無限無窮の光が砲撃となって迸る。
円環の女神の導きにより無数に顕現した光の戦士たちが、手に携えた武具から光を放ち、または自らが光となって飛翔していった。
輝く神鳥の姿となった古代の戦士が、全身に超電磁を纏い刃を備えた竜巻となった鋼の巨体が。
そしてそれらを遥かに凌ぐ巨体を誇る単眼の巨体が、太い右足に稲妻のような輝きを帯びた蹴りを放って突撃していく。
それらの終着点に聳える、鉄の魔神を目指して。
無数の攻撃を、魔神は真っ向から受け切っていた。
放たれる光の弾丸と熱線は全て魔神に直撃するも、容易く弾かれるか水のように滑り抜けていく。
超高熱による物質の変性さえも見られず、分子単位で変化が無い。
それどころか、装甲の温度さえも変化していないかもしれない。
そこに殺到する神鳥の嘴、超電磁の竜巻、そして稲妻のキック。
光速を上回る速度を有したそれらに、ZEROは動いた。
数憶分の一秒程度の時間の後に、それらは光へと還っていた。
魔神が薙いだ左腕の刃には嘴の一部と電磁の残滓が絡みつき、髑髏のような口には稲妻を宿した装甲の一部が咥えられていた。
ただの薙ぎ払いと噛み付きからの投擲で、ZEROは三体の鋼の勇者たちを光に還した。
そしてZEROは上空を見た。
先程の三体はこれを通すための布石でもあったのだろうか。
そこには二体の刺々しい造形をした重厚な姿があった。
二体がそれぞれの胸の前で両手を合わした時、『天』と『烈』の文字が浮かんだ。
浮かんだ光の文字を、複数の巨大な炸裂が覆い隠した。
荒れ狂う光の奔流はまるで、異次元の門が開き、冥府と繋いだかのような光景だった。
それを為した二体、冥府の王とでもすべき存在達は二つに裂けていた。
破壊の奔流もまた真っ二つに割れている。
消えゆく光のを更に切り裂き、巨大な二つの刃が飛翔していた。
光の文字でZEROは呟く。そして二体の冥王と、顕現した冥府の世界を切り刻んだ両腕が主の元へと舞い戻る。
腕が接続されるよりも前に、ZEROの左右から二体の機影が迫った。
それらもまた、似た姿をしていた。
細身の身体に、鬼を思わせる一本角。
光のシルエットは曖昧模糊としていたが、右のものは四ツ目。左のものは人間に似た二ツ目であるように見えた。
両者が携えたのは、右は異形の天使たちが持っていたものとよく似た螺旋を描いた二又の槍。
左は螺旋を描きつつ、斧のような趣となった槍を持っていた。
似てはいるが、相反する存在。
それぞれが絶望を希望を冠された機体であった。
それらが左右から急襲し、二種の槍をZEROへと突き立てに掛かる。
その寸前、両者の前に文字が浮かんだ。
文字の奥で、魔神が両腕を両者に向けていた。
魔神の腕の断面が展開し、複数の射出口が生成される。
孔から覗くのは、牙のような鋭い刃。
文字の意味を理解した瞬間、二ツ目が八角形の障壁を展開した。
それを紙のように引き裂き、回転する刃の弾丸が二体を弾き飛ばした。
障壁と槍の旋回により全壊は免れていたが、身体の各部が大きく抉れていた。
その間にZEROは両腕を接続。追撃は不要とみたか、四ツ目に抱えられて撤退していく様子を横目で見送っていた。
忌憚のない意見とでも言うように、ZEROは光でそう呟いた。
自分が苦労を与えた加害者である自覚があるかは、定かではない。
その顔面へと巨大な光線が激突した。
微動だにせずに、その根源を魔神は見つめる。
遥か彼方、長大な火砲を両手で握る機体の姿が見えた。
体型は先の二体と似ていたが、それは単眼であった。
感慨深いものを感じているのか、どことなくしみじみといった語感でZEROは呟く。
その時ふと、渦巻く眼がギョロリと動いた。
渦巻く眼が見た先には、巨体ではなく等身大の機影があった。
数は二体。
一体は丸い眼の単眼をした、フレームが剥き出しの身長2メートル程度のもの。
どこか古典的でレトロな姿が印象的だった。
もう一体は、幼い子供の姿をしていた。
マントを羽織った裸に近い上半身に長ズボンといった出で立ちは、両腕がフレキシブル構造をしていなければ人間としか思えなかった。
例によって曖昧な姿だが、魔神には姿の詳細が見えていた。
獰悪な口が、音を立てて歪む。
嗤っているらしい。
その様子に怯むことなく、二体は行動を開始した。
古典的な姿のものは魔神をかく乱する為か高速で飛翔し、少年姿のものは魔神に向けて右手を掲げた。
手の中央には、煌々とした光が宿り始めた。
全てを熱で葬り、弔うかのような光であった。
「や、お勤めご苦労」
背後から生じた声に少年は振り返った。
その腹に、黒い長シャツで覆われた腕が減り込んだ。
へそに相当する部分に肘鉄砲を放たれ、機械の少年は悶絶していた。
そこにいたのは長い黒シャツと青いジーンズを纏った、二十代半ばほどの赤い長髪の美女だった。
少年を右肘で撃ち抜いた女の左手には、既に単眼のロボットの首が握られていた。
首から下はなく、首の断面からは生き物のようにのたうつコードが下げられていた。
最後の抵抗か、リカバリーをしようとしているのか。
外見に違わず、オーバー・テクノロジーが施された存在のようだった。
少年は気絶し、もう一体も行動不能。
「はい、後はごゆっくり。深淵(アビス)と米軍に還るがいい」
女は両者を軽く投げた。
缶入りの飲料水を渡すかのような手付きだったが、離れた瞬間に二体は消滅した。
女が告げた場所へと還った、というか還らされたのだろう。
「それにしてもその場のノリで姿を変えたが、やはり良い。推しの姿はモチベが上がる」
人の言葉を語るが、宇宙空間で生身を晒して活動可能なものがまともである筈も無い。
女は瞬きすらせず、心音も放っていない。
その元へ、無数の光が殺到した。
光の中、女は硬質の笑顔で微笑んだ。機械が笑うとしたら、恐らくこうなるだろう。
そしてこう告げた。
「ルストハリケーン」
女の言葉に合わせ、宇宙を埋め尽くす光の大竜巻が生まれ出ていた。
それは迫る光とそれらの紡ぎ手達を飲み込み、際限なく拡散していく。
光は上下に開かれた魔神の口より放たれていた。
全長数十メートルの存在が放っているのは、一つの宇宙や世界に相当する巨大さをもった破壊の力だった。
「客観的に見ると理不尽な光景だな。流石は私」
魔神の貌の横に立ち、女はそう評した。
長い赤髪を頭頂のリボンで束ねた女は、魔神の意思の化身であった。
魔神としてのZEROも、女の姿を取ったZEROも完全な同一存在。
ZEROは個であり全てである。
それは嘗て宇宙の全てに適用されていたが、今はZEROという存在だけに施されている。
真紅の女の姿で魔神は自らの破壊の光景を見る。
全てが破壊の大渦に包まれていたが、魔神にはその先も見透かせていた。
渦の奥で、光という光が集まり形を成していく様子が見えた。
その光の中央には、翼を広げた桃色の女神がいた。
女神もまた渦の先にいるZEROの姿を見据えている。
「さてアニメや漫画で云えば、そろそろ主人公側の切り札に相当するものが来る頃か。勿論主人公は貴女で、私が悪である」
硬質の笑みを浮かべながら女は語る。
馬鹿にしている訳では無く、こういう形を好んでいるようだ。
その時、真紅の瞳が何かを捉えた。
大渦の奥で、光が天に吸い込まれていく様だった。
そして彼方で蠢くものを見た。
女の口角が大きく吊り上がる。
「やるではないか!女神よ!」
女は、化身とは言えその姿を取ったZEROは叫んでいた。
叫びに含まれるのは、掛け値なしの称賛。言い終えると、女の姿は光となって消えた。
そして宇宙を埋め尽くさんばかりの大渦を、巨大何かが貫いた。
それもまた、渦であった。
光で出来た、途方も無く巨大な円錐。ドリル。
激烈な回転が、ZEROが放った大渦、ルストハリケーンを跡形も無く吹き飛ばしていた。
光の晴れた先には、巨大な、途轍もなく巨大な存在が聳えていた。
ドリルは巨大な腕へと続き、筋肉が隆起した逞しい人間の身体へと繋がっていた。
体表には常に光が渦巻き、身体全体を渦で構築しているかのようだった。
それは宇宙よりも遥かに巨大な、全長1500億光年を超えるサイズの人間の姿だった。
そしてその出現に合わせ、宇宙自体が拡大していた。まるでこの超人が、宇宙の支配者と化したかのように。
逞しい身体の背後では、これもまた巨大な外套が炎のように靡いている。
立ち昇る噴火の如き揺らめきを持つ頭部に、刺々しい形のグラサンがトレードマークのように据え付けられていた。
魔神の知覚能力を以て、ZEROはその存在を認識していた。
更にその背後でも、気配を察知した。
そこにもまた光があった。
だが聳える巨体とは異なり、くすんだ輝きの光、闇に近い光だった。
それもまた巨大な姿に変貌していく。
超巨大な人型と同サイズの、刺々しい造形の骨で出来た怨念じみた姿だった。
湾曲した二本の角は、鬼か悪魔を思わせる。
しかし禍々しい姿の周囲には、白く輝く無数の小さな影があった。
それは平和の象徴である、鳩の姿を思わせる光であった。
顕現した二つの超存在の中央に立つ魔神は、その光景を感慨深く眺めていた。
光の文字で賛美を送る魔神。
そして二体の超存在達は、示し合わせたように腕を掲げた。
超人の姿をした者は右腕。鬼の姿をした者は左腕を。
超人は振り上げざま、背に羽織ったマントを掴んでいた。
それは力強く右向きに渦巻き、その姿さえも遥かに上回る超弩級に巨大な螺旋と化した。
魔神の計測では、その大きさは1兆と5000億光年を超えていた。
対する鬼もまた、左腕を同サイズの、更に鋭利で禍々しいドリルへと変貌させていた。
対になる存在である事を示す為か、左向きの回転であった。
そして両者は高々と掲げたドリルを前へと突き出し、体を光そのものと変えて飛翔した。
轟々と回転する超弩級の巨大ドリルを前に、魔神はそれぞれの切っ先に向けて両腕を伸ばして漆黒の五指を開いた。
最早言葉は無意味、不要とばかりにZEROはそう短く告げた。最初の時と寸分違わぬ言葉であった。
そして直後に、宇宙全体に激震が轟き眩い光が炸裂した。
好き勝手の極みである