞬時に踏み込み打ち下ろしのチョッピングライトを叩き込んで地面に叩きつける。体格差をものともしない速攻にはつきと名乗った鬼は脅し文句を言い切る間もなく汚い悲鳴を上げた。
「き、貴様!口上の途中でギベッ!!」
「口を閉じろ。不愉快だ」
「ちょ、調子に乗るのモゲッ!?」
「喋るなと言った」
それからは一方的で鬼が喋ろうとする度に肉体言語で即座に遮り殴る蹴る叩きつけるのオンパレードフルボッコな光景が三十秒ほど展開されたのだが…不可思議な事に四肢の骨が中程で折れ曲がり砕ける音がするにも関わらず腕が足が顎が目に見える速度で治るという怪現象にさすがの縁壱氏も訝しみ一旦手を止め距離を取る。たぶん再生力が種族がら強いんだろうなと思った俺は殴打が駄目ならと縁壱氏に刀を手渡してみた。え?刀なんて持ってたのかって?あったよ?腰に最初から…。ちなみに出所はヤムチャの元私物な。思い出はもう…って言って西の都の古道具屋に色々売るのを偶然見かけたんでDB世界記念に良いかと買った内の一つなんだわ。ま、それはともかく刀を手にした縁壱氏は俺に一礼し慣らすためか虚空に向かい幾度か刀を振るう。その太刀筋は鋭く流麗でさすが武家の出と納得させられる。さながら舞踊のような剣舞はそのまま対象に向けられ結果…剣閃の煌めきと共に鬼はぶつ切りとなった。
初めは縮地と見紛うほどの速さで接近し右横薙ぎによる右腕と腰の切断。地面に腕が落ちる間もなくそこから斬り上げで左肩口から先を斬り飛ばしさらに返す刀で袈裟懸けに左首元から右腰まで一気に斬り通す。そして最後に再度右横薙ぎによる斬撃で両太腿をぶった斬ってフィニッシュッ! 見事に鬼は斜め上下泣き別れ達磨さんに形態チェンジ。これを刹那の挙動でやってるんだから身体能力もそうだが技量もとんでもないと言える。絵面的にはフリーザを滅多斬りにするトランクスみたいな?まあ技量は縁壱氏のが遥かに上だが。なぜならトランクスはあくまで剣術を齧った武闘家であり刀で斬るという事を突き詰めた剣士には遠く及ばないのだ。まあ縁壱氏が天才の類いってのもあるがな。
「なんだ火の様な色の線が?なッ!?俺の腕が!?いや身体が!?いつのグアァァァァッ?!?!」
そんなこんなで斬られた事を腕が地面に落ちる事でやっと認識した鬼は喚き散らそうとしたとたんバラバラになったのである。あれだ巻藁を斬って暫くしてからズレ落ちるやつな。斬られた断面が肉肉してて見てて気持ち悪い。さすがにこれをうたさんが見るのは心身に悪いので咄嗟に視界を身体で遮った。ドサドサっという地面にモノが連続して落ちる音は耳に入った筈なので何が起こったのかは察せるだろうが見ないに越した事はない。
残心し警戒を解かずジッとぶつ切りになった鬼を見つめる縁壱氏。その立ち姿は微塵も油断はなく自然体。経験則か直感か洞察力かは知らんが流石だ。なにせ鬼の気は今だ健在。つまりこんな状態でも生きているのだ。それによく見れば斬られたにも関わらず傷口の断面から滴る血の量も少ない。それはつまり……。
「時間の無駄だ起きろ」
縁壱氏の言葉に反応し鬼がガバッと身を起こす。すでに胴体の斬り傷は癒着し接合部分がドス黒い赤から赤色へと薄まり今も急速に消えていく。あと数秒もすれば痕もなく完全に癒えるだろう。これで斬撃も効果がない…と言うより感じ取れる気の総量は微かとはいえ減ったので有るのだろうが時間が掛かると確定した訳だ。多分だが血だな減った理由は。なら延々と斬り続けていけば出血で最終的には死ぬだろう。労力に見合う体力が有れば…の話だが。
「チッ、只の農民かと思いきや武家の者かお前。油断して近づけば足の一本でもと思ったものを」
うげ、右腕が切り口から徐々に生えてきやがる。気持ち悪る。速度は劣るが、まるでピッコロの再生を彷彿させるな。それに薄々気付いてはいたが痛覚も相当鈍いようだ。殴られたりした時や斬られた直後はある程度痛そうな表情をしていたのにその後は全然だし。そんな感想をしている内に右腕を完全に再生させた鬼は直ぐ側に落ちている両足を掴み取り足の断面を合わせ接合させた。右腕を再生した時点で気がある程度減ったので元あるモノを再度繋いだ方が消耗は少ないんだろう。少し離れた所に転がっている左腕も拾いこれまた接合し鬼は元通りの姿を取り戻す。足元に転がる元右腕だけ残るという何ともシュールな光景にちょっと引く俺だった。
場が静まり返る中、鬼は己が元右腕を拾い上げ一瞥すると溜め息をひとつ。と同時に無言で縁壱氏に向け投げ付けた。それを縁壱氏は冷静に難なく斬って落とす。だがそれを囮に鬼は接近を果たし縁壱氏に左右の爪による刺突を繰り出した。確実に殺ったと思ったのか鬼は嗜虐に歪んだ笑みを浮かべている。まあ実力の差的にそんな都合のいい結果なんてある訳もなく次の瞬間にはまたバラバラに…!?こいつ立ち止まってッ!?髪が!全身をいきなり長くなった髪が己自身を貫いて斬られた身体を縫い止めやがったッ!?どこの字伏擬きかっての!名前のはつきって髪を操る鬼だから髪鬼って言うのかよ安直すぎんぞオイ!?さっき髪を使えば右腕を失わずに済んだのに使わず右腕だけ再生して手足を繋いだのはこれを狙ってか?!速度で全然勝てないからって意表を突くためだけに敢えて斬らせてからの超至近距離からの万本の髪による不可避の面攻撃を当てるって算段のよッ!?
「縁壱氏!ある程度残してやってくれ!生えてこない可能性もあるし!さすがに全部は鬼とはいえ不憫だ!出来れば落ち武者風に頼むっ!」
とはいえ戦闘力の差は無情なもので当の縁壱氏は難なく攻撃範囲から超速で飛び退き迫る髪の毛の猛威をザックリと斬り落とした。俺の要望もついでに叶えながらな。うむ、見事な落ち武者カットで御座る。余りにも見事なんで常備カメラで一枚カシャっとな。瞬間、会心の笑みを驚愕に変えた鬼を襲うフラッシュ(DB仕様)の光に辺りは一瞬明るく照らされるのであった。
「グアァァァァッ!?なんだ!?なんだこの光は!?目が!目がァァッ!!」
某ム○カ台詞を期待通り披露してくれる鬼改め髪鬼。はっはワロス。だがこうも負傷を再生されまくると時間ばかり掛かって弛れるのでそろそろ選手交代といこうか。鬼の検分もほぼ済んで縁壱氏の力も粗方わかったしな。どうやら呼吸法で身体を強化しているのは波紋と同じで強化率は縁壱氏の使う呼吸の方が若干上だが波紋のように外部に纏うとか放出するようなことは出来ないし陽光効果も付随しないらしい。やり方を知らんだけかもしれんが。これは後で検証すればいいか。という事で真打ち登場!
「すまんが縁壱氏ここからは俺がやろう。綺麗な月夜で雲はないが夜風は身体に障るからな」
言外にアンタじゃ時間が掛かり過ぎると伝える俺。うたさんの事を思えばこれ以上屋外に居るのはやめた方がいいので縁壱氏も素直に引くと判断しての言葉だ。あれだけやったんだ溜飲はだいぶ下がっただろうし。
「…申し訳ない。後をお願いする」
案の定、縁壱氏は一瞬だけ言い澱むも直ぐさま引いた。なので即座にまだ目の視界が回復しきっていない髪鬼に再生成したゴーストカミカゼアタック擬きを向かわせ拘束。二度目の捕縛を難なく成功させたのである。その際スカウターを取り出してピッピッピッと操作し髪鬼をスキャン…気のパターン検出し登録。さらに足下に落ちている髪鬼の元右腕の肉片の一部を判別機器兼容器で採取してっと。これで後々の憂いに役立つ目処はついたな。後はこの寸劇の終幕といこうか。
「ぬお!?目が治ったと思ったらまたこれか!?馬鹿の一つ覚えか貴様ッ!!」
「それに引っかかるお前は間抜けってか?」
「う、うるさい!」
俺の指摘に顔を真っ赤にして喚く鬼。図星を突かれて逆切れした模様。もうバレているからか今度は既に再生し終わった髪を十全に使って拘束から逃れようとするが、もちろんそんなのを追加した所で脱出するなんて無理ってなもんで喚くに始終している。だがもう終りにする予定なので拘束する力を暴れる髪鬼の挙動に合わせて意図的に緩めた。そして、
「チッ!さっきも見たがちょっと厄介だなこれ!?髪を操るなんて禿げたらどうするつもりだぁ!?くッ暴れんじゃねえよッ!」
と、少々焦った風を装う。すると?
「禿げるか!これは俺の血鬼術だ!斬られたところで無限に生えるわ!はん!それに無限なのは髪だけじゃないぞ。さっきのを貴様も見ていただろう?我ら鬼は殴られようが斬られようが火に焼かれようとも死なんし直ぐ治る。貴様ら人ではどうしようもない存在だといい加減思い知ったはずだ。それに比べ…お前の使うこの如何様は無限とは言い難いようだな?クックック、最初のよりか随分と弱いし小癪な手管も品切れか?これならもうすぐ解けるぞ?そうすれば朝までたっぷり時間がある!後ろの男も含め今まで虚仮にしてくれた礼になりふり構わず全力で嬲り殺しにしてくれるわッ!!!」
と、こうなる。ほんと打てば響くってくらい思惑に乗ってくれるよなぁコイツ。それにまたまた失言じゃないの?朝まで時間がたっぷりなんて…ねぇ?
「ほうほう、そりゃ怖い。じゃあ何しても死なんのか?」
「ははは!そうだ!怖かろう!もうすぐだ!もうすぐ解けるぞ!?」
「あ〜怖い怖い。怖いから……朝までそうしているか?」
言葉と共に緩めていたカミカゼゴーストアタック擬き…毎回言うのももう面倒だからKGAMに省略して拘束力を一気に元に戻す。
「グゲっ!?な!?貴様!まさかまた謀ったのかッ!?!」
「今更気付いたのか?頭とろいなぁ。でだ…しょうがないから朝までそうしてろ。太陽でも拝めばその足りない頭もシャッキリするだろうからな」
俺のこの言葉を聞き露骨に顔色を変える鬼。その様子にやはり弱点は陽光かとほぼ確信する。なので後は実際に確認するだけだ。
「ま、…待て。わかった今回は俺の負けにしてやる。…いや負けだ。だからこの拘束を解け。そうすれば素直にこの場を立ち去ってやる」
「ははは。いやいやいや、別に勝ちを譲ってくれなくていいぞ?俺もそいつを維持するのは朝までが限界だ。お前もさっきの戦い…まあ戦いで消耗してる。ならそれから決戦と洒落込もうじゃないか。な?俺って公平だろ?」
「お前!?お前えェェェェェッ!!!」
俺の言葉の真意を読み取った鬼は絶叫。憤怒と焦りを露わにする。
「はいはい、分かりやすい反応とお返事どうも。お前の…と言うか鬼は日光に致命的に弱いんだな?確信が持てたわ。教えてくれてありがとうよ。だからその素直さに免じて最後に良いものを見せてやろう。覚悟はいいか?俺はいい。だからお前もいい。これぞドラ○もん時空定番のジャ○アン理論ってやつだ。じゃあな、お前の顔はさすがにもう見飽きた。涅槃の末で今まで犯した罪を懺悔しなッ!!」
言葉終わりと共に発動するは天に輝く日輪の力。其は鼓動、其は波動、其は命の循環を成すもの也。その名は波紋ッ!闇夜すら照らすこの輝きを見よ!波紋の呼吸!山吹き色の波紋疾走っ!サンライトォォォォオーバードライィィィィィブッ!!!
俺の瀑布が如き激しい呼吸音と共に両手に光の奔流が迸る。そして……、
「南斗水鳥拳奥義!飛翔白麗ッ!ヒョウォゥーーッ!シャオッ!もひとつオマケにシャオッ!!」
奥義(ネタ)を繰り出すのだった!てへ(๑>〆<๑)ペロ。
無論の事ちゃんと原作を踏襲し両手を水面がわりの地面に叩きつけてから跳躍したぞ?そして両手を十字に広げ前方宙返りしながら頭上から一気に両肩口に向け強襲し波紋を纏った主刀でVの字に胸まで切り裂き直ぐさま戻した両手十指斬による左右からの水平輪切りを叩き込んだ!結果、鬼は縁壱氏に斬られる以上にイカの輪切りのように登頂から太腿まで赤い線を身体に刻んだとさ。ま、すぐさま鬼は縁壱氏の時と同様に髪で固定しやがったが。鬼に見えるよう遅くしてやったから当然の反応なんだけどな。
「お、驚かせやがって。貴様本当に人か!?どうやったら人が素手で我ら鬼を斬れるんだ!おかしいだろ!?お前本当に鬼じゃないのか!? ふうふうふう…ふう。だが結局は無駄だ。切れ味は認めるがただ斬っただけじゃねえか。焦せらせんじゃねえよ糞が」
「一応言っておく」
「は?なんだ?負け惜しみか?」
「ははは、今更それはないだろ」
「はん!あの妙で邪魔な血鬼術擬きもお前自身の攻撃で消えたようだしな。いいだろう。治るまで少しかかるからそれまでなら聞いて…や…る?おい何故だ?なぜ傷が治らないっ!?」
「そう治らない。だからもう…お前は死んでいる」
「身体が!?頸が!?塵になっていくッ!?馬鹿なっ!日輪刀でもないのに頸を斬られて死ぬだとゥゥゥッ!?!?」
おっと新たな情報が!
「にちりんとう?斬るって事は刀か?鬼が陽光に弱いのを考えれば日輪の力を宿す刀ってとこか。そんな代物あるんだな。しかも鬼はそれで頸を斬られれば死ぬと。…成る程ねぇ。いや良い事聞いたぜ。あんがとよ最後まで良い情報くれて。お前案外いい奴だよな。だから墓前に花ぐらいは飾ってやるよ。じゃあな達者で逝けよ。あ、ついでと言っては何だが閻魔大王に会ったらよろしくと伝えといてくれ。世界は違うが知人かもしれないんでな。あ、人じゃないか。ハハハハハっ!」
「あああああ嫌だァァァァ消えていく!オレがキエテいく!?死ニタク!シニタクなイぃぃぃィィィーーーーーッ!!あああ……イや…だ……キ………ぇ……」
鬼が死ぬと塵になって何も残らないのな。先に情報とサンプルを回収しといて正解だったぜ。髪鬼と名乗った鬼は斬った部位から急速に塵と化し悲鳴を上げながら消えていった。残った塵も空気に溶ける様に文字通り消滅し其処に鬼が居たという痕跡は一切なくなる。なんともエコな死に様だ。あんなのでも一応は死んだら穴でも掘って埋めてやろうと思っていたがその必要はないらしい。手間が省けてよかったよかった。ここらへん弱点や滅し方やら分類は違うが西洋に伝わる吸血鬼に似通った生態だよな。ま、考察はともかく一応は手を合わせておくか。無宗教の俺だが死んだら皆仏…鬼も仏に分類されるかはわからんが取り敢えず祈っとこ。次の生があれば真っ当に生きる様にっと…。あ、墓は掘る意味無くなったけど約束通り花ぐらいは手向けなきゃなと思い辺りを見渡す。すると不意に一陣の風が吹き白い複数の何かが視界を横切った。よく見るとそれはタンポポの綿毛で夜空に舞うそれはまるで鎮魂の花の様に思え…これでいいかと俺は暫し黙祷を捧げるのだった……。
三週間びりのお久しぶりです。作者です。できたの投稿しました。最後はちょっと呆気ない終わりなんであれですがこれ以上お待たせするのもなんなので。のちに改稿するかもです。ではまたの投稿お待ちでー願いーまーすー。(=゚ω゚)ノ
PS、プーアルは主人公が居た世界ではオスです。別の方の作品とかでヒロインになってたりしますが当作品では紛れもなく雄です。異論は認めます。あと、波紋ですが主人公は強くなるため色々して身に付けた技能の一つになります。南斗水鳥拳はネタですのであしからず。気は万能ってわかんだね!