駿川たづなにストリートファイトで勝ったら1000万   作:アリスミラー

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終章 〜Rapport〜 ②

 ──当日、夜、理事長室

 

「見事! 現役の『怪物』相手にきっちりと勝ちきったな!!」

「ありがとうございます」

 

 今日の企画の後、私は治療を受けてから理事長室に呼ばれた。

 

「オグリキャップ戦など、見ていてはらはらしたぞ!」

「もし負けたら大変でしたね……」

 

 実は1000万円分のにんじんなんて用意していなかった。はじめからこれは私が勝利することを前提にした企画だったのだ。

 では、その目的は何だったのだろうか? 

 

「なにはともあれ、勝ってくれてよかった! 『最強』のお前を誇りに思う!」

 

 今回の企画は生徒たちが私に挑戦する、というものではない。

 ……理事長が一瞬驚くほど冷たい表情を見せる。

 

「私はお前を愛している。──『最強』である限り、な」

 

 この企画は私が『最強』を維持しているか、確かめるためのテストの一つに過ぎなかったのだ。

 

 

 私はかつて表の世界ではレース最強、裏の世界では喧嘩最強として、名を挙げていた。

 そんな私を理事長は大変気に入ってくれた。

 私はその時すでに理事長に心酔していた。

 

 今でも忘れられない。私が脚部不安でレースを引退すると言った時のことを。

 無敗のまま競争者生活を終える私をねぎらってくれると思っていた。

 だが、現実は違った。

 

 ──そうか。

 

 たった一言それだけ言うと、理事長は私に部屋から出ていくよう指示した。

 その時気づいたのだ。

 彼女は私のことを気に入っていたのではない。私の『最強』という称号に興味を持っていただけだったということに。

 

 私は焦った。すでに私は彼女なしでは生きてはいけない。

 なんとかして、彼女に私を見てもらいたい。

 

 私は気づいた。

 ……私にはもう一つの『最強』が残されている。 

 

 そして私はウマ娘としての名を捨てた。『駿川たづな』として戦いの道に入った。

 あらゆる敵と戦い、何度も死にかけ、そしてその全てに勝ってきた。

 

 気づいた頃には、私にかなうものはいなくなり、私は誰もが認める『最強』に登りつめていた。

 裏の世界など知らない生徒達ですら、私の強さを認知するほどに。

 

 今はもうあの時ほど戦うことはない。いや戦うまでもない、といったところか。

 だが、それでも定期的に理事長が斡旋した相手と戦わされる。

 

 今回の相手は生徒だった。

 理事長は、戦闘の中でどれほど成長を見せてくるかわからない、計算の利かない相手との対応が見たかったらしい。

 と言っても、彼女らの潜在能力がいかに素晴らしいからと言って流石に私とは勝負にならない。

 そこで今回は一つ縛りを設けて戦った。

 

 中々厳しい縛りではあったが、なんとか勝ててよかった。

 もし負けていたr「失礼!! いやなんだこのモノローグ! 私がとんでもない悪魔みたいじゃないか!!」

 

「あれ? 違いましたっけ?」

 

 せっかく闇が深そうな独白で締めようと思ってたのに邪魔されてしまいました。

 

 まあおわかりかもしれませんが、今のは大半が嘘です。

 この話が本当だったら、グラスさん相手に稽古をつけたり、ブライアンさん相手にわざわざ殴り合いに付き合ってあげたりする必要がないじゃないですか。

 

「にんじん用意してないって人聞き悪いな! そりゃそうだろ! にんじん1000万円分もポンと渡されてどうするんだよ! オグリキャップでも食べきれんぞ! 食券方式にするだろそりゃ!」

 

 はいそうですよね。実際はにんじん1000万円分の食券を渡してそれを食堂で見せると、好きなだけくれるというものでした。

 要するに、「卒業までにんじん食べ放題」みたいなものです。元々食堂はビュッフェ方式なので、大した痛手ではありません。

 

「大体裏世界ってなんだよ! そんなのあってたまるか! お前が生徒の中で最強とか言われてるのは中学高校時代にはちゃめちゃ暴れまわったせいだろ! 私のせいにするんじゃないよ!!」

 

 耳が痛いです。あの時は毎日喧嘩とレースにあけくれていましたからね……。

 

「大嘘! 全部嘘だ! 全く、最後に変な形で爪痕残そうとしおって……」

 

 おっと全部嘘とは聞きづてなりませんね。それこそ嘘ですよ。

 ……少し反論してみましょうか。

 

「……でも理事長。私が引退するって言った時、すぐ部屋を出ていくよう言ったのは本当ですよね……。あの時私、本当にショックだったんですよ」

 

 そうです。これは本当のことです。私は理事長から言葉をもらいたくて一番初めに相談に行ったというのに。

 

「う……そ、それはそうだが。もうその話はよしてくれ……」

 

 理事長が罰の悪い顔をしていますね。

 よし、言ってやれ。

 

「あの後私がもう一度訪ねた時、理事長他の人に見せられないくらい泣いてましたもんね」

「やめてくれ!! 恥ずかしい!!」

 

 忘れたとは言わせません。

 あの日、理事長はもびちゃびちゃに泣いていました。

 そんな姿をどうしても私に見せたくなくて、私を部屋から追い出したというわけです。

 

 結局もう一度私が理事長の部屋に行ったことで、それは私にばれることになり、最終的には私が理事長を励ますというよくわからない状況になってしまったのでした。

 

「承知……。今のは真実だと認めるよ」

 

 理事長の勢いがなくなっています。チャンスです。

 このまま私の言ってほしい言葉を引き出してしまいましょう。

 

「まだ、あるんじゃないですか? 本当のことが」

 

 私がそう言うと、理事長はほんの少しだけ黙ったあと、観念したとばかりに口を開きます。

 

「やれやれ。そうだな」

 

 理事長が私の方を向きます。そして照れることもなくこう言うのです。

 

「たづなよ。お前は私の誇りだ。もちろん最強とか関係なく、な」

 

 理事長はこういう人です。

 幼くて、めちゃくちゃで、わがままで……暖かい。

 

「私も大好きですよ……やよいさん」

 

 さて、私のモノローグの大半は嘘とは言いましたが、真実は含まれています。

 理事長と同じく2つだけ。

 

 一つは私が理事長を心の底から敬愛していること。

 そしてもう一つは……

 

「それでは失礼します」

 

 私は理事長室を出る時、大きく頭を下げます。

 その時、()()()()()()()()()()()()()()()()()がぽとりと落ちたのでした。

 

 

 




理事長の年齢は諸説あります。

①普通に子供
②子供ではないが、たづなさんよりは年下。飛び級的な
③たづなさんと同級生
④たづなさんより年上

私は断然④派です。ベタですが、
「失敬な!こう見えても私は年上だぞ!」
っていう出会いが似合うコンビだなと思います。

それとここまで読んで下さった方、また嬉しい感想楽しい感想書いたくださった方、本当にありがとうございました!
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