狂った竜と吸血鬼   作:ふむふむ

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到来

 『永劫』とは虚無である。

 

 なんとなしに理解していたそれは、だがやはり耐えきれる物ではなかった。全てが既知で全てが繰り返し。

 ふと立ち止まって振り返る、なんてことはしてはいけない。同じ景色の道が延々と後ろに伸びているのを見て、絶望に呑まれてしまうであろうから。

 

 そう長々と語ったところで、どうやら彼女は理解出来なかった様だ。一区切り付いたと悟ると、永遠とならし続けていた貧乏ゆすりをぴたりと止める。そして金色がこちらを射貫いた。

 

 「ふーん……まあ、ご愁傷様とでも言っておこうかしら?私には分からないのよ、その感覚」

 

 「やはりか、日を追う者(デイ・ウォーカー)よ」

 

 「……ふっるいわねー、呼び方が」

 

 眼下に居座るちみっこい蒼髪少女は、(いにしえ)よりの腐れ縁。吸血鬼(ヴァンパイア)たるソティナである。

 こんなんでもかつては一緒に国を襲撃したり、お互いの親をぶん殴りあったりした仲だ。

 

 その見慣れた、水のように透んだ琥珀色の瞳を覗き込む。

 

 「ソティナ、お前は種族が《永劫》の下に存在している。故に、我の心情は理解出来んと予想していた」

 

 「……まあ確かに、本来『竜種』と私達は相容れないものね。元々話しが合うように出来てないんじゃない?」

 

 それに鷹揚に頷く。ちなみにこの堂の入った一挙手一投足や言葉遣いは、全て親の教育の賜物である。負の遺産とも言う。

 

 「お前の牙を受け入れようとも考えたが、それでは根本的な解決にはならぬようだしな」

 

 「最初に提案されたときは耳を疑ったもの。いくら友人とは言え、吸血鬼よ?頭がとんでるとしか思えなかったわ」

 

 「我からすれば、そもそもお前に《継承権》が残っていることが驚きであったが」

 

 それを聞き、ソティナは顔を歪めた。微妙なラインであったようだ。噂に踊らされて、嫌がらせをしようとソティナの口の中にニンニクをぶち込んだ時を思い出す。

 

 ──吸血鬼(ヴァンパイア)と、死を受け入れぬ者達(アンデッド)は違う。吸血鬼(ヴァンパイア)の方が上位であるとか、そう言う話ではなく、純粋に違うのだ。

 例えるなら、()と昆虫を比べるような物である。故に、今世界で主流になっている『吸血鬼アンデッド説』を消そうと躍起にやっている吸血鬼もいるそうだ。永劫種であるのにご苦労な事だ。あまり興味は無いが。

 

 さて、話が逸れた。ここで話に上がった、《永劫種》。これが吸血鬼(ヴァンパイア)本来の分類分けである。

 名の通り、『永劫』。滅びもせず、飽きもせず、ただこの世界にゆったりと居座る超越者達。

 それ故、永劫種にはある制約がある。それは単純明快。種の限界数である。いや、まあ当たり前の事であるのだが、言われてみるまで納得はし辛かった。そして会うこともなかったのでそれも当然である。

 

 何せ《永劫種》とは陰気な種が多い。そのため、我等《竜種》と言えど顔をつき合わせて話せる機会は本来非常に限られていた。

 そして、初めて永劫種に出会い、聞いたその繁栄方法。如何にして増え、如何にして在り如何にして生きるのか。

 

 私が知れたのは《吸血鬼》だけだが、それはかなり珍妙な物であった。

 

 血を吸う。

 

 これだけだ。これだけだが、やっていることはかなりの衝撃であった。

 まず、血を媒介に魂を浸食する。そして吸い尽くした血液を元に肉体の精製。そこに浸食した魂をぶち込む。

 もっと細々とした物であったが、忘れたので簡潔に纏めるとこんな感じだ。ちなみにこの一連の流れで、牙が一対消費されるらしい。

 

 そのため、今この世界に生きる牙を持った吸血鬼は目の前のソティナだけである。多分。

 そしてこの牙、消費すると生え替わるらしいのだが、なんと残機数がある。そしてこの残機数、元々の保有数が代を経るごとに段々と減っていくらしい。

 

 今のソティナが五代目──持ちうる《牙》は一対。

 

 「……だってなんだかいい生き物がいないんだもの。私だってさっさと次代を創りたいわよでもいないのよ」

 

 「そうか」

 

 つまり、処女である。言い方はあれだが、処女である。

 かつてはよくネタにして遊んだものだが、今ではネタに出来なくなってしまった。結婚をしていない死に際の友人のような物である。弄ればそれは最早虐待だ。

 

 「そんなことは置いておいて、よ」

 

 「ほう?」

 

 無理矢理の話題逸らしには目を瞑る。これも優しさである。

 

 そんな事を考えていると、彼女は突然鋭い瞳を私に向けた。その掌には、いつの間にか精緻なホログラムが浮かび上がっている。

 

 

 「──コレ……心当たり、ないかしら?」

 

 

 それは、とある国の王都。いや、王都であったと言った方が正確であろうか。

 

 『消失』していた。最も重要にして、象徴にして、絶対となるはずの王城が。

 そこだけがすっぽりと消え去っていたのだ。

 

 「ふむ……我だな」

 

 「…………なにがよ」

 

 少々潤んだ様に見える金色が私を貫く。彼女の瞳は特別だ。なにせ、蒼い瞳の中──その中心に、時折金色がみえるのだ。

 それを、まるで雨上がりの稲穂のようだ、と思考しながらも、なにかしら不味い空気が混じり始めていることに私は気が付いていた。

 

 「……なにか気に障ることがあったか?

 それはさておき、もう一度言おう──その王都の状況を作り出したのは我である、と言った」

 

 「…………そう、よね。私達に同時通達されたの。《白き王竜》が、センドギアの王都を消したって……まあ、結局王都じゃなくて王城だったわけだけど……」

 

 「《白き王竜》……?なんだその小っ恥ずかし名前は……」

 

 震える。流石に危険を感じ始めた。遙か昔に『黒き息吹(ダークネス・シグン)』とか言ってよく辺りに魔力炎を吐き出していたのを思い出したのだ。

 これ以上の黒歴史回想は致死量かもしれない。そんなつまらないことを考えていると、ソティナはホログラムを握り潰し、言った。

 

 「それでね。私、聞きたいのよ」

 

 「……良いだろう、ソティナ」

 

 ピリピリとした雰囲気が蔓延する。ともすれば、今すぐにでも殺意に変わりそうなそれ。

 意味が分からない。何故こんな、一世一代の分水嶺の様な空気が辺りに漂っているのか。

 

 「…………シトラ、なんであなたは、王国を襲ったの?」

 

 ふっ、と空気が弛んだ。いや、ソティナは未だに固い面持ちなのだが、私はそうともいかなかった。

 なにせかなりとんでもないことを聞かれると思った矢先、コレである。気が抜けるのも仕方がないだろう。

 

 だから、私は穏やかに答えたのだ。

 

 

 「何故か?ふむ、それは簡単だ、ソティナ──ただ目障りだったからだ」

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