狂った竜と吸血鬼   作:ふむふむ

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すれ違い

 ──パキリ、と何かがひび割れる音が鳴った。それは、一体なにに入った傷なのか。

 思わずそんな事を考えていると、突然ソティナが壊れた様に笑い出す。

 

 

 「……ふふ、ふふふ──あははは!そうね!そうよね!どうせこうなるんだわ!!」

 

 

 「……どうした、ソティナ。気疲れでもしたのであれば、今夜はここで共に夜を明かそう。久方ぶりの語らいだ。

 一月(ひとつき)は語らい合い続けるつもりであったが、何もない空虚な時も、お前とならば充足した時間になろう」

 

 まるでどこかの令嬢のような高笑いである。いや、そもそもソティナは令嬢だったか。わざわざこんな山奥まで来てくれたことには感謝しかない。

 

 「──ねえ、シエナ」

 

 ──ぼっ、と。業火が(とも)された。そうと錯覚してしまうほどに、熱い熱い『魔力』。

 目に見えるほどに熱量を秘めたそれが、ソティナの肉体から発散される。これは確か──吸血鬼(ヴァンパイア)の臨戦態勢であったはずだ。

 

 ソティナ。何故、今お前はそうなる。疑問を瞳に宿し、見詰める。

 

 「……私達《永劫種》はね、『世界に危険を(もらた)す物を排除する』って言う、共通の役割があるの」

 

 「知っている。故に永劫種は永劫種足るのだからな」

 

 「……ねぇ、シエナ。気がついてないのかしら?」

 

 「……なにがだ?」

 

 何故、泣きそうな顔でこちらを見遣る。何故、右手を握り締める。

 何故、その瞳には殺意が滲んでいる。

 

 「ねぇ、シエナ。あなたは昔だったら、なにもされてないのに国を襲うなんて……そんなことしたかしら?」

 

 「昔?かつて共に空を舞った時代のことを言っているなら、しなかったであろう。だが、気にすることはない。我がしたことは当然の事だ」

 

 「……ねぇ、シエナ。あなた、言っていることが──……あぁ。でも、もう今更よね……」

 

 ソティナの瞳に殺意が灯る。同時に、握られた右手に魔力が収束し始める。

 殺意は小さく、だが確かにそこにあった。ロウソクに着けられた火の様にめらめらと滾るそれが、やがて彼女の瞳を覆い尽くし。

 

 そして、数秒、数分……いや、数時間か。もう時間の感覚すら覚束ない。だが、長い時間が流れたことは確かだ。

 そして──ソティナは崩れ落ちる様に膝を付いた。

 

 ぐしゃりと潰れた紙細工のように両膝を付き、ソティナは両手を強く握りしめる。その声はまるで泣く寸前のように濁っていた。

 

 「──そんなの、無理に……決まってるじゃない」

 

 「……ソティナ、今は休め。お前は何かを背負いすぎているのだろう」

 

 ソティナの礼装が土に濡れる。殺意はまるで元から無かったかのように、綺麗さっぱり消え失せていた。ここまでの感情の推移は始めて見た。相当な精神状態だ。

 私からすれば、ソティナは何かに追われているように見えた。そして、かけた声に反応してソティナは乾いた唇を動かす。

 

 「──ねぇ、シエナ。これから一緒に世界を回りましょう?」

 

 「それは構わんが……急だな」

 

 そして、ソティナはふふ、と笑うとゆっくりと立ち上がった。

 

 「昔みたいに一緒に遊んで、一緒に飛んで、一緒に歩いて──……ああ、そうね。でもあなたはちょっと大きすぎるわね……昔、人間の形をとったことがあったじゃない?今は出来るかしら?」

 

 「……可能だ」

 

 「今それを使って欲しいの。お願い」

 

 「ああ……良いだろう」

 

 何かおかしい。ソティナは狂ってしまったのではないか、と疑問が浮かぶが、すぐに消えた。それに、そんな事を考えても無駄なことだ。

 

 例えソティナが狂ったとしても、私はソティナの友で在り続けるのだから。

 

 そして、私は記憶の片隅に残っていたその魔術を一息で起動する。変化は一瞬だった。

 

 縮む。肉体が、鱗が、牙が──熱を発しながら収縮し。

 

 「……これで良いか?」

 

 そして形作ったのは、幼い人間の、少女の形。ソティナと比べても小さなそれになった私は、違和感を感じながらもソティナを見上げる。

 

 そしてソティナはここ最近での一番の笑みを浮かべた。

 

 「──ええ、完璧よ」

 

 やはり、どこか泣いているような顔で、彼女はそう言ったのだった。

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