灰谷兄弟がガチ喧嘩する話   作:TAMZET

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ここまで話した所で、竜胆は大きく息を吐いた。
息もつかせぬ戦いの一幕。
本当なら3分も続かなかっただろう兄弟の喧嘩を、まるで何時間も続いた戦争かのように、彼は語った。


灰谷竜胆の談②

 ここでお終いかって? 

 あぁ、話はここまでだ。

 気がついたら俺は、病院のベッドの上で寝ててよ。側にボロボロの兄貴が座ってた。

 

 なんでも、東卍……あぁ、当時の関東卍會の連中があの後攻めてきたらしいんだよな。

 そりゃ、渋谷区は関東卍會(アイツら)の縄張りだからな、当然っちゃ当然の事だわな。

 

 兄貴は顔中腫らしながら笑ってたよ。

『あの喧嘩は俺達兄弟の勝ちだ』ってな。

 

 その夜の事は、兄貴も教えてくれなかった。敵が何人いたのか、どうやって切り抜けたのか、何があったのか、何度聞いても教えちゃくれなかった。

 

 結局俺は兄貴に助けて貰っちまったんだ。勝ったとは言えねぇよな。

 

(竜胆はそこで大きく息を吐き、立ち上がった)

 

 話は終わり。

 これまでだ。

 ここまで詳しく話したのはお前が初めてだ。お前、記者の才能あるぜ。

 せっかくなら派手な記事にしてくれよ。

 

(部屋を出て行こうとする竜胆を私は引き止めた)

 

 あ? まだ何かあんのか? 

 

(私は彼に、あの事件の動画がある旨を伝えた。当時の野次馬の一人が、当時の動画を撮影していたのだ。竜胆は食い入るように私を睨めつけ、早足でソファに戻ってきた)

 

 俺が気絶した後のか!? 

 マジか!? 

 

 対価は? ……ナシでいい!? 

 どういう腹積もりだよ。

 ……まぁいいや。

 

 とりあえず、流してくれよ。

 知りてぇんだ、あの時の兄貴の笑顔の意味を。

 

(私は彼にスマホを渡した。彼は一瞬躊躇ったようだったが、すぐに動画を再生した)

 


 

 動画は10年前の渋谷のスクランブル交差点、ちょうど蘭竜戦争の決着の続きを映し出している。

 

 灰谷蘭と白服の集団が対峙している。蘭は竜胆を背に警棒を構えている。白服集団は皆マスクをしており、顔は伺えない。

 蘭は一人なのに対し、白服の集団は二十人近くいる。先頭の男は鉄パイプを持っており、その先端からは血が滴っている。

 

『弟は一撃、そんな雑魚に手こずる兄貴。弱くなったモンだな。怪物・灰谷兄弟もよ』

『あ? 何言ってんのお前。頭クラクラしててよ。よく聞こえねぇんだわ』

『狂極って覚えてるか? お前が解散に追い込んだ俺達ぁその残党だ。これ言えや、後は分かるよな』

『復讐か』

『そゆこと。俺らはお前を殺しにきたってワケ』

 

 鉄パイプを振り回しながら近づいてくる特攻服の男に、野次馬達は叫び、喚き散り散りに逃げ出した。

 動画には撮影者の荒い息遣いも録音されていた。画面がブレているのは恐怖故だろう。

 

 ただ、その中で蘭だけが一歩も引かなかった。

 

 蘭の右腕はだらんと垂れ下がっている。竜胆に極められた関節が痛むのだろう。それを庇うように半身を切り、警棒を握る左腕を前に出して構える。

 

『その大怪我で何しようっての? 怪我人だからって、俺ら容赦しねぇぞ』

 

 東卍の男が踏み込めば鉄パイプが当たる距離になっても、蘭は一歩も後ろには引かなかった。倒れた竜胆を背に庇い、立っている。

 

「兄貴……」

 

 私の横で竜胆が声を漏らした。

 無理もない、兄がこれから痛めつけられようとしているのだ。その背には自分がいる。悔しさとやりきれなさは計り知れない。

 

 動画の中で、東卍の男が鉄パイプを振り上げた。脅しではない、本当に当てるつもりだ。踏み込みの深さがそれを物語っている。

 

『クソ雑魚の弟は俺が殺した。お前も殺してやるよ兄貴ィ!』

 

 鉄パイプが蘭の細身に振り下ろされた。狙われたのは頭。殺す勢いでの打撃だ。

 観客から悲鳴が上がった。

 だが、鉄パイプが直撃する寸前、蘭はスッとその細身を敵の懐へ飛び込ませた。

 

 鉄パイプを握る東卍の男の腕がピタリと止まった。

 警棒の先が男の喉元に突きつけられていた。生物的な本能から、彼は動きを止めたのだ。

 

『訂正しろよ』

 

 ドスの効いた声で蘭が言った。

 

『あ?』

竜胆(コイツ)はな……誰よりも努力して……強くなれる奴なんだよ。努力できねぇ俺とは……違うんだよ』

 

 その声は掠れていて、所々周囲の喧騒にかき消されていたが、大事な部分ははっきりと録音されていた。

 

「…………!」

 

 私の横で、竜胆が何か呟いた。

 拳は硬く握り締められ、肩は小刻みに震えていた。前髪に隠れ、表情は窺えなかった。

 動画の中で、蘭が警棒で男の喉を殴り抜いた。男は喉を抑え、二、三歩後退した。

 

『竜胆は努力して努力して、強くなった。誰よりも、俺よりもだ。いつだって背中を任せられる、俺の……自慢の相棒だ』

『あ?』

 

 男は血走った目で蘭を睨み据えている。蘭の目つきもまた、尋常のものでは無かった。

 二人の間に流れる強烈な空気に、野次馬はもちろん、東卍の他のメンバー達も動けない。

 

『竜胆は雑魚じゃねぇ。お前らに負けてもいねぇ。今すぐ訂正しろ』

『……じゃあ勝ったってのか? どこをどう見たら負けてねぇんだ!? 頭から血ぃ流して、無様にぶっ倒れてるコイツがよ!! えぇ!?』

 

 東卍の男は再び鉄パイプを振り上げると、蘭に向けて突進した。間合いに入るや否や、跳躍し蘭の頭上へと躍り出た。

 先程のように勢いは殺せない。

 

『お前の頭、割ってや……』

 

 瞬間、蘭の身体がふわりと宙に浮いた。

 まるで飛翔の如き跳躍だった。まるでスローモーションの如く浮いた長身は、空中でクルリと周った。

 手に持った警棒が吸い込まれるように男の頭を捉えた。

 警棒の先端は男のこめかみを深々と打ち抜いた。

 

 ガッ! 

 

 鈍い音がしてコンマ数秒後、二人は着地した。

 蘭は立っていた。男は白目を剥いて倒れていた。どちらの勝利かは明白であった。

 東卍の構成員達は狼狽えている。

 蘭は長身をゆらりと揺らし、彼等の元へと歩き出した。ゆっくり、ゆっくりと。

 その歩みには言い知れぬ迫力があった。

 

『竜胆が負けたと思ってる奴、全員出てこい。俺が殺す』

 

 怒りか、恐怖に押されてから、二人の構成員が蘭に向けて駆け出した。

 だが、蘭が横に腕を振ると、二人とも、まるで糸が切れた人形の如く蘭の足元に崩れ落ちた。

 二人の左のこめかみは、銃で撃たれたかのように紅く染まっていた。

 

『いいか? 兄貴(オレ)が負けねぇ限りな、灰谷兄弟は負けねぇんだよ。分かったら、とっとと全員でかかって来いよ雑魚共♡』

 

 その後、蘭は二十人近い男達を次々と捌いた。

 

 竜胆に投げられ後頭部の出血があった事は確かだ。右腕はずっと垂れ下がったままだ。

 その身に鉄パイプを受けることもあった。レンチで殴られる時も、メリケンで殴られもしていた。

 

 だが、彼は倒れなかった。

 

 蘭は立っていた。男達が地面に倒れ伏し、全員が動かなくなるまで。

 その間一度も、竜胆に攻撃を当てさせる事は無かった。




全部書き終わった後に、そもそも何でこの二人は渋谷で特攻服着て喧嘩始めちゃったんでしょうねって思いました。南さんからすればこの事件は戦争の引き金になりそうで美味しい所かも。

不明な点等あればご質問頂けますと幸いです。
宜しければご感想、ご評価の程よろしくお願いします。
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