狂った竜と吸血鬼   作:ふむふむ

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始まり

 「……ソティナ、これでは動きづらいぞ」

 

 流石の私も苦言を呈する。そうせざるを得ないほど、ソティナに身に付けさせられた装備は窮屈な物であった。

 

 蒼い瞳を下から覗き込むと、ソティナは『マジであり得ない』とでも言いたげな顔をしてマジマジとこちらを見返す。どこかの何卒が、深淵を覗くときうんちゃらかんちゃらと言っていたが、あながち間違いではないだろう。

 私も、その反応に訳が分からないとばかりに目を瞬いたからだ。

 

 「シエテ……『服』ってね、その……必要なの」

 

 「だが我ら竜種には必要ない」

 

 沈黙。なんとも微妙な表情で、ソティナは固まる。私は不思議そうに一度首を傾げると、ゆっくりと説得を始めた。

 

 「まずだな、我らには『存在している』だけで発生させる……そう、磁場のような物がある。それは、あらゆる害意を防ぎ、あらゆる悪意を通さない類いの物だ。

 これは、先ほど説明した通り寝ていようとも泣いていようとも笑っていようとも、そして死していようとも消えることは無き、所詮言うところの──」

 

 「──あぁ、止めてちょうだい……貴女の種族自慢。……それと同じ内容を2000回は聞いたわ」

 

 「む、すまん」

 

 どうも長く生きていると感覚がおかしくなる。特に、既にはなしたことと話していないことの区別が付きづらくなくなるのも問題だ。

 

 「……しかし、これは良いとしよう」

 

 そして私は右手左手に付けられた、少々窮屈な腕輪を持ち上げるように見せる。ソティナはちょっと気まずそうにそれを見遣る。

 

 赤黒く、歪に煌めくそれ。恐らく最硬と名高いダマスカス鋼と特殊な性質を持つリズニア石の合金だろう。ちなみにリズニア石が金属のくせに何故石と呼ばれているのかはよく分からない。忘れてしまった。

 さて、これの何が問題なのかというと……流石に、この肉体でこれはちょっと重たいのだ。何せ、本来数千数万倍、いや、それ以上はあろうかという体積の私の肉体を、かなり無理矢理歪めて人間サイズに押し縮めているのだ。

 

 元々『魔術』とは理を歪めるものではない。故に、()()()()()()()()流石に理に反した事をやればそれなりにデメリットが付く。

 

 今回で言えば身体能力の七割程の制限がかかっている上に、魔力の出力制限。お陰で、本来欠片も意に介さぬ程の小物であっても流石に気になってくる。

 

 「……もう分かってるでしょうけど、それ、貴女の肉体能力に制限をかけるものよ」

 

 「うむ」

 

 深刻そうな顔をしたソティナに頷く。それは分かっている。そのせいで七割削れた身体能力が更に削れた。本来と比べて一割弱もポテンシャルを発揮出来ないだろう。

 

 「貴女の力を人間レベルに抑えるのは勿論だけど、魔力も制限を掛けているわ」

 

 「うむ?」

 

 ここで齟齬が発生した。『私の肉体能力が人間レベルにまで落ちている』。

 これはあり得ない発言だ。ソティナで無かったら消し飛ばしていたかもしれない程に。一割弱もあれば人間国家など片手で滅ぼせる。

 流石にソティナ相手にそのようなことはしないが、ちょっとキレそうである。

 

 ……いや、人間の幼女のレベルが上がっている可能性はあるか。もしかすれば、人間社会の中では幼い頃の方が肉体能力や社会的地位が高い可能性がある。

 

 なるほど、と納得していると、ソティナが続けた。

 

 「今は実感出来ないでしょうけど、いざ魔術を使おうとすれば気が付くと思うわ。単純に言うと、それが行っているのは出力の制限よ」

 

 「うむ」

 

 つまりなんか分からんがほとんどすべてが制限されていると言うことだな!

 

 「……これで貴女はそこら辺の獣にすら劣る力しかない事になったわ」 

 

 「……うむ?」

 

 ……なんかソティナと感覚に齟齬がある気がしてきたな。適当に力を込めて視力強化の魔術を発動する。

 

 

 ……発動出来た。強化した視力で、目の前でなんか申し訳なさそうな顔をしながらも、こちらをしっかりと見詰め続けるソティナを真っ正面から見返す。

 

 「──うむ!」

 

 まあ良いか!大丈夫であろう!多分!

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