駿川たづなにストリートファイトで勝ったら1000万   作:アリスミラー

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ナリタブライアン②

「……まだやる気ですか?」

「当たり前だ。さっさと構えろ」

 

 ナリタブライアンが左の拳を構える。

 ……再び殴りかかるつもりのようだ。

 

『ブ、ブライアンさん……。もうやめた方がいいんじゃ?』

 

 アグネスデジタルの顔は青ざめている。

 先ほどの凄惨な光景が頭をよぎる。

 

『くく。まだ戦うとはね。だがもしやるならこれしかないだろう』

 

 アグネスタキオンの言う通りだ。

 すでに右の拳は破壊された。

 そして殴り合い以外の戦いでナリタブライアンが渡り合えるものはない。

 今ナリタブライアンにできることは、残った左拳に全てを賭けて玉砕することだけだった。

 

 

(……覚悟を決めろ)

 

 

 砕けた右拳が痛む。

 警報のように体全体に痛みを訴える。

 やめろ。もう戦うな。諦めてくれ。

 

 その痛みはナリタブライアンを正気に戻そうとしているのかもしれない。

 それでも止まる気はない彼女は狂気に取り憑かれているのだろうか? 

 

 いや、そうじゃない。

 そこに勝機がある。

 痛みと恐怖を抱えたまま、勝利をつかもうとしている。

 

 それは狂気ではない。

 ──勇気だ。

 

「はああああ!!!」

 

 ナリタブライアンが地面を蹴る。

 弾丸のように駿川たづなの元へ突っ込む。

 

 全体重を乗せた左ストレート。

 ナリタブライアンの勝利への執念が拳に宿る。

 だが……

 

 バキン!! 

 

 それはいとも簡単に砕かれる。

 駿川たづなの右の拳が無慈悲に粉砕した。

 

 あまりの激痛に叫び出しそうになる。

 だが、それを唇をかみしめて耐える。

 そして……

 

(……莫迦な……!)

 

 ナリタブライアンは()()()()()()()()()()()()()……! 

 

(……右のパンチ……? まさか……。いや、でももし本気だったら……。後ろは壁……。どうする!?)

 

 駿川たづなの脳裏に迷いが生じる。すでに『コンセントレーション』は使ってしまった。考える時間はない。拳が迫る。

 

「……ッ!」

 

 駿川たづなはナリタブライアンの拳をダッキングでかわす。

『昔』の駿川たづななら迷うまでもなくその拳を受けていた。もはや拳を合わせるまでもない。殴らせてやればその拳は2度と使えなくなる。

 だが、彼女は避けた。

 それは生徒を大事に思う『今』の駿川たづなだからこその選択。

 

 そしてその選択こそが、()()()()()()()()()()()()()……! 

 

(あんたなら、あんたならそうすると思ったさ……! 舐められたもんだ……!!)

 

 駿川たづなはナリタブライアンの右手に対して、『()()()()()』と言った。

 つまり裏を返せば、彼女はこれ以上痛めれば『2度と治らない』かもしれないと思っているということである。

 

 では、ナリタブライアンの知る駿川たづなはそのようなことをする人物なのか。

 答えはNOだ。

 

(昔はどうだったかなんて知らない。だが『今』のあんたがこの拳を受けるはずがない……!!)

 

 優しい言葉の中の冷酷な最後通告。だがさらにその奥の素顔を、ナリタブライアンは信じたのだ。

 

 

 振り出された右腕を素早く駿川たづなの首に回す。

 そして思い切り後ろに倒れこむ……! 

 

「……ぐっ! ……ガッ……」

 

 ギロチンチョーク。首を脇にはさみ頸動脈を締める。

 完璧には極まっていない。だがそんなことはお構いなしにその筋力で締め上げる。

 

(ここで極める!! 絶対に落とす!!)

 

 駿川たづなはあまりにも強い。唯一渡り合えると思っていた殴り合いでも敗北を喫した。

 そんな中で最後に創り出したチャンス。

 逃すわけにはいかない……!

 

「ああああああああ!!!」

 

 駿川たづなもまた必死に抵抗する。動くたびに砕けた両拳に激痛が走る。

 だが、それでもその手は絶対に離さない。より強く締め上げる。

 

(離すな! 離したら負ける……! 死んでも離すか……!!)

 

 『怪物』の名にふさわしいナリタブライアンの膂力。そのすべてを注いだ懸命のギロチンチョーク。

 今にも絞め落とされそうな状況の中で、駿川たづなはただひたすらに――詫びていた。

 

(……あなたは強い。そんなあなたに私は手心を加えようとした。本当に無礼な真似をした……)

 

 駿川たづなはナリタブライアンを()()()()()()()()

 

「……嘘……だろ……!?」

 

 通常ギロチンチョーク中に立ち上がろうとすれば、立ち上がる前に気を失うか首の骨が折れる。だが駿川たづなの筋肉と骨の強度はそのような常識を凌駕する。

 

(全霊を持って……あなたを仕留めます……!)

 

 そしてそのまま地面にたたきつける。

 

「……ガッ!!」

 

 また持ち上げる。たたきつける。

 それを繰り返す。

 頸椎を襲うとてつもない衝撃に次第にナリタブライアンの意識が薄れていく。

 

(……勝つんだ……。私は……私は……)

 

 

『第2戦決着!! 勝ったのは……』

 

 

 立っていたのは駿川たづな。

 失神するその瞬間まで、ナリタブライアンは手を離さなかった。




 ちなみに私はかつて休み時間にキーパーをやってた時、熱血パンチをボールに打ち込んで拳を砕いたことがあります。ひびが入ってました。

 今回のお話はかなり痛そうなシーンが多いので、うわっ……となる方もいらっしゃったかもしれません。
 安心してください。私が1番うわっ……うわー!!ってなってました。
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