ダンボール戦機 -2053KK-   作:最果

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第五章 Great Future War

 ■誰かの日記

 

 故に彼はこう言った、かつての()と同じように。

 これはもう遊びではないのだ、と。

 

 

 

 ■

 

 深夜二時、『西部制圧作戦』決行当日。

 彼ら五人は既にコントロールポッドの中で出撃待機の状態にあった。

 アランは作戦内容の読み直し、ラルとメルは機体の状態、カイネは『グングニルAR』の残弾数のチェック。

 それら全て、彼らから既に問題無しの報告が上がる。

 そして残ったレンは────

 

 「パンデミックプログラムが作用していなかった。ミツルさんよ、これに関して何か言うことは?」

 

 「流石に僕もこれは想定外でした…。穴がないと思えるくらいには、アレの出来は良かったと自負はしています」

 

 「だとしたら考えられる要因は?」

 

 「二つ。レン君が追ったスケルトンが内部に帰還したと同時に誰かに手動で消された」

 

 「…内部に施したプログラムが目視でわかるものか?」

 

 「見えづらい。だからこの線は薄い。残るもう一つがあるとすれば、全く違う者によって消された…破壊された線」

 

 レンは今に至るまで、ずっと疑問に思っていたパンデミックプログラムの無効についての話題を切り出す。

 彼自身ミツルの腕を疑っている訳ではなかったが、それでも尚、あくまで想定された物ではないという事実を再確認したかったのだ。

 人のミスがあったとしても、それを認知出来ないのが最も致命的であるから。

 

 「なら事前の作戦通り、アランがプログラムを持ち出し、再度スケルトンの鹵獲と感染を試みる。もっとも、そんな余裕があればいいが」

 

 「任せろ。それより、お前ベレロフォンの調子はどうなんだ?」

 

 「どう、とは?」

 

 「ベレロフォンにはまだ必殺ファンクションが実装されてない。加えて、あのモードもまだ不十分。頼れるとすれば、お前の技量だ」

 

 要はどこまでやれるか、というのがアランの問いだった。

 未だミツルによるベレロフォンに対しての改修は百パーセントの状態とは言えず、あくまで『暫定的に完成させた』というのが最も表現としては正しい。

 だが逆を言えば、()()()()()()()()()()ということでもある。

 仮にこの作戦が成功し、クレスの思惑通り西を味方に引き入れることが叶えば、物資が潤い西を相手にしなくても良いという余裕が生まれる。

 

 それほどまでに、この作戦は正に未来を左右する戦争とも言えた。

 

 「全部蹴散らしてやる。そのための部隊なんだ」

 

 「…そうかい。かなりの長丁場だ。各自、今一度作戦に抜けがないかを確認するように」

 

 「「「はーい」」」

 

 (なんて気の抜けた返事なんだ)

 

 アランの呼びかけに対し場違いすぎるテンションが混じり、彼は困惑する。

 だが緊張しすぎるよりかはいくばくかマシだった。

 遊びのテンションではあるものの、これから行うのは正真正銘の戦争だ。

 戦争と言うにはあまりにも相手と彼ら部隊の戦力差や規模がかけ離れているが。

 

 【では、皆さん注目】

 

 クレスの言葉で、場が一瞬で静まる。

 彼が指し示した電子モニターに一気に視線が集った。

 

 【我々はこれより、T国西部バークプラントへ奇襲を仕掛けこれを掌握します。具体的には武装…ここではLBXとキラードロイドを指しますが、これらを全て無力化することが掌握への近道となります】

 

 「動きについては一昨日全て説明した。あとは忠実に、それに従え。現場の戦闘指揮は俺が。全体の方針についてはクレスのおっさんが」

 

 【ええ。言うまでもないですが、くれぐれも()()()()()()はしないように。例え相手が敵であってもです】

 

 クレスとレンの言葉に、彼らは頷く。

 大前提として人間への攻撃を禁止としているのは、当然クレスの提案だった。

 仮に作戦が通り制圧が完了したとして、問題はその後──武装以外の存在をどうするか。

 クレスはバークプラントに駐在しているのがほとんど軍人ではあるものの、大体は徴兵に異議を唱えているのではないかと踏んでいた。

 だからこそ、()()()()()()()()()

 その大前提は、彼らを直接傷つけないことだ。

 言葉で分かりあえなければ暴力で、ならばその逆の順序を用いれば良い話。

 暴力が無ければ、話し合うしかないのだから。

 

 彼らの先陣を切って戦闘の指揮を行うのはレン・アークインジェ。

 彼らの戦闘をそれぞれの機体の視点からモニタリングし、状況に応じて作戦や方針変更の指示を行うのがクレス・ミヘナ。

 つまりレンは『目の前』のことを、クレスは『未来』のことを取り決める。

 この二人の司令塔が指揮するのが本来の部隊の在り方であり、逆を言えば前回のレン不在の状況というのはイレギュラーなものであった。

 そして今、ベレロフォンという切り札が完成し、その所有者も最初から万全の状態。

 かつてないほど盤石の布陣が、今ここに揃っている。

 

 【我々のこの作戦に、T国の未来がかかっていると言っても過言ではない。試してみようではありませんか、我々の力を】

 

 『ハッチ、オープンします』

 

 ミツルの操作により、地上へ繋がるダクトが開かれる。

 (ルナ)の明かりが彼ら五機のLBXを妖しく光らせる。

 かつての戦闘から、最もキラードロイドの軍勢が手薄となるのは常にこの深夜の時間帯だった。

 また、少しすれば昨日レンが見たようにキラードロイドの軍勢が『払い出される』タイミング。

 つまり今、最も侵攻が薄くなり、最も敵の基地の軍勢の数が減らされるタイミングである。

 

 全てはこの半年間、戦いと撤退を繰り返し、情報を得て、絶望的な戦力差を埋めてきたからこそ。

 そして今日この日こそ、その絶望をひっくり返す時だった。

 

 

 【皆さんに、天使の加護があらんことを。────出撃!】

 

 

 クレスの言葉を合図に、全機出撃。

 ライディングソーサに乗った四機と羽を持ったベレロフォンが遥か西へと目指す。

 全速力、いかに侵攻が少ない時間帯と言えどのんびり進んでいくほどの余裕は存在しない。

 仮にこのタイミングで東からの侵攻が行われた場合、最悪戦力を減らしてでも東へLBXを飛ばさなければならない事態となる。

 ゆえに重要なのは速度。

 ベレロフォンを起点に即時制圧、不可能と判断すれば即時撤退というのが作戦の大前提だ。

 急げるものならば、急いでしまった方がよっぽど良い。

 

 そして彼らの最大のミスとは、()()()()()()()()()()()──ただ一点だった。

 

 

 

 ■

 

 「アイン中佐、これを」

 

 「なぁんだ?こいつは」

 

 部隊がアンカラを抜け出撃した丁度その頃、T国西部バークプラント。

 茶色の軍服を着た中年の男がのんびりラジオを聞きながら、タバコに耽っていた。

 そんな西部イズミル軍中佐、アイン・ケネスの元に部下が一枚の画像を見せる。

 画像に映っていたのは、何とは判別し難い五つの小さな飛行物体。

 肝心の正体は設備が不十分すぎるイズミルの撮影技術では、ブレがひどく粗かった。

 

 「見せられてもわからん。まさかUFOとでも言いたいのかぁ?」

 

 「可能性は、あるかと」

 

 「馬鹿者っ。いますぐ調べさせろ」

 

 アインの命令に、部下は無言で承知しその場を去る。

 ため息を一つ、すぐさま手元のワインを片手に飲み干した。

 国中が困窮という困窮の真っ只中でワインというのはレア物もいいとこだった。

 彼の飲むこれは、東のエルズルムから送られてきたものである。

 そしてイズミル軍でこれに手を付けれるのは、アイン自身と先ほどの部下のようなたった数名の側近のみ。

 

 「ガイアの野郎は今頃なにしているんだか」

 

 ふとアインは自身の()()に当たるガイア・カーディアスの行動を気にしていた。

 もちろん、連絡を取ろうと思えば今すぐにでも取れる位置にある。

 何故ならアインは、彼の命令によりこのイズミル軍の中佐として駐在しているのだから。

 正確には、『乗っ取る』という表現が正しいか。

 つまりこれは東西軍のトップ同士が癒着しているということに他ならない。

 

 (ガイアの野郎は、この一ヶ月でどちらかの勢力が大きく傾くと言っていた。それが本当だとして、何を根拠に?)

 

 エルズルム軍大佐のガイア・カーディアス曰く、この一ヶ月こそが彼の計画が進展する──アインは西軍を乗っ取る際、そう聞かされていた。

 これからの一ヶ月のために、アインは存在していると言えよう。

 恐らくは近いうちに戦争が終わるのかもしれない、彼はそう読んでいた。

 だがいかにエルズルムの刺客と言えど、アインはガイアの計画の全てを知らされている訳ではなかった。

 あくまで、『イズミル軍を乗っ取りトップとして居続けろ』というのが彼に対する命令。

 とは言われても、アインは現状の生活の方が「随分と楽だ」と思っていた。

 

 「おーい、もう一杯持って来い!」

 

 空になったワインボトルを床に放り投げ、部下に代わりを持ってこさせる。

 彼にとって、ガイアの計画が動き出すまでの今は楽園のような日々だ。

 更に付け足せば、別に戦争なんか終わらなくても良いとすらも。

 戦争は全てキラードロイドとLBXによって行われ、勝ち負けは実質あってもないようなものだ。

 現状ですらも、東西は戦争に対して決定打を見出だせていない。

 

 そして全てを知っている者から逆を言えば、()()()()()()()()

 この膠着状態の持続こそ、ガイアの狙いである。

 

 「別に戦争が続くのはどうでもいいけどなあ、俺のご馳走がなくなっちまうのだけは勘弁だぜ。なぁ?」

 

 彼の言葉に周りの部下は無言で同意すらもしない。

 アインにとっては戦争が勝敗など、大して気にするものでもなかった。

 彼にとって重要なのは、明日以降ワインが飲めるかどうか。

 幸いだったのは、イズミル軍トップの体たらくを誰も追求する存在がいないことだ。

 いいや、出来る者が存在しない。

 

 「中佐、あれを」

 

 「あぁん?()()脱走者か?対応させろ」

 

 「…承知」

 

 部下がふとバークプラント中の監視カメラの一つを見て、アインに報告する。

 映っていたのは焦った様子で走り回る若い研究員のような姿をした男性二名。

 昨日、レン・アークインジェが目にしたあの研究員だった。

 彼らはなるべく巡回LBXが居ないルートを走り、出口を目指す。

 しかし、アインの目に留まってしまったことが運の尽きだった。

 

 彼らはすぐさま曲がり角に出現したLBXが投げた催眠ガスにより、あっという間に無力化された。

 

 「独房だ。腑抜けた大佐(キジャ)と同じ場所にぶち込んでやれ」

 

 そして彼の指示により、研究員は地下の──現()()()()()()()と同じく独房入りした。

 アインが西を乗っ取ったことにより、地下の独房は日に日にその人口を増している。

 そう、毎日だ。

 彼が西のトップになり、独房から出たという人間は誰一人として存在しない。

 

 「外に回す警備を減らしておいて正解だな。おかげで馬鹿が釣れまくる」

 

 「中佐、例の兵器については如何しますか」

 

 「ああ、()()のことか。実践投入できても使う機会がなければなぁ」

 

 「しかし先程の五機の飛翔体がいささか気になります。念には念を、」

 

 「馬鹿者っ!俺の仕事を増やす気か!?」

 

 部下の言葉にアインは顔を赤くして酔っ払いながらも唐突に激昂する。

 対する部下は、虚ろな目だけで何も動じはしなかった。

 

 「もし兵器に傷一つでも付けてみろ!その際ガイアの野郎からどうこう言われて責任取らされるのは俺の方だ!それともなんだぁ?お前が代わりに死んで責任取ってくれるかあ?」

 

 「……いえ」

 

 「余計なこと言って俺の楽園を汚してくれるなぁ!?」

 

 彼の言葉に部下はもう何も言わなくなり元の業務に戻った。

 この時点で、アインは最初に報告を受けた五機の飛翔体については何一つ気に留めることはなくなった。

 仮に飛翔体が何らかの脅威になる場合、彼はLBXとキラードロイドだけでなく、彼の持つ兵器をほどの事態に発展する。

 彼にとって、それは最も避けたいことだった。

 その兵器とは、アインがイズミル軍を乗っ取る際に「好きに使え」とガイアから手渡された物。

 しかし条件付きで、だ。

 そんな条件とは「いずれ返してもらう」、「()()()()()」ただ二つ。

 だからこそ、出来ることならあまり使いたくないというのがアインの本音。

 とは言え、メンテナンスに関しては怠ってはいない。

 彼がバークプラントの警備を外部より内部に多く利用しているのはこのためだ。

 アインにとっての理想郷を支える道具と、イズミル軍が保有する兵器をより強化してもらうため。

 何人たりとも、外へ出すことは彼が許しはしない。

 

 「ちなみに部下の顔も立ててやるが、今ルナを出せと言ったらすぐ使えるんだろうな?」

 

 「はい、修繕に関しては……滞りなく」

 

 「妙に歯切れ悪いな。だが丁度良い。今日は満月だ」

 

 「どちらへ?」

 

 「たまにはルナを外に出させてやれよ。なあに、実弾演習と同じ感じでな」

 

 それはただ単純に兵器の出来を部下に自慢したいだけなのではないか、と突っ込む者は誰もいない。

 現状彼が兵器を保有はしているものの、元はと言えばガイアから渡された兵器だ。

 バークプラントが実質的に彼の所持物と錯覚したついでか、かの兵器も我が物顔で使おうとする。

 彼は立ち上がり、独房と極秘の研究室が存在する地下へ足を運ぶ。

 向かう途中、開いた窓から冷たい空気が流れてくる。

 バークプラントに常に引きこもっており、昼夜も何もない彼にとっては久々の外の空気だった。

 

 そして不意に、空気の異変を感じ取った。

 

 「ッ!?」

 

 アインの手がぴくりと動き、幸か不幸か一気に酔いが覚める。

 酒に酔った体たらくと言えど、彼は現中佐。

 ガイア達と同じく、伊達に戦場を渡り歩いてはいなかった。

 だからこそ戦場の空気と、平和な外の空気の違いを理解してしまった。

 

 「あれは…!?」

 

 彼が暗闇の中の空でやっと目にしたのは、先程も見たような()()()()()()

 今度こそアインは、これを緊急事態と認める。

 だが何一つ焦ってなどいなかった。

 彼には『ルナ』という秘密兵器が存在しており、幸いにも「たまには外で性能を見てやろうか」という気分だったのだ。

 部下が言った通り、ルナという兵器には定期的にメンテナンスが施されており、その担当は先程脱走を試みた研究員が担当している。

 もちろんメンテナンスだけでなく兵器の強化に実験、どうせならいじってやろうというアインの命令により目がかけられていた。

 そういった背景からアインにとって、研究員の脱走というのは見過ごせないような出来事である。

 キラードロイドとLBXの警備が外部より内部で厳重に張り巡らされており、今日に至るまで脱走者は存在しない。

 

 『必殺ファンクション、ホークアイドライブ』

 

 ────だからこそ、外部からの攻撃には圧倒的に脆弱である。

 

 不意に天空の飛翔体から人のような声が聞こえたと同時、バークプラント一帯に地響きが生じる。

 まさかの事態、しかし反応が遅かった。

 アインが動揺を殺すよりも先、バークプラント内のアナウンスが響き渡る。

 

 【緊急!バークプラント入り口が何者かによって破壊!総員、ただちに制圧用LBX及びキラードロイドを排出せよ!】

 

 「この基地に東が…!?まさか、」

 

 彼が走って元の居場所に戻ろうとしている最中、通路のありとあらゆる場所からキラードロイドとLBXが軍勢を形成し、バークプラントの入り口へと移動する。

 イズミル軍とて何も緊急事態に際して無策だった訳ではなかった。

 アインの理想郷を崩されないためにも、彼らはいつだって内部の警備を外部に流す算段は付いている。

 侵入者に対しては即座に天罰を、正しい発想だった。

 

 敵が入り口から堂々と侵入してくれば、という前提が存在するならば。

 

 『やっちゃえ鳩ぽっぽ!グングニルAR!』

 

 今度は天上から、激しい轟音が鳴り響く。

 そしてそれだけではない。

 

 『今度はこっちだ!ライトニングランス!』

 

 『────蒼拳乱撃!』

 

 次には入り口の()()方向からの爆音。

 大して二階建て程度の高さしか誇らないバークプラントの天井が、気付いた頃にはがら空き。

 時を同じくして、今度は入り口と裏口に当たる箇所が破壊されていく。

 左右と上、守るべき箇所が何者かによって一瞬で打ちのめされた。

 それを為したのは当然、

 

 「あの飛翔体……LBXだ!総員に告ぐ!ありったけの戦力で奴らを迎え撃て!ルナもだ!ルナも動かせ!」

 

 紛うことなき悪魔達。

 飛翔体を敵と断定したアインはすぐさまルナの投入を命じる。

 出来れば実践投入は避けたかったアインではあるが、それを余儀なくされるほどに、彼は敵を尋常ではない戦力と仮定していた。

 悪魔には悪魔を、そして悪魔殺しを。

 唐突に飛来してきた勢力に対して、空気の異変を察知した時には何の焦りもなかったアインは今では冷や汗を流す。

 何せ彼は、外部からのLBXの攻撃を()()()目の当たりにするからだ。

 そしてイズミル軍の拠点に直接攻撃を仕掛けて来られたことも一度としてなかった。

 全ては彼らが戦争の一から百をLBXとキラードロイドに任せているからだ。

 ガイアの策略が完遂されるならば、アインは絶対に「東に攻め入られることはないだろう」と慢心していたのだ。

 だからこそアインは、侵入者に対し0から百の戦力を投入しようとする。

 

 彼らにとって最大の致命的なミスは、その程度で追い返せると勘違いした点にある。

 

 イズミル軍の悪夢が、今ここに始まった。

 

 

 

 ■

 

 「全三箇所の攻撃完了を確認。一旦退避だ、様子を見るぞ」

 

 「「「「了解!」」」」

 

 レンのオーダーにより、全機がまとまってバークプラントの上空へ昇っていった。

 彼らの『西部制圧作戦』開始から三分経過。

 部隊にとって、これは幸先の良い切り出し言っても過言ではなかった。

 作戦は常にスピードが命と肝に銘じている彼らにとって、今回の作戦はいささか矛盾しているように見える。

 しかし、作戦は作戦だ。

 

 【ふむ、敵はまだ混乱状態にあるようですね。よほどここを攻め慣れてなさそうだ】

 

 「まあ攻められたらそれでもう終わるけどな。で、どこに固まっている?」

 

 【入り口付近と見るべきでしょう。カイネ君が爆撃した屋上は恐らく、キラードロイド達の対空射撃が来る】

 

 「なら、裏から行くか」

 

 クレスとレンはモニターのバークプラントの地図を見つめ、次の作戦への方針を定める。

 そもそもの第一作戦とは、ただ玄関をノックしただけではない。

 まずはアランが入り口、ラルとメルが裏口、カイネが天上からほぼ同時に攻撃を仕掛ける。

 ここで肝になるのが、()()()()()()()()()()()()()()()()という状況に陥らせること。

 大前提として膠着状態の戦争が続いているのであれば、イズミル軍もエルズルム軍も、大本の拠点を直接攻め入られたことがないのだ。

 それ故に攻め入られた時、具体的な解決策がないままとりあえず戦力を投入するしかなかった。

 このクレスの予想はまさに的を射ていたのだ。

 もしかしたらまとまって一箇所に侵入されるかもしれない、もしかしたら各自散開して侵入されるかもしれない……だからこそ彼らはどこにどれくらいの戦力を投入すればいいのか分かりかねていた。

 正に疑心暗鬼の状態、そこで次なる一手。

 彼らは今、とりあえずとして入り口に戦力を割いていた。

 

 「当初の予定通り、ラルとカイネで裏から侵入。少し間をおいて次はアランとメルの二人で表から仕掛けろ!あとは俺が行く」

 

 「了解だ。中々珍しい組み合わせだが、これも悪くねえってことを思い知らせてやる。死ぬんじゃねえぞ!」

 

 「笑わせる!ラルも生き残って来い!」

 

 そしてラルとカイネが先行し、上空から敵軍勢が比較的少なかった裏から侵入する。

 敵も遂に仕掛けてきたと判断したか、入り口に集中していた軍勢の半分が裏口へ回った。

 迫った敵に対しては当然の対処法だ。

 

 「へへ、多いね多いね!こういうのを待っていたんだ!いくぞ、カイネ!」

 

 「はーい!」

 

 ラルとカイネの目の前に立ち塞がるのは合計百をも超えるであるキラードロイドとLBXの軍勢。

 しかし二人は何も恐れてなどいなかった。

 むしろ、想定していたより「少ないな」と思えるほど。

 ラルにとってこの状況とは、ずっと持っていた技を見せれる絶好の機会でしかないのだから。

 

 「「──必殺ファンクション、()()()()()()()()()()()()!」」

 

 それは二人の合わせ技。

 槍系統必殺ファンクションの『トライデント』とカイネのピースフルオーディンが持つオリジナルの『グングニルAR』の複合必殺ファンクション。

 ラルのカイザの右腕が持つ槍を起点に正面から三方向、螺旋の炎(プロミンス)が敵機へ飛び交う。

 メルの打撃技が無くとも、二人のトライデント・プロミネンスは次々にキラードロイドの核を貫き、LBXの軍勢を容易く轢いていった。

 本作戦において、ラルとカイネという珍しい組み合わせが出来上がったからこの合わせ技が出来たのではない、その逆。

 

 合わせ技が出来上がったからこそ、広域的な殲滅を行うのに適したコンビだとクレス達は判断したのだった。

 

 「すごい!ちゃんと上手く倒せてるじゃん!」

 

 「…いいや、元々グングニルARが強すぎるんだよ」

 

 あまりの破壊力にラルは若干顔を引き攣らせていた。

 まさかこれほどとは、という感想しか出てこないのだ。

 ラルの一点突破という正確さと、カイネの広域殲滅という幅広さを掛け合わせた技は、何十もの軍勢をあっという間に破壊。

 両者はそれぞれ対極的な特徴を持っており、つまりはもう片方が中途半端な性能であることを意味している。

 ラルが一点突破であれば必ず複数体を一瞬で相手取ることは不可能であり、カイネは幅広く爆撃出来ても突出した性能を持つ個体には不利だ。

 だからこそ、掛け合わせる。

 トライデントという三方向に同時攻撃出来る破壊力に、グングニルARに使用する一部爆薬を混ぜてトライデントと共に()()()

 単純な掛け算ではあるものの、それ故に破壊力は抜群だった。

 しかし、相手側もただ黙ってやられるだけのポンコツではない。

 

 「奴らは骸再生(リボーン)を使える。そろそろ頃合いかと思うが」

 

 「でもこっちにも作戦がある、だよね?」

 

 「ああ!こっからが本番ってやつだ!」

 

 彼ら二人の合わせ技により、裏口の半数の勢力が壊滅。

 ここまでやってしまえば仕事は十分に果たしたと言えるが、彼らの進捗の度合いで例えれば未だ半分過ぎてすらいなかった。

 破壊は可能でも、それは敵勢力の全滅にすぐに直結する訳ではないのだから。

 直結への遅延の最大の理由はやはり、骸再生。

 イズミル軍もそれを理解しているからこそ、手配した戦力はキラードロイドの方が多い。

 壊せば、復活する──彼らがキラードロイド・スケルトンと戦い、嫌でも知った純粋な特性。

 

 だからこそ彼らは、キラードロイド()()()壊さないという方針にシフトした。

 

 「対象を変更!これから破壊対象を、──LBXだけに絞る!」

 

 「あいさー!」

 

 彼の宣言の直後、カイザはいつも通りの双槍のスタイルに変更し、ライディングソーサから飛び降りて地上へ立つ。

 合わせ技を受けた直後の軍勢は混乱の真っ只中。

 すぐさま隙だらけのLBX達をたった一人で貫き、着実と数を減らしていく。

 そしてキラードロイドの足元に徐々に広がっていくのは、破壊されたL()B()X()()()()

 キラードロイドからすれば、「どのパーツを選んで治せば良いのか」という混乱に陥った。

 

 「ミツルさんの言っていた通りだ。奴らはお利口さんにも、キラードロイドのパーツだけを選別して骸再生を行う」

 

 「だから『それ以外』のパーツを増やして遅延させるってことなんだね」

 

 「ああ、根本的な対処法(パンデミックプログラム)が使えなかった時の暫定策を用意していたとは、頭が上がらんよ」

 

 そう、全てはミツルが事前に練っていた対キラードロイド・スケルトンの技によるもの。

 そしてキラードロイドとLBXが混ざって進軍してきた時の唯一の弱点とも言える。

 過去の戦闘の傾向から、ミツルはスケルトンの骸再生時の行動パターンはある程度把握していた。

 彼らが骸再生を行う際、破壊された別のスケルトンのパーツのみを拾い集めることも。

 それ故に破壊されたLBXの残骸とは、スケルトン達にとって『不純物』以外の何物でもないのだ。

 ラル達がやろうと思えば、自分らで不要な不純物を持参してばらまくことだって出来る。

 いかに優れたAIと言えど、バラバラに分解された無数のパーツの中からスケルトンのパーツを限定して探すことは出来ても、それを一瞬で為すことは流石に難しかったのだ。

 しかしあくまでもこの策は、骸再生の完了をただ遅延させるのみ。

 だからこそ彼らは、その間にLBXのみの掃討を行う。

 何より、骸再生を行っている最中のスケルトンはそれ以外の行動はしないのだから。

 

 「いい調子だ!このまま、レンが突入するまでの陽動を続けるぞ!」

 

 「わかってるけど、本当にレン一人で大丈夫なのかな……」

 

 「…信じろとしか言えないな。まあ、ベレロフォンもいるしな」

 

 二人はそう言い、ピースフルオーディンによってがら空きとなった天空をふと見上げる。

 作戦開始から既に七分近くが経過。

 反対側のメル・アラン組も同じく二人と同じように戦ってはいるものの、肝心のリーダーであるレンは未だ上空で待機したまま。

 四人に命じられた現状の作戦とは、あくまでも表と裏口の陽動のみ。

 そこにレンが何かしら介入して手助けをすることは、作戦の内に含まれていなかった。

 例えここで誰か一人でもブレイクオーバーしたとしてもだ。

 

 「…………」

 

 その当のレンは静かに、二つの戦場を天空から見下ろし無言でいた。

 彼に今やることがあるとすれば、単純に突入するタイミングを見極めることである。

 今回の作戦で想定していた初手の動きは大まかに二つ。

 まずは今正に四人が行っている通り、三箇所の同時攻撃から二人一組に分かれて戦場を分担し、最終的にレンが単騎で突入する方法。

 最終的には陽動して敵を引っ張りに引っ張った末、後から突入したレンと合流し、最も手薄となった最深部を制圧するというシンプルなやり方だ。

 そして残ったもう一つの方法が、全機で正面から突入し片っ端から敵を叩くという至ってシンプルな方法。

 しかしこの方法では敵の戦力、総数が具体的に知れぬままでは返り討ちにあう可能性が十分にあった。

 だからこその分担。

 陽動と言ってしまえばそれまでだが、更に具体的に言えば『敵が隠し持っているかもしれない戦力を焙り出す』のが最大の目的。

 だが現状、敵はキラードロイドとLBXを一斉に投入し、各サイトに振り分けているだけ。

 

 「さっさと来いよ、どうせいるんだろう?」

 

 まるで挑発するが如く、レンはがら空きの建物の深淵を覗きながら言い放つ。

 奇襲での対応が遅れ、攻め慣れていないとわかってはいるものの、流石に油断は誰もしていなかった。

 だからずっと、警戒をしている。

 その最たる理由は、昨日──レンがバークプラントの偵察を行った帰路でのクレスとの会話にあった。

 

 

 

 ■

 

 「……ベレロフォンと()()()()の設計図だと?」

 

 「正確には、消された…あるいは事前に抜き取られた形跡がありますので当然手元にはありません」

 

 「まあ、もう一体もあったら流石に会った時に教えてくれるだろうしな」

 

 「ですが作るとすればもう一個、メタナスGZに相当するCPUが必要になります。設計図があっても作るのは難しいでしょう」

 

 「なるほどね」

 

 暗闇の中をジェットのような速度でベレロフォンが突っ切る最中、クレスは唐突にこの話を始めた。

 ミツルがエルズルム軍事基地にて最初、クレスと合流するついでに基地から奪ったとされる無数のデータ。

 彼らが五人に提示した通り、ベレロフォンを始めとしたLBXの設計図やパラダイスにまつわる記録がほとんどではあった。

 そしてベレロフォンの内部データを調べていく内に、判明したのが『もう一体のLBXの存在』だった。

 しかしあくまで示唆されているだけであり、決定的な名前や証拠などは消去されている始末。

 

 「あなたのベレロフォンの…いわば『型』となったLBX、イカロスの話をしましょう」

 

 「…………」

 

 イカロスという単語に、レンは不意に若干の嫌気を覚える。

 クレスはそれを察していながらも、絶対に必要な話だと続けた。

 

 「その件のイカロスにも当然ながらプロトタイプが存在しました。で、プロトタイプから既に実装されていたのがイカロスの要とも言える『高次元多関節機構』というシステムです」

 

 「こうじ…なに?」

 

 「簡単に言ってしまえば、人ではあり得ない関節の動かし方や部位の取り外しが可能となる訳です。例えばベレロフォンの足のような剣だけを取り外し、ラル君に持たせることだって出来ます。あとは上半身だけ百八十度後ろを振り向こととかも」

 

 「なんか、気に入らないなそれ」

 

 「まあまあ。その高次元多関節機構、実はベレロフォンにも実装されています」

 

 「体をぐりんぐりん動かして、何か得でもあるのか?」

 

 しかも何故今この話をするに至ったのか、レンにとってはとてもわからなかった。

 高次元多関節機構というシステムの活かし方すらも。

 しかし直接教わってはいないものの、ベレロフォンの飛行形態への変更には高次元多関節機構の応用が効かされている。

 ただレンからすれば飛行形態への変形とは「なんかおもちゃが変な動きしていつの間にか飛ぶようになってた」という認識しかなかった。

 

 「高次元多関節機構を持ち得るLBXが()()()()()()()話はまるで違ってきますよ。実際、あのパラダイスで繰り広げられた戦闘でのイカロスは、そういった戦い方をしていた」

 

 「……ああ、あの片方が剣になるやつか。確かに二体以上いれば、応用が効いて戦術の幅は広がるかもな」

 

 「ええ。ですがベレロフォンの高次元多関節機構はミツル君が実装したくて実装したのではありません。製作する上で()()()()()()()()()()()だったからです」

 

 「それは…仮に俺らやミツルさんがどう足掻いても、どう嫌がってもってことか…?」

 

 クレスはその通りだと告げる。

 ミツルが製作する際、そもそも高次元多関節機構とは別に必須の要素でなかった。

 出来るならば、『無い方が絶対良い』とすら彼は思っていたのだ。

 体を自由自在に動かせるようなシステムを動かすには、それほどまでに細かなシステムへの命令を行う設定をしなければいけないし、高次元多関節機構の動きに適した骨組みを緻密に組まなければならない。

 それ故に、ミツルはメタナスGZの入手を込みでこの半年という長い時間を費やすに至った。

 しかしイカロスの血を受け継いだベレロフォンは、どう足掻こうとも高次元多関節機構の実装を避けて通れないような設計が成されていたのだ。

 つまりその問題を解決しない限り、例えメタナスGZがあろうとも絶対に完成しない作りになっている。

 RPGで言うところの『どう頑張っても外せない呪いの装備』という代物だ。

 

 まるで単体では大して意味を成さない高次元多関節機構を持ったLBXを、()()()()()()()()()の設計であったという意図があるのではないか。

 ミツルは製作していながらそう思わざるを得なかった。

 

 「そこで最初の消されたもう一体の設計図ってことね」

 

 「はい、恐らくはそのLBXも高次元多関節機構の実装を絶対として練られた代物だと推測しています」

 

 「だとしたらなんで片方…というかベレロフォンを手放したんだろうな」

 

 「私もそれはさっぱり。敵の手のひらで踊らされている感覚は否めません」

 

 エルズルム軍が敢えて片方の設計図を抜き取っていた以上、彼らの謎の意図があるのは目に見えていた。

 ベレロフォンが相手に渡っても良いという思惑があったにせよ、肝心のそれが何なのかは部隊の誰にも理解出来なかった。

 しかし、今回の話で重要なのは意図がどうこうというものではない。

 

 「私が特に言いたいのはこうだ。今回の制圧作戦、あなたに最も気を付けてほしいのはそういった存在ってことです」

 

 「あんたが思うに、イズミルがベレロフォンに相当する戦力を有していると?」

 

 「西のトップが東と内密に結託していると仮定すると、やはり無視できない可能性です」

 

 つまりは片方のベレロフォンの対となるLBXを秘密裏に製作し、西に流している可能性が存在する、というのがクレスの見立てだった。

 当然、この見立ては想定出来る範囲として作戦開始前、レンに限らず全員に伝達することとなった。

 バークプラントからの帰還の最中、レンの心の中では唐突に過去の出来事が蘇っていた。

 

 (……まさか、お前なのか?)

 

 ベレロフォンに相当する戦力から彼が連想したのは、かつてソルとレンがアンカラで遭遇した()()()()()()()()

 あのT国チャンピオンのソル・アルマルですら太刀打ちが敵わなかった堕天使。

 今でもレンはあの赤く染まった羽と鋭く重い槍の形を憶えている。

 敢えて言えば、彼のトラウマの象徴だ。

 そしていつしか、確実に相対する時がやってくるだろうと感じていた。

 その時というのは、この制圧作戦の時であってもおかしくはない。

 

 (今の俺が、奴に勝てるのか)

 

 ベレロフォンがいくら完成したとしても、今のレンがあのルシファーもどきに勝てるとは到底思えなかった。

 自身が直接目にした訳ではなかったが、あの時ソルが敗北していたことを、彼はなんとなく察してはいた。

 そして自信も、どこにもない。

 

 「もし強力な存在が出てきたら勝率はどうであれ、戦うことをおすすめします」

 

 「なんでだ?撤退を選ばない理由は」

 

 「世界が広いってことを、知りたくはありませんか?」

 

 「この世にベレロフォンより強い奴がいるってことか」

 

 「実際キラードロイドなんて化物が存在してしまっているんです。それを超す…ベレロフォンと同等の存在があったっておかしくはない」

 

 レンの内なる不安をいつしか察したのか、クレスは彼にアドバイスを送る。

 仮に自分より強い相手が存在するのであれば、経験しろと。

 要約すればただの精神論ではないか、そう彼は直感した。

 

 「けどまあ…そうかもな」

 

 もしあのルシファーもどきと対決する時が来るとすれば、それは彼にとってトラウマを越えることなる。

 更に同時に、()()()()()()の意味合いが含まれることとなる。

 

 しかしこの作戦で彼の前に立ち塞がったのは、誰にも想定出来ない敵だった。

 

 

 

 ■

 

 ────ラル・カイネコンビの裏口での戦いが行われているその頃。

 

 「裏口に戦力を回したくせに、まだこんだけいるっていうの!?」

 

 「構わないさ。どっちにせよ、天井ががら空きなんだから」

 

 メルのフェアリーとアランのフェンリルホークが戦場を駆け回る。

 現状、一切の被弾を受けてはいないものの、どちらかと言えば防戦一方の状態だった。

 ラル・カイネのコンビに比べればこの二人は大した破壊力を持ち合わせていないからだ。

 そしてアランの対キラードロイド用の弾丸にしても、無限に存在する訳ではない。

 しかし、陽動という点ではこの二人も十分な働きをしている。

 

 「だが妙だとは思わねえか?」

 

 「何がよ」

 

 「こっちはたったの二人、だがあっちは百近くはいる。もっと大胆に攻めようと思えば攻めれるはずなんだが」

 

 「こっち側が上手く避けれてる、ってだけじゃない?」

 

 「だといいんだがな……」

 

 アランは先程から、いや最初からキラードロイドの軍勢の動きに対して違和感を感じていた。

 本来キラードロイドは斥候・迎撃・支援型の三タイプに分かれており、それぞれが忠実に役割を分担して進軍してくるもの。

 いかにこちらから奇襲を仕掛けようとも、その対抗策としてキラードロイドを排出する、という動きに関して大した問題はなかった。

 しかし何故か彼らは、『数の強み』を活かせていない、アランにはそう見えていた。

 特には迎撃タイプのキラードロイドが、彼の目からしてあまりにも消極的すぎるのだ。

 アランは違和感に対し、一つの仮定を述べる。

 

 「……あっちも、何かを待っている」

 

 「冗談でしょ?まだ手札を出してくるってわけ?」

 

 「そう、かもしれない。ならこう仮定して、打開してみるのはどうか」

 

 軍勢の動きが何かしらの切り札を出すための時間稼ぎだというのなら、アランはそれに乗ってやらない。

 むしろこちらから積極的に強みを押し付けていくしかないのだろう、と。

 

 「メル、こっちもやるぞ。ラルとカイネに遅れは取りたくないんでな」

 

 「…あれ、ね!わかった!」

 

 だからこそ、この二人も手札を切っていく。

 相手が手札を切る、その前に。

 

 「必殺ファンクション、エスペランザモード!」

 

 この戦況を打開する策、希望(エスペランザ)を武器に彼女は宣言する。

 ナックル系統必殺ファンクションのエスペランザモードは、ただ単純な一定時間の速度上昇。

 彼女がこれを使えばより速い勢いで、敵の装甲を次々に破壊する突撃隊長のような怪物が完成するだろう。

 しかしこのままでは、彼女のフェアリーは装甲を破壊する()()の存在でしかない。

 

 だからこそ彼女は、拳を捨てる。

 

 「受け取れ!メル!」

 

 そしてアランはフェアリーの必殺ファンクションの発動を見てすぐさま、ある物をメルに投げ渡す。

 そのある物とは、彼が使う()()()()()()()()()

 一瞬で手持ち無沙汰となったアランは、手元のライディングソーサの置かれた一部補給物資を開く。

 最終的に彼の元に残ったのは、何十本もの()()

 

 「今日のライフル銃には破壊力特化の大口径の弾しか込めてない!派手にかませ!」

 

 「言われなくてもよ!」

 

 アランのライフルを両手で受け取ったフェアリー。

 その格好は誰がどう見ても、ラルのカイザが操る双槍並みに不格好で不釣りあいのように見えた。

 しかしこの際、見た目など関係はない。

 フェアリーの身長の八割は誇るであろうライフルを手に、彼女はエスペランザモードで加速した世界を駆ける。

 むしろエスペランザモードが無ければ、彼女は絶対にライフル銃を持つなどと自殺行為はしない。

 彼女がアランに提案したこの戦術こそが、ラル・カイネコンビとはまた違う破壊力の生み出し方。

 フェアリーは一瞬にてキラードロイド・スケルトンの核へ肉薄し、

 

 「受けてみなっ!」

 

 迷わず撃鉄を鳴らす。

 アランの告げた通り、この作戦で彼がフェンリルホークの扱うライフル銃に込めたのはいつものジャミング妨害用のスモーク弾ではなく、完全な破壊力に特化した大口径弾。

 それをほぼゼロ距離で受けたスケルトンの核は一瞬で砕け散る。

 しかし特化型というのは必ず、デメリットが伴う。

 銃を放てば当然生じる、反動。

 比較的軽量フレームであるフェアリーであり、尚且つ大口径という物理的に重い弾丸を前方へ放てば後方へ大きく吹き飛ばされるもの。

 

 だが強者というのはデメリットという概念を、ひっくり返して強みに変える。

 

 「思ってた以上に刺さっているな……。これが()()()()()ってやつか」

 

 メルは反動で吹き飛ばされている最中、今度は全く敵のいない右方向へ弾丸発射。

 当然、何もない場所に弾丸が捨てられていくだけで攻撃性は何も無い。

 しかしながら、反動で今度は発射した方向の逆へ吹き飛ばされる。

 そして今度は自身の真後ろへ発砲し、前方へ。

 前へ向き直ったそこには別のスケルトンが待ち構えており、彼女は迷わず核へ狙いを定めて砕きにかかる。

 ひたすら、それの繰り返し。

 だがここで敵にとっての質の悪さとは、彼女のフェアリーが全く視界に捉えられない点にあった。

 まるでビー玉のように、どこかへ弾かれて飛ばされていく。

 そして気付いた頃にはゼロ距離で、即死級の弾丸を浴びせられる。

 

 全ては反動というデメリットを加速装置(ブースター)に転用し、エスペランザモードの速度を乗算させたからこそ成し得る技。

 

 (これの恐ろしいのは、ほとんどあいつ一人でやってのけてるとこだな…。相手にしたくない)

 

 アランはレンのベレロフォン並の速度で殲滅していくメルの戦いぶりを見て、純粋に褒め称えるより戦慄した。

 ソルやレンの実力によって見劣りが避けられなくとも、彼女もT国チャンピオンの一人であり実力者。

 アランが支給したライフル銃と弾丸という直接的な支援があろうとも、最初からやろうと思えば出来る戦法ではある。

 だがこれをやってのけるには、反動で吹き飛ばされている中で移動する方向も考えつつ、停止を許されない状況下で確実に核までゼロ距離の位置にまで辿り着くほどの空間把握能力が無いと不可能である。

 それが出来るのは、ずっと最前線で敵の装甲を攻撃も受けずに砕き続けてきた経験とセンスがあってこそ。

 

 しかしアランも手柄という意味で負けてはいられない。

 メルに余った大口径弾の残弾を放り投げて補充させ、彼も彼なりの本領を発揮する。

 

 「パンデミックプログラムが役立たずなんて、言わせたくないんでな。()()に付き合ってもらうぞ!」

 

 そしてフェンリルホークは取り出していた無数のナイフを、敵LBXへ正確に投げる。

 投擲したナイフには全て、透明なピアノ線のようなワイヤーが付属されており、フェンリルホークの指と足からそれは伸びていた。

 アランのこれまで培ってきた射撃能力は、小さな的であるLBXへ全て刺さる。

 ジャミング特化のホーミングショットと同様に、彼の投げたナイフは直接的な攻撃の意味は含まれていない。

 

 だが手足から伸びて保持されたワイヤーを付属したナイフに刺された計十体のLBX、それら全ては彼の()()()()となった。

 

 「ほんじゃ味方に攻撃ってことで、これからよろしく」

 

 そう言ってアランは伸びたワイヤーを全て切り落とす。

 瞬間、刺されたナイフを解かれたLBXはまるで人格が変わったかのように、味方のLBXを攻撃し始める。

 かの姿はまるでアランの操り人形のよう。

 すかさずアランは別のLBXは再びワイヤー付きのナイフを刺し、少し経った後にワイヤーを切り落とす。

 結果はまたも彼の操り人形の完成だ。

 対キラードロイドの恒久対抗策がミツルのパンデミックプログラムであるならば、アランのこれは対LBXに対する策だった。

 全てはミツルの技術の応用。

 アランがこの技術を作る際、脳裏に浮かんだのはかつてのクレスの言葉。

 

 ────電磁フィールドというやつです。この剣が刺された一定範囲に居るLBXに対し、足元から内部チップに向けて動作停止信号を送り出す。

 

 半年以上前、つまりクレスとミツルに初めて出会った時のことだ。

 暴走したレンに対して止む無く応戦を強いられることとなった三人の戦闘を、クレス(が操ったミツルのLBX)によって強制中断。

 そのやり方とは、ある一定範囲に動きを止める『電磁波』を流すこと。

 為す術もなくあっという間に四人のLBXを無効化したこの技術は、必ずどこかしらで役に立つとアランは考えていた。

 そしてどうせなら、「パンデミックプログラムと融合してみてはどうか」とも。

 動作停止信号を電動させる電磁波の剣と、相手のAIとしてのデータを改ざんさせるパンデミックプログラム。

 それは今、AIの軍勢にとって最悪な形で融合して現れてしまった。

 効果とはすなわち、ワイヤー付きナイフに刺されたLBXに対して『敵勢力への迎撃を味方への攻撃に変更』させるという悪質なもの。

 彼がパンデミックプログラムを融合させようというのは、ミツルへの信頼が由来していた。

 

 (あの人が雑なプログラムを作る訳ないんだ。絶対に、ミツルさんの技術は信頼に値するって)

 

 アランはレンが『スケルトンに対してのパンデミックプログラムの効果が消えていた』ということに対して、これまで「そんな訳ないだろ」と思っていたのだ。

 これほどまでにアランはミツルに対しての信頼と、何より恩があった。

 フェンリルホークという彼の傑作にしても、ミツルが技術を教えてくれたからこそ出来た代物であって、使う兵器に関しても同様。

 レンが言うことを疑いなどしていなかったが、それと同じくらいアランはミツルのプログラムの出来を疑ってなどいなかった。

 

 だからこそ、彼が間違っていないということを自分自身で証明したい。

 その思いの結果が、このナイフに込められている。

 

 「アラン、敵がどんどん追い込まれてる気がする!どう?」

 

 「ああ、確かにな。陽動にしてはやりすぎだが、まあいいさ!」

 

 メルのビー玉戦法と、アランの操り戦法が功を奏し防戦一方をの状態を覆した。

 だがアランは戦闘の最初から感じているもう一つの違和感があった。

 そしてそれは、未だに消えないどころか益々増していく。

 

 (……()()()()()()()()()。無人なんて有り得ないだろう?)

 

 そう、攻め込んできた最初からアラン達は人間の姿を誰一人として目の当たりにしていない。

 レンの偵察によってここが有人の基地であることは全員が把握している。

 ならば人も交えて徹底抗戦かと思えば、その気配は一切ない。

 上空ではレンが待機しており、彼が基地から人間が出て行ったという報告はなかった。

 だとすれば、考えられるのは二つ程度。

 

 (最奥部で詰めてくるのを待っている。あるいはもう、()()()()()()……?)

 

 後者に関しては、可能性が低いながらも有り得ない話ではないとアランは思っていた。

 レンの偵察が示した通り、ここには軍人でない研究者のような人間も混ざっており、それらは戦う術を持っていないように見受けられるからだ。

 だが現状、詰め待ちという線の方が濃厚である。

 まずはLBXとキラードロイドの無人戦力を投入し、追い返せれば良し。

 不可能であれば、なるべく消耗させて攻め入って来たところを一気に本命の戦力で叩いて追い返す。

 その本命の戦力とは一体────

 

 「全機、聴こえるか?」

 

 アランが考えこもうとした直後、全機へレンの通信が鳴り響く。

 

 「入り口と裏口、両方の戦力が防戦一方の状態になっている。よくやった。引き続き陽動を頼む」

 

 「…お前からの通信ってことは、行くんだな?」

 

 「ああ。俺が突入して十分、それと同時に突入して俺と合流せよ」

 

 いよいよこちら側の本命戦力であるレンの突入が予告される。

 作戦開始から既に十分近くの経過。

 ここまで言えばおおよそ順調なレベルの戦況だった。

 しかし誰一人として甘えも、油断もしていない。

 相手がこの程度で、くたばってくれるはずがないと思っているからだ。

 

 「ここからはというか、今までも同じだけどより『生き残る』ことを優先せよ。一機足りとも、撃墜は許さん」

 

 「そんな腑抜けた奴がいるってんなら、俺に教えてほしいぜ」

 

 「これ言ってお前が先に落ちるなよ、ラル」

 

 「案外アランが下手しちゃったりしてね?」

 

 「うちの鳩ぽっぽはまだまだ行けるけど、メルちゃんも無理しないでね」

 

 まるで昔のように、五人はこんな状況下であっても軽い雑談をする。

 別に撃墜されたからとは言え、本人が直接死ぬ訳ではない。

 何せこれは、『死なない戦争』。

 しかしそれは幾ら撃墜されても良いとはイコールではない。

 

 「今一度再び、全機の幸運を祈る」

 

 レンがこの部隊のリーダーとして、本心からこの言葉を告げる。

 

 「ではこれより第二作戦、ベレロフォン単騎での突入作戦を開始すッ────!?」

 

 そして直後、彼も()()()()()を感じ取る。

 

 その頃には本能的に、ベレロフォンは空中に右へ回避行動していた。

 一瞬にして彼の元いた位置に、蒼く太いレーザーのようなものが一閃する。

 レーザーの出本は、カイネが破壊したバークプラント中心の深淵である最奥部。

 つまりは彼が突入を試みる前に、何かしらの反撃手段を取ってきたことに他ならない。

 

 【なんだ、今のは!?】

 

 「わからねえ。だが、あんたでも判別し難いってことだな」

 

 【ええ。新型と見るべきでしょう】

 

 クレスの驚愕を耳に、レンは次々に自身に向けて放たれていく蒼いレーザーを回避する。

 その一本一本が巨大で、到底LBXやキラードロイドには出せる物ではないと彼は判別。

 だとすればどちらでもない、全く新しい兵器か。

 それを考える暇を与えないくらい、レーザーの連射は止まらない。

 

 「空気の読めねえ奴だ。上等じゃねえか!」

 

 故にレンは、事前の方針通り最奥部への突入を試みる。

 このままではいずれこちら側が不利な状況に追い込まれるのは間違いないからだ。

 レンがこれを回避出来ても、もしかしたら左右の四人のいずれかへ放たれてしまう危険性がある。

 その際、キラードロイドとLBXの軍勢を引き付けながらのレーザー回避は、至難の業だ。

 ならば自分自身に連射が集中している間に、回避しながら無力化するのが最適解。

 本来であれば攻撃でもして最奥部への近道を開けようとしたが、逆に敵側が穿ってくれたおかげで手間が省けたのである。

 

 「そんな面白えもんを持ってたんなら、最初から見せてくれても良かったじゃねえか」

 

 レンは左手に対ビーム用のコーティングが施されたシールドを片手に、最速で深淵に突入する。

 万が一の脅威のために、ミツルが用意した物だ。

 徐々に相手も慣れて精度を上げてきたのか、より彼への直撃に近いレベルの連射を行ってくる。

 だが、その学習の速さがレンを少しばかり驚かせる。

 

 (LBXでも、キラードロイドでも出せる威力のものじゃない…としたら、何だ?)

 

 これほどまでの巨大で連射の効くレーザーと言われ、彼が思い浮かべる物はなかった。

 しかし彼は最深部へ近付くにつれ、まず()()()()()と思い知った。

 がら空きとなった天から満月が差し込み、加え蒼いレーザーの光が深遠を僅かに照らし出す。

 その隙間から彼が一瞬だけ目にしたのは、

 

 

 「お前は……誰だ?」

 

 

 LBXでもキラードロイドでもない、あるいはその()()というべき機体。

 だがこういった存在をレンは知っている──彼自身が扱う機体が、正にそれだからだ。

 つまりは、ベレロフォンと同様の存在。

 辿り着いたバークプラントの最深部の深淵に、彼は足を付ける。

 その頃には既にレーザーを放っていた機体が目の前にあり、攻撃を中止していた。

 

 「驚いたよ。まさかこんな夜中にドンパチかまそうとする輩がいるとは」

 

 「お前、ここの主だな?」

 

 「アイン・ケネス、イズミル軍の中佐だ。お見知りするかどうかは貴様次第だが」

 

 「ああ、そうかい!」

 

 深淵の奥から現れたのは、茶色の軍服を着た一人の男。

 彼は自らの名を、アイン・ケネスと名乗る。

 

 【そうか、やはりあなたが今の……】

 

 「知り合いか?」

 

 【……………ええ】

 

 随分間の置かれたクレスの返事。

 同じ部屋に存在するミツルからも分からなかったが、クレスはずっとアインを睨む。

 やはりそうだったのか、と内心で思いながら。

 

 「この悪魔め、派手にやってくれたな。おかげでこっちも札を切らざるを得ない」

 

 「何だと…?」

 

 そう言ってアインは背を向けて壁へもたれかかる。

 代わりに選手交代するかのように、闇から一人のレン達と同じくらいの年をした少女が現れた。

 月明かりに照らされ、白いロングの髪が少しだけ蒼さをちらつかせる。

 隣にはレーザーを放っていた奇妙なベレロフォンと同類の機体。

 通な者であれば、あるいはLBXに慣れ親しんだ者であれば、かの機体は蒼き()()()()のようだ、と例えただろう。

 異質な蒼きパンドラは、凝視すればオーディーンのようなウイングを背負い、フェンリルのような狼の如き尾を下げ、両手には月のような円形をした二枚の巨大な盾を持っていた。

 まるでキメラのような怪物、これが紛うことなき、彼女の操る機体だ。

 彼女の手には、青い卵型のような小さい物が握られている。

 そしてレンのベレロフォンを敵と認め、それを投げた。

 

 【D()()()()!避けられぬ戦いってことですね】

 

 「これが、か。まあいいさ。俺のことは構うな、あの四人のことを気にしてやってくれ」

 

 【承知しました。機体の解析についてはミツル君が行います。どうかご無事で】

 

 ───Dエッグ、つまりはレンとの決闘。

 状況を悟ったレンは戦闘の全ての指揮を、たった今クレスに託した。

 やがて床に投げられたDエッグが緑色の領域を繰り広げ、彼女とレンを取り囲んだ。

 二人の中心に存在するのは、彼が何度も見たことのあるフィールド。

 

 T国首都アンカラ地下、()()()()()()()()の戦闘会場をモチーフにした戦場。

 

 周りの木という木がジャングルを構成し、二体を取り囲む。

 

 「お名前をお聞きしても?」

 

 「…………」

 

 「無視かよ。じゃあ俺も名乗らなーい」

 

 CCMを右手で持った無表情の彼女は、彼の問いに対しても無を貫く。

 まるで氷のよう、レンが抱いた感想はそれだった。

 

 『代わりに俺が紹介してやろう。そいつは()()()()()()、我々が持つ兵器さ。そしてLBXは、()()()()

 

 「ご丁寧にどうも。てことはあんたも、同類ってことか」

 

 無言の彼女にアインはDエッグの領域外から注釈入れる。

 つまりは彼らもLBXを、武器として見る者でしかないということ。

 それならまだマシか、だが気にいらないことがあるとレンは続ける。

 

 「人までも兵器扱いするとは頂けねえな。心とかねえのか?」

 

 「我らが基地に土足で入り込んで来たならず者が心を説くのか。貴様らにこそ心はないのか?」

 

 「…本当にお前の基地だったら、の話だけどな」

 

 レンはクレスから、東が西の基地を乗っ取っている可能性があることを聞いていたがため、鎌をかける。

 対してアインは無言で笑みを浮かべていた。

 とは言えこの際、どちらが正しいかなど彼にとってはどうでも良いこと。

 どちらにせよ目の前にいるのは、紛れもない敵そのもの。

 

 【……フーリア。まさか】

 

 クレスは他の四人の戦闘指揮に集中している間に耳にした彼女の名に、聞き覚えを感じる。

 だが、彼の呟きを聴いて気に留める者はいない。

 

 「お手柔らかに、お嬢さん。だが容赦はしねえ」

 

 ベレロフォンVSキマイラ────バトルスタート。

 

 パンドラもどき、もといルナの持つLBX『キマイラ』は静かに巨大な二枚の盾を構える。

 待ちの姿勢、狙いはわからずとも、ならば彼は攻めるのみ。

 全速力でベレロフォンがキマイラに肉薄する。

 彼の持つ二本の剣を、受け止めきれるかの小手試し。

 

 「ッ……!?」

 

 すぐさま二刀流は二つの盾に完璧に阻まれる。

 敵手の防御に申し分はない、彼にとってキマイラはベレロフォンに不足無しの相手。

 しかし斬りつけた際の()()()に、不気味な違和感を覚える。

 剣と盾、二つが激突した際の金属音を、彼は聴いていない。

 

 (何を仕込んでいる、あの盾。あれは間違いなく、金属とかプラスチックを用いてない)

 

 一旦、後退したベレロフォン。

 防御に回った彼を、彼女のキマイラは追従はしなかった。

 むしろ次には自身の視界を塞ぎ、閉じこもるかのように二枚の盾で目の前を覆う。

 それはおかしい、普通なら追従するチャンスではないか、というレンの疑問。

 しかし、疑問は一瞬で消し飛ぶ。

 

 「消えてください」

 

 二枚の盾の中心が大砲の砲門のように開き、そこから蒼い極太のレーザーが彼を追従する。

 これこそは最初からレンを狙い撃ちにしてきたレーザーの正体。

 Dエッグのフィールド内は外と違い、無限にフィールドが広がっている訳ではない。

 必ず四隅に行けば限界が訪れる。

 そして天上にしてもDエッグ内の閉じ込められていては結局、逃げ場は限られている。

 だからこそ彼女の放つレーザーはこの場では圧倒的に有利となる。

 

 「っち、戦場が狭い。これだからDエッグとかDキューブなんか好きになれねえんだ」

 

 【レン君、聴こえてますか?】

 

 「あぁ?ミツルさんか、どうした」

 

 【あのキマイラというLBX、現在解析を急いでいます。そちらでもなるべく情報を集めることに集中してください!】

 

 「やってらあ!どうやらまともな機体じゃないってことだけはわかるがな!」

 

 狭いフィールドの中で極太のレーザーを避けることしか出来ないレンの元に、ミツルの通信が届く。

 現在解析を急いでいるということは、彼にとってもキマイラというLBXは初見ということを意味する。

 彼の報告を待っていては、いずれレーザーに焼き尽くされるのがオチ。

 この状況で消極的になるのは、まるで自殺行為だ。

 

 (なんでもいい、とにかく攻撃だ。奴の弱点が炙れるまで、攻めを崩せない)

 

 正面が無理なら真後ろへ。

 幸いにもキマイラのレーザーはあくまでもベレロフォンの速度には追い付いていない。

 ただ彼の速度に追い付けはしないが、あまりにもレーザーが太いがために、偏差射撃でもされればいつかは当たってしまう。

 ならば上空から、キマイラの真上からベレロフォンは背後へ回る。

 オーディーンの羽を持ったキマイラの背面はがら空き。

 そう思ったレンはチャンスと思い、攻撃を試みる。

 同時に、キマイラは片方の盾を()()()()()()()()

 その意図を探る前に、ベレロフォンは絶好のチャンスを逃せない。

 そして彼が振るった剣は、

 

 「馬、鹿な…?」

 

 またしても、正面を向いているはずのキマイラの盾によって阻まれた。

 まるで最初から背面に盾を取り付けていたかのように。

 絶対防御のような無敵さを誇るキマイラに、レンは戸惑いを隠せない。

 そして、更なる驚愕が彼を襲う。

 

 「シールドパージ、撃ち落として」

 

 彼女の小さな声により、背面の盾が()()()される。

 嫌な気配を感じ取った彼は再び後退した。

 やはり勘が当たり、バラバラに四分割された盾がそれぞれ浮遊し、極細のレーザーが発射される。

 彼女の意志のまま、盾が小型自動射撃群(ビット)となってもう一枚の盾と共にベレロフォンを追撃する。

 

 「何でもアリじゃねえか、こいつ!」

 

 理屈に合わない、理不尽な防御と火力を兼ね備えるキマイラにレンは苦笑いを漏らしていた。

 攻撃に特化しているはずのベレロフォンが、何故か防御に特化したキマイラに防戦一方を迫られている。

 彼女の使う二枚の盾は自立稼働するAIのように、彼女の指示によって自在に姿かたちを変える。

 時にはキマイラ自身の眼前を守り、不意を突かれるであろう背後へ自動で寄り付かせ、時には分割され敵を一掃する矛となる。

 攻防一体のキマイラの戦い方に、レンは自身の決定打を失いかけていた。

 

 「お願いです」

 

 そんな内心焦りを感じ始めている彼に、ルナは小さな声で喋りかけてくる。

 辛うじて彼は、彼女の声に耳を傾ける。

 

 「お願いですから、どうか、負けてください」

 

 「はぁ…?」

 

 特に自分自身が押されている訳でも負けかけている訳でもないのにも関わらず、彼女は彼にボソボソと言い寄る。

 負けてくれ、と。

 しかし冗談で言っている訳でもない彼女の表情は、どこか苦しそうで今にも泣きそうだった。

 彼女の絶対防御と強力なレーザー攻撃は、確かにベレロフォンからの攻撃を守る結果に至ってはいる、

 だがここまでの戦闘、ベレロフォンは一度だって被弾はしていない。

 彼女のキマイラも、要するに決定打を持っていないということを意味している。

 だからこそ、彼女も()()()()()()

 むしろ倒すというよりは、彼を戦場から追い出そうとしている意志が彼の目に取れた。

 

 「…なんであんたは、奴らの肩を持つ?それにあんた程のプレイヤーが東へ進軍してこなかった理由はなんだ」

 

 「………」

 

 「答えろ!俺は負ける気なんて毛頭ない。俺に負けて欲しいんだったら、あんた自身の腕でなんとかしやがれ!」

 

 彼女は恐らく攻めきることが出来ない、そう感じていたレンは挑発としてルナに問いかける。

 レンが言うように、ここまでベレロフォンの攻撃に対し完全な防御耐性を見せ、一切の傷を許さないのであれば、最初から会敵してもおかしくはないのだ。

 しかし当然、彼ら部隊はキマイラに接触したことなど、ましてや見たことなど無い。

 イズミル軍にとって彼女が兵器であるならば、積極的に使うべきなはず。

 彼の言葉により険しく苦しく、彼女の表情は暗く染まっていく。

 彼はレーザーを避けながら、それを確認していた。

 言葉で心理を揺さぶること、人が相手なら尚更レンがこの手を使わない道理はない。

 

 「なるほど。あんたに、守りたいものは無いんだな」

 

 だからこそ、彼は敢えて地雷を踏みに行く。

 例え非人道的な言葉だとしても、これは戦いにして戦争。

 相手が少女であっても、レンは彼女にとってダメージになるかもしれない言葉を厳選して放つ。

 

 「あなたに、何がわかるの!」

 

 そして彼の言葉のナイフは、見事に彼女に刺さる。

 しかしどんなにダメージになろうとも、それが暴走の引き金になれば自殺行為に等しい。

 

 「必殺ファンクション、」

 

 迷わず彼女は『必ず殺す』行為に手を伸ばす。

 一方、レンはそれが来ることはわかっていた。

 だがわかっていたとしても、必ずしも対処法を持っているとは限らない。

 クレスのあの時の言葉を思い出す。

 世界の広さを知ってみる気はないか、故にレンは世界の広さを知ってみたい。

 だからこそ、彼女の強さを引き出す。

 

 「───月王砲(ルナキャノン)!」

 

 「………ッ!」

 

 瞬間、彼女の二つの盾と背面の羽から今までの比較にならない蒼きレーザーが駆け巡る。

 それはハカイオー等が持つ固有の必殺ファンクションと似通っているものだった。

 破壊力も、技自体も。

 ただそれらと比較をするにはかの月王砲は、あまりにも巨大すぎる。

 

 (逃げ場が、ない)

 

 レンは今まで以上に焦りを感じていた。

 今までの盾のみのレーザーより、彼女の使う必殺ファンクションはあまりにも破壊力が高い。

 それ故にこのダンボールの中の戦場では逃げ場が少なすぎる。

 問題は破壊力に伴う、ダンボールの中の制圧力。

 ただの必殺ファンクション一つで、彼は限りなく追い詰められている。

 

 (高次元多関節機構、ね)

 

 間違いなく追い詰められているのはレンのはずなのに、彼は全く場違いなことを考えていた。

 高次元多関節機構、ベレロフォンを製作するにあたり絶対に外すことが出来なかった要素。

 あのレーザーは、間違いなく直撃は避けられない。

 だからこそレンは、ダンボールの戦場は嫌いだった。

 彼にとって、ダンボールの中は狭すぎるから。

 彼女のキマイラが放つレーザーの薙ぎ払いが、とうとうベレロフォンの逃げ場を潰し、

 

 「両断(パージ)

 

 ────レンの一言の後、蒼き刃がベレロフォンの身を焼き尽くした。

 

 

 

 ■

 

 【レンが敵のメイン戦力と思われるLBXと交戦中。こちらも合流して総叩きといきましょう】

 

 「了解です。聞いたなラル、カイネ。上空に退避して合流し次第、レンのいる最下層へ、」

 

 【いいや、アラン。総叩きと言いましたが、一つ変更します】

 

 レンがルナと交戦を繰り広げている同時期、クレスの指示により三番目の作戦が始まろうとしていた。

 彼の単騎での最奥部への侵入後、残った戦力でレンと合流して全戦力を以てしてバークプラントを攻略するというもの。

 ここまでの二人一組での陽動作戦のおかげで、レンに本命戦力以外が集中して円滑に進んでいた。

 しかし、クレスはここにきて一つだけ作戦の変更を要求する。

 

 【全員での突入に変わりはありません。けどアラン、あなただけ全く別の作戦を行って頂きたい】

 

 「なんですって…?」

 

 【レンが交戦している敵の名前に、どうしても気掛かりなことがある。良いですか?】

 

 そしてクレスはアランにだけ、予定とは外れた任務を伝える。

 それを聞いた彼は、作戦内容と事情に目を見開く。

 

 「本当なんですね?」

 

 【偶然とは到底思えない。だからこそ、です。読みが当たれば、戦局をもっとこちら側に傾けることが出来る】

 

 「了解しました…。なら、三人を頼みます」

 

 バークプラント上空にやがてレンを除いた四人が集結する。

 陽動が完了したとしても、これが数分も保ってくれるとは限らない。

 敵が本命戦力を叩いているレンの元に、四人より先に集結してしまえば状況は悪化する。

 そして最奥部へ突入した途端、今度はアランがクレスの提案した単独行動に躍り出る。

 たったの三人の戦力で、戦況をより良い形に傾けるしかないのだ。

 

 「アランのやつ…一体何を?」

 

 「さぁ?けど、一人欠けてもやることは変わらないよ!」

 

 「速くレンのとこに行ってあげなきゃね!」

 

 ラル、メル、カイネが再び武装を構え、レンが切り開いた最下層へ同じく突入する。

 少し遅れて、アランも単独で突入していった。

 

 【このバークプラントの見取り図はたった今転送した通り。レンがいる地下、最奥部に()はいるはず】

 

 「けれどその人を見つけたとして、どうすれば良いんです?俺達は間違いなく、敵対者なんですから」

 

 【話し合えとは言いません。ただ、解放して自由にしてあげるだけで良い。あとは、そうですね……】

 

 アランとクレスの通信は続く。

 彼に与えられた単独任務とはつまり、ある人物の解放だった。

 クレスの読みが正しいものであれば、彼はこのバークプラント基地に幽閉されている可能性が高かった。

 いつしかの、クレス・ミヘナと同じように。

 だが解放は叶ったとしても、彼にとってアランは侵略してきた敵と勘違いされるのがオチ。

 故にクレスは────

 

 

 【私が()()、行くしかないようだ】

 

 

 この生身一つで、バークプラントに乗り込むしかないと判断した。

 今から最速で乗り物を回して向かえば、恐らく全てが上手くいけば間に合うだろう、と。

 ミツルもクレスも、そんな強硬手段を考えてはいた。

 だからこそ、二人は準備が早い。

 

 【通信はこのまま続行します。ミツル君、ここを任せた】

 

 【ええ!あなたも、ケリをつけてきてください!】

 

 クレスは至急、アンカラの地下施設から地上へ向かい車を回す。

 キラードロイドの軍勢が蔓延らない今ならば、バークプラントへ向かうことも可能である読みに賭けて。

 戦闘指揮を行う通信は常に維持し続けるものの、クレスは現地をミツルに託した。

 最初から託して任せての繰り返しだ、とクレスは思い返す。

 レンが他の四人に陽動を任せ、クレスがレンに本命戦力の打倒を任せ、その間の指揮をクレスに託し、今度はクレスがアランに重要な任務を託す。

 最終的にはこのアンカラ地下の施設すらもミツルに任せ、彼はこの身一つで危険が伴うバークプラントへ向かった。

 この戦争を終わらせるという一つの目標があってこそ、全員が全員に託しても問題のない統率を生み出す。

 

 勝てる、クレスはそう信じていた。

 しかしその矢先────

 

 「レン!大丈夫か!」

 

 この作戦において、最悪の事態が起きてしまった。

 作戦の要であるレン・アークインジェの敗北に発展しかねない事態が。

 

 「終わりだよ」

 

 その時少女はこう呟き、戦闘の終了を確信していた。

 彼女のキマイラが放った必殺ファンクションはダンボールの中の戦場を全て焼き尽くし、大天使すらも焼き尽くしていた。

 勝負ありか。

 しかし彼女も流石に油断はしていなかった。

 彼女がレンを打倒した頃、彼の仲間の三人も最奥部へ到着する。

 

 「……くっそ、Dエッグってやつか。入れねえ!」

 

 ラルが真っ先にレンの有り様を見るも、中はDエッグで絶対に閉ざされ侵入することが出来ない。

 当の本人のベレロフォンは、機体の腰を中心に上半身と下半身が見事にぶった切られていた。

 明らかな大ダメージ、これでは彼が敗北していたと見るしかなかった。

 だが内部に侵入出来ない以上、彼ら三人では一切の手出しが敵わない。

 

 「最後に言い残すことは、ある?」

 

 「…………」

 

 既にコントロールポッドとベレロフォンの通信が切断されているのか、レンが彼女の問いに答えることはなかった。

 ベレロフォンの手の届く場所に、ベレロフォンの下半身…いわば剣が転がっている。

 まんまとしてやられたな、と彼は感じていた。

 既に彼の手元には常に用いるシールドも、二本の剣も、どこにも存在しない。

 そしてキマイラは未だ、傷一つ付けられることなく彼の前に立つ。

 もはや、詰みか。

 ならば彼女にとってこれ以上、戦闘を長引かせる意味はない。

 

 「終わりね、ありがとう」

 

 そして彼女はトドメとして盾を構え、レーザー射出の準備をする。

 ラル達三人の声は、二人に届きはしない。

 ゲームオーバー、その時だった。

 

 「──そんなに終わりたかったら、終わらせてやるよ」

 

 レンのベレロフォンがその瞬間、手元の剣を模した下半身を手に投擲し、キマイラの胸を突き刺す。

 死んだと思っていた敵からの、思わぬ奇襲だった。

 レーザーの射出と同時に意表を突かれたキマイラは、身動きが取れない。

 彼にとってこれこそが、最大の狙い。

 

 「言い残すことがあるかーだの、ありがとうだの、口にしたら負けるようなセリフしか言わねえんだな、あんた」

 

 「っ……どうして、」

 

 「それを教えるほど、俺は甘えた真似をしないぞ。あんたみたいにな」

 

 そしてレンのベレロフォンは何事もなかったのように、立ち上がる。

 ──分断された上半身と下半身を再装着(ドッキング)して。

 つまり瀕死に見せかけた両断の有り様は、彼が作ったただの演出だった。

 月王砲の被弾直前、二刀流によって瞬時に地面に発生させて得た衝撃波と、対ビームコーティングを施したシールド、その二つを犠牲にして得た生存法。

 この時点で彼はほぼ無傷の状態だった。

 そして明らかに大ダメージを負ったかのように、彼は()()()()()()()()のシステムを用いて、上半身と下半身を自らの意志で分断。

 奇襲の最大の武器となったのは、彼の手元にわざと配置した剣の如き脚。

 

 だが、月王砲を防ぐにあたり消滅してしまった二本の剣とシールドの代償は小さくはない。

 けれど彼にはまだ、自分がかつて失った(武器)が残っている。

 これさえあれば、十分だと。

 

 「イカロスを死なせて良いのは、この世で俺一人だけだ」

 

 「このっ!」

 

 レンは彼女が激昂したのを見極め、即座に突き刺した剣を引き戻す。

 そして手元のもう一本の脚を持ち、ある意味元の武装が復活した。

 しかし傍から見れば、ベレロフォンは下半身を失い、背面の羽で浮遊しているだけの満身創痍のようなもの。

 この際彼は見た目なんて気になどしていなかった。

 どんなに醜い天使でも、最後に勝てさえすれば。

 

 「そもそもなんであんた、トドメに必殺ファンクションを使わなかった?あんたは間違いなく強い。言葉以外、油断をする要素がないならあそこで確実に倒すために必殺技を切るべきだった」

 

 更に揺さぶりをかけるため、レンは自身の推察をルナにぶつける。

 その間にも、致命傷に近いダメージを受けたキマイラに、ベレロフォンは猛撃を加える。

 先程とは打って変わって形勢逆転のよう。

 彼の連撃に対して、キマイラは盾で防いではいるものの完全ではない。

 

 「あんな威力のもの、流石に連続では無理ってことだよな。必殺なんだもの」

 

 ────必殺技というのはタイミングを見て、周りを見て、何より自分を見てから使うんです。何せ、必殺技というのは誰だろうとも『必ず殺す』ので。

 

 かつて初めてLBXに触れた時の彼の言葉を思い出す。

 だからこそ、連続で容易く使って良いものではないのだと。

 レンは最も最強だと確信している相手から、そう教わった。

 そして彼女は相手を見ることが出来ていても、自分自身を見てはいなかった。

 時に必殺技というのは、自分すらも殺し得るのだから。

 

 「ガタが来ている、そうなんじゃねえのか?お嬢さん!」

 

 つまりは持久戦において、彼女は決着を急ぎすぎてしまったのだった。

 全ては彼の言葉に乗せられてしまったがために。

 そしてどうしても、()()()()()が存在していたがために。

 だからこそ彼女は先程の彼以上に焦っている。

 

 【レン君、キマイラについてわかったことが】

 

 「待ってたぞ、なんだ?」

 

 唐突にミツルからレンへ通信が。

 それはレンにとっても、密かに待ちわびていたこと。

 特に疑問に思っていたのは、盾に対するある一種の違和感。

 LBXのプロフェッショナルのミツルが、それを何かしら見抜いていない訳がなかった。

 

 【()()()()()()()。世界で最も強固と言われている木材、あの盾にはそれが用いられている】

 

 「なんじゃそれ、LBXに木材だと?」

 

 【ここはバークプラント、樹皮だけでなく木材に特化した施設です。クレスさんからもこの話を聞いていたはずです】

 

 「とはいえ……なるほどな。アレが、木製オモチャって訳か」

 

 【はっきり言って、対処法は無い。ですが、リグナムバイタを用いることに関してデメリットがあります】

 

 ミツルからの通信にレンは集中を研ぎ澄ませる。

 リグナムバイタ、現存する木材の中で『最も頑丈』と言われている物。

 つまり偵察時においてクレスから聞かされていたまさかがあのキマイラだった。

 中に通常の骨格となるコアスケルトンを内蔵し、更に上からリグナムバイタを外装パーツとして利用することにより、ベレロフォンですらも完全な不意打ち以外で正面からではダメージを与えることすら敵わない。

 正にT国の異質な試みが生み出した、究極の防御。

 しかしレンもミツルも、少なからず弱点に気付いている。

 

 【リグナムバイタは性質上、強固である代わりにかなりの重量が伴う】

 

 「そういうことだったか、奴があの場から()()()()()()()っていうのは」

 

 【ええ。あんなロングレンジの手段を持っているなら、むしろ動く必要がないんでしょう】

 

 「ネタは割れたな。だが奴とて、全てをコーティング出来る訳じゃねえ!」

 

 キマイラの固定砲台戦術と、ベレロフォンの連撃にして神速の戦術。

 ずっと破られていなかったキマイラの防御は、ベレロフォンの不意打ちにより少しずつ均衡を崩しつつあった。

 キマイラが移動不可の呪いを受ける代わりに絶対防御を手に入れたとしても、完璧ではない。

 アキレスの唯一の弱点が踵だったように。

 

 (キマイラの全てが絶対防御と言うなら、そもそも盾で全てを守る必要が無い。正面を攻撃で弾いてカウンター代わりに出来るから、前を守る理由はわかる。ならば!)

 

 敵手の盾はベレロフォンですらまともに突破出来ないほどの防御力。

 そして攻撃の全てが弾かれれば、カウンターとして必殺ファンクションを放ち葬り去ることが出来るが故、正面に対して盾を用いるのは理にかなっている。

 しかし、レンは一度()()すらも盾によって弾かれている。

 全てが頑丈で覆われているのならば、盾の一つを背後に回す必要がどこにあるのか。

 そこに決着をつけるための全てが隠されている。

 

 「問題はあの背後、どうやって狙うか。…いいや、アレを使うか」

 

 そしてレンは正面から彼女の背後を狙う手段を一つ持っている。

 だがチャンスはほとんど一度きりに限られる。

 もし失敗すれば、今度こそレンは彼女のレーザーの餌食。

 彼は今一度、チャンスを探すことに集中する。

 

 『おいおい、負けていいんだろうなぁ!?それじゃあお前の()()も無事じゃ済まねえぜぇ!?』

 

 「……父親だと?」

 

 焦って動きが更に鈍くなっていくルナを見て、Dキューブ外にいるアインが野次を飛ばす。

 初めて耳にするワードに、レンは困惑した。

 

 「嫌だっ、負けれない…負けたくないッ!」

 

 「そうか…だからか」

 

 だから彼女は言ったのだ「負けてくれ」と。

 レンが彼女に抱えていた疑問の一つ一つが徐々に紐解かれていく。

 何かしら脅されているのかもしれない、彼はそんな予感がしていた。

 ならば、潔くここで負けを認めるのか。

 

 しかし勝ちに行ったとして、彼女は…今にも泣き出しそうな彼女が救われる未来があるのか。

 

 純粋に敵を倒すことだけしか考えてこなかったレンの心が、少なからず揺れる。

 

 「それに関しては気にするな、レン!」

 

 だが彼は何も、たった一人でこの戦争を生きている訳ではない。

 唐突にこれまで通信を交わしてこなかった相手、アランから声が届く。

 

 「戦いながらで良い、聞け!お前が今戦っているのは現イズミル軍大佐、キジャ・フーリアの()だ。クレスおじさん曰く、ここに幽閉されているらしい!」

 

 「ほう、なるほどね。情報が確かなら、言うまでもねえな!」

 

 「ああ!おじさんの読み通りだった、この基地は乗っ取られている!俺が解放する、お前は気にせずその子を倒せ!」

 

 遅れてライディングソーサでやってきたアランがそう告げる。

 だとしたら自分がするべきことは、全力で彼女を気にせず打倒すること。

 その間に、アランが彼女の父親と思われる人物を解放するということを信じて。

 アランがクレスから独自に与えられていた任務とはこのことだった。

 クレスが彼女の本名を聞き、まさかと思い立って決めた作戦。

 お互いがお互いを信頼して、最終局面を託し合う。

 

 『っち、させるかよ!行け、スケルトン共!あの鷹を止めろ!』

 

 だがイズミル軍中佐…エルズルムの刺客がその侵攻を阻む。

 タダで通す訳にはいかないという意志の下、彼に残った多くのキラードロイド・スケルトンとLBXが集結する。

 その数は最初に四人が入り口と裏口で交戦していた数の合計を軽く上回っていた。

 多くのキラードロイド達が、アランを止めようと追撃する。

 しかし、

 

 「おいおい、俺らのことを忘れたんじゃねえだろうなぁ!おっさん!」

 

 彼らは個人ではなく部隊。

 そのことを証明するかのように、ラル、メル、カイネが軍勢の前に更に立ち塞がる。

 カイザ、フェアリー、ピースフルオーディンが残った余力を糧に、再び嵐の中へ突っ込む。

 三人にとっても、ここが正に最終局面と言えた。

 彼らはアランに、そしてレンにこの作戦の全てを託す。

 

 「…助かるよ。これでもう心置きなく、あんたを倒せる」

 

 そして残ったレンがラストスパートをかけ、キマイラに猛攻撃を繰り出す。

 例え脚がなくても、まだ羽がある。

 かつて失ってしまった自身の代名詞が、今こうして武器となって敵を叩く。

 たった一度きりのチャンスを、見逃さないために。

 

 「キジャ・フーリアだっけ。そいつがお前の父親なんだろ」

 

 「そうっ、だから私はっ!あなたに勝たなきゃいけない!もし負けたら、」

 

 「人質に取られているあんたの父親は殺られるかもしれない。だろ?」

 

 「それもだけど、きっとあなた達にも…殺される」

 

 「……俺らが殺すと、あんた本気でそう思っているのか?」

 

 ルナからの意外な言葉に、レンは少し呆れかけていた。

 彼女が人質である父親を助けるために戦うのが動機かと思っていたが、あくまでもレン達は敵であると。

 侵略してきた人間なら、問答無用で自分の父親も殺しかねないと、彼女は本気で思っていた。

 だが彼女が言うことに「そんな訳がないだろう」と思いつつも、彼には理解出来ない話ではなかった。

 

 (あの日アンカラにいた時も、もしかしたら同じことを思っていたのかもしれない)

 

 半年以上の前の出来事を思い出す。

 無差別なあの日の侵略と、今の自分達のやっていることは大して変わらないのではないか。

 しかし、違いがあるとすれば、二人はまだ『話し合える』そんな位置に立っている。

 だからこそ、今は倒すことに注力するしかない。

 倒して、話し合える準備をしなければならない。

 

 「断言するよ。俺らはあんたの父親も、別にあのアインとかいうクソ野郎も、殺そうって気はない」

 

 「なんでそんなことが言えるのっ!私はアイン(あいつ)を、こんなにも殺したいって思うのにっ」

 

 「そいつは好きにすればいいさ。だが、あんたの父親はそれを望むのか?」

 

 「え……?」

 

 「いや知った風な口を利いちまったな。すまない、言い換えるよ。あんたの父親はそれを望まないかもしれないし、もしかしたら望むかもしれない。そいつは直接聞いてみないとわからない」

 

 目の前の戦闘に集中しつつ、レンは彼女に語りかける。

 決して彼女の境遇も思いも、それら全てを知っている訳ではない。

 しかしだからこそ、「かもしれない」という前提で彼女に訴えるのだ。

 大事なのは、何もかも決めつけないことだと彼は考えていた。

 

 「だが俺はアインやキジャ・フーリアという人間が…イズミル軍の大佐がいま何考えているのか、気になってしょうがない。だから俺も出来れば解放したいんだよ」

 

 「…………」

 

 「どうしてこんなことが起こっちまったのか。あんたも同じこと、思っているんじゃないのか?」

 

 レン達は何故こんな戦争が起こるに至ったのか、ルナが何故父親を人質に取られるに至ったのか。

 今両者が、理由を知りたがっている。

 だとすればむしろ、この二人が争いをする意味がなかった。

 だが彼女はレン達が敵ではないと、信じられない。

 

 「お前の父親は俺の仲間が解放する。アインも食い止める。それでもまだ俺達は、戦う必要があるか?」

 

 「私は、負けないっ」

 

 「…全く取り合わねえな。ならさっさと終わらせるか」

 

 確かに父親が最も危険に曝されていると思えば余裕はなくなるだろう、とレンは察していた。

 現状戦力に関してはレン達が有利。

 ならばこれ以上、彼女の視野を狭めるのは後々得策ではなかった。

 だからこそ、チェックメイトにかかる。

 

 (残り八枚ってところか。まあ余裕でしょう)

 

 残った武器を数え、レンはある試みを企む。

 

 「ミツルさん、ちょっとアレを試してみたい。一瞬だけ」

 

 【アレって…?いやまさか】

 

 「そう。()()()()()で使わされてもらったアレさ。これでトドメを刺す」

 

 【危険です!まだ制御が効かすことが出来ない、諸刃の剣すぎる】

 

 「アレとは別に作戦がある。どっちにせよ、これも諸刃の剣だ。もう突破するにはそんな手段しか無いんじゃないか」

 

 【……わかりました。あなたの技量を信じますよ。ですが無理せずに】

 

 「今更」

 

 先日アルテミス決勝で一瞬で片を付けた代物を、今この場で一瞬だけ使うと彼は宣言する。

 ミツルの調整が完全でない今ならば、間違いなく制御が効かない化物が誕生する。

 それはかつてパラダイスにてペガサスと、ペガサスに乗ったとあるLBXが用いたモード。

 皮肉にもイカロスに打倒された者達が使った機能を、イカロスの遺伝子を受け継いたベレロフォンが受け持ってしまった。

 だがこれはミツルが実装したのではなく、あくまでレンが「必ず」と提案したもの。

 全てのオモチャとオモチャ殺しを、破壊するために。

 

 「っく、させない!絶対に、負けない!」

 

 「こんなオモチャ対戦、もう願い下げだ」

 

 再び正面からキマイラとベレロフォンが激突する。

 結果は当然のように、キマイラの盾が頑丈すぎるがあまりにベレロフォンの剣は弾かれる。

 脚を自身の二刀流として用いた彼の火力には、やはり限界がある。

 それ故に一度だけ、たった一度だけ禁断を使う。

 真正面から激突し、剣戟が弾かれたベレロフォン…このカウンターをチャンスとして、キマイラは全てを決めにかかる。

 

 「そこだ、必殺ファンクション!月王砲(ルナキャノン)!」

 

 「来たか」

 

 ルナの駆るキマイラの最大、月王砲が再び真正面、態勢を崩したベレロフォンへ牙をむく。

 流石の高出力の必殺ファンクション、二度目にして既にキマイラには限界が訪れていた。

 だからこそ、これで決めきるしかない。

 しかしその瞬間を、彼は待っていた。

 

 「今一度、月の女神(アルテミス)を落とす!消えてもらうぞ!」

 

 上空へ翔んだベレロフォン、しかし逃げ場はもうない。

 故に、正面からねじ伏せる。

 月王砲を遥かに上回るほどの剣を携えて。

 

 「───デストロイモード!」

 

 続いて彼も宣言する、全てを破壊するための言葉を。

 瞬間、ベレロフォンの背負った羽──元々キラードロイド・ペガサスが背負っていた()()()()()()()()()()が一気に地上へ降り注ぐ。

 狙うは当然キマイラ、ただ一体。

 そして一瞬にしてベレロフォンに内蔵されたデストロイモードを、魔物に完全に飲み込まれる前に即解除。

 この六枚の羽のパージが、デストロイモードの始まりの合図。

 アルテミスという世界の大舞台を、ラル達が憧れた場所の全てを一瞬で破壊した正体。

 地上にいる者からすれば、巨大な鉄骨が降り注いできたかのよう。

 対するキマイラは────

 

 「な、何…アレは……」

 

 一瞬にして月王砲のレーザーすらも貫通され、急いで防御に回る。

 ただの巨大な剣の展開が、彼女にとっての必殺を軽く押し退けた。

 そう、ただ降ってきただけ。

 だが物量で言えばリグナムバイタ以上の重量を伴い、元々はキラードロイドで運用されていた武装。

 彼女のキマイラは呆気なく一瞬で、真上から降り注いだ剣に押し潰されかけていた。

 

 「こんなの、LBXじゃない…」

 

 「何を勘違いしている?」

 

 圧倒的物量を前に一気に形勢逆転を強いられたキマイラ。

 彼女はかつてないほどの焦りを見せる。

 ルナにとってベレロフォンは最早LBXとしての領域を逸脱しているように見えていた。

 しかし、レンにとってそれは当然のはず…何せ────

 

 「こいつは兵器(モンスター)だよ。オモチャなどと、一緒にするなァ!」

 

 彼はベレロフォンを、LBXと呼んだことなどない。

 全ては彼にとっての兵器。

 そして突出したLBXに対する憎悪。

 故にベレロフォンはこのT国の戦争に切り込んでいける最大の存在なのだ。

 

 「私は、私はァ!」

 

 既にベレロフォンの羽は月王砲のレーザーを突き破り、二枚の盾すらも破っていた。

 しかし、それまで。

 キマイラは先程のレンと同じく、メインウェポンを失っただけで最後の砦、キマイラ自身に大きなダメージは加わっていない。

 とはいえ、真上から降り注いだ剣を守っていた盾の重量に、キマイラの()()()()()()()()()

 その証拠に、キマイラの脚が重量に負け半壊していた。

 だがキマイラとは元々、脚を損傷させても問題のない固定砲台のような存在。

 そして固定砲台だった彼女の死角すらも守っていたお守りはもう存在しない。

 

 「……ッ!?どこへっ」

 

 剣を辛うじて全て防ぎ切った頃、かの天空に大天使はいなかった。

 メインウェポンでレーザーを放った盾が失われた今なら、キマイラは対空の術を持っていない。

 だが逆を言えば、レンも空中から地上の敵を狩る武器を所持していない。

 ならば彼はどこへ行ったのか。

 当然のことだった、守る必要の無い背後すらも守っていた盾はもうどこにもない。

 

 「終わりだ」

 

 それはつまり、キマイラの弱点が露出していることに他ならない。

 剣の大嵐の最中、ベレロフォンは最初から既にキマイラの背後に張り付く算段を取っていた。

 

 「────ッ」

 

 ベレロフォンの残った脚の剣が、今度は背後から不意を突かれたキマイラの背中を刺す。

 レンの読み通り、オーディーンの羽の付け根…そこは唯一キマイラの装甲の中で材質が異なっていた。

 つまりは弱点、構造上付け根だけは全てをリグナムバイタで覆い尽くすことは出来ず、あくまでも付け根の周辺以降に及んでいる。

 そこをピンポイントで突き刺すのは余程狙いを定めないと困難だ。

 

 「強いんだね…あなた」

 

 だが総合的な機体としての強さ、物量以前にレンは読み合いで勝利していた。

 ルナは、そんな「まさか」の事態すらも…もしかしたら背後を正確に突かれることすらも想定し、背後に盾を回す運用をしていた。

 だがこの念入りな行動こそが、仇となった。

 結果的にレンに背後の防御を不審に思われ、弱点を悟らせてしまったのだ。

 全てはルナの彼に対する最大限の警戒と、ミツルによってもたらされた情報をレンが読みに利用したからこそ。

 

 「…俺『達』が、強いんだよ」

 

 正面から浅い剣の投擲により一突き、そして背後の決定的な一突きにより、キマイラは完全機能停止。

 

 ゲームオーバー、勝者はレン・アークインジェ。

 

 神話の通り、怪物キマイラはペガサスの力を借りたベレロフォンに背後を突かれ退治された。

 

 

 

 ■

 

 「イズミル軍大佐、あなたがキジャ・フーリアで間違いないですね?」

 

 「……君は?こちら側と同じ、コントロールポッドを使用していると見受けられる」

 

 「俺はアラン・エルドと申します。言い方悪いですが、ここの基地に攻め込んできた…まあ、敵です」

 

 レンがキマイラを打ち倒したその頃、アランは同じフロアの離れた位置にある独房に到達していた。

 つまりクレスの読み通り、キジャを始めとした乗っ取られた側の勢力が放り込まれる場所。

 当のキジャの黒髪と緑の軍服は長い独房生活によって汚れまみれていた。

 キジャだけではない、これまで脱走を試み失敗して独房に入り込まれていた研究員などが多数。

 彼の緑色の瞳が、黒いフェンリルホークを疲れ切った様子で見つめている。

 

 「いいや、私からしたら味方だ。アイン達はどうなっているかわかるか?」

 

 「俺達の仲間がほとんど抑えています。たった今、ルナ・フーリア…あなたの娘さんすらも倒しました」

 

 「そうか、そうかっ……!」

 

 自身の娘を打倒されたことに対し、キジャはあまり悔しさを見せていなかった。

 むしろ、今にも泣きそうで何かから解放された安堵のようなもの。

 そして彼は頑丈に繋がれた手錠と足枷があるのにも関わらず、地面に打ち崩れた。

 

 「単刀直入に伺いたいことが。あなたはアインを始めとした勢力にここを乗っ取られた。元々東が売りかけてきた戦争ですが東への侵攻はあなたの意志ではない。合っていますか?」

 

 「無い、断じて有り得ない。私はむしろ事態収束に向けて動いていた。だが私の打つ手は全て読み抜かれ、いつの間にかこんな所に打ち込まれていた。…情けない限りだ」

 

 「アインは東のエルズルムから送られてきた刺客だった。で、ルナさんを都合良くLBXプレイヤー(兵器)として奪われてしまったと?」

 

 「奴らがまさかここまで下劣なことをするとは思わなかったよ。娘を守りきれなかった。本当に、父親失格だ」

 

 「……仕方のないことじゃないですか」

 

 キジャはかつての自分の行いを恥じ、うなだれていた。

 彼も同じく、どうしようもなかった出来事に対しそれでも「何かするべきだった」「まだ何か手を尽くせるのではなかったのか」と。

 しかしエルズルムの手中で全てが掌握されてしまった。

 そしてあろうことか自身の愛娘を、優秀なLBXプレイヤーである彼女をイズミルの最終兵器として利用されてしまった。

 

 「ルナはな、アングラビシダスの予選で敗れはしたが、本当に強い子だったんだ。それ故に、奴らは余計にあの子の機体の整備に本人のメンタルケアすらも徹底して行った」

 

 「それは質が良いんだか悪いんだか」

 

 「少なくともあの子のメンテナンスに関わっていた者は気が気がじゃなかっただろう。やりたくもない戦争に加担することになるんだからな。それに相手は子供だ」

 

 「おおよその事情はわかりました。俺達の目的はここの掌握にあります。手伝って頂けますか?」

 

 「もちろんだ、だがその前にこれをなんとかせねばな」

 

 キジャは強固に繋がれた手錠に目をやる。

 既にアランの勢力を『味方』と判断した彼の目に、光が宿った。

 すぐさま、フェンリルホークの銃弾により鉄の錠が打ち壊される。

 遂に何ヶ月ぶりかの解放に、キジャは奮い立っていた。

 そして他の研究員達も同じように、二人の手で次々と解放された。

 

 「この戦争を終わらす、私達の利害は一致している。それで十分だ」

 

 「ええ。それに俺達はコントロールポッドからこいつを操作していますが一人だけ、ここに生身で向かっている人がいます」

 

 「誰だねその命知らずは」

 

 「クレス・ミヘナ。俺がおじさんと呼んでいる指揮官のような人です。多分あの人、元軍人だと思うんですけど聞いたことありますか?」

 

 「………?クレス…?」

 

 クレスの名に、キジャは何とも言えない表情をしていた。

 聞いたことがあるような、あるいはなかったような判断に迷っているかのよう。

 やがて数秒間の沈黙。

 最終的には「誰だそいつは」という感想で終わった。

 

 「同じ階層にLBXとキラードロイドの全制御を行うコントロールルームがある。まずはそこで全ての制御を断ち切る。もうアインの好きにはさせん」

 

 「……」

 

 「なんだね、何か問題があるか?」

 

 アランは無言で、一つの案を出し抜こうとしていた。

 彼が先程、キジャの辛く険しい表情を見てしまったがため。

 

 「あなたは先に、娘さんに会いに行ってください。そこに、俺の仲間もいるはずです」

 

 「……何故?」

 

 「ずっと会われてないんでしょう?コントロールルームには俺一人で突入します。もうこれ以上、軍人で有り続ける必要はないはずです」

 

 「そうか。優しいのだな、君は」

 

 アランの誘いに、キジャは異論を唱えることはなかった。

 彼は甘えに乗り、アランでの単騎での突入作戦が開始。

 キジャは反対方向へ、レンやラル達のいるエリアへ身を潜めながら進んで行った。

 全ては長きに渡り会うことがでなかった愛娘に再開するため。

 

 「クレスおじさん、キジャ大佐を解放しました。何もかも全部あなたの読み通りですよ」

 

 【それは良かった。()()()()()()()、彼は。まあ私もそろそろバークプラントへ到着します】

 

 「レンもルナさんに勝った。あとは俺が軍勢の制御を断ち切れば…!」

 

 【まさか本当にここまで攻略出来るとはね、全て皆さんのおかげです】

 

 アランの報告に、クレスは胸を撫で下ろす。

 現状イズミル軍最大の戦力であったキマイラを倒し、後は残った戦力を集結しアランが電気制御を断ち切るまでの間に軍勢を足止め出来れば、本格的に掌握が完了する。

 彼の言う通り「まさか」の出来事だ。

 仮にベレロフォンがあったとしても、半壊までが限界なのではないかとクレスは見積もっていたのだ。

 しかしこの部隊の全ての人間がそれぞれの役割をこなし、ここまでこぎつけた。

 

 「着いた、ここだな。ええと、電源がこれでー…」

 

 フェンリルホークの素早い移動により、事前に把握していた制御室に彼は辿り着く。

 やはり元工業科専門の彼は機器に対しての理解が早かった。

 手始めに次々と各フロアの電気を落として行き、徐々に暗闇を突き付ける。

 そして最後、彼は無数に存在する『Guardian Control』と書かれた項目のスイッチをオフに切り替える。

 要はこの基地の守護者たるLBXとキラードロイドの軍勢を統率するシステムの総称だ。

 流石にここまでくれば最早チェックメイト。

 

 「終わったな…これで────」

 

 と思ったその時、静まり帰った基地に()()が一つ鳴った。

 

 途端、半年前の軍事パレードの光景がフラッシュバックする。

 LBX相手に人が銃など使うはずがない。

 だとすれば、向けたのは人から人。

 アランはつい先程、キジャをルナのいる方面へ向かわせていた。

 そしてそこには、アイン・ケネスだってまだ存在する。

 

 「ただじゃ済まされない、か」

 

 嫌な予感を背に、アランはレン達がいる最奥部の中央へ向かった。

 

 

 

 ■

 

 「止まった…!てことはアランの奴も、やったんだな!」

 

 ラル達が相手にしていた、あるいは足止めていたキラードロイド達の軍勢が唐突に活動を停止する。

 まるでコンセントを引っこ抜かれたかのように、彼らはその場で次々に態勢を崩していった。

 それは紛うことなき、部隊の勝利の合図だ。

 

 「おい!この腑抜けども!動け、動かんか!」

 

 「もうお前のオモチャは全部終わりだよ、それともお前自身が遊ばれてみるか?」

 

 やがて既にルナとの決着を付けていたベレロフォンがDエッグの中から現れる。

 彼女もキラードロイド達と同じように、ある意味電源が停止したかのようにその場で蹲っていた。

 キマイラも、そして軍勢も止めた。

 残るはあと一人、エルズルムからの刺客であったアイン・ケネスただ一人だけ。

 

 「これでやっとまともな話し合いが出来るな?時間はたっぷりある。洗いざらい聞かせてもらおうか」

 

 「な、何をだ」

 

 「そら色々さ。お前が東からの客人なら、何でこんなことを始めたのか。目的は何なのか。あとはそうだな、今どんな気分とか」

 

 「ふざけるな、小僧!」

 

 「ふざけちゃいねえよ。大事な戦いを全て機械に任せておきながら自分だけ高みの見物かまして、それであの子すらも兵器扱いして、お前だけが残ったと思ったら全て他人のせい?お前それでも大人か?」

 

 「く、くそっ!」

 

 「もうお前は終わりだ。軍人なら腹の一つでも括ってみろ、俺ら子供の前でな」

 

 ベレロフォンから発せられるレンの冷たい言葉が、アインに向けられる。

 アインは当然、自身のLBXを所持してはいない。

 それどころか彼は、一度としてLBXに触れたことなどなかった。

 戦いの全てを、やはりキラードロイドとLBXに委ねて胡座をかいていたからだ。

 だからこそ彼はルナに迎撃の全てを任せておき、その他の軍勢の関しての管理が粗雑になっていた。

 アインのルナに対して抱いているのは信頼ではなく、ただの甘えである。

 

 「お前は今まで繰り広げられてきた戦争を何だと思っていたんだ?そんで今まで何を考えてきた?」

 

 「っふ、どうも思う訳がないだろう?実際、それで人は死んだのか?いなかったはずだ。だがかつての戦争はどうだ!?俺はこの目で見てきたさ、目の前で友が死んでいく様をな!」

 

 「……それで?」

 

 「だから片方に消えてもらうしかないのだよ!西と東のどっちかが存在するから、この国は争い続けてきた!なら我々は片方を喰らい、全てを0に戻してやり直す!もうこんなことでしかこの国は救えない、何故それがわからん!」

 

 「確かにこの半年間の戦争で、死人は出なかったんだろうな。だがその前に、あんたら何をしたかわかってんのか?」

 

 アインはレンに言い放つ、この戦争には大義があると。

 東から西へ戦争を仕掛け、大混乱の中でまず西のイズミル軍をアインの手によって掌握する。

 そして彼らは、東西の両方からキラードロイドとLBXの軍勢をそれぞれ送りつけ、激突させた。

 あくまで『東西は戦争をしている』と見せるために。

 だが本命は全くの別────全てはこのT国を真っ平らにして、0の状態にリセットしてやり直すため。

 争いを起こす人間共の居場所を、消し去るため。

 つまりレン達が今まで相手にしていた軍勢とは、全てエルズルムが送り込んだ()()()()でしかなかった。

 そして半年の間、掃除要員によっての死者は出ていない。

 

 だがそれ以前に彼らは、大量に人間を掃除している。

 

 「あの日、アンカラに隕石が落っこちてきた。偶然なはずないよな?丁度パラダイスの欠片が安全に投下されようってタイミングだ。お前が友を語るなら俺もあの日、昔からつるんでた仲間が一人死んだんだよ!あいつだけじゃない。あの日何千、何万もの罪もない人間が同じ場所で死んだ!」

 

 「………」

 

 「あいつが!あの場所で死んだ人達が一体何をした!?お前が兵器扱いしたルナだって、一体何をしたんだ!何も関係のなかった人間が、お前らの身勝手な正義で簡単に滅んでいったんだよ!その重みに、お前は一度でも向き合ったことがあったのか!それとも何万もの犠牲は、お前らが正義を掲げる上で仕方がなかったのか!」

 

 レンのこれまで溜め込んできた怒りと憎悪が初めて、黒幕の一味に投げかけられる。

 それはレンだけではない、兄を失ったラルやメル、あの日に脚を失ったレンをずっと支えてきたカイネも同じだ。

 だからこそ誰も、アインを許せはしなかった。

 しかし固く目をつむり、険しい表情はアインは浮かべる。

 彼の対して、やがて口を開く。

 

 「…そうだ。犠牲になっても、仕方がなかった」

 

 「こいつ……!」

 

 「ただ俺個人としてはな、ガイアがあそこまでするとは思わなかったよ。俺は奴の意志を軽く見すぎていた。だが俺はそれでも、ガイアが間違ったことをしたとは微塵も思っていない」

 

 「何故だ、何故そこまで人殺しを認める気になれるんだ」

 

 「あのな小僧。ここで全てを真っ白にしなければまた争いを起こし、今度は隕石落としどころじゃない人数が争いで死んでいくことになるんだぞ。俺はむしろそっちの方が認める気になれん」

 

 それでも彼は、自分達が正しかったと主張する。

 今までも戦争を起こしてきたこの国の人間なら、必ずまたやりかねないと。

 故に彼らはそうなる前に、自らそうはならないような下地を作る戦いを始めたのだ。

 両者の意見はある意味正しくもあるし、間違ってもいた。

 だがアインにとっても、ガイア・カーディアスらが起こした隕石落としについては容認しつつも「度が過ぎている」と思わざるを得なかった。

 

 「俺はな、はっきり言ってこのLBX達による代理戦争が気に入っている。人が死なず、自分らは無傷で、なんせ遊戯(あそび)で済むのだからな」

 

 「…………遊び、だと?」

 

 この一言により、レンの血相が一瞬で変わる。

 アインのこの言葉は、レンにとって最大の地雷だったからだ。

 ベレロフォンはアインに近付き、その剣を彼の目の前に突きだそうとする。

 

 「っ……!」

 

 「やめろ、レン!」

 

 流石の軍人のアインも至近距離の刃には動じていた。

 すかさずラルが止めにかかる。

 しかし切っ先が一寸足りともブレることはない。

 いつでも突き刺そうと思えば刺せる位置、彼が言葉をこれ以上間違えなければ。

 

 「これが遊びに思えるか?」

 

 「何のつもりだ、小僧…」

 

 「さぞ楽だったんだろうな、これまでの生活が。だがお前らが仕掛けた戦争が、お前らの中だけで完結するとでも思ってたのか?」

 

 レンは言う、東西の茶番戦争で全てが上手くいくと思っていたのかと。

 だが実際は違った。

 この東西代理戦争に、まさか食ってかかる第三の勢力が存在した。

 いいや、実質西も東が乗っ取っていたのだから第二というのが正しいか。

 クレス・ミヘナという存在が、レン・アークインジェの憎悪が、二年前の事件の産物が結果的に抵抗者(レジスタンス)を生み出したのだ。

 そして今、彼らによって一つの勢力が崩されようとしていた。

 

 「俺達はあんたらを滅ぼす。これが娯楽程度だと思うのなら、今の内に改めて頂こうか」

 

 レンはかつて、部隊結成時にクレスが言ったことを思い出す。

 それはあの時アンカラに楽園の欠片が降り注いだ時から、決まっていた。

 アインがこれを遊びと例えたとしても、彼らは既に戦争している。

 

 

 「もうこれは、遊びなんかじゃない。よく覚えておけ」

 

 

 そう言い残し、ベレロフォンは刃を降ろした。

 実際のところ、レンがアインを殺そうなどとは全く思ってもいない。

 彼だって理解している、そんな不毛な行為が新たな憎しみを生み出してしまうということを。

 だからこそ彼は生かしておく、改心させるためではなく手札として。

 

 「ルナ!」

 

 「……父さん」

 

 遂に黙り込んでしまったアインの後ろから、キジャがルナに駆け寄る。

 そしてすぐさま彼女を抱き寄せる、当然のことだった。

 戦争が始まってから解放されたクレスと違い、キジャは逆に戦争が始まってから幽閉されていたのだ。

 なおかつキジャはルナの様子を詳細に聞かされていなかった。

 そんな彼にとって半年ぶりの再開は、涙だけで終われるはずがない。

 

 「すまない、すまなかった…私が不甲斐ないばかりに」

 

 「いいの…もう、全部終わったから」

 

 当然ルナもキジャがどうなっているのかを聞かされてはいなかった。

 彼女がアインから告げられていたのは「逆らえば父親を殺す」ということだけ。

 だから彼女はレン達が攻め込んでくる今日この時まで、悔しさを噛みしめながら彼の命令を忠実に守っていた。

 だがそれも今日まで。

 

 「…良かったな」

 

 これ以上二人に介入するのは無粋と誰もが判断して、その場を離れようとする。

 最早彼らがここですることはなくなった。

 しかし────

 

 「調子に乗るなよ…キジャァ!」

 

 まだアインは終わったつもりなどなかった。

 懐の拳銃を取り出し、すぐさまキジャに向ける。

 軍人であるならば当然のこと、彼の立場の終焉が近付いているのならばなおさらだ。

 ならば彼が望むのは道連れか。

 

 「アイン、君がここに派遣されてきた時点で見定めておくべきだったよ。まさか、ガイアのような人間に()()()()()()とはな」

 

 「分かった風な口を利くな!貴様の自堕落がこの結果を生み出したことを忘れるな!」

 

 「なら私を撃つか。構わん、しっかり頭を狙えるのならばな」

 

 「舐めやがってェ!」

 

 キジャはルナを守るかのようにアインの前に立ちはだかる。

 彼はアインの軍人としての『格』を試していた。

 ここで引き金を引くような人間なら、既にたかが知れていると。

 だがそれを知った時、彼の命はない。

 

 アインにとっては最早、軍人としての格など知ったことではなかった。

 証拠として、彼はもう人差し指を手前に引きかける。

 キジャはもう、覚悟を決めていた。

 自分自身が死ぬ覚悟、──ではない。

 

 

 「失せなさい、裏切り者」

 

 

 自分にとっての、()()が駆け付けて来てくれることに。

 

 クレス・ミヘナの放った銃弾は、正確にアインの持っていた銃を弾き飛ばした。

 ルナの後ろから現れたクレスによって、キジャは窮地を逃れる。

 アランとの通信により、助けがそろそろ来るのはわかってはいた。

 すぐ近くまでに迫ってきていることすらも。

 しかし、彼も自身の運命が尽きた訳ではないことを、自身で試したかった。

 

 「これで本当に、決着ですね。皆さん、お疲れ様でした」

 

 「クレスおじさん、間に合ったんですね!」

 

 「らしいな。本当に生身で乗り込んでくるとは、真の命知らずだ」

 

 銃を懐にしまい込んだクレスがレンの操るベレロフォン達と合流し、コントロールルームからもアランがやってくる。

 誰一人として撃墜なし、クレスが想定した以上に完璧な戦いだ。

 そして何より、味方が増えた。

 

 「これで西部制圧作戦完了。我々部隊の勝利だ!」

 

 クレスは右手を掲げ、勝利を宣言する。

 西部制圧作戦が、未来を左右する戦争の一つが終わった。

 たったの一時間もかからずしてクレスとミツル、レンを始めとした五人の少年少女が、イズミル軍を掌握してみせた。

 それは彼らにとって快挙以外、例えるものが存在しないほど。

 流石のアラン達も、LBXではあるがガッツポーズをする。

 

 「あなたが……クレス・ミヘナ?」

 

 「はい。キジャ・フーリア大佐、存じておりますよ」

 

 「……()()()()()()()()()、あなたは」

 

 キジャはクレスに歩き寄り、初めてまともに彼の顔を確認する。

 直後に増々、自身の解放を喜ぶどころか表情に不安の色が募らせていた。

 彼の初対面のような口ぶりに、キジャは疑問を呈する。

 そしてこう言ったのだ。

 

 「()()()()()()()()()()()クレ──」

 

 「何のことでしょうか。それよりキジャ大佐が無事で何よりだ。ルナさんも同じく。もう私と彼らがいるからには、何も心配ありません」

 

 「………………」

 

 「あなたも来なさい、我々の部隊に。もうこれ以上、悲しみを増やしたくないはずだ」

 

 キジャは思い切ってクレスの名を言いかけるも、やはりクレスに遮られる。

 それは彼にとって、むしろ確信に変わるような行為でしかなかった。

 間違いなく、キジャは彼と初対面ではないのだと。

 クレスの急な饒舌が、これを証明していた。

 だがキジャは今これ以上、()()()()()()に対して追求はしなかった。

 そしてクレスからの誘いに、無言で頷く。

 

 「で、これからどうする?キジャさんとやらはこちら側についてくれるようだが…」

 

 「西からの進軍はこれ以上無い。まずはバークプラントとアンカラの地下基地を円滑に行き来できるインフラを確立したいところですが」

 

 「うーん。物資は圧倒的にここの方が潤ってそうだしな…ならこうはどうだ?」

 

 レンは深く考え込み、ある提案をする。

 アンカラの彼らが拠点とするレジスタンスは実際のところ余裕はない。

 ならばより味方につけた規模の大きい場所へ、ならば答えは必然。

 

 「よし、俺らもバークプラント行くぞ」

 

 「「「「さんせーい」」」」

 

 (判断が早すぎる、この子たち)

 

 そしてレンが提案したバークプラントへの移住に、誰一人として反対はなかった。

 よって即座に決定。

 とは言え、アンカラの地下基地も東へ攻める際の中間基地として利用される。

 戻ろうと思えば、いつでも彼らは一種の故郷へ戻ることが出来る。

 

 「あんたも来るか?」

 

 「え……?」

 

 「まあ任せるよ。だが一つ間違いなく言っておくが、あんたは間違いなく俺達と同じくらい強い」

 

 「ありがとう、父さんのことも」

 

 「俺達は今度は生身でここに来るよ。気が変わったらいつでも来い。俺ら部隊は常に人手不足なんでね」

 

 レンは既に戦いが終わり、安堵に包まれていたルナに声をかける。

 最終的にはレンの勝利に終わったが、彼の目はルナをとっくに強者と見ていた。

 キマイラという性能だけではない、たまたま噛み合わなかっただけで読み合いという点で彼女は嗅覚が鋭かった。

 だから彼は敢えて、ルナを部隊に誘う。

 しかしレンはルナの事情を知ってしまっている故に、無理強いはしなかった。

 再開を噛みしめる時間も必要だ、と。

 もう自由だ、彼の言葉はそういったものだ。

 

 「ま、待ってくれ」

 

 「なんだ?信じ切れない部分でも?」

 

 「い、いやそこじゃない」

 

 もはや置いてけぼりのキジャが、レン達に待ったをかける。

 既に敵ではなく味方とお互いが決めてはいるものの、彼は大事なことを聞き忘れていたのだ。

 クレス以外の、彼らのことを。

 

 「君達は、何者なんだ?」

 

 「……そういえば、言ってなかったな」

 

 それは彼ら個人ではなく、彼らが所属する部隊の名。

 あの半年ほど前、レンが命名した名だ。

 彼らは今でも尚、その部隊名の通り忠実にそして堅実に戦ってきた。

 レンにとっての憎悪と、たった一人の仲間への手向け。

 この名を胸に、彼らはこれまでも、これからも敵を倒し続ける。

 そう、彼らはだからこそ────

 

 

 「俺らは、Killerdroid Killer(キラードロイドキラー)KK(ダブルケー)部隊だ。そして俺はリーダー、レン・アークインジェ」

 

 

 ()()()()()()()()()

 LBXと、それらを殺すためだけに生まれてきたキラードロイドすらも、超えていく。

 彼はあの時、そう誓った。

 そして奴らを超えた先に、きっと真実が待っているんだ、と。

 KK部隊の名が示すままに、戦争を主導する敵を彼らは殺しにかかる。

 

 「覚えておこう、KK部隊。そしてレン君。君達が目指す未来に、私もついて行こう」

 

 「よろしく頼むよ、キジャ大佐。それにルナも」

 

 そしてキジャは小さな小さなレンの代理人、ベレロフォンの手を取った。

 この日、バークプラントは彼らKK部隊の手により完全攻略された。

 西部制圧作戦、KK部隊の勝利。

 とは言え実質的にエルズルムから送られてきたアインの支配下にあったのだから、細かく言えば東軍の制圧に近い。

 解放されたイズミル軍トップの大佐…キジャ・フーリア、その娘ルナ・フーリアが部隊へ一時的に所属となる。

 彼らが手を取り合った直後、キジャの声明によりイズミル軍の実質的な解体が決まり後を去る者、KK部隊へ転属となる者は半々だった。

 だがその他少数…つまりエルズルムの刺客だったアインを始めとする勢力は事情を聞くこともあり、バークプラントにて捕虜となった。

 

 「まだ、終わりじゃない」

 

 「ああ…本格的に東はこの戦争の黒そのもののようだ。奴らを叩かない限り、戦争は終わらない」

 

 レンとアランの二人が大戦場だった地下から夜明けを見る。

 彼らの言う通り、戦争はこれで終わりではない。

 西と東、それぞれに敵があると思っていた最中、実際は東が西を操り戦争を演出していたのだ。

 故に最終的にはエルズルムを潰さない限り、この戦いが終わることはない。

 進み続ける、これからも。

 だが今までと圧倒的に違うのは、彼らは孤独ではないということ。

 実際脅されてはいたが、ルナやキジャとは話し合い味方に引き入れることが出来たのだ。

 ならエルズルムの彼らも、同じようにわかり合えるのか。

 

 「必ず滅ぼしてやる、ガイア・カーディアス…クレセント・ミハエル。ソルの仇を取らせてもらう」

 

 だが話し合いで済んでいれば、ソル・アルマルは今も隣にいたのだろう。

 救いきれなかった存在の仇を、レンは今でも追い続ける。

 そして彼や罪の無い人間を葬った彼らは────

 

 

 【ア……イン、聴、……るか】

 

 「あ?なんだこの声」

 

 

 唐突に先程アランがいたコントロールルームから聞いたこともない声の通信が届く。

 瞬間、クレスとキジャが目を見開いていた。

 彼らにとって、聞き慣れた声であると。

 二人は疑問に思う前に、声の在り処の方向へ走っていった。

 レン達五人やルナも、導かれるように彼らの跡を追う。

 

 【アイン……聴こえるか…応答、せよ】

 

 「あなたはっ……!」

 

 低い男性の声、年で言えばクレスより若干低いか。

 コントロールルームにあったのはただの無線通信であり、映像は付与されていない。

 その声の主は、アイン・ケネスを求めているようだった。

 声の主を聴きクレスは「やはりか」と悟る。

 

 「()()()()()()()()()……!」

 

 「こいつが、か?けど何でこんな死にそうな声してんだ」

 

 そう声の主はクレスやキジャが知って当然、黒幕の一人ガイア・カーディアスのもの。

 しかし当の本人は様子はわからないものの、苦しそうで瀕死そのものだった。

 奥から手を拘束されたアインが遅れてやってくる。

 

 「ガイア、ガイアなのか?何があった!?」

 

 【そっちの…様子はどうだ…俺達は……】

 

 「してやられたよ。だがなんて声をしているんだ、何があった!?」

 

 アインを呼ぶ声に、すぐさま彼は反応する。

 しかしキジャとクレスは彼をあえて止めはしないが、無言で銃口を突きつけていた。

 余計なことを喋ればろくなことは起きないぞ、という合図だ。

 彼らが二人だけで話している体であれば、もしかしたら何かしら有益な情報をガイアから引き出せるかもしれないと。

 二人の会話を、彼らは固唾を飲んで耳をすませる。

 

 そしてガイアの口から飛び出した言葉に、この場の全員が衝撃を覚える。

 

 【()()()()()()()()…たった一機で…我々の全てが、滅ぼされた】

 

 「なん、だって……?」

 

 それは東、エルズルム軍すらもイズミル軍と同時期に何者かによって攻撃を受けたというもの。

 

 (俺らと同じ…?いや、こいつ今『たった一機』って…)

 

 レン達にとっては有り得ない話だ。

 ましてや彼らは現状、最大の黒幕とされている軍隊なのだ。

 それがレン達の知らないところで、しかも同時期に滅ぼされかけていたと彼は言う。

 

 「敵は、敵は誰なんだ!?そんなこと出来る連中など」

 

 【あぁ…奴は…こう名乗っていた…】

 

 無線の向こうのガイアは辛うじて言葉を紡ごうとする。

 しかし瀕死のような彼は、もういつ命が潰えてもおかしくはない。

 だが彼はそれでも、味方のアイン・ケネスにエルズルム軍を滅ぼした相手の名を告げる。

 重々しい口調で、そして憎しみを込めたような口調で。

 

 その者の名を聞いた誰もが、凍てついた。

 

 

 

 【レン・アークインジェ、それが…奴の名だ】

 

 

 

 

 -終- 第五章 Great Future War

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