そこから始まってたんだよなぁ。
今だと蘭竜戦争って呼ぶんだっけ?
灰谷兄弟のタイマン。
知る人ぞ知る、伝説の一戦だぜ。
●はじめに
私の本職は探偵だ。
職業上、本名等の個人情報は明かせない。
外見は20代後半に見られるとよく言われる。
中肉中背、どこにでもいるような普通の女性だ。
そう見られるよう努めている。
専門は反社会的組織の調査。
とはいえ、素直に探偵と名乗ると最悪殺されかねないので、表向きは新聞社の取材の名目で協力を依頼している。
2018年某日、私は『とある人物』からの依頼で、佐野万次郎という人物の居場所を突き止めるべく調査を行っていた。
半グレ集団・梵天の首領、佐野万次郎。
その影すら見えない彼を追うべく、私は梵天の幹部遠回しき人物達へ取材を敢行した。
目をつけたのは灰谷兄弟。
梵天の中枢を担う幹部会の一角だ。
彼らについて調査を進めるうち、私はかつて、灰谷竜胆と灰谷蘭が渋谷で激突した蘭竜戦争なる事件に辿り着いた。
結論から言うとこの事件は佐野万次郎とは無関係だった。だが、得られた情報は非常に大きく、今後の取材に大きく役立つものだった。
非常に興味深い話なので、ここに記しておく。
以下が、その記録である。
●とある野次馬の談
(これは、梵天の下部組織に所属する、とある人物への取材の記録だ。家具量販店で売っているようなプラスチック製の安物机を挟み、私はその若い男と向かい合った)
なに? 蘭竜戦争の事が聞きたい?
アンタ、
新聞記者? 原稿料弾むって? ふーん、なるほどね。いいよ、話してやるよ。珍しい話でもねぇし、減るもんでもねぇしな。
(男は話し出した)
その日はさ、丁度渋谷にDVD返しに行く途中だったんだよ。
そうそう渋谷のスクランブル交差点の所。
ほら、あん時は宅配も配信も無かったからさ、自分で返しに行かなきゃいけなかったのよ。そう考えると、便利な時代になったよなぁ。
で、レンタルビデオ屋に入ろうとしたらさ。
センター街方から、その音が聞こえたんだよね。
ビュッ!
ブンュュュッッ!!
(男は何か長物を振るような真似をしてみせた。)
剣道の授業でさ、思いっきり竹刀振った事ない? それと同じ音が聞こえたんだよ。
空気を切る音っての? それの最大級。
一瞬で背筋が逆立って警戒度MAX。
恐る恐る音のする方を振り返る。
いたんだよねぇ、あの2人が。
片方はさ、黒髪を三つ編みにした若い男だったよ。黒い胴長の特攻服が短く見える程、背ぇ高くてやんのな。三つ編みの真ん中辺りだけが金髪なのな。どう染めたらああなんのか知らねぇけど。
さっきの風切り音は、そいつが手に持った警棒を思いっきり振った音だったんだって直感したね。
そいつと向かい合ってるもう片方の男は、素手だったよ。金髪をウルフカットにした、これまた若い男だったよ。同じ黒の特攻服着てんの。
コイツも背ぇ高いんだけど、向かい合ってるのと比べると見劣りするわな。
金髪の男は低く腰落としたまま、動かねぇ。
そん時はそいつらが誰か知らなかった。
その特攻服は知ってたよ。
俺の知ってる色と違くて黒だったけど。
六波羅単代……港区の辺りでブイブイ言わせてる、超武闘派の暴走族。
「やっべェ…………」
思わず声に出ちまったよ。
だってよ、2人ともガチの暴走族なんだぜ。
ルールも審判も無ぇ、
選挙演説もティッシュ配りもスルーする俺だけどよ、ガラにもなく野次馬の最前列まで行ってさ。
ヤバい匂いすんのな、アイツら。鼻にツーンって来る匂いしてんのよ。
油の匂い? タバコの匂い? あと……シンナーみたいなの? それに、それを覆い隠すような香水っぽい甘い香り。
なんかさ、それら全部混ざって、アイツらのヤバい香りを演出してたんだよね。
「あれ、
野次馬の誰かがそう言ったんだよ。
その名前聞いて、ハッとしたね。
灰谷……? 六本木灰狂戦争の!? ってな。
いやさぁ、俺その名前聞いたことあったのよ。
ほら、十何年か前に六本木で暴走族同士のやり合いで死傷者出たことあったろ?
その被害者の方と同高だったから。
狂極の副総長とか時々見かける事あったけどよ、怖いなんてもんじゃ無ぇって。ありゃ人の顔した赤鬼だよ。
それを殺したってんだから相当強いんだろうな。
ロン毛三つ編みの警棒持ちが兄貴の
え?
蘭と竜胆ってどっちが強いのかって?
聞いちゃう?
アンタそれ聞いちゃう!?
結論から言うと、どっちも強い。
どっちもバケモン。
当時は知らなかったけど、アイツら互いに得意な土俵があったらしいんだよな。
打撃の
組み技の
まぁ、どっちにしても、2人ともガチで強いってのはすぐ分かったわ。纏ってる空気が違うんだ。
兄貴の事挑発したんだよな。
「
竜胆の挑発に、兄貴の蘭は乗らなかった。
冷めた目で弟の事見下ろしてんのな。
「竜胆。ここは天下の往来だ。
「気づいてねぇのか? この野次馬はよ、俺がわざと集めたんだ。アンタを逃さねぇためだぜ、兄貴」
「あん?」
蘭は表情こそ変えなかったけどよ、こめかみに青筋が浮かんでたね。
警棒握る手がよ、キュッて少し縮んだんだわ。で、警棒がギシって軋んだんだよ。金属製の警棒がだよ? なんつー握力だって話。
「竜胆ぉ? 誰が逃げるってぇ」
「逃げてんだろいつも。俺と真っ正面から戦わねぇのは、負けんのが怖いからだろ!」
竜胆の挑発で怒りが限界に来たんだろうな。
そこでやっと蘭も構えたよ。
警棒持ってる右手を後ろに引いて、空の左腕を曲げて前に出して。空手とかそう言うのよりも、むしろ機動隊とかの構えに見えたね。
こう、見えない盾持ってる感じ。
「お兄ちゃんの事馬鹿にしてくれちゃって。手加減しねぇぞ、竜胆♡」
「要らねぇよそんなモン!」
気がついたら竜胆が突進してた。
野次馬から「オオッ!」って声が漏れてな。
んで、次の瞬間、ビュッて何か唸ったんだよ。
そこから始まってたんだよなぁ。
蘭竜戦争。
ちょっと変わった文体に挑戦してみました。
読みやすいかはともかく、結構書きやすいんですよね。
不明な点等あればご質問頂けますと幸いです。
宜しければご感想、ご評価の程よろしくお願いします。