ダンボール戦機 -2053KK-   作:最果

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第四章 玩具殺しを殺す者

 ■誰かの日記

 

 一つの夢が、次なる舞台にて勇気のパズルとなる。

 

 

 

 ■

 

 「ここは……!?」

 

 その夜、アンタルヤでの戦闘が熾烈化している現状ではアンカラで侵攻は発生しないというミツルの読みは正しく、彼ら七人はアンカラのとある場所にいた。

 中央都市アンカラの更に中央にそびえるドームスタジアム、その最深部。

 今となってはエデンフォールにより、ドームの形を大きく崩されてはいたものの、クレスの言う秘密基地は健在だった。

 レン、カイネにとっては初めての場所。

 だがアラン、ラル、メルにとっては馴染みの場所。

 そして、T国のLBXプレイヤーにとっての聖地。

 

 「世界大会アルテミスへ通じるT国の玄関、──()()()()()()()()の会場です」

 

 「俺とメル、兄貴はここでアルテミスの出場権をかけた決勝戦に勝った。けど、ここが秘密基地っていうのはどういう意味だ?」

 

 「何を隠そう、この会場は私の管轄なんですよ。まあ、表向きの所有者は私名義ではありませんが。そしてここは、我々の最重要拠点だ」

 

 アングラビシダス、日本にも存在したアルテミスへ通じる非公式に近いルール無用の大会。

 むしろルールが存在しないことこそ、唯一のルールであるかの大会にてアキレス三銃士が決勝戦を制したのはついこの間のこと。

 結果は圧勝、彼ら三銃士は自身の機体に傷を一つ付けることなくアルテミスへの出場権を得た。

 しかしいかにルール無用と言えど、クレスは管轄しているこの大会において一つ、他国の予選とは一線を画す独自のルールを設けていた。

 

 「なんだ、これは?」

 

 クレスが先導し、広くも狭くもないとある一室に入る。

 レンが真っ先に指を指した先にあったものは、人ひとり入るであろう白い()()のような箱。

 

 「コントロールポッド。詳しい説明は省きますが、ポッドの中に入れば自分があたかもパイロットになったかのようにLBXを操作することが出来ます。大会ではこの方式を使用し、中央の無人のフィールドでバトルを行っていました」

 

 「スタンダードにDキューブとかいうやつを使わないのはなんでだ?普通、みんなアレでやってたはずだろ」

 

 「Dキューブがいつだって安全なはずがないでしょう?別室からLBXを操作してフィールドを広く、そして無人にすれば身体への被害はありませんからね」

 

 そんなもんなのか、とレンは素直に納得した。

 まだLBXでの戦闘を片手で数えれるほどしか経験していない、しかも全てをキューブ外というイレギュラーな形で経験してしまっているレンからすれば違和感のない話。

 むしろDキューブでこれから戦いを経験していくようなものならば、「狭すぎる」という感想を抱くだろうと彼は内心感じていた。

 

 「それに、フィールドと周りには強化ダンボールの素材がびっしり使われている。観戦席から直接中は見えないが、内部のフィールドを映像化して映している。案外、よく出来てんだろ?」

 

 クレスの説明に、ラルが補足を加える。

 ドームの真下に位置するアングラビシダスの会場は、サッカーを行えるほど広大な円状のフィールド。

 大会ではランダムにジャングルや砂漠地帯などのフィールドが展開され、プレイヤーは別室からコントロールポッドに入りLBXを操作し戦う。

 あらゆる衝撃を吸収する強化ダンボールの素材が全面に貼られた会場は、まさに巨大なダンボール箱そのもの。

 ある意味、LBXにとっては楽園のような場所だった。

 

 「そして、私がここを丸ごと管轄していた理由はこの時のためだ」

 

 次にコントロールポッドの部屋がある更に下の階、明かりを灯すとまた広い研究室のような場所。

 クレスが指を鳴らすと、一つのホログラムがぼうっと光る。

 そこに映し出されたのは、緑の軍服を着た一人の男だった。

 アランが、男の顔をじっと見つめる。

 

 「彼の名は、ガイア・()()()()()()。東…現エルズルム軍の大佐です。半年前、私は彼の持つ軍に拉致され、ついこの間まで牢獄の中で過ごしてきました。そして副大統領クレセント・ミハエルと画策し、エデンフォール事件とこの東西戦争を引き起こした張本人。つまり、黒幕の一人です」

 

 「カーディアス……?まさか、」

 

 「ええ。今は行方ないしは安否不明となっている大統領グラン・カーディアスの弟です」

 

 唐突に黒幕の名と、その人物が国のトップの身内であることを知った五人が驚愕を覚える。

 つまりT国の『軍』と『政治』のトップが、今回の悲劇の引き金を引いたのだと彼は言うのだ。

 周りから見れば、不祥事を通り越して極刑もいいところだった。

 だが混沌極まる現状、彼らを直接裁ける者はいない。

 

 「世間ではクレセント副大統領だけが元凶と騒がれている。だが、私は彼を含めこの二人が全ての糸を引いていると確信しています」

 

 クレス・ミヘナさえ、存在しなければの話ではあるが。

 

 「ガイアはいずれこの戦争に、東西とは別の勢力が介入してくることを予測していた。その候補が私。だからここを管轄していた私を先に捕らえ、幽閉したのでしょう。ここを、我々にとっての反撃の狼煙(レジスタンス)としないように。そのはずだった」

 

 「最初っから戦争にLBXを使う気だったからか…。だが、あんたは今ここにいる。脱獄してきたって言ってたよな」

 

 「……その理由はわからない。何故、半年も私を捕らえておきながら戦争が始まった途端に解放を見逃したのか。だがこの際、どうでもいい。おかげで得た物がある」

 

 クレスの言葉を合図に、ミツルがキーボードをおもむろに叩き出す。

 モニターに映された文字には『パラダイス』と表示されていた。

 聞き慣れすぎた単語、アランが息を呑む。

 

 「宇宙軍事基地パラダイスをご存知かと思います。A国大統領クラウディア・レネトンの軍縮計画の一策として解体が決定し、結果的に解体後の半分近くの欠片がこの国に降り注いだ。だが今、注目するべきはそこではない」

 

 「そもそも何故、大統領が後始末を名乗り出たのか…ですね」

 

 「その通り。アラン君はよく勉強されているようだ。私はA国への後の貸し作りかと最初は考えていました。が、これを見るに、さほど単純ではなかったようです」

 

 続いて表示されたのは、複数のファイル。

 羅列された文字には、彼らの思惑の一部が綴られている。

 そしてミツルがピックアップして映し出したのは、パラダイスの全体図。

 

 「()()()()()()()()()()()()という今となっては入手困難な希少金属。パラダイスにはそれが一部使用されている。しかしたかが一部とは言っても、抽出し利用した時の価値は計り知れないでしょう。何でしたら、他国が破格のクレジットで買いに来ることもあり得る」

 

 「そうか……。確かにこれ目当てなら、財政難のT国がパラダイスの欠片をわざわざ請け負うメリットはある」

 

 「だが私が思うに、これは()()()でしかなかった」

 

 パラダイスの全体図が拡大され、内部の最深部のような場所の写真が映し出される。

 しかしそれはただの一部。

 ファイルの中身には監視カメラのようなアングルで何百枚もの写真が残っていた。

 右下には辛うじて、撮影された時期が薄っすらと見える。

 時は今から二年前、2051年。

 

 「キラードロイド、なのか…?それに、このLBXは?」

 

 「かつて二年前、LBXによる世界テロが発生したことは我々の記憶に新しい。そして世間にも知られている通り、あの事件の黒幕はA国副大統領とその一味によるもの。我々が得た記録によれば、事件の最終決戦の舞台がこのパラダイスだったとか」

 

 「そんなもの…表に出ていい代物じゃないでしょう。あなた達は、どうやってこんなデータを」

 

 「私とミツル君がエルズルムの軍事基地から脱獄する際に、彼らから奪った物です。これは単なる一部始終でしかない」

 

 恐らくは黒幕と、彼らに対抗する勢力との争いだったのだろう。

 宇宙服を着た少年らしき者達と、副大統領の一味と思わしき人物の、LBX対キラードロイドの戦いの記録。

 レンは瞬きすら忘れ、先頭に立つレンと年が近い少年の扱うLBXをじっと見つめていた。

 

 

 「羽のついた、LBX……。()()()()みたいだ」

 

 

 レンのつぶやきを、クレスは聞きながらも無言でいる。

 真っ白の巨大なキラードロイドに立ち向かう小さな勇者が二つ、奇しくもレンの例えが勇者の名だった。

 LBX『イカロス・フォース』、『イカロス・ゼロ』。

 それは当時2051年、最先端の更に先を上回った最強のLBXとも言える。

 最終的には彼らはキラードロイドを打ち倒し、このパラダイスでの決戦を終えた。

 しかし何故ここまで詳細なデータをT国が保有しているのか、アランは疑問を抱く。

 何せ、T国は奇跡的にもLBXを扱う者が少数派だったことから、幸運にもLBX同時多発テロの被害から免れた例外国。

 それは同時に、かつての事件の蚊帳の外だったことを意味する。

 

 「パラダイスは『アダム』と『イブ』という高性能のAIによって全体制御が行われ、心臓の役割を担ってきた。そして、我々が今お見せした映像やファイルもアダムとイブの中に集約されている物の一部。これらの機密データこそ、恐らくT国がパラダイスを受け入れた()()()()()()

 

 「解体されたパラダイスのデータを、どうやってT国が保有出来るんです?それに保有していたとして、なんのメリットが……」

 

 「アラン君も少しはお聞きになったことがあるはず。『インフィニティネット』という過去のインターネットの次世代型。言ってしまえば、その気になればアダムとイブのデータを自宅の端末にだって転送することも出来るでしょう。あれはそういう代物です」

 

 もはやこの話についていけるのはアランしか存在しなかった。

 アラン自身も工業科で触れたことはある次世代型ネットワーク機構『インフィニティネット』。

 これを用いれば、電子の世界へLBXを転送し操作すらも可能となるが、T国には未だそういったインフラは広く確率されていない。

 確率がされていないだけで、アランが通っていた学校やイズミル及びエルズルム軍の基地には僅かではあるもののインフィニティネットが取り扱われていた。

 そして悪用さえされてしまえば、どんな軍事情報だろうがいつでもどこでも転送されてしまえる。

 

 「あの決戦において、パラダイスは実質的な運用が停止された痕跡があります。だが停止される直前までのデータはまだ残っている。もちろん、これを悪用した者の痕跡すらも」

 

 「A国が解体を急いだ理由ってのはまさか…」

 

 「そう。いくらA国副大統領の独断の犯行とは言え、A国はあの事件によって世界から良い目で見られてはいない。そこから更に彼の悪事の痕跡がボロボロ出てきたらどうなりますか?」

 

 「世界の主要国家としての信頼が更に潰える。だからA国はこれを漏洩させないために、パラダイスの解体の後始末を事件に全く絡んでいなかったT国に任せたっていうのか……!」

 

 クレスはアランの推測に対し頷く。

 かつてからA国と協力関係にあり、更に事件から偶然蚊帳の外だったT国は彼らにとって都合の良い存在だったのだろう。

 また、T国が度重なる内戦により疲弊が極まった際、何度もA国から援助を受けた手前、受け入れを断ろうにも断りづらかった面も存在する。

 A国にとっては副大統領の更なる汚職が発覚されるのを未然に防ぐことができ、T国にとっては少量ではあるもののスタンフィール・インゴットという希少金属を手に入れることができ、彼らへの借りを返すどころか貸しまで作れることになる。

 A国からして汚職の事実は、彼らの急所にもなり得てしまうのだから。

 

 場合によっては、T国は彼らの喉元にナイフを突き刺せる位置にまでいる。

 

 「グラン・カーディアスは善人も良いところです。彼はA国の汚職があったとしても、その秘密を墓まで持っていくつもりだった。スタンフィール・インゴットの利権があってもなくても、彼はただ借りを返すだけだったのかもしれない」

 

 「……けど、良しとせず都合よく利用しようって人間がいた。それが、ガイア・カーディアスとクレセント・ミハエルだったってことなんですね」

 

 「はい。彼らは国をひっくり返すことでインゴットの利権とA国の急所、両方を握るつもりです。そのためにまず、邪魔なイズミル軍に消えてもらう戦争を始めた」

 

 それこそが第三次東西戦争が始まった理由だ、とクレスは告げる。

 おおよその全体像を飲み込んだ途端、アランは強烈なめまいに襲われた。

 この戦争が始まった経緯と、ここ数年のT国の歴史があまりにも複雑化していたからだ。

 何も知らなかった、アランが出した感想はただこれしなかった。

 だがアランが知りたかった情報というのは、まさにこれのことである。

 とはいえ、知っていたところで自分に何が出来たか。

 

 「グランにはグランの。ガイアとクレセントには二人なりの、やはり正義がそこにある。今の私にとってどっちが正しいのかはわかりません」

 

 クレスがどこか寂しそうな表情で告げる。

 グラン・カーディアスはかつて助けてくれたA国への恩義を返すため、そしてガイアとクレセントは利権を手にするため。

 実際のところ、財政難で困窮しているT国が助かるためには、スタンフィール・インゴットを始めとした利権を手にし、他国に売り払うなりする他なかったことだろう。

 ガイアやクレセントに限らず、多くの国民が「いま借りを返している場合じゃないだろう」とグランの行動を追求したかもしれない。

 

 ゆえに両方が、正義とも言える。

 

 「ですが、彼らに正義があるなら…私にも同じものがある。T国を別の方法で救おうという正義が」

 

 クレスはそう言い、五人に真正面に向き直る。

 そして頭を深く下げた。

 

 「改めてお願いがあります。我々と共に、戦争への終結に協力してほしい。あなた達の持てる遊戯(LBX)で、彼らを打ち倒してほしい」

 

 「無茶だ……。どれだけのLBXとキラードロイドの群れがいると思ってる」

 

 「叩き方は私が教えます。何も、無策でやろうって話ではありません。そして、機体の全てに関しては彼が」

 

 クレスがミツルに促し、追加でホログラムを映し出す。

 そこには彼らが見たこともないLBXの設計図が描かれていた。

 コードネーム『フェンリル・ホーク』、『カイザ』、『フェアリー』、そして────

 

 「ベレロフォン。我々が奪った軍事機密の中で最も価値があると確信している新型のLBX。そして既に、彼を作る算段はついている」

 

 そしてミツルが持っていたアタッシュケースを開き、全ての中身を机に置く。

 置かれたのは、バラバラの真っ白な何かの部品のようなもの。

 六枚の羽の形をした剣、LBXのような腕、胴体、しかし肝心の脚と顔はなかった。

 レンがその部品に対し、どこか既視感を覚える。

 当然のはずだった。

 置かれた部品は、先程彼らが見た映像の中に映っていたのだから。

 

 「これって、さっきパラダイスで戦ってた白いキラードロイドのパーツじゃないか!?」

 

 「お察しの良い。名前は()()()()。パラダイスで運用されていたキラードロイドでしたが、彼らは予備も用意していたようだ。まあまさか、丸ごとT国に輸送しているとは思いませんでしたが」

 

 「おいおいおい、俺らにキラードロイドを使えっていうのか!?」

 

 「冗談、とは言いませんが()()合っています。ベレロフォンはあくまでも、LBXですから」

 

 断言した彼の言葉に、ラルはまたも言葉を失う。

 純粋の目の前の男が言っている言葉は、ただの冗談ではなく本気のようだった。

 

 「機械には機械を。化け物には化け物を。ベレロフォン、彼はそんな化け物(モンスター)なんですよ」

 

 「CPUが入っていないようですが、いや…そこを織り込んで俺たちに声をかけたんだな」

 

 「アルテミスの優勝賞品は世界トップクラスのCPU、メタナスGZ。ベレロフォンを完全な状態で運用するにはアレしかない。そして、あなた達はそれに通ずる道を歩けるはずだ」

 

 「…………」

 

 つまり最初からリスクしかない橋渡しをやれというのがクレスの言葉だった。

 ソルが不在で、かつアキレス三銃士が揃っていたとしても世界の大舞台とは未知の領域でしかないのだ。

 更に現状、彼らが所持しているLBXとはアランが臨時で修復し、あるいは臨時で組み立てた万全とは言えない代物。

 全ては賭けのような戦いだ。

 

 

 「やるよ」

 

 

 しかし、声をあげた者はそれでも存在した。

 イカロスを見て、そしてベレロフォンの設計図とペガサスを見て黙ったままのレン・アークインジェという存在が。

 彼が今まで何を思い、どう感じてきたのか。

 他の幼馴染の四人ですら、決して探ることが出来なかった。

 

 「あいつの代わりにアルテミスに出て、勝てばいい。それで、キラードロイドをLBXを全て滅ぼせばいい。そうだろ?」

 

 「簡単に言ってくれるな。確かにお前は強かったが、いくら即興と言えど今からラル達と組んで──」

 

 「誰が組むと言った?俺は、()()でアルテミスを制する。助けは不要だ。ベレロフォンも俺が使う、いいな?」

 

 「っ……なんだと…?」

 

 「ソルは俺に、お前らを託した。俺だけに、勝手に託したんだ。それで次はこのおっさんに戦争を託された。もう、うんざりなんだよ正直」

 

 レンが心底冷たく言い放ち、灰色のオーディーンを手にする。

 いつしか託され続け、いつしかその重荷がイカロスの羽を折った。

 レンの心は、既にズタボロも同然だった。

 しかし、だからこそ風前の灯火に油が注がされてしまった。

 

 「よくわかった。誰かと関わるからきっと、こうなるんだと思う。ならもう、何もかも全部独りでやってやる」

 

 「自棄になるな!死に急ぐな!それだと、お前だけがいつか孤独に死ぬことになるぞ!」

 

 「ふっ、なら試してみるか?」

 

 「お前っ………!」

 

 遂に自暴自棄になったレンの言葉にアランが激昂し、胸ぐらを掴む。

 確かにキラードロイド達を打倒したいという確かな意志はあったが、彼の目はもう何もかも、それ以外全てに興味がないという色に染まっていた。

 生きるという意志すらも。

 

 「ではレン君、引き受けるという認識でお間違いないですか?」

 

 「ドジしてもああだ言うなよ。だが、最後までやりきるよ」

 

 「いやクレスさん!あなたも止めてくださいよ!」

 

 アランの呼びかけに、クレスが何かしらレンに歯止めをかけることはなかった。

 断ろうと思えば、間違いなく断れるような案件なのは間違いない。

 つまりこのアンカラの地下からLBXを操作し、順次敵を倒していけばいい話。

 しかし敵は今やこの国の機械全てである。

 それらをたった数名で撃破しようものならば、いくらLBXがあっても足りないであろう。

 

 「あとついでに言っておくが、俺はやっぱりLBXを許せはしない。あの時、俺やソルに向けられたのは間違いなく人の殺意じゃなかった」

 

 「…LBX、機械の殺意と仰っしゃるのですか?」

 

 「ああ。この戦争を始めたのが人だろうが、戦争の主導権が機械だろうが、牙を直接向けてきたのはLBXだ」

 

 レンは既にクレスの協力を引き受けには応じるが、敵が誰なのか、それを見定めようとしていた。

 例えどんな人間の思惑があり戦争の引き金が引かれたとしても、直接手を下してきたのがLBXだということに、彼の目からしたら変わりはなかった。

 そしてそれほどまでに、レンはLBXを憎むようにまでなってしまったのだ。

 では銃で人を殺したのならば、その銃が悪いのか。

 あるいは、引き金に手をかけた人間が悪いのか。

 この理不尽な戦争に対するレンの回答こそが、彼なりの抗い方だった。

 

 「…構いません。あなたのその殺意が原動力になるのならこの際、誰が悪いのかは問いません」

 

 「だがあんたが言うように人が悪いってのも理解は出来る。だから俺が裁くべきは、両方だ」

 

 レンの言葉にクレスは無言で頷く。

 少なくとも彼は積極的に事に動こうとしている、その意志があればクレスからしたら充分であった。

 しかしレンが加わり、ベレロフォンという切り札が存在しても、圧倒的に不利ではある。

 だが戦力という観点ならば、とメルは誰もが考えるはずの言葉を口にする。 

 

 「…そもそも、何で他の国は何もしてこないの?私は一週間ずっとイスタンブールにいたけど、他の国の人が来たような感じなんて一切なかったよ」

 

 「誰も助けてくれない、そう仰っしゃるのはわかります。ですが、不可能と見ていいでしょう」

 

 「なんでよ!たとえばA国だって、ずっと協力してきたんだから少しくらい……」

 

 「先程お伝えした通り、大統領はA国の秘密を守り抜くことを前提としてパラダイスを受け入れた。だが今やその秘密はガイア一派が横取りしている。これがどういうことを意味するか、わかりますか?」

 

 「…A国は、俺らが()()()()と思ってるんだよ。A国だってT国が善意で秘密を守りきると思ってたんだ。そんな裏切り者を助けたいかと言われたら、俺は多分助けないな」

 

 「そんな……」

 

 「そして情報を守れる保証があるにしろないにしろ、国中が機械戦争の真っ最中なのにわざわざ足を踏み入れたいか。下手すればこちらに牙をむく可能性すらある。まあ、そういうことです」

 

 つまり国が起こしたことはその国が自力で解決しろ、とクレスとアランが説明する。

 それほどまでに他国はT国の内政に、関わりたいとも知りたいとすらも思わないのである。

 やはり最大の原因は、この戦争があまりにも異質だからだ。

 人と人とが直接争いを行わない、クレセントが提唱した死人の出ない戦争の概念が歪な形をして実現されてしまっている。

 この戦争において人間は蚊帳の外、その前提があるからこそ他国は手を出したくないのだった。

 

 「レン君はOKと見た。さて、残った皆さんはどうされますか?」

 

 そしてこの歪な戦争に深く切り込んでいける、クレスはそう判断しているがゆえに少年少女に問う。

 戦う覚悟はあるか、と。

 

 「悪いがアラン、俺は兄貴が死ななきゃならんかった理由を探したい。この理由を戦争を起こした奴に直接聞いてぶん殴らなきゃいけねえ。だから、俺もやる。メル、お前はどうだ?」

 

 「結局、助けが来るのを待ってたら私達が先にやられちゃうってことね…。でもそうなるくらいなら、戦いなんて望むところ」

 

 双子は意を決した。

 ラルは説明を聞いても、やはり最初からソルが死んだことについて納得はしていなかったのだ。

 だからこそ、引き金を引いた者に直接問いただすという心算だった。

 メルに関しては、おとなしく戦争が終わるのを待ちきれはしなかった。

 

 「クソっ…お前らがやる気なら俺も乗らなきゃいけなくなるじゃねえか……わかったよ、俺もついていく」

 

 そしてアランも半ば仕方なく、クレスの提案に乗じることとなった。

 クレスの説明を聞いて全てを知ったにせよ、理解はしても納得はしていなかった。

 グランの正義とガイア一派の正義、その両方がもたらす結果が決して良いものとは思えなかったからだ。

 だからこそ、別の選択肢を探す。

 アランの戦う理由は、他の正義を生み出すことに遷移しつつあった。

 

 「あたしもやる!」

 

 「は……?カイネ、お前何を」

 

 「あたしも皆と一緒に戦いたい、ねえいいでしょう?」

 

 アランが声をあげそれで終わるはずだったが、カイネも意を決する。

 流石のクレスも、彼女がまさか参戦するとは思っておらず困惑した。

 

 「お前は最近始めたばかりのレンとは違う、まだLBXを触ったことすらないんだぞ。俺らと同じじゃなくていい、無理をしなくていいんだぞ」

 

 「嫌だよ!皆だけ頑張って、あたしだけが何もしないままのんびり眺めてるだけだなんて!」

 

 「私も、できればカイにだけは戦ってほしくはない。足手まといって意味じゃなくて、危ないことに巻き込みたくはないの」

 

 やはりカイネの参戦にはラルとメルにアランは反対だった。

 出来ることなら今までと同じように、レンの側に付いていて欲しいというのが三人の願い。

 何よりこれから彼らが行うことには、少なからず危険が伴ってくるのだ。

 それに対し何も対抗する術を持っていないカイネを巻き込むのは憚られるのも当然のことだった。

 

 「使うか?」

 

 しかし、対抗する術を持っていれば話は変わってくる。

 その術とは、レンが持っていた灰色の()()()()()だった。

 彼はカイネと目も合わせず、無機質につぶやく。

 レン一人だけが、彼女に参戦に反対の色を示していなかった。

 

 「レン、いいの?」

 

 「ただし、ベレロフォンとやらの完成目処が立ってからだ。ラルの言う通り、まずはLBXを触るところから始めてくれ」

 

 「やった!」

 

 彼の了承にカイネは喜ぶが、その言葉の裏をカイネは察してはいない。

 ベレロフォンの完成目処が立つタイミングとはつまり、彼がアルテミスで優勝するということだ。

 逆に言えば、ベレロフォンが完成しない限り彼女が戦いに加わる可能性はかなり低くなる。

 彼は反対はしていないが()()()()()()()()、その表れだ。

 

 「皆さん、ありがとうございます。そしたら、せっかくですし名前でも付けますか」

 

 「名前…?なんのさ」

 

 「我々の()()()ですよ。この東西内戦に切り込んでいった暁には、我々の名を轟かせなければならない。我々がちゃんとした脅威として認識してもらうために」

 

 クレスの提案にラルが拍子抜ける。

 あくまでチームとして戦うつもりだったはずが、彼はその上を臨んでいるようだった。

 つまり、これを決して遊びなどと捉えていない。

 

 「これから行うのは、LBXバトルなどと生ぬるい物ではない。正真正銘の戦争です」

 

 それはこの国がLBXを悪魔と見定めた日から決まっていた。

 T国の多くの人々には僅かな予感があったのだ。

 いずれ、戦争に悪魔がやってくると。

 

 「今一度ご認識を。もう()()()()()()()()()

 

 しかしT国の愚かだったことの一つが、予感していながらも自身らは何も為す術を持っていなかったことだ。

 彼らのLBXは毛嫌いではなく、憎悪から来ている。

 だがある意味、彼らもLBXをただの遊びであると認識していない。

 

 「そしてこの戦争を勝ち抜くには遊戯の象徴(LBX)は当然、戦争の象徴(キラードロイド)すら超えていかなければならない」

 

 「キラードロイドすらも、か。なら決まりだな」

 

 レンがカイネの支えを払い、自力で立ち上がって全員の前に立つ。

 彼らの目に映ったレンの目は、ずっと虚ろだった。

 そんな虚ろな彼が、宣言する。

 

 「俺らの部隊の名前は────」

 

 彼の命名に、不思議にも誰も異議は唱えなかった。

 

 

 

 ■

 

 「…構わなかったんですか?」

 

 「何がです?」

 

 「あなたの言うことに嘘偽りはなかったけれども」

 

 研究室に残ったミツルがミツルに問う。

 内容はもちろん、彼らに話した真実についてだった。

 

 「ですが()()()()()()。というより足りない。そうなんじゃありませんか?」

 

 「現時点で出すべき情報だけを選定して出した、というわけです」

 

 「それは場合によっては、彼らからすれば隠しているって捉えられてもおかしくないですよ」

 

 「その時はその時、腹をくくるまでです」

 

 クレスはくたびれた調子で椅子に座り、考え込む。

 ミツルが言うように、クレスが彼らに開示した情報はあれが全てではなかった。

 この戦争の元凶、ベレロフォン、二年前のパラダイス事件、戦争の発端、彼らに開示できる情報とはこれらが現状全て。

 しかしこれ以上を開示すれば、彼らが現実を受け止めれるという確信が持てなかったのだ。

 だからこそ彼らへの勧誘は慎重に行わければならなかった。

 

 「私が教えなくとも、これから戦争に切り込んでいく上で嫌でも知る真実がある。…今それを知って受け止めるのは、あまりにも酷なんです」

 

 「それは勝手というものです。ですが…いいや、そうか」

 

 「場合によっては、彼らは私を殺しに来る可能性だってあり得る。流石にこれは避けたい」

 

 流石にこれではただの保身ではないか、とクレスは考えていた。

 実際のところ、一方的に情報を所持しているのはクレス側の方だった。

 そして持ち得た情報を都合よく子供に提示して仲間に引き込もうとしている。

 果たしてガイア一派とどこが違うのか、彼はそう思わざるを得なかった。

 

 クレスは内心ずっと迷っている、大事な情報をどのタイミングで明かすか。

 

 「迷いっぱなしの大人は情けない、()にそう言われても文句は言えないですね」

 

 「何か言いました?」

 

 「いえ、それより東西の激突が南で行われているとのことですが、次はどこになるか予測は出来ますか?」

 

 「押されて退いた方の場所にシフトすると思われます」

 

 「なるほど。仮に東が勝つなら西寄りの戦場になると」

 

 「はい。ですが…一体どっちが勝つんでしょうか」

 

 そう言い、ミツルはモニターに映し出されたT国全体の地図を眺める。

 現状の東西戦争の主戦場は南のアンタルヤ。

 ここでどちらかが押された場合、そのまま徐々に東西どちらかに戦場がシフトしていくことになるのは明確だった。

 しかし、ここ数日の様子を見るに、東西の戦力と支配率は()()

 ミツルがイスタンブールへ向かう途中で見た、泥沼の試合そのままだ。

 

 そしてこう思わざるを得ない、全ての戦場が互角で終わるのではないか、と。

 

 「前に言ったでしょう、戦争の本質は勝ち負けではない。彼らは戦争終結のその先を視ているんだ」

 

 「けれどあくまで東寄りのガイア一派がそう企んでいるのではないですか?西は西で一方的にやられて黙っているはずがない」

 

 「西にも彼らと密かに結託している輩がいる、こう考えるのが自然でしょうね」

 

 この戦争とは彼らが国を掌握するための前準備に過ぎない、というのがクレスの見立てだった。

 まずは泥仕合の戦争を始め、軍以外の人間が介入する余地を失くし、国ではなく軍が管理出来る下地を作る。

 勝敗がどちらに傾こうが、西にもガイア一派に通じる者が存在する以上、ガイアは西にも鞍替えすることが可能となる。

 つまりこの戦争は最初から出来レースに近い。

 そしてその先の未来で彼らが実行するのは、世界征服なのかあるいは。

 

 「明日から本格始動です。まずは叩き方から教えないと行けない。その後は実際、軍勢の背後を突く形で徐々に侵攻していきましょう」

 

 「ベレロフォンにアラン君たちが使うLBXの製作、コントロールポッドの改修だってあります。僕らはようやく、武器を手にしただけなんですし」

 

 「武器、ですか。それは恐らくあの子が特に思っていることでしょうね」

 

 そう言ってクレスはレンの先程の死んだ目を思い出す。

 クレスの視点からすれば、もはや彼はLBXを既に『遊戯』などと思っていないようだった。

 彼の目は、戦場へ向かう人間のそれだ。

 

 

 「どっちなんでしょうね、LBXは。果たして()()なのか、()()なのか」

 

 

 軍がアダムとイヴの内部ネットワークへインフィニティネットを介して接続し、得た情報とはたかが二年前の事件だけではない。

 例えば三年前──伝説のLBXプレイヤーと呼ばれた男が企てたテロ計画や、全エネルギー問題を解決する『エターナルサイクラー』と呼ばれる物を巡った騒動など。

 もちろん、それらの計画に運用されたLBXの情報も詰まっている。 

 これらの国家機密レベルの情報も含め、アダムとイブの内部情報は喉から手が出るほどに欲しかったのだ。

 そして、それらの国家機密レベルの事件には…LBXが全て関わっている。

 オモチャとして本来は世に出たはずの存在が。

 だからこそこの国に限らず、全世界に問い質さなければならないことがある。

 果たしてLBXは、希望か絶望か────遊びか戦争か。

 

 「もうそれを決定づけれる人なんて、存在しないと思います。…僕ですら、わからない」

 

 「少なくとも今は兵器として扱わないと、遊びにすら昇華されないでしょうね」

 

 そして現状、遊びすら殺す兵器すら存在してしまっている。

 この国の人間にとって、LBXがどうこうあろうが今となってはどうでもいいことなのかもしれない。

 

 「ともあれ、まずはベレロフォンを完成させ敵の片方の根城を掴んで叩くことです」

 

 「片方というと西ですね…。叩いてどうするつもりなんです?」

 

 「西に東と通ずる者がいる、そして東と同じく強硬的に徴兵したとするならば、まずはそのスパイを排除する。こうすれば兵を味方に引き入れれるかもしれない。綱渡りですが」

 

 「なるほど、西と我々の戦力を結集して最終的には東を叩くと」

 

 それで戦争が終わってくれれば、()()()()()()()()()()()

 こう思っているほどに、クレスはこの戦争が単純なものではないことを察していた。

 あの楽園落としで数万の人間が死んで、死なない戦争で人の居場所が食い尽くされ、未来で軍の支配が始まり、たかがこれで済んでくれれば。

 戦争の被害がこの国だけに留まってくれれば───

 

 (私達がこの戦争を食い止められなければ、もしかしたら()()()()()()()()

 

 そしてクレスは、やがて最悪の事態が訪れてしまうのではないかと想像していた。

 

 

 

 ■

 

 「前方に敵機無し。最初に来た時もそうだが、人の気配すら無い。なんなんだここは」

 

 西部軍制圧作戦まであと一日。

 この日はクレス指示の下、レンがベレロフォンの低空飛行による敵情視察を行い、その他隊員は来るべき時に備え休息を取っていた。

 イズミル軍が拠点としている『T国西部バークプラント』、レンの隠密偵察によればそこには敵機の気配は存在しない。

 現在地点はバークプラント内部ではなく、見張りも存在するであろうという警戒からあくまで外。

 しかし逆を言えば既に敷地内には侵入出来てしまっている。

 それどころか、彼はアンカラからバークプラントまでの旅路においてキラードロイドやLBXを見かけていなかった。

 はっきり言ってしまえば、今攻め入れば容易く攻略出来るのではないかという疑惑すらある。

 

 「一度だけ訪れたことがあります。元々は樹皮(バーク)の加工を専門とし、建物に利用する為の工場として運用されていました」

 

 「今の時代に木造建築か。それで生き残れるものかね」

 

 「もちろん用途は建物だけではありません。というのも、世界で唯一の試みと言われるある実験が存在しました。……結果は失敗に終わりましたが」

 

 「当てるよ。──L()B()X()だろ?」

 

 「流石です。彼らはプラモデルに一般的に用いられている樹脂(レジン)やポリスチレンの素材とは別に、樹皮によるLBXの製作を試みていました」

 

 ふーんとレンは目の前のモニタに集中しつつクレスの話に耳を傾ける。

 昔からプラモデルには一般的に、樹脂やポリスチレンなどの一定の強度を持ち得た素材が使われてきた。

 しかしLBX事業の展開と同時、このバークプラントでは新たな試みとして樹皮を用いたLBX製作に焦点を当てることとなった。

 単純に言えば、『木製LBX』の試作だ。

 だが強度という点では従来の素材と同等、あるいはそれ以上と言われはするものの重火器すら容易く使用するLBXの前ではすぐ燃えてしまい、使い物にならなかったのだ。

 もしかすれば木製LBXというブランドに一部マニアがコレクション用にと惹かれはするものの、最低でも戦闘LBXでの運用は当然ながら不可能だった。

 結果、LBX事業の失敗により木製LBXの開発も自然消滅する形となった。

 

 「彼らが今でも尚、木製LBXの開発を密かに進めているかはともかく、内部は数百体のLBXとキラードロイドが存在するのは間違いないはず。もしかしたら、ここは入り口ですらないのかもしれませんね」

 

 「にしても外部が手薄すぎる。侵入者は中で叩いていくスタイルか。あるいは、広大な敷地に外部まで人員を割くことが出来ないのか」

 

 「でしたら普通は逆でしょう。外で侵入者をいち早く見つけてしまえば、内部での対処がより早くなる」

 

 「俺が初めてここを見つけた時、パッと見、軍事施設には思えなかった。隠している線が濃厚なのかもな」

 

 だとすればもっと近付いて偵察してみようか、レンはベレロフォンの高度を上げ、窓から内部を確認しようと試みる。

 誰かの話し声だろうか、微かな言葉にベレロフォンは耳を向けた。

 

 『もう限界だ……。まだあんなことを続けようっていうのか……』

 

 『仕方ない、仕方ないじゃないか……。従わなければ、俺らが殺されるんだぞ』

 

 『いやしかし……』

 

 『こんな戦争が終われば、もうここに留まる理由なんてなくなる。そのためには、なんとしても()()に──切り開いてもらわねば』

 

 (……なんの会話だ?)

 

 ベレロフォンが暗闇の中で僅かに視界に捉えたのは若い二人の研究員。

 年で言えば、ミツルと大して変わらないほど。

 しかし表情はクレスよりもくたびれており、明らかにやつれているのがわかる。

 目立った外傷がないことから精神的な理由からきているとレンは断定した。

 

 「クレスのおっさん、心当たりは?」

 

 「いいや、全く。木製LBXとは何の関係もないように思える、しかし…彼女、とは?」

 

 「………嫌な予感しかしないな。もっと会話が聴ければいいんだが、ッ────」

 

 レンが更に近付こうとしたその時、周りの空気の異変を察する。

 自然と彼の動きは姿を隠すことにシフトし、一瞬でバークプラントから離れ周りの木に身を潜めた。

 正しい行動だった。

 直後、バークプラントの入り口ような場所のゲートが開き、灰色の集団を目にする。

 言わずもがな、キラードロイド・スケルトンの群れだった。

 彼らは何も考えることなく、ただひたすらに東へ進軍していき、一部は敷地内の警備に回った。

 そこらに特に驚きはない、驚きは別にある。

 

 「なんで、ミツルさんのプログラムが効いていない?話が違うようだが?」

 

 「進軍を撤退に、最終的には起動停止の想定だったが。レン君が追った感染済みのスケルトンを起点に、これからじわじわと停止したスケルトンが増えていくはず……一体何が」

 

 「撤退する!どうやら、食い違いがあるようだ」

 

 レンは迷わず撤退を選んだ。

 彼の言ったように、事前の作戦の組み立てに『食い違い』が発生しているのは一目瞭然だった。

 ミツルの組み立てた『パンデミックプログラム』は、まず昨日の戦闘でアランにより一体のスケルトンに感染され、進軍から撤退の行動に書き換わった。

 そしてレンがスケルトンを追ったことにより、最終的にはこのバークプラントが西軍の拠点であることが判明、ここまでが順調そのはず。

 だとすれば、異変が生じたのは()()()

 彼のパンデミックプログラムの一つには、『出撃』の指示を『他者に骸再生を施す』指示に書き換える要素が備わっている。

 つまりスケルトンは出撃する際、必ず感染が発生していないとおかしいのだ。

 いずれは進軍すらしなくなる、彼ら部隊はこう想定していた。

 

 「パンデミックプログラムは頼れない。とは言え、作戦開始を数日ずらすこともしたくはない。イレギュラーだ、どうする?」

 

 「それは現場に行って実際に検証する他ないでしょう。なに、倒さなきゃいけない敵がちょっと増えただけです」

 

 「だな、パンデミックプログラムの件は伝えるか?」

 

 「ええ。ミツル君の腕が悪い訳では無いとは思いますが、今一度洗い直しが必要です。予定通り、作戦は今から二十四時間後の深夜に決行します」

 

 クレスの提示にレンは無言で同意する。

 パンデミックプログラムが何故か機能していないというイレギュラーが発生していても、クレスの言うように「ただ敵が増えただけ」なのである。

 元々は対キラードロイド制圧用の副産物にしか過ぎないプログラムだ。

 このプログラムがあるにしろないにしろ、レンは十分作戦を成功させれるという認識を持っていた。

 

 「────!?」

 

 レンは唐突にモニター左下のレーダーを注視する。

 北を固定にし、七時の方向──スケルトンとは全く別の反応が一つ有り。

 場所で言えば、バークプラントから南西少し離れた位置にソレはあった。

 しかし反応は一瞬。

 瞬きした瞬間には、空目だったのかと勘違いするほどに、レーダー反応は消えていた。

 キラードロイドが孤立して一機でいるはずがない、レンは自然とソレをLBXと断定していた。

 

 結論を言えば、ソレがこの西部制圧作戦に干渉することなど、一切なかったのだった。

 

 『……………………』

 

 しかし、ソレはレンのベレロフォンをじっと凝視し、やがて何処へと消えた。

 

 そして今から二十四時間後の深夜──彼ら部隊史上最大の作戦『西部制圧作戦』が予定通り決行されることとなる。

 

 ()の、思惑通りに。

 

 

 

 -終- 第四章 玩具殺しを殺す者

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