駿川たづなにストリートファイトで勝ったら1000万   作:アリスミラー

1 / 9
 


序章 ~Thanatophobia~

 挑戦者の一人は、やらない理由はない、そう思った。

 いつか手合わせしてみたいと思っていた相手と戦える。

 活路への希望、破滅の予感。未来を変える一瞬の判断。この戦いで訪れるであろう全てに胸を躍らせて、応募した。

 

 挑戦者の一人は、その企画を人づてに聞いた。

 初めは下らないと思って聞き流そうとした。だが、己の奥底でたぎる本能がそれを許さない。

 姉には止められたが、闘いに飢えているのはいつものことだと振り切って、応募した。

 

 挑戦者の一人は、にんじんが食べたかった。

 にんじんのことを考えていたらお腹が減ってきた。

 にんじんをたくさん食べるために、応募した。

 

 

『さあ間もなく始まります! トレセン学園主催『駿川たづなにストリートファイトで勝ったら1000万』! 実況は私アグネスデジタル!』

『解説のアグネスタキオンだ』

『これまで数多くの猛者たちが挑戦してきて未だ達成者は0! 伝説の企画が帰ってきました!』

『くくく。実に興味深いね』

『では初めに本企画についてよく知らない方へ向けて、タキオンさん説明をお願いします!!』

『任せたまえ。ではたづなさんの説明から始めよう』

 

 

 駿川たづな。トレセン学園理事長秘書。性格は温厚。厳しくも優しいステキなお姉さんとして多くの生徒に慕われている。

 ……だがかつてはその喧嘩の強さゆえに多くの舎弟に慕われていた。『タイマン無敗』、『50人の不良ウマ娘を相手に戦った』など数えきれないほどの逸話を持ち、ついたあだ名が『芝上の伝説』。現在でもその強さは健在であり、並のウマ娘ではその覇気だけで泡を吹いて気絶するらしい。

 

 そんな最強の呼び声高い駿川たづなに喧嘩を挑むのが『駿川たづなにストリートファイトで勝ったら1000万』という企画である。ちなみに1000万と言うのは現金1000万円のことではなく、1000万円分相当のにんじんのことである。

 

 

『……というわけだ。え? どうしてそんな企画をするかって? くくく。私にもわからないよ。理事長の気まぐれさ』

『はい! タキオンさんありがとうございました! それでは次にルールの説明をさせていただきます!』

 

 

 ~ルール~

 ・基本的にどちらかが負けを認めるか、戦闘不能になるまでは勝負続行。

 ・武器の使用はOK。ただし事前に申し出て認められたものに限る。

 ・場所はトレセン学園校舎内で行われる。人払いはされており、この勝負の間は無人である。

 ・勝負の開始位置は事前申告制。ただし一度戦闘が始まった後はどこへ行っても自由。

 

 

『というように基本的には何でもありのストリートファイトとなっております!』

『ふふふ。危険と思うかい? 安心したまえ。どんなに大けがをしても私の謎装置と安心院さんの謎治療のおかげで明日には復活さ! 思う存分戦ってくれたまえ』

『はい! コンプラへの配慮ありがとうございます! では次に挑戦者の発表です!!』

 

『史上最強の『芝上の伝説』に挑むのはこの三人だ!!』

 

 ここで挑戦者3人の姿が画面に映し出される。

 3人は戦いの舞台である校舎の前に立っている。

 

 

『標的は絶対に逃さない! 戦闘狂系大和撫子! 『栗毛の怪物』グラスワンダー!!』

 

 彼女は緊張を感じさせない笑顔でカメラに向けて手を振る。一見機嫌はよさそうに見えるが、彼女はその笑顔のままとあるマスクウマ娘に切腹を命じることができるので、実際の胸中はわからない。

 服装は道着に袴である。

 

 

『群れに答えなどない! 最強を目指し孤高を征く! 『シャドーロールの怪物』ナリタブライアン!!』

 

 彼女は腕を組んで前を見据える。動きやすいタンクトップとボクシングトランクスに身を包み、勝負の時を待つ。カメラ映りなど関係ないと適当に選んだ服のようだが、一部の層からは大人気であったことを彼女は後に知ることになる。

 

 

『内に秘めた勝利の鼓動! 神に愛されたウマ娘! 『葦毛の怪物』オグリキャップ!!』

 

 彼女が軽くポーズをとると、尻尾が揺れる。どうやら調子は良さそうだ。なぜかクリスマスの勝負服を着ているのは、みんなの力で勝つ、という意思表示らしい。

 

 

『奇しくも『怪物』と称される3人が名乗りをあげましたが、これをどう見ますか? タキオンさん!』

『くくく。そうだね。面白い3人がそろったんじゃないかな? 十分にたづなさんに勝てる目はあると思うよ。……条件はあるがね』

『条件? 一体なんでしょうか?』

『一対一で戦わないことさ。せっかく3人いるんだ。数の利を生かさない手はないよ。AP○Xと一緒さ』

『なるほど! では『怪物』3人の共闘が見られるかもしれない、ということですね! これは楽しみです!!』

 

 興奮気味にまくし立てるアグネスデジタル。

 怪しげな笑みを浮かべて相槌をうつアグネスタキオン。

 その熱狂とは裏腹に、3人は校舎の前で静かに時を待っていた。

 

「……だそうだ。協力して戦うのがいいんじゃないか?」

 

 そう尋ねるのはオグリキャップ。この中で唯一にんじんにつられて企画に参加した食いしん坊である。彼女にとっては勝ってにんじんを手に入れることこそが最優先事項であり、そこに美学や拘りなどはない。

 

「協力……? うふふ♪ 冗談でしょう?」

「やつは私の獲物だ。邪魔するならお前らごとぶっ飛ばす」

 

 残りの二人──ナリタブライアンとグラスワンダーがこれを拒否する。彼女らは駿川たづなと1対1で戦うために企画に参加した。協力するくらいなら降参を選びかねない二人である。

 

「……やれやれ。君たちがそう言うならそれでいい。私はにんじんが欲しいだけだからな」

 

 元より無理に共闘をすすめるつもりはない。ただ最年長として、お姉さんらしく振る舞おうとしているのにうまくいかないな。そんなことを考えていた。

 

 

『では挑戦者の皆さん! 指定の位置までご移動ください!』

 

 アグネスデジタルの指示に従い、三人が移動を開始する。それは各々が最も戦いやすいと判断したフィールド。

 勝負における重要なファクターである。

 

 

『まずはブライアンさん! 一階の空き教室を選択しました!』

 

 空き教室。通常の教室とは異なり、机も椅子も存在しない。狭い箱、といった感じだ。

 

『なんのギミックもないシンプルなフィールドだね。ポイントはこの狭さか。どうやら彼女はインファイトをご所望らしい』

 

 ウマ娘の運動能力なら、教室の端から端まで2歩と言ったところだろう。逃げ場はなく、必然的に互いを削り合う闘いが発生することになる。

 

 

『次にオグリさんは食堂を指定! 特上にんじんハンバーグを食べながらたづなさんを待ちます!』

 

 食堂。飯時には多くのウマ娘でにぎわう大きな食堂である。非常に広く、たくさんのテーブルや椅子が並んでいる。

 

『ブライアン君とは対照的に、広くてごちゃごちゃしているフィールドだね。うまく使えばトリッキーな戦い方も可能だとは思うが……』

 

 そう言いながら画面に映るオグリキャップを見つめる。……彼女はおいしそうににんじんハンバーグを頬張っていた。

 

『単に学校で一番好きな場所を選んだ可能性が高いですね……』

 

 アグネスデジタルの言葉にうなづくのだった。

 

 

『最後はグラスさん! 武道場を選びました! 道着と袴を身に纏い、座して集中力を高めます! その姿はまさに武士そのもの!』

 

 武道場。一面に畳が敷き詰められており障害物はない。柔道の試合が2試合同時に行えるほどの広さがある。

 

『くくく。これは彼女にとって慣れ親しんだフィールドを選んだ、と言ったところだね。それと事前に申告された武器がある場所でもある』

『武器? 日本刀とかですか……? 』

『はははまさか(最初に真剣を希望してきたことは黙っておこう)』

 

 

 全員が位置に着いたことを確認すると、アグネスデジタルが叫ぶ

 

『さあ皆さん戦う準備はよろしいでしょうか……。それではたづなさんの入場です!』

 

 駿川たづながゆっくりと校舎に入っていく。その恰好は普段と何も変わらない。緑の帽子とそこから覗くポニーテール。緑の制服と黒いタイツ。

 だがいつもの柔和な表情は鳴りを潜める。真剣そのもの、と言った表情だった。

 

 駿川たづなはどこが戦いの場となるかは知っている一方、誰がいるかは聞かされていない。つまり誰とどの順番で戦うかは完全にランダムであるが……

 

『たづなさんが校舎を通り抜け、まっすぐに離れへ行きます! この先に待つ1人目の『怪物』の元へ向かう!』

『くくく。なるほど、初戦の相手は彼女か……』

 

 

 

 駿川たづながその場所の扉を開く。中に満ちる静かな闘気。

 

「お待ちしておりました」

 

 水を打ったような静寂が包む武道場。

 そこにいたのは『栗毛の怪物』グラスワンダーだった。

 

 手に持っていた竹刀を構える。

 

 竹刀と言っても剣道の竹刀ではない。

 わずかに曲がった剣先と長い柄が特徴である。

 古来より力と体格に劣る者がその差を埋めるために、作り上げられた武器。

 

 その武器とは……

 

「薙刀、ですか」

 

 中等部の中でも小柄で細身のグラスワンダー。駿川たづなとはおよそ15㎝の身長差がある。小さくて可愛い。

 彼女がいかに類まれなバネと運動神経を持っているとはいえ、身体能力の差はあまりにも大きい。

 

 それを承知でグラスワンダーは戦いを挑む。

 薙刀に絶対の信頼が、それを操る自分の技量に絶対の自信がある。

 

「いいでしょう……。いつでも来なさい」

 

 駿川たづなは構えない。

 緩やかに間合いを詰めていく。

 はたから見れば無防備、不用意。

 だがグラスワンダーは隙を見出すことができない。

 

 じりじりと互いの距離が近づいていく。

 駿川たづながほんの僅か、先にグラスワンダーの間合いに入る。……瞬間、

 

「はあっ!!」

 

 グラスワンダーが上段から斬りかかった……!

 

 to be continued

 




 本SSを書いてて感じた可能性。
①実はほぼ最年長オグリキャップ。
②実は『最強世代』で一番背が低いグラスワンダー。

 誰でもいいので、後輩相手に頑張ってお姉さんぶろうとするもののうまくいかないオグリのSSか、身長のことを同級生にイジられてイジったやつを一人残らずボコボコにするグラスちゃんのSS書いてください。お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。