魔法と錬金術の合同授業   作:志真 文

1 / 5
HR(始) 死んだ世界

 そこは、悪夢を形にしたような場所だった。

 

 空はなく、光もなく、果てしない闇が何処までも重く広がり、どす黒い血の海が無限に続いている。

 あちこちに転がっているのは、建物や乗り物の残骸と、白骨死体。

 そんな場所であるから、当然生物など生息しているはずがない。

 きっと、この場所が『作られた』その時から、こうであったのだろう。

 そう思えるほどに、ここは絶望的すぎた。

 

 生まれながらに死んでいる世界。

 ここは、そんな呼称がよく似合う場所だった。

 

 その闇の中で、本来あるはずのない、三つの人間の声が淀んだ空気を揺らした。

 

 

「感情じゃなく理屈で人間の定義に線を引けよ、錬金術師。こいつらが人間とよべるものへと還る術は、もう無いんだから」 

 

 

 そう諭すのは、大勢の人間を粘土のように纏めて歪めて無理矢理形にしたような、醜悪な姿の人でないもの。

 

 

「おまえを待ってる人や大事な人達がいる国だロ。どんな手使ってでもここから出て、自分で伝えろヨ」

 

 

 そう叱咤するのは、黒く長い髪を一つに括った糸目の少年。

 

 そして――

 

 

「すみません。使わせてもらいます」

 

 

 そう決断したのは、金髪金目の気の強そうな少年。

 

 少年はぎしぎしと軋む腕を、痛みを堪えて持ち上げ――

 

 パン、と音を鳴らして、両手を打ち合わせた。

 

 そして次の瞬間――闇の中に、光が溢れる。

 

 太陽のように、世界を僅かな間照らした光は、すぐに消えた。

 

 それと同時に、三つの姿も消え去っていた。

 怪物も、黒髪の少年も、金髪の少年も。誰もいない。

 残されたのは、いずれ消える松明の炎と、再び闇に閉ざされた空間だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ありがとう

 

 

 声が、光の奔流の中に小さく響く。

 小さく、小さく、囁いては消えていく。

 

 

 ――ありがとう

 

 

 その言葉は、金髪の少年――エドワードの耳に届いていた。

 

 エドワードは、目だけを動かして、後ろで囁く、『彼ら』を見た。

 

 

 ――ありがとう

 

 

 消えていく、数多の人の顔があった。

 自分達があの闇から抜け出すため、生き抜くために犠牲にした、かつて人だったモノたちの顔だ。

 消えていく彼らの表情に、苦しみや怒りはない。

 そこにあるのは、長い間囚われ続けていた苦しみから解放される、喜びと安らぎだけだった。

 

「…………!!」 

 

 エドワードは、歯を食いしばって前に向き直った。

 

 忘れない。

 犠牲にした人たちを。

 誰に何と言われようと、言い張ってやる。

 他の誰が否定しても、認めてやる。

 自分だけは、声を大にして訴えてやる。

 

 彼らは、人間なのだと。

 

 

 目を閉じる。

 奔流に全てを委ねる。

 そうすれば、元の世界へと戻れるはずだ。

 大切な弟と、幼なじみと、仲間達のいる世界へ。

 

 

 

 

 ぎいい、と。

 何かが開く音がした。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。