狂った竜と吸血鬼 作:ふむふむ
──パキリ、と何かがひび割れる音が鳴った。それは、一体なにに入った傷なのか。
思わずそんな事を考えていると、突然ソティナが壊れた様に笑い出す。
「……ふふ、ふふふ──あははは!そうね!そうよね!どうせこうなるんだわ!!」
「……どうした、ソティナ。気疲れでもしたのであれば、今夜はここで共に夜を明かそう。久方ぶりの語らいだ。
まるでどこかの令嬢のような高笑いである。いや、そもそもソティナは令嬢だったか。わざわざこんな山奥まで来てくれたことには感謝しかない。
「──ねえ、シエナ」
──ぼっ、と。業火が
目に見えるほどに熱量を秘めたそれが、ソティナの肉体から発散される。これは確か──
ソティナ。何故、今お前はそうなる。疑問を瞳に宿し、見詰める。
「……私達《永劫種》はね、『世界に危険を
「知っている。故に永劫種は永劫種足るのだからな」
「……ねぇ、シエナ。気がついてないのかしら?」
「……なにがだ?」
何故、泣きそうな顔でこちらを見遣る。何故、右手を握り締める。
何故、その瞳には殺意が滲んでいる。
「ねぇ、シエナ。あなたは昔だったら、なにもされてないのに国を襲うなんて……そんなことしたかしら?」
「昔?かつて共に空を舞った時代のことを言っているなら、しなかったであろう。だが、気にすることはない。我がしたことは当然の事だ」
「……ねぇ、シエナ。あなた、言っていることが──……あぁ。でも、もう今更よね……」
ソティナの瞳に殺意が灯る。同時に、握られた右手に魔力が収束し始める。
殺意は小さく、だが確かにそこにあった。ロウソクに着けられた火の様にめらめらと滾るそれが、やがて彼女の瞳を覆い尽くし。
そして、数秒、数分……いや、数時間か。もう時間の感覚すら覚束ない。だが、長い時間が流れたことは確かだ。
そして──ソティナは崩れ落ちる様に膝を付いた。
ぐしゃりと潰れた紙細工のように両膝を付き、ソティナは両手を強く握りしめる。その声はまるで泣く寸前のように濁っていた。
「──そんなの、無理に……決まってるじゃない」
「……ソティナ、今は休め。お前は何かを背負いすぎているのだろう」
ソティナの礼装が土に濡れる。殺意はまるで元から無かったかのように、綺麗さっぱり消え失せていた。ここまでの感情の推移は始めて見た。相当な精神状態だ。
私からすれば、ソティナは何かに追われているように見えた。そして、かけた声に反応してソティナは乾いた唇を動かす。
「──ねぇ、シエナ。これから一緒に世界を回りましょう?」
「それは構わんが……急だな」
そして、ソティナはふふ、と笑うとゆっくりと立ち上がった。
「昔みたいに一緒に遊んで、一緒に飛んで、一緒に歩いて──……ああ、そうね。でもあなたはちょっと大きすぎるわね……昔、人間の形をとったことがあったじゃない?今は出来るかしら?」
「……可能だ」
「今それを使って欲しいの。お願い」
「ああ……良いだろう」
何かおかしい。ソティナは狂ってしまったのではないか、と疑問が浮かぶが、すぐに消えた。それに、そんな事を考えても無駄なことだ。
例えソティナが狂ったとしても、私はソティナの友で在り続けるのだから。
そして、私は記憶の片隅に残っていたその魔術を一息で起動する。変化は一瞬だった。
縮む。肉体が、鱗が、牙が──熱を発しながら収縮し。
「……これで良いか?」
そして形作ったのは、幼い人間の、少女の形。ソティナと比べても小さなそれになった私は、違和感を感じながらもソティナを見上げる。
そしてソティナはここ最近での一番の笑みを浮かべた。
「──ええ、完璧よ」
やはり、どこか泣いているような顔で、彼女はそう言ったのだった。