真マジンガーZERO 対 アルティメットまどか   作:凡庸

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特別編 世の果ての宴③

 酒による酩酊感で揺れる視界。

 円環の理の中で繰り広げられる光景が変化し、コルボーの周囲の景色が一変していく。

 瞬く間に、彼女の周囲には闇の帳が降りていた。

 

 そこは広大な空間だった。

 そしてそのあちこちに、建造物に等しいサイズの物体が並んでいる。

 それは金属の台であり、様々な調度品を収めた棚であった。

 広大な空間は、物語に出てくる巨人が住まう家の内部に思えた。

 だが、並ぶ品々は生活のためのものでは無い事が一目で分かった。

 

 高い天井から垂れた鎖は禍々しい棘で覆われ、末端には鉤爪が付いている。

 鎖付きの鉤爪は何十本も垂れ下がり、爪には何かの破片がこびり付き、鎖の棘は得体のしれない粘液のような光沢で濡れている。

 壁には巨大な鋸や釘にハンマーが立て掛けられ、これらも破片や粘液を付着させていた。何に使われたのか、コルボーには察しが付いた。

 

 

「拷問か」

 

 

 彼女が言い終えた時、不愉快な音が彼女の耳朶を打った。

 巨大な台の上には、これも巨大な存在、生物のような何かが横たわっている。

 

 

『では質問を再開だ。これを見ろ』

 

 

 闇の奥から、その声は響いた。

 物静かで落ち着いた、男性然とした声。コルボーはその言葉をそう認識した。

 その瞬間、彼女の背に怖気が奔った。

 その声は、数多の次元から円環の理に導かれて人格を統合された、百戦錬磨の狂戦士さえも怯えさせたのだった。

 声の主は、闇の奥から台の元へゆっくりと近付いて来た。

 

 

「こ」

 

 

 コルボーは声を絞り出した。

 

 

「こいつは………」

 

 

 無限に等しい戦闘経験と人間の悪意と殺意、憎悪に身を浸してきたコルボーでさえ、その存在を異常と感じた。

 それは、彼女らの生きていた時代の存在を例えにすれば城塞や塔を思わせる高さの身長を持った、光で形成された巨人だった。

 メートルに直せば、十メートルを超えているだろう。

 確かに大きいが、これよりも巨大な存在は幾らでもいる。

 例えば機械獣ならば三十メートルが基本サイズであるし、女神の護衛の天使達は四十メートル以上の体躯がある。

 この世界に住まう終焉の魔神に至っては、大きさの概念が無意味と化すほどに巨大化できる。

 コルボーが言葉を喪ったのは、光で形成された巨人から異様な気配を感じたからである。

 

 

『ふむ、このままでは億劫だな』

 

 

 光の巨人が台の上へと顔を覗き込んだ。兜で覆われたような頭部には、人間の顔に似た造形が伺えた。

 長く通った鼻筋と厚めの唇の形が光によって曖昧ではあるが形作られている。

 カリグラ、という古の皇帝の名前がコルボーの脳裏に浮かぶ。

 その彫像の顔が、どこか似ていると思ったのだった。

 

 

『これでよし』

 

 

 伸ばされた巨大な手が台の上の存在を掴み、引き上げた。

 それは、襤褸を纏った骸骨を思わせる異形。

 救済された筈の世界に救う世界の歪みである、『魔獣』と呼ばれる存在だった。

 その異形を、この巨人は軽々しく扱っていた。

 魔獣は抵抗しない。出来なかったからである。

 

 その魔獣の手足は根元からもぎ取られ、ほぼ全ての「肉」に当る部分が削げ落されていたからだ。

 残るは皮と骨と、弱弱しく鼓動を続ける臓器のみである。

 その魔獣へ、巨人は一枚の絵を見せた。

 巨人のサイズなので、それもまた小屋の床のように広い。

 その一面には、並んで立つ二体の人型が映っていた。

 

 

『では質問。どちらがスタースクリームだ?そしてどちらがサンダークラッカーでスカイワープだ?或いはアシッドストームでホットリンクかビットストームか?』

 

 

 巨人が魔獣に尋ねた。

 理不尽な問い掛けであった。何故ならそこに移った二体は、寸分たがわず同じ外見をしているからだ。

 

 

『五秒待つ、述べよ』

 

 

 魔獣は動けない。舌や声帯に当る器官は既に千切り取られている。

 取り出されたり抉り出された部分は、台の空いた部分や地面に雑に積み上げられている。

 その数は膨大であり、一体二体分では無かった。つまりこれは、夥しい数の魔獣に対して行われていたということになる。

 

 

『時間切れだ。では罰ゲームといこう』

 

 

 時間切れと言ったが、この言葉は述べよといった直後のものだ。最初から答えなど聞く気はないのだろう。

 

 

『因みに答えだが、俺も知らないしどうでもいい』

 

 

 本人も実際にそう告げたことからして、先の質問は単なる悪ふざけである。

 

 

『よく見ておくといい』

 

 

 巨人がそう言った。だがそれは、コルボーに対してのものではない。

 巨人は彼女を認識しておらず、今のコルボーは空間で繰り広げられる状況を観測する、いわば読者のような立場に過ぎなかった。

 

 

『獣という割には人型だが、この魔獣という存在の内部構造や性質は面白い』

 

 

 光の手が魔獣の臓物を撫でる。異形ながら生き物らしく脈打ち、触れられた事への苦痛と恐怖に震えていた。

 

 

『この形状は大別したパターンFの125分類に当る。ああ、細かい数字は気にしなくていい。これは俺の趣味と』

 

 

 巨人はそこで言葉を区切った。言いにくそうだった。

 

 

『あの魔神からの依頼だ』

 

 

 苦々しく、巨人は言う。

 言いながらも手は動き、魔獣の臓物を指先で摘む。

 巨人の指先、というより人間でいう指の腹からは鋭角が飛び出ていた。

 それは針であり、ドリルであった。当然、魔獣の内臓はそれに突き刺され、体液である瘴気が漏れ出した。

 全く気にせず、巨人は手を左右に引いた。内臓が弾け、正気の血飛沫が飛ぶ。

 巨人はそれを避けようともしなかった。

 

 そして飛散したそれを、銀の盾が弾いた。台の上に、盾を構えた人影があった。

 縦長の盾は人の身長よりも大きく、人間の眼の位置には隙間があった。

 その隙間から、盾を構えた者は作業を見ている。

 緑髪をした、軽装ではあるが鎧を模した衣装を纏った少女であった。

 盾を構えながら、背もたれに奇怪な形状の突起を幾つも生やした、奇怪な椅子に座っている。

 

 

『見学者がいるのだぞ。もっと気の利いた事は言えないのか?』

 

 

 手を躍らせながら巨人は言う。針が内臓を貫き、ドリルが繊細な器官を無惨に破壊する。

 魔獣の声にならない悲鳴を聞いて、巨人は溜息をついた。

 

 

『叫び声は退屈だな。もっと練習しろ』

 

 

 言いながらも臓器をこね回し続ける。

 言葉の通り、巨人は退屈そうだった。

 

 

『しかし貴女は良い趣味をしている。俺の趣味を理解し、技術を学んでくれるのならこれほどうれしい事も無い』

 

 

 広げた五指で複数の内臓を掴み、握り潰しながら巨人は告げた。

 魔獣に対する態度とは真逆に、声は穏やかだった。

 それが、コルボーには恐ろしかった。

 装甲を纏った外見に人間に酷似した姿、機械でありながら備わった思考。

 円環の理でよく見かける,異世界の住人の一つ。

 セイバートロン人、通称トランスフォーマーと呼ばれる連中の一体に違いなかった。

 

 聞いた話では数百万年にも渡って同族同士で絶えず戦争を繰り返してきた種族の一体。

 考えただけで頭がおかしくなりそうな時間であり、それは戦争を楽しんでいたコルボーとしても理解不能としか思えなかった。

 そんな連中の中でも、この存在は異常に思えた。

 凝り固まった殺意と嗜虐心の塊でありながら、その思考に囚われていない。

 金属生命体であり、魂であるスパークは故郷の星の中枢から発生するセイバートロン人に性別は無意味だが、仮にこれを彼とするのならば彼が魔獣に加える拷問を見せる相手である彼女への態度は真摯な紳士であった。

 

 

『さて、では次はあの連中の見学だったな。行き方は空か陸か、どちらがいい?』

 

 

 魔獣の肉体、既に胴体も顔も丸められ、肉団子然とされた物体を捏ね回しながら巨人が尋ねる。

 死なせずに苦痛を引き出し続けるやり方を熟知しているようで、魔獣は死ぬに死ねずに苦しみ続ける。

 盾の隙間からの視線は下へと動いた。良い選択だ、と巨人は返した。

 

 

『トランスフォーム』

 

 

 言葉が告げられるのと、魔獣が放り投げられる事、そして言葉の意味である『変容』が完了したのは完全に同時だった。

 巨人の上半身と下半身が分離する。上は光の爆撃機、下は重戦車へと形を変えた。

 放り投げられた魔獣が、何かに激突したのは、少女を乗せた戦車が爆撃機を引き攣れて彼方へと走り去った時だった。

 そこには原型を留めぬほどに破壊され、拷問され尽くされた魔獣達の山が出来ていた。

 山というのは比喩ではなく、文字通りの死山血河が形成されている。

 今もそこに新たな一つが加わったに過ぎなかった。損壊されても死にきれない魔獣達からは黒々とした瘴気が湧き上がっている。

 それは上へと昇り、そしてある一点へと漏斗状に向かい、どこかに吸い込まれていった。

 

 
















この存在の名前は『オーバーロード』
渋の大百科の「IDW版」の項目に詳しい事が載っております
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