真マジンガーZERO 対 アルティメットまどか   作:凡庸

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真マジンガーZERO 対 アルティメットまどか⑥

 青い空が広がっていた。

 空の下には日に照らされる街並みがあり、遠くには山々の連なりが見えた。

 逆に近くでは木製の垣根が見え、その手前には土で覆われた庭があった。

 庭の一部には家庭菜園が設けられ、プチトマトやキュウリが植えられ、青々とした輝きを放ちつつ収穫の時を待っている。

 

 その手前には木製の縁側が連なっていた。

 一杯のお茶と茶菓子が良く似合いそうな、程よくくたびれた縁側だった。

 そもそもここ自体、一戸建ての平屋自体も長年の経年劣化を示す痕跡がいくつもあった。

 天井に至っては、穴が開いているのか屋根の上に古箪笥が置かれている。

 

 しかしながら住人は上手く付き合っているのか、こまめに手入れが入れられている様子も見受けられた。

 縁側の上に埃や汚れはなく、柱にも漆が塗られている。

 屋根上の古箪笥は何かの間違いか、冗談だろう。

 

 公園の一角を思わせる庭の隅に、異様な物体が目立たないように置かれていた。

 真っ赤な色の、直径にして3メートルに達する巨大な輪。

 縁は刃のようにエッジが利き、上部と下部の二か所には槍穂のように尖った部分があった。

 それは、異形ではあるが翼であった。

 Zと0、そして無限を意味する、魔神の翼だった。

 

 

「お疲れ様っ。じゃあ、今回の模擬戦。題して『もしも私が闇落ちしたら円環の理はどうするか』、の感想戦と行こうか♪」

 

 

 六畳一間の和室の中。

 ピンク色の長い長い髪を伸ばし、白いドレスに身を包んだ少女はそう言った。

 弾んだような口調、そして魅惑のだみ声。

 彼女が座しているのは年季の入ったちゃぶ台。

 

 背後に行くに連れて長く伸びていく前に寄せ、スカートを掛け布団の要領で膝の上に掛けている。

 行儀が悪そうだが座り方は正座である。

 

 その正面にも少女がいた。同じ服装、且つ同じ姿であるが遥かに威厳が、というよりも現実感があった。

 幻想的な美しさを持つ存在、女神であるが、その正面に座るそれは美しいが戯画のような姿をしていた。

 確たる存在として実態を持っているのだが、どこか平面的にも見える。

 それは女神たる彼女をして、理解を超えた存在だった。

 

 しかしそれを、女神はさして不思議とは思わなかった。

 この存在と遭遇してそれなりの時間が経っているが、不思議さの度合いに限度が無いので慣れたのである。

 

 奇跡と魔法もある世界なのだから、不思議な事もあると納得している。

 懐が深く大きすぎる女神であった。

 

 ちゃぶ台に座す二人の女神の前に、湯気を立てる丼が静かに置かれた。どんぶりが置かれた皿は、黒い手袋で覆われた繊手によって置かれていた。

 屈められていた身が伸ばされる。

 

 身長170センチほどの、ボディペイントもかくやといった姿の美女がそこにいた。

 肉の質感を十分に出しながら、硬質な趣きも感じられた。

 

 美しい銀髪の中央、顔には黒い布が掛けられていた。

 それは舞台の黒子か、喪に服している貴婦人を思わせた。

 表情は一切伺えないが、黒布の向こう側にあるであろう眼は、女神の一体を睨んでいるようだった。

 

 睨まれているのは、デフォルメがかった方の女神であった。

 そして、その者の名は。

 

 

「ミネルバX。いつもながら多忙なところ、感謝する」

 

 

 そうだみ声で言って、女神は深々と頭を垂れた。

 それと同じく、もう一人の女神も頭を下げる。その様子に彼女は、ミネルバと呼ばれた者は困惑したようだった。

 相手は高次元存在である女神であるから、という気負いがあるのだろう。

 

 

「いつもありがとうっ☆」

 

 

 その雰囲気を過る様に、だみ声が掠める。

 その瞬間に緊張感が消え失せ、ミネルバはもう一人の女神に軽く頷き、もう一人の女神を睨んだ。

 

 余程この存在を嫌っているのと、この現状に呆れているようだった。

 そして彼女はスタスタと和室を横断して庭に降り、隅まで歩いていった。

 壁に立て掛けられている翼を二度三度と蹴る。

 

 

「ああっ!私の本体っ」

 

 

 そう叫んだ女神を黒布の奥できっと睨み、そのまま何処かへと消えていった。

 

 

「酷い扱いだな。まぁ仕方ないけど」

 

 

 本人としては至って真面目なのだろうが、声と外見のせいで全ての行動がふざけて見えるのであった。

 それでもこの外見を続けているのは、気に入っているからだろう。

 

 

「まぁしゃあないね。じゃ、感想戦」

 

 

 思考を切り替え話を戻す。

 思い切りが良いのか身勝手なのか。

 

 

「結論から言えば、私の負けだ」

 

 

 どんぶりから立ち昇る湯気の奥、それを受けて困惑顔となった女神の顔があった。

 

 

「何故なら無数の私は私の攻撃で滅び去っている。故に私の負けなのだ」

 

 

 女神は更に困惑した。

 しかし福笑いにでも使えそうな、眼も口も大きな顔は至って真面目な様子で告げている。

 だが当然のように、女神としては納得がいかなかった。

 

 自分たちの攻撃は一切のダメージを与えられれず、顕現させた鋼の勇者たちの猛攻でも刃の先端を掛けさせるに留めていた。

 実力差が想像も出来ず、ゲーム的な数値化すら出来そうにない。

 

 かなり強引に例えるとすれば、自分たちの総戦力をナイアガラの滝の大瀑布とすれば、あちらは宇宙開闢のビッグバンとでもなるだろうか。

 自然現象に例えたらそうなるのかなと女神は想った。

 

 

「私の頭の中で眠る貴女が見た仮想現実とはいえ、あれらは全て本物で厳然たる事実。ならば無数の私は負けるべきじゃなかった」

 

 

 デフォルメされた女神の姿の化身にて、魔神は悔しさを吐露していた。

 勝利しておきながら一方で悔しがる。

 理解しがたい思考である。

 

 しかしやはり、納得がいかない。

 少し怒ったような表情となる女神。

 こちらもまた自分の力の至らなさについて何かを思っているのだろう。

 

 

「別に気に病むことないよ」

 

 

 自分の事を棚に上げ、化身の姿で魔神は言う。

 口調は外見に左右されるが、意思は元と変わらない。

 

 

「何よりこの姿と力は貴女や魔法少女の力から生まれたものだ。そのお陰で私はそれまでの私を超えられた。だから貴方方は負けたんじゃない」

 

 

 可愛くもふざけた外見ながら、化身は更に真面目な表情となった。

 

 

「勝ったんだ」

 

 

 魔神は言い切った。

 それは嘗て自分が受けた言葉でもあった。

 

 

「これを言うのは二度目だね☆」

 

 

 更に続ける。

 少し遅れ、女神が二度三度と頷いた。

 吹っ切れたのか、相手の不可思議さに可笑しくなったのか、表情には少女らしい綻びが見えた。

 

 

「まぁ今は、アルティメットラーメンが伸びる前に…食べようか」

 

 

 妙に厳かな口調で究極を冠する女神の化身は言う。

 スープの色からして化身は味噌味、本当の女神はしょうゆ味であるらしい。

 両手を合わせ、「いただきます」と言ってから両者は麺を啜り始めた。

 

 

 

 

 共に勝者であり敗者、敗者であり勝者の結末。

 此処に至り、漸く決着は着いた。

 どちらが勝者であるかは当事者よりも、この戦闘を見ていた者の方が判断しやすそうであった。

 後日、今回の模擬戦が円環の理内でやんわりとした論争を起こし、平和な日常に幾らかの刺激を加えたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 















御拝読いただきありがとうございました

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