「聖女よ。遂にこの時が来たか」
「はい、誠に長い時が経ちました……鉄(くろがね)の神よ」
傍らに立つ、赤い髪の女性の姿をした存在へと私は声を掛けました。
魔法少女の一人の姿を模して、本来の年齢から十年ほど歳を重ねさせた外見ですが、然してその実態は異界の神。
ああ、なんと素晴らしい事でしょう。
我らが女神に加え、神たる存在が更にお一方増えるとは。
この円環の理という世界が、いかに祝福に満ちた存在であるという事かの照明であると思えます。
「さて、私はそろそろ行くとしよう。心より健闘を期待する」
「畏まりました。失礼の無きよう…魔を滅ぼす気持ちで臨ませていただきます」
胸に手を置き、その心が本物であると伝えます。
甲冑越しだと云うのに、体内の胸の高鳴りが確かに感じられました。
「それは何より。それに私は言うまでも無く魔なる者。その意気である」
私の言葉に、神は微笑んでおられました。
そして軽く手を振って、姿を消し去られました。
私は隣から、正面へと視線を動かします。
一面の青空の下には、連なる山々が見えました。
私達が生きていた頃には無かった単位、メートルで表せば百から千メートル単位の雄大な山々ですが、今の視点からは道端の草と変わらないサイズに思えます。
それよりはるか上の空、私の、私達の視線の先にそのお姿が顕現されておりました。
私達の時代で戦場を駆けた騎士の方々とも似た、更に重厚さを増した甲冑のような姿。
白と黒の装甲と真紅の放熱板、邪悪を打ち砕かんとする恐ろしくも雄々しく美しき尊顔。
背後に背負われているのは永遠を象徴するような円の字の翼。
大きさは山々よりも遥かに小さいながら、その存在感はまるで一つの世界のよう。
対峙しているという現状に思わず足が竦み、身が砕けそうな想いが去来します。
しかしながら、私達は退きません。
この広い空間の中、私の背後に立つのは同じ時代を生きた魔法少女達。
敵と味方に別れた者達が、今一つの目的の為に手を取り合って共に進んでいるのです。
我らが神に挑むという、無謀で不遜な、されど明確な意思を込めた想いの元に。
白銀の剣を抜き放ち、私は叫びました。
「我らが神…終焉と原初を司る神よ!」
空に聳える鉄の城塞の如く玉体に剣の切っ先を突き付け、私は言葉を紡ぎます。
身体の内側で燃え上がるのは、恐怖なのか闘志なのか、修行の足りない私には判別がつきませんでした。
「我らが力、存分にご堪能あれ!!」
私の叫びと呼応して、背後で一斉に金属音が鳴りました。
鞭に弓、鎚矛に短刀、火砲に剣、そして槍。
魔法少女達が自身の武装を抜き放った音でした。
戦意は十分。その様子に一瞬でも疑いが無かったとは言えません。
私自身が怯えていたのですから。
しかし、今は内心に向き合うよりも外側に力を注ぐ時でした。
異界より訪れた魔なる神に。
そんな私達に向け、光が文字となって輝きました。
私達の母語でしたが、円環の理内で広く用いられる言語である日本語で示せば、それはこんな言葉でありました。
その神の言葉と期待に適うべく、私達は各々の力を解放しました。
私達が造り上げたこの存在を、魔法少女の力が包み込んでいきます。
戦いが始まる寸前、私に触れた魔力が、そこに乗せられた記憶が私の中に流れ込みました。
恐らく、他の方々にも同じ事が起こっているのでしょう。
魔力が駆け巡るその一瞬のうちに、私達はこれまでの経緯を思い出していきました。