ダンボール戦機 -2053KK-   作:最果

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プロローグ 月神、堕ちる

 ■2053年

 

 「皆様お待ちかね!LBX世界大会アルテミス!遂に遂に、決勝戦が始まろうとしています!」

 

 威勢のいい実況アナウンスにより、その会場内は沸きに湧いた。

 会場の中央、集まった計八名の手のひらにはそれぞれ自身らが潜り抜けてきた歴戦の証たる小さな人型の機体が乗り、いよいよと戦いの始まりを期待する。

 誰もがこの舞台の頂点を目指す為。

 そしてこの世界一の称号を得る為。

 この八名の中でただ一名だけが、それを掴み取ることが叶う。

 

 2053年。

 既に世界的な一大ムーブメントとなったホビー用小型ロボット、LBXが世に台頭し始めてからはや十一年。

 かつては人間や環境を攻撃する害のあるロボットだ、と誰もが非難する声もその後、あらゆる衝撃を吸収する『強化ダンボール』と呼ばれる物により潰えた。

 彼らの戦場が、人々の手によりダンボールのみへと限定されたからだ。

 故に一時は兵器とすら恐れられた人型ロボットも、今となっては人々の『遊戯』へと昇華していた。

 

 そんなダンボールの中で戦う彼ら──人は彼らを『ダンボール戦機』と呼んだ。

 だが人々はいつまでも、彼らをダンボールの中の世界に閉じ込めることは出来なかった。

 

 今から二年前、2051年。

 全世界でLBXを中心とした莫大なテロ攻撃が発生した。

 本来、LBXが標準搭載している人体への攻撃を誘発しない為の部品に細工されたことにより、全世界のLBXが人間の敵となってしまったのだ。

 そして今、記憶に真新しいその事件によってLBXは再び危険視される身となり、存続が危ぶまれつつあった。

 彼らを人間同様に野放しにするべきか、再びダンボールの中に閉じ込めるか。

 

 そして、──『遊び』で続くか、『兵器』で終わるか。

 

 結果として人はその中間を歩んだ。

 半分は兵器として、半分はこうして遊びとして、彼らは今でも生き続けている。

 事実、ダンボールを抜け出した彼らは、人と共にかつての二年前の事件を収束させたのだ。

 ロボットが始めたことは、ロボットが終わらせる───当然と言わんばかりの結果。

 LBXとはすなわち、希望でもあり絶望でもある。

 彼らには結局、人間と同じようにそう結論づけられたのだった。

 さもなければ今こうして、LBXプレイヤーの世界一を決める大会など開催しない。

 

 その舞台、名を『アルテミス』。

 毎年行われるこの世界大会、やはり今年も世界各地より猛者が集結した。

 各ブロックを勝ち抜き、やがて最終決戦のバトルロイヤル形式にただ一人生き残った者だけが、世界一の称号を勝ち取る。

 そして何より、彼らにとっての目玉は優勝賞品。

 かつてに習い、今回の商品はただ一つ、LBX専用の高性能CPU──『メタナスGZ』。

 そのユニットは今まで優勝賞品となった『メタナスGX』の性能を遥かに凌ぎ、もはやLBXに使えば性能をもて遊ぶ程の代物。

 参加するプレイヤーからすれば、それは喉から手が出るくらいに欲すると言って良い。

 世界一の称号と、世界一のCPU。

 果たして誰が手にするのか、今この決勝バトルロイヤル戦が始まるのを固唾を呑んで見守っていた。

 

 「それではぁ!アルテミス決勝戦、バトルぅ────」

 

 そして、今。

 2053年、アルテミスの雌雄を決する戦いが、

 

 「スタート!」

 

 遂に始まり、

 

 「やれ、──デストロイモード」

 

 一瞬で終わった。

 

 「「「……………?」」」

 

 プレイヤー、そして観客の反応は全て同じものだった。

 決勝開始と同時、『彼』の持つ機体以外の全てのLBXは、天上から降り注いだ剣のような物体に押しつぶされ、ブレイクオーバー。

 まるでコマ落としかのように、時間をいじったかのように、ただ一瞬。

 一分どころか、一秒でその決着はついた。

 その光景は、かつてアルテミス決勝を渡り進んだ『秒殺の皇帝』さながらであった。

 

 「ブ、ブレイクオーバー……勝者、レン──!?」

 

 だが、たかがそれだけでは終わらなかった。

 

 「はは」

 

 彼は一つ嘲笑い、手にしていたCCM…LBXを操作するリモコン型の機械を後ろにゴミのように投げ捨てる。

 まるで最初から自分の勝利を確信していたかのように、あるいはまるで最初から決勝戦なんて興味がなかったかのように、その場を離れ、自分のLBXを捨てて置いていくのか、何を正気にしているのか、と全員が疑う。

 その考えは正しい。

 LBXプレイヤーの頂点を競う舞台で一瞬で決着をつけるなど、そんなことなど興味ない素振りを見せるなど、普通に捉えたら正気ではなかった。

 

 しかし、それは何も彼だけではない。

 

 「お、おい!あのLBX、まだ動いてるぞ!」

 

 「何を、────!?」

 

 ケリをつけた彼の機体、満足などしていなかったのか唐突に動き始め、既にブレイクオーバーとなり動かなくなった相手のLBXへと歩き出す。

 CCMの制御下から離れたのに何故、そんな疑問は一瞬にして消えた。

 そして件の剣のような物体を右手に携え、

 

 「これが、あんたらの大好きな『お遊び』なんだろ?」

 

 それと同時に容赦なく、動かないLBXへ突き刺した、何度も。

 粉々に破壊し、歩き出せば次に一機、また一機と。

 彼の機体の行うそれは、ブレイクオーバーを超え、ただのオーバーキルと化していた。

 いつの間にか、それまで嘲笑っているかのようだった彼の調子は冷酷に、まるでゴミを見るかのよう。

 やがて全ての機体を壊した後、その戦場はもうダンボールではない、ただの『ゴミ捨て場』のようだった。

 固唾を呑んで見守っていた観客も、プレイヤーも、彼の意図を理解出来はしない。

 固まり尽くしたフィールドの中、彼はスタッフの一人からマイクを奪い取り、

 

 「賞品ちょーだい」

 

 駄菓子屋で老人相手にお菓子をねだる子供のように『メタナスGZ』を要求した。

 虚ろな目を仕向ける彼に対し、賞品を持った大会スタッフは微かな恐怖を感じ、恐る恐るメタナスGZを渡す。

 彼はそれを奪い取るかのように受け、完全に遊びに飽きたかのように既に停止した自身の機体を手に、その場をどこか覚束ない足取りで去っていった。

 表彰する間もなく、彼にとって世界一なんてただの通過点でしかないように。

 

 ブーイングすら発することを馬鹿げた会場内、彼を褒め称えることも、非難することも敵わない。

 今の彼らには、ただ最後、彼が発した言葉だけが重く伸し掛かっていた。

 

 ──「あんたらの大好きな『お遊び』」という言葉だけが。

 

 2053年、LBX世界大会アルテミス。

 それは後に、歴代史上『最悪のアルテミス』と称される程までにあっけなく、凄惨で、醜い結末となった。

 まるでホビーという言葉の定義を履き違え、塗り替えた者たちに向けた制裁──そう捉える者もいる中、ただの歴史の一ページに過ぎないこの大会はその程度で収まり、時は過ぎる。

 だが、一瞬でもこの有様を見た、そして彼の言葉を聞いた者は思ったはずだ。

 自分たちにとって、LBXという『遊び(ホビー)』とは。

 そしていつしか境界線が曖昧になっていた『兵器(戦い)』とは。

 

 二年前の事件以降、ある意味平和ボケしていた彼らに突きつけられたLBXの意義。

 戦うことと遊ぶこと、両者の意味。

 彼らは「たかが」、あるいは「それでも」という言葉によって区別は付けれるか。

 そして、また一つの疑問。

 

 ──「何故、彼はそう思ったのか」、「何故、彼はそんなことを言ったのか」、そして何より「何故、彼はそう()()()のか」と。

 

 確かに二年前のLBXによるテロ事件は人々の記憶に新しい。

 だが、それは誰もが同じ、誰もが味わった教訓という傷跡。

 だとしたらこの有様は平和ボケしていた彼らへの制裁、警告・・・あるいは復讐なのだろうか。

 そんな様々な憶測や疑問、全てを向けられた彼はまるで気にもせず、呑気にその日のうちに飛行機で東へと飛び立っていったのだった。

 だが東への帰路の最中、彼はこう思わずにはいられない。

 

 月の女神(アルテミス)も落ちたものだな、と。

 

 いつしか彼の足は東──中東T国へと降りていた。

 

 その場所こそ彼…彼らのみぞ知る青空に広がる『夢のフィールド(戦場)』。

 

 

 

 -始- ダンボール戦機 -2053KK-

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