忘れた時を取り戻すように、呼吸だけを繰り返していた。
…………兄貴、何一人でカッコつけてんだよ。
俺の事なんか放っておいて…………逃げてくれりゃよかったのによ…………
何でこれまで喧嘩してたような………………バカな弟を守ってんだよ………………
(長い沈黙があった)
……悪い、黙っちまって。
(そう言ってまた、竜胆は黙った。右掌で顔を覆い隠すように隠す竜胆。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた)
………………やっと分かったわ、あの日兄貴が笑ってた理由。
兄貴はずっと本音を隠してたんだな。言いたかった事言えて、スッキリしたんだな。
いつもは飄々としてんのに、変な所で熱いんだからよ、あの人は…………
あの日の喧嘩の理由な、簡単な事だったんだ。渋谷の街を歩いてる時な、兄貴が俺に言ったんだよ。
お前の事はいつまでも俺が守ってやるって。
それで俺がキレちまった。
守るって何だよ、俺の立ち位置はアンタの後ろじゃねぇ。アンタの隣だろって。
俺は兄貴の隣で戦いたかったんだよ。兄貴の腰巾着じゃなくて、相棒としてよ。
本当はずっと、相棒以上に認められてたのによ……疑っちまったんだ…………
本当、聞けてよかった……………………
(竜胆は顔を上げた。その表情はどこか疲れているようで、どこか晴れ晴れとしていた)
何やってんだろうな、俺は。
なぁ、アンタ聞いてくれよ。
俺達の大将を二度も殺って、兄貴を痛めつけた東卍の下に降ってよ。
挙げ句の果て梵天の幹部なんかに鞍替えして……今じゃ三途の命令で動く奴隷人形だ。
ずっと誰かの下で汚ねぇ事ばっかしてよ。
馬鹿みてぇだよな……くそッ!
(竜胆はソファの角に拳を振り下ろした。歯を食いしばり、悔しさに耐えていた)
俺と兄貴はずっと一緒だ…………もし俺が梵天を抜けるなら、その時は兄貴とだ。
死ぬ時も生きる時も、兄貴とはずっと一緒だ。
(そう言って、竜胆はしばらく黙った。その沈黙の後、彼は私に笑顔を向けてきた。憑物が落ちたような、柔和な笑みだった)
にしてもお前、勇気あんだな。
いや、単純に褒めてんだよ。
すげぇよ、ホント。女にしとくの勿体無ぇくらいだぜ。だって、普通取材だっつって、
そんな事したのは、後にも先にも花垣武道の奴くらいだぜ。まぁソイツは男だけどよ。昨日も縄張りに来てたよ、マイキー君を助けるんだってな。
なんか似てんだよなぁ。
お前と花垣。
俺はあんまアイツの事好きじゃねぇけどよ。嫌いにもなれねぇんだ。
つか、なんか、俺、お前の事気に入ったわ。
また来いよ、そん時ゃ色々教えてやる。マイキーの居場所とか、対抗組織のヤベェネタとか、色々仕入れとくから。
そういうの調べに来たんだろ?
(竜胆は一枚の写真を差し出した。そこには私と依頼主・羽宮一虎が路地裏で話している様子が映し出されていた)
花垣と違って、コイツは腕が立つ。この写真はまだ誰にも見せてねぇ。お前の事も俺の事も、まだバレやしねぇ。
ほら、とっとと言って報告してやれ。
(竜胆に勧められるまま、私は出口へと向かった。戸を開ける寸前、竜胆に呼び止められた)
あぁ、最後に……ちょっと耳貸せよ。
ほら、変な悪戯なんてしねぇから。
(竜胆が私の耳に唇を寄せてくる。息遣いが聞こえる距離だ。彼の頬も仄かに紅くなっていた)
兄貴の言葉、届けてくれて。
ありがとな。
これでお話は終わりです。
本当なら一万字の短編として投稿するつもりだったのですが、自分だったら一万字の話は読みたくないなぁと思い直し、短編にしました。
不明な点等あればご質問頂けますと幸いです。
宜しければご感想、ご評価の程よろしくお願いします。