ロンドン、パリ、ニューヨーク、そして東京。
それら全てが、英知をかけて作り上げられた文明が跡形も無く消え去っていた。
街は根こそぎ抉られ、酸で溶かされ、溶岩の様に蕩けていた。
街だけではなく、大陸は砕け海は深淵の底まで干上がっていた。
その破壊はなおも休みなく続き、母なる地球は滅亡の最中にあった。
それを為したのは、神。
鉄の装甲で全身を覆った、人が創りし機械神であった。
胸の放熱板が真紅の光を発し、また一つの大陸を横一文字に切り裂いた。
圧倒的な破壊力。そして無慈悲さ。
燃え盛る地球には、最早人類の姿は無かった。
その様子を、人造の神は無慈悲な視線で眺めていた。
満足しているとも、ただ虚無を感じているともとれる、正に機械の視線であった。
そこに向けて飛来する、破壊された大空を羽搏く紅の翼。
それを背負うは、これもまた人造の神。
雄々しく荘厳な姿をした、機械の神。
魔神。
対峙する二体の魔神。
ここに、共にZを冠した魔神達の最期のデスマッチが開かれようとしていた。
その動きが、不意に停止した。
終え盛る炎も、砕ける大地も、地表を蹂躙し尽くす大渦も。
魔神の一体も、拳を掲げたまま動きを止めていた。
人類に終焉を齎した魔神のみが、その異変を知覚していた。
その魔神の前に、輝く小さな影が映った。
それは桃色をした、幼い少女の幻影だった。
光の文字が浮かぶ。
紅蓮に燃え盛る火球となった地表の上で、二体の魔神が争っていた。
一体は皇帝の名を冠し、もう一体はZEROという名を持っていた。
そして、勝負は決していた。
片方の魔神、皇帝が放った渾身の斬撃は、終焉の魔神を深々と切り裂いた。
しかし長大な刃は魔神の体内に吸収され、傷も完全に塞がっている。
そしてその剛腕は鋭い鋭角を有した皇帝の頭部を掴み、ベキベキと圧壊させていった。
皇帝を駆る勇者の、悲鳴に非ずの苦鳴が上がる。
光の文字にて死を告げた魔神の胸部が真紅に輝く。
破滅に抗う勇者が叫ぶ。
最後の抵抗を踏み潰すように、真紅が全てを染め上げる。
その中で、紅とは別の光が煌いた。
それは真紅の中でも鮮やかな、輝くばかりの桃色をしていた。
輝く文字が浮かぶ。
青い空。
青い海。
青々とした木々を生え揃わせた大地。
地球に寄り添い、夜の輝きを与える月。
その全てが、文字の出現と共に切断された。
腕に漆黒の禍々しい刃を携えた魔神が、側転の様に回転しつつ放った手刀によって。
斬線は地球を軽々と一蹴し、海を底まで断ち割り大地を地殻ごと切り刻み、軸線上のあらゆる生命を殺戮した。
挙句に衝撃を宇宙まで届かせ、月までもを両断していた。
地獄の名を持つ者の意思を宿した魔神は、現世に顕現した地獄以外の何物でもなかった。
地獄の魔神は、ただでさえ禍々しさに満ちた外見を、より邪悪なものへと変貌させた。
そして破壊が始まった。
世界を思うままに破壊し、好き勝手に新たな世界を創り出すために。
無数の命が無意味且つ無慈悲に奪われていく。
大地が唸り、山は悲鳴を上げ、海は天高く舞い上がる巨大な竜さながらの姿となった。
顕現した地獄の中、その光景にそぐわぬ一つの光が輝いた。
それは、少女の姿をした桃色の光。
「何をしようが変わらない」
黒いシャツに青いジーンズを履いた、黒髪の青年は語る。
凛々しい顔付の男らしい美青年であったが、その表情にはどこか人のぬくもりというものが欠けていた。
まるで、機械が人の真似事をしているかのようだった。
「世界はもう、確定したんだ」
断言する青年。その前には、拘束具で身を包んだ男の姿があった。
幾分か歳を経ていたが、その顔と姿は青年と同じであった。
男はその結末を否定し、叫んだ。
その表情が、凍りついたかのように停止した。
叫びの表情を浮かべた男の傍らに、彼よりもかなり小さな、背丈にして152センチ程度の少女の姿をした光がいた。
それを前に、青年は一切の表情の変化をしなかった。
まるで、来ることが分かっていたかのように。
そして彼は口を開いた。
それは複数の、そして無数の場所と時間で同時に発生していた。
これは、最強最悪の魔神の記憶と意識の中の出来事であった。
それらはすでに失われた、消え去った時間であったが厳然とした事実。
宇宙開闢の前に繰り広げられた、無限に続く地獄の連鎖。
魔神の意識の中には、あくまで記憶という形ではあるが全てが残っていた。
ZEROは個であり世界である。
過去を追憶するZEROは同時にあらゆる時間の記憶の中で存在し、別個であり個であった。
紛い物でもコピーでもなく、全てが同一ながら別に存在する。
人間の知覚機能と概念では理解しえぬ意識の集合体。集合体にして確固たる個体。
それがマジンガーZEROである。
その一つ一つに、女神は意識を飛ばしていた。
波の一つ一つが無数の刃であるかのような激流、猛毒の大河、炎の坩堝。
形容できる地獄の全てを合わせて濃縮してもまだ足りぬ、異形の思考をした魔神の意識。
一度入れば千々と乱れて消え失せる破壊の波濤に、女神は分身を放っていた。
そしてそれは奇跡を生んだ。
嘗て人としての最後の活動をした時と同じく、あらゆる時間と世界を繋いだように、記憶の中の魔神へと自分の意思を伝えた。
それは困難に屈した者の放つ哀願ではなく、共に戦おうという強い意思だった。
強がりではあったが、彼女にはそれを為すべき義務と、そして実行できる強さがあった。
そしてその意思に、魔神は応えた。
光の文字はそう告げる。
「了解した」
青年もまた言葉で告げる。
「貴女と共に」
「悪を討つ」
全ての場所で、光が迸る。
走った光は、魔神の砕けた刃を媒介に実体を形成した。
そして女神がそこに、希望の戦士たちを導いた。
こうして誕生したのは、それぞれが全長60メートルのマジンガーZEROの大軍団。
宇宙さえも遥かに凌駕する巨体となった、これもまたマジンガーZEROを十重二十重に取り囲む。
そこに搭乗するは、無数の魔法少女達。
名付けて『魔法少女軍団 in マジンガーZERO`s(ゼロス)』。
そう意味深且つ得意気に呟いたのは、ZEROの一体の中に搭乗した、銀髪の少女であった。
銀髪で覆われた左目は、赤々とした輝きを放っていた。
その言葉が契機となったかのように、無数の光が巨大なZEROに向けて放たれた。
…その言い回しはグレートのそれだし、悪ってのは自分の事になるんだけどいいんスかZERO様…
ZERO様はルール無用すぎるだろ…
前話の補完的な話となります
そして次回、決着(の予定)