「何だ…あれ」
アタシは茫然と呟いていた。
「何だ、アレ」
再び呟く。
ウォールナッツ円環の理店とでも言うべき場所も騒然と…。
「先輩!見てみて!アレ凄いの!」
「あーもう分かってるカラ。今インスピレーション湧いてきて、メモったりしてるんだから少し落ち着いてヨネ」
「あの連中、最近見ないと思てタラあんなコトしてたとは驚きネ」
「僕もずっと手合わせしたかったんだよねぇ。暇が出来たんならコンタクト取ってみようかな」
慣れ過ぎだろ。
なんだこいつら?
アタシがおかしのか?
「都ひなの。デザートを注文するが、そちらは何か希望はあるか?」
「プリン三個」
佐倉杏子って奴を二十代にさせたアバターになった魔神にアタシはそう返した。
アタシも大概だな。
「それにしても、いやはや壮観だ」
注文を取りに来た給仕さん、ミネルバXに注文を言いながらZEROは言った。
ミネルバはその顔を見もしない。
まぁそもそも、未亡人みたいに顔を黒布で覆ってるから見えないんだけど、いや、きっついな…この態度。
ま、それはいい。
今は眼の前の光景だ。
窓の外に広がるのは、富士山の周辺を模した環境の風景。
あの日本最大の山の麓にはアタシのラボがある。
よーく見ると、白色の富士山を模したような施設が見える。
その近くに、青空の彼方からゆっくりと何かが降りてくる。
それが地面に着いた。
衝撃はないけど、確かに衝撃と激震を感じた。
それは……足。
足だ。
まるで純白の甲冑に覆われた、中世の騎士みたいな。
ただし、その大きさが異常すぎる。
尖がった足の先端。
それだけで富士山と大して変わらないデカさだ。
脚じゃなくて、足でこれだ。
当然、その足は更にデカい脚に繋がる。
色は雪みたいな純白。形は甲冑の滑らかさ。
なんだ…これ。
いや、でもアレだ。
見覚えがあるぞ。
こいつは……たしか。
「そうだ。あれこそが円環の理防衛用超絶ド級機械獣」
「ゴードンヘル……だと」
見てる内に、デカすぎる全容が明らかになった。
鋭い脚とくびれた腰、その上の菱形みたいな胴体、そこから伸びるのは……巨大な龍みたいな腕。
胴体の頂点には甲冑で覆われた顔。
全体的な大きさは……100キロ以上はあるんじゃないのか…?
って、それは元のゴードンヘルの10倍近いぞ!?
それと形は…浄火のドッペルに似てるか。
となると、アレは…。
「御明察。あれを製作したのは中世ヨーロッパの面々だ」
オウ……。
マジかよ。
おいおいおいおい…。
アタシ、消えて無いか?
なんか、意識的に存在が希薄化してる気がすんだけど。
アタシの存在意義、消えてない?
「これまで長かったのもだ」
幸いというか残念というか、アタシは消滅していないらしい。
永遠の存在という訳か。
気分を強引に切り替えて、アタシは魔神の話を聞くことにした。
聞いた方が良さそうだ。
「彼女たちはまず故郷の石を切り出し、それを元に無数の形を造っては壊しを繰り返した」
ううむ…。
「幾度も幾度も、試行錯誤を繰り返した。そしてミケーネの石巨人に相当するものを製作するまで、約500年」
…え?
「機械獣ガラダK7、ダブラスM2に至るまで更に1500年」
いや…ちょ…。
「量産にこぎつけ、生産プラントを完成させるまで15000年。くす玉を割り、テープカットをした瞬間が懐かしい。その役は最年長という事で王妃が務め、工場長も兼任した」
………絶句ってな、こういうコトを言うのか?
「その後、方向性の違いにより戦争状態に突入。巻き添えで機械獣生産プラントは崩壊」
「……根っからの戦闘民族だな」
「その戦争では機械獣が用いられたのも戦火の拡大を促した。この戦争の中で合体機械獣ガラダブラMK01が完成し、青き鎚鉾使いの従者と烏面の長女が乗り込み操縦した」
どんな組み合わせだよ。
陣営のメンツが気になるな。
「王妃と聖女の側も対抗し妖機械獣を開発し、戦火の中で更に技術は発展した。王妃・聖女対長女・暗殺者陣営の戦争は2000年に及んだ」
戦争ってな、カンフル剤なんだな。って、やりすぎだろうがよえーーーー!
「その後も和睦と対立、工場の破壊と新工場完成と落成式を繰り返し…ああ、あくまで開発における議論の対峙のようなものだから、彼女らの人間関係は良好だ。安心してくれ」
「…おう」
…最強最悪の魔神って呼ばれてた自覚はあんのかね、この神は。
「その果て、開発開始から75000年を経て完成したのがアレだ」
「ななまん…ごせんねん…だと」
落ち着け。
整理しよう。
何もおかしい事じゃない。
闇の帝王が戦闘獣プラントを造るのに掛った時間は3500年と1000年のハズだ。
それを考えれば、連中が万年単位の時間を掛けたのも……。
いや、そういう問題じゃない。
連中はその時間を一つの事に打ち込み、そして成果を出した。
それが…ていうかそこに……アタシは嫉妬しちまってるのか。
そうか。そうだな。
時間は無限にあるんだ。
たったの50年がなんだ。
時はアタシの味方だ。
あの連中でもあんなのが出来たんだ。
なら、アタシに出来ないワケがない!
逃避的な感情だろうけど、俄然やる気が出てきた!
…と、思ったのは良いんだが。
あれは……ヨーロッパマギカ製のゴードンヘルは何のために来たんだ?
見た限り、戦闘態勢な感じなんだけどさ…。
「アレだ」
何時の間にか届いていたプリンを食べながらZEROは言う。
こいつ食欲旺盛だな。
そういや原作でもマジンガーZを実質無限体は喰ってたか。
「アレを倒す為に、彼女らは出撃しているのだ」
空いている左手の人差し指を伸ばす、佐倉杏子の姿のZERO。
細い指の彼方は青空。
その一点に浮かぶのは、真紅の大輪……って、おいおいおいおいおい。
「私だ。マジンガーZEROだ」
そう言うのもZEROなんだが……いや、深く考えるのはよそう。
同時に一切の矛盾なく偏在できる事ぐらいはやるだろうさ。
その実例を今やってるだけだ。
これも基本性能、というかそれ以下の機能ですらないものなんだろうな。
「今回も模擬戦だが、私も相応の気構えで戦う筈だ。その結果は私にも予測できない」
「楽しそうだな」
「楽しいに決まっている」
裸眼でも簡単に見える筈なのに、何処からか取り出した望遠鏡で彼方を見ている。
…望遠鏡の淵がマーブルチョコのリングみたいになってるのは仕様なのか?
「相応の気構えって言うと、相当に強いんだな」
「かなりな」
「同じ事二回言うみたいだけど、自分が滅びるかもしれないってのに随分楽しそうだね」
「だからこそ面白い」
破滅を望んでる訳でもなく、負ける気も無い。
それでいて相手を侮ってもいない。神様ってな……ワケが分からねぇな。
「なら…楽しみを増やしてやるさ」
視線の彼方で対峙する魔神と円環製の地獄の王を見つめながら、アタシは笑った。
「あと一万年で、アタシも成果を出してやる」
アタシの宣言にも、ZEROが満足そうに頷いた。
そして空の彼方で、戦いが始まった。
この展開に一番困惑してるのは自分なんだよね(龍継感)