本人確認のため「Arcadia」様の当作品にも「ハーメルン」様への本作投稿の旨を記載してありますが、問題などあればご指摘ください。
※2022年1月14日
「女主人公」タグの追加と「感想受付設定」を非ログインユーザーの方からも受け付けられるように変更いたしました。申しわけございませんでした。
ニンゲンもポケモンも嫌いだった。
あたしが本気でポケモンバトルをすると、みんなバケモノでも見たような顔になって、あたしを恐れるようになるから。
あたしの姿を見ただけで、ポケモンはおびえ、あわてて逃げていくから。
理由のわからないそんな世界に、あたしはなにもできなくて。
なにかしようとも思わなくなって。最後にはすべてがどうでもよくなって。
もともと酷かった無口と無表情に拍車がかかり、あたしは自分からすべてに対して距離を置くようになった。
ひとりぼっちになったのだ。
彼女に出会うまでは。
『トウコちゃんだよね?私、ベルっていうの。よろしくねえ!』
ベルは、よく笑う子だった。
あたしのことを怖がらない子だった。
あたしなんかのそばにいて、なにがそんなに楽しいのかわからなかったが、ベルはいつもあたしの隣に座り、幸せそうに笑いながら、いろいろな話をしてくれた。
遠い別の地方である、カントーやジョウト、ホウエンにシンオウ地方の話。
そこに暮らす、ニンゲンとポケモンの話。
ときには、彼女なりの冗談を織りまぜた話も。
あたしと同い年とは思えないほど、ベルはたくさんのことを知っていた。
気づけば、少しずつ彼女の話に耳を傾けるようになって。相槌をうつようになって。
そんな、ある日。
『それでね、かわいそうになったから、ポリゴンはZまでの三段形態になったんだよお』
『っ、ふふっ、なによそれ』
『あ!』
『え?』
『いま、トウコちゃん笑ったねえ!』
『えっ?』
『えへへ、やったあ!
はじめて会ったときからね、トウコちゃんの笑顔が見たいなあって思ってたの!』
そのとき。
あたしに笑いかけたベルの笑顔こそが、どんなものよりも素敵に思えて。
白黒だったあたしの世界に、まるで光が差し込んだような。
まぶしくて、なぜだか胸が、あたたかい気持ちになって。
『知ってる?おたがいの笑顔を見たら、その相手とは、なかよしなんだよ』
『……なによ。じゃあ、あたしとベルは友達だって?』
『……いや、かなあ?』
だから、つまり。
『いやじゃ、ないわ。でも、だったら……』
『だったら?』
『……トウコ、って呼んでよ』
この子のそばで。この子の笑顔を見ていたいなと。
そう、思ったのだ。
そして、あたしがベルと出会ってから7年が経って。
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
ポケットモンスターBWのベルに生まれ変わってしまいました(挨拶)。
物心がついてから数年。
町の近くの草むらで大人がポケモンバトルをしているのを見て初めて気づくあたり、私もたいがい抜けているなあとは思ったが。
最初こそ多少思い悩んだりもしたものの、ここが私にとっての現実になった事実は変わらない。
そういうこともあるのだろうと開き直り、この世界でベルとして第二の人生を歩み始め、いまや私も14歳。
原作の流れを壊さないよう、がんばって生きていこうと心に決めていたはずなのに。
なのに。
「とても残念だけどベル……
あなたのトレーナーズスクールでの成績では旅の許可に必要な条件を満たしていないわ」
「……え」
どうして、こうなったのだろうか。
私の知ってるBWじゃない!!
アララギ博士からポケモントレーナー不適合者の烙印をおされてから数日。
ショックを受けたのは事実だが、このまま原作のストーリーが歪み、まかり間違ってプラズマ団大勝利ルートに突入しては困るのでへこんでいる暇はない。
そうして、あらためて考えてみたのだが。
原作におけるベルの働きで重要だったのは、シナリオの最終局面で主人公のもとにイッシュ地方の全ジムリーダーを連れてきて七賢人の相手をしてもらい、主人公をNとゲーチスのもとに行かせることだけだったはずだ。
過去作のライバルと同様に道中で主人公とバトルをしていたが、それでも同じライバルポジションのチェレンくんと比べれば『ベル』というキャラクターが旅に出ないことで与える原作への影響は、そこまで致命的なものにはならない、と思う。
……あれ?
もしかして、このままカノコタウンで町娘として生きてても問題ないのでは?
そこに気づいた瞬間、肩の荷がいっきに下りた。
トレーナーズスクール時代から、自身にポケモントレーナーの才が無いことはわかりきっていたので、この展開は幸運なものであると考えることにした。
いいじゃんカノコタウン!タウンなのに田舎なこの感じ大好きだよ私!
これを機にパン屋さんとか、平凡な町娘として暮らしていけばいいんじゃないかな!
……ごめんなさい。でも、怖いんだもん。ポケモン。
この世界の住人になった以上、ポケモンと関わることは避けられないが、それにしても怖すぎる。
もう私にとって、ここはゲームではなくリアルなのだ。
そして、この世界は前世の私が知っているものより、とんでもなくシビアな世界観だった。
トレーナーズスクールの授業であつかう練習用のポケモンですら最悪の場合、バトル中にトレーナーやポケモンの骨折や失明がありえるのだ。
そんなの、まごうことなき生物兵器だよお!
実際、ポケモンバトルや野生のポケモンによって人間が障害レベルのケガを負った事例は、新聞をあさればいくらでも出てくるし、被害者がポケモンならそもそもニュースにすらならないことがほとんどだ。
私の通っていたトレーナーズスクールでは幸いにも、不思議なほどにそういった事故が起きたことはなかったが、そんなのまったく気休めにならない。
平和な日本でぬくぬくと暮らしていた私には、耐えられない世界の在り方だった。
いろいろとネタになっているワタルさんの「はかいこうせん」事件など欠片も笑えなくなってしまった。
あれ、この世界だったら消し炭になっちゃうよ。
ワタルさんは頭おかしいよ。
……この世界的に、おかしいのは私の方なのだが。
テレビで放送しているポケモンバトルなど、まさに地獄絵図である。
「だいもんじ」によって焼け爛れるポケモンの肌。
「きりさく」で千切れ飛んでいくポケモンの身体。
水のないフィールドで発生した「なみのり」によっておぼれかけるトレーナー。
バトルフィールドどころか観客席にまで飛び込む「りゅうせいぐん」。
吹き出る血液。熱狂する人々。興奮するポケモン。
この世界は、あんな映像を平然と公共の電波で飛ばしているのだから、まさに狂気の沙汰である。
知らない。私、こんなの知らない。私の知ってるポケットモンスターを返して……
あ、マズイ。
この前、お父さんに無理やり見せられた番組を思いだすだけで吐き気が……
「……ん」
やさしくスリスリと背中をさすられた。
隣を見れば、なにを考えているのか初めて出会ってから7年経ってもほとんど読めない幼馴染みの姿。
「うぅ……ありがとお、トウコ」
まあ、とにかく。
そんなわけで、もういろいろと考えることをやめた私は、いつものように私の部屋で、トウコとだらだらしている最中なのだった。
「どういたしまして」
原作との差異といえば、このトウコもだ。
ポケモンの歴代主人公は基本的にしゃべらない無口キャラではあるので、それを考えれば彼女の無口かつ無表情ぶりは正しいのかもしれないが、もうひとりの主人公であるトウヤくんは、よくしゃべるイケメンリア充なのである。
そう。
女主人公であるトウコだけでなく、なぜか男主人公のトウヤくんも、私の暮らしているカノコタウンにはいるのだ。
原作では選択しなかった性別の主人公は、バトルサブウェイに協力役で登場するだけだったのに。
もう本当にわけがわからない。
ここまで原作乖離がはげしいと、私の心配が杞憂な気さえしてくるから困る。
そもそも前世の私は、原作知識を活用できるほどポケモンガチ勢であったわけでもないのだ。
実際にプレイしたシリーズもブラック・ホワイトとその続編だけだし。
「元気、出して」
「トウコ……」
しらず俯いていた私に、やさしく言葉をかけてくれるトウコ。
背中をさすっていた手は、いつの間にやら頭に移っていた。
ゲームと違い、ベルのトレードマークである緑色のベレー帽は、室内なのでかぶっていない。
その私の髪を、壊れモノにでもふれるように。
丁寧に、やさしく、さわさわと撫でられる。
なんだろう。なぐさめてくれている、のだろうか?
あるいは、旅に出られないことに落ち込んでいる、とか思ってくれてるのかも。
この世界の一般的な考え方として、旅に出られずポケモントレーナーにすらなれない人間=完全なる社会不適合者、という悲しすぎる公式が成り立つので、ある意味でトウコの反応は自然なものだったり。
実際、私の旅の不許可がクラスのみんなに知れ渡ってから、クラスメイトが一段と私のことを見下すような雰囲気に変わったし、両親からも若干、腫れ物あつかいを受けるようになった、気がする。
……まあ、もとからそこそこ酷かったけどね!
さらにグレードアップしたね!
一緒の班とか組んでくれなくなったもんね!
話しかけてくれなくなったもんね!
こどもゆえに、そういうのはみんな露骨なのだ。
まさか、二度目の人生でぼっちになるとはねえ。
トウコが一緒にいてくれなかったら、さすがに心が折れていたかもしれない。
ちなみに、私の通っているトレーナーズスクールの卒業生で、過去も含め旅の許可をもらえなかったのは私だけだ。
というかそもそも、トレーナーズスクールを卒業したのに、旅に出ることができないケースがあるなんて初めて知ったくらいだ。
勉強だけならトウコに次いでいたのだが、それでも駄目だった。
一方、勉強がかなり苦手なクラスメイトは、補修を受講すれば旅には出られるらしい。
つまり、前世では義務教育みたいなものなのだ。
ポケモントレーナーとして旅に出るということは。
なので、私がどれだけ、この世界に適性が無いのかという話で……
「ほら、こっち」
「わぁっ!?」
幼馴染みの気安いノリでトウコにぎゅっと抱きしめられた。
手慣れた様子でポンポンと背中を叩いてくれる。
トウコは私よりも結構背が高いので、簡単に腕のなかにおさまってしまう。
こんな風にトウコはしばしば、愛玩動物を愛でるような扱いを私にすることがある。
そこそこ恥ずかしいが、まあ、幼馴染みだしいいかなーということで現状に甘んじている。
「よしよし」
「うー……」
トウコのやさしさが染み渡るなあ。
とはいえ、そんなトウコも今日が旅立ちの日なんだけど。
へっぽこな私と違い、トウコはトレーナーズスクールを首席で卒業した才女である。
エリートトレーナー養成所やら、他地方のジムリーダーを育成した経験のあるトレーナーからも、在学中にたびたび、卒業後に関するスカウトの声がかかってきていた。
すべてバッサリお断りをしたらしいが、チェレンくんすら羨ましがっていたくらいなのだから、かなり有名な相手だったのだろう。
おそらくトウコがいなかったら、私はトレーナーズスクールを卒業できなかったと思う。
おもに実技的な理由で。
私がヒイヒイべそをかきながらお情けレベルで進級していくかたわら、トウコは私の介護をしながら悠々と知識・実技の両方で絶対的トップの座に君臨していた。
最初のころはぐぬぬと悔しがっていたチェレンくんも、途中からは悟りの境地に達し「彼女はノーカンだから」となっていたしなあ。
スクール時代には「永遠の二番手」と、影で噂をされたこともあったっけ。
ノリでからかったお調子者のトウヤくんに、ガチめの右ストレートを炸裂させていたので、ホンネはものすごく悔しかったのだろう。
クラスメイトと私の関係はお世辞にもいいものと言えなかったけれど、トウコという気になるクラスメイトともっと仲良くしたい、というみんなの気持ちがなんとなくわかってしまい、多少雑な扱いを受けていても、私はみんなのことをほほえましく思いさえすれ、苦手に思ったりはしなかった。
……というか、ふつうに申し訳ない気持ちだった。
トウコはやさしいから、ダメダメな私を常に気にかけてくれていたので。
まあとにかく、そんなわけで。
トウコは当然、旅に出るに充分な実力を持った将来有望すぎるトレーナーなので、本日アララギ博士からポケモンが進呈され、いよいよ原作……というか、旅がスタートするのだ。
ゲームでは主人公とチェレンくん、そしてベルの3人のみが旅立っていたが「この」カノコタウンには、ほかにもたくさんのポケモントレーナーがいる。
なので、主人公の自宅にポケモンが届いたりはせず、こちらが研究所にポケモンを受け取りに行くのだ。アニメのサトシくんと同じである。
正直、ベルになってからの人生をほぼ一緒に過ごしてきたトウコがいなくなってしまうのは、めちゃくちゃさびしい。
トウコがいてくれたから、ガラスの心をつなぎ止めてここまでやってこれたといってもいい。
だが、トウヤくんとトウコのどちらがこの世界における主人公なのかわからない以上、私がわがままをいって困らせてもいけない。
私のせいでイッシュがヤバい、とかシャレにならないし。
そんなわけで、せめて笑顔で見送るかー、と私なりに殊勝な考えで割り切ったのだった。
「トウコ、そろそろ研究所に行かないといけないんじゃないの?」
トウコから聞いた話では、初めてのポケモンをもらったその場で、練習試合としてポケモンバトルをする予定らしい。
原作でいうところのチュートリアルである。
血気盛んだなあと思ったが、初めての手持ちポケモンだし普通のことなのかもしれない。
私には絶対に無理だが。
もうほんとポケモンバトルとかやだよ。
戦わなければならないポケモンだけでなく、見てるこっちも痛いし苦しい気持ちになるよ。
でももっと痛いのはポケモン本人(本体?)なわけで。
うーん、やっぱり、そもそも私に旅は無理だよなあ。
旅先で野垂れ死ぬ未来しか見えない。
「…………そう、ね。うん。いってくる」
そういったものの、トウコが私を抱きしめる腕は緩まない。
というか、むしろ強くなったような?
「トウコ?」
「……ベルは、さ」
「うん」
「……あたしがいなくなっても、平気?」
「へ?」
トウコの額が、彼女に抱きしめられたままの私の肩に押しあてられる。
こちらの返事を待たずに、トウコは言葉を続けようとした。
「あたしは、さ。あたしは……」
「さびしいに決まってるよお」
「……え?」
口をはさんじゃいけない空気かなーとも思ったが、当分は会えないし、こっちも素直な気持ちを伝えておくことにした。
「初めて会ってからの7年間、ずっとトウコが隣にいてくれたから。旅に出ちゃったら、やっぱりすっごくさびしくなると思うなあ」
「……ベル」
「でも、トウコにはすっごい才能があって、それをこの旅でもっともっと伸ばせるのかもって思ったらさ。止められないし止まってほしくないなあって。そう思うんだあ」
原作がうんぬんというのがもっとも大きい要因ではあるが、私のセリフは決して嘘ではない。
長い時間を一緒に過ごしてきたトウコのことは幼馴染みとして大好きだが、今回の旅はトウコにとってゲーム的な意味だけではなく、今後の人生においても非常に大事なものになるはずだ。
だったら、まあ、友人……いや、親友としては、行ってきてほしい。
そして、いつか帰ってきたら、旅の間に起きた、たくさんの話を聞かせてほしい。
そんなことを、つっかえながらではあるが、がんばってトウコに伝えた。
非常にどうでもいいことだが、親友と言うワードはなにやら気恥ずかしいうえに、口に出すと途端に安っぽくなるような気がするので言いたくはなかった。
だけどまあ、今回は特例ということで。
だって友人って言った瞬間、トウコの目からハイライトが消えたんだもん。こわいよお……
トウコってたまーに、目から光が消えるんだよねえ、などとぼんやり考えていたら、トウコが私のことを離してゆっくりと立ち上がった。
そして、そのまま無言でドアまで歩き、ゆっくりとこちらへ振り返って。
「わかったわ。もう、絶対にあきらめない」
錯覚に決まっているのだが、トウコの眼からすさまじい圧を感じる。
というかあれは、私がスクール時代に悪ガキにからかわれていたのを知ったときの雰囲気に酷似しているような。
ちなみに、その少年はポケモンバトルが大好きだったらしいのだが、授業でトウコにフルボッコにされ、ポケモンバトルがトラウマになったらしい。
らしい、というのはその場に私がおらず、話をうわさ経由で知ったためである。
ポケモンバトルの授業中の私は、ポケモンと自分がケガをしないように必死で、周りをみている余裕などないし、自身に関係のないポケモンバトルなど、グロ注意的な意味で観戦したいとも思わないのだ。
トウコも気を使ってか私の近くではほとんどポケモンバトルをしないし、する際には誰もケガなどしないようなやさしいポケモンバトルをおこなってくれる。
なので、トレーナーズスクールのみんなが褒めたたえているトウコの強さが、私にはいまいちピンときていない。
まあ、主人公だから将来的にはチート染みた強さになるんだろうけど、それはポケモンが育ってきてからの話だろうし。
現時点ではそこまで大きな差はないような気もするけど。
目から光を放っている(ようにすら感じる)トウコになんと返していいかわからず、じっと黙って見つめかえしていると、フッと薄い笑みをこぼし、そのまま部屋を出ていった。
な、なんだったのだろう。正体不明のプレッシャーがあったんだけど。
「……はあ」
その後。
ひとりになった部屋で、トウコが以前の誕生日にくれた「みがわり」ぬいぐるみを抱きしめていると、無性に物悲しくなりちょっとだけ泣いた。
……うぅ、やっぱさびしいよおトウコ。
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「まだかなー、まだかなー」
人が増え、ざわついてきた研究所のなか、オレは近くにあった椅子に座り、アララギ博士がポケモンを持ってくるのを待っていた。
あたりを見渡せば、トレーナーズスクールのクラスメイトたちが、興奮した様子でどのポケモンにしようかと話しこんでいる。
今日から正式なビギナートレーナーとなるオレたちは、これから「ほのお」・「くさ」・「みず」の3種のポケモンから1体を選び、そのポケモンと一緒に旅に出るのだ。
オレはスクール時代から「ほのお」のタイプを持つ「ポカブ」一択だと決めていたが、話し声を聞いていると「みず」タイプの「ミジュマル」もなかなかの人気らしい。
たしかに、旅の途中で水の確保に困る話はよく聞くし、これからを考えればそういう選択もありなのか。
ほうほうと関心しながら耳をすましていると、むかいの席に見知った顔が座ってきた。
「盗み聞きはよくないんじゃないか、トウヤ」
「いやいや、勝手に聞こえてくるモンはしょーがねーだろ?」
幼馴染みのチェレン。
トレーナーズスクール時代からの、オレのライバルだ。
いわゆる感覚派のバトルスタイルであるオレと違い理論派のチェレンとは、初めて出会ったころ何度も意見の違いで衝突していた。
でも、トレーナーズスクールでポケモンバトルを何度も重ねていくうちに、お互いのことをちょっとずつわかり合い、認められるようになっていった。
そして、今では友人として、こうして軽口をたたき合える。
ポケモンバトルでの通算成績では数戦程度負けているが、だからこそ超え甲斐がある。
ポケモンバトルの腕においては、トレーナーズスクールで3番目に強かったオレを認めてくれているし。
この旅のなかで成長して、絶対に上回って見せる!
「今、来たのか?」
「ああ。そんなに早くに来たってしょうがない」
「人、多いよな」
「トレーナーズスクールの生徒は1人をのぞいてみんな来ているからね」
「……あー、そうだな」
「………」
ふん、とチェレンが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
やっちまったぜ。なんか気まずい雰囲気に……
「……あー、そういや訊いてなかったけど、チェレンはどのポケモンにするんだ?」
「……キミに話す必要はないはずだが」
「まあそういうなって。オレたちライバルだろ?ちなみにオレはポカブだ!」
「……ミジュマルの予定だよ」
そっぽを向きながらそういうチェレン。
教えてくれるあたり、なんだかんだいいやつなんだよな、こいつ。
ぶっきらぼうで嫌味なとこもあるけど、それは実力に裏打ちされたモンだし。
まあ、ちょっと神経質で、出来の悪いやつに対して当たりがキツすぎるのは、あんまりよくねーとは思うけど。
おちこぼれを露骨に見下すんだよな。
自分自身のレベルが高いからできてるのに、その結果を当たり前みたいに相手にも求めてくるし。
それでも、トレーナーズスクール時代にチェレンがそこまで嫉妬されていなかったのは、クラスメイトの怒りのはけ口がほかにあったからだろう。
いつもホワホワ能天気な笑みを浮かべ、悩みなんかなさそうにしているあいつがいたから。
トレーナーズスクールで唯一、ポケモントレーナーにすらなることができなかったあいつが。
「……あのさ」
「まだなにか?そろそろ勘弁してくれよ」
「なんでチェレンって、ベルが嫌いだったんだ?」
「…………」
無言かよ。
さきほどまでの考えを踏まえてもトレーナーズスクール時代、チェレンはベルに対して異常に厳しく当たっていた。
がんばるやつには意外と面倒見がいいし、陰口とかも叩かないのに、ベルにだけは違った。
普通なら無視するだろうところでも変に絡んで、嫌味を言っている光景だって何度もあった。
ベルの方は言い返したりせず、いつも困ったような笑みを浮かべていただけだが。
ごめんねえ、と申しわけなさそうに謝る態度が、ますます機嫌を悪化させていたっけか。
チェレンも含めて、あんだけ言いたい放題言われていたなら、少しは怒ればいいのにな。
数年間、クラスメイトだったけど、結局あいつのことはよくわかんねーままだったな。
まあ、クラスメイトでベルをバカにしてなかったやつなんて、1人しか知らねーけど。
オレだってバカにしたことはあるし、今だって心のどっかでは見下してる。
テストで困ってたとき、教えてくれたことがあったりするにも関わらずだ。
でも、言い訳になるがベルの実技は本当に酷かったし、バカにされてたのもしょうがないと思う。
オレたちが悪くないとは言わないけど、ベル自身にだって問題はあったはずだ。
ポケモンバトルが出来ないとか、言っちゃ悪いが人として終わってるだろ。
ポケモンバトルの授業中、極度の緊張やストレスによる体調不良で貧血を起こして、保健室にトウコの手で運ばれていくのを何度みたことか。
そんなだから、先生もそこまで厳しくは咎めたりしなかったんだろうし。
下級生、同級生、はては一部の先生にまでバカにされて、よくスクールに通えていたと思う。
鈍感なのかなんなのか、オレだったら不登校になってただろうな。
結局、あいつだけ旅の許可をもらえなかったし、これからどうするんだろうなあいつ。
ひきこもりにでもならなきゃいいけど。
「……彼女は、トウコの足を引っ張っていたからね」
「…………」
いきなりの返答に、反応が遅れる。
「訊かれたから答えたのに、無視かい?」
「あ、ああ、いや、悪い」
正直、答えが返ってこないと思っていたのでかなり驚いた。
だがまあ、内容は予想通りだったが。
やっぱり、トウコなわけだ。
「……まだ来てないみたいだな」
チェレンのセリフにつられ、なんともなしに研究所内を見てみたが、トウコの姿は無かった。
「どうせまたベルのところさ。トウコはベルに甘すぎる」
吐き捨てるような調子でチェレンが言った。
「……ま、そうだな」
トウコ。
トレーナーズスクールで悪い意味の有名人だったベルとは正反対に、彼女は良い意味でめちゃくちゃに目立っていた。
オレの知る限りでもっとも容姿端麗な女の子で、トレーナーズスクールでトウコに一度も好意を抱かなかった男子はいないと思う。
勉強もポケモンバトルもできる文武両道。
オレどころかチェレンや先生たちでさえ結局一度も負かすことは出来なかったし、自身だけでなくポケモンにも、戦闘不能どころか、傷ひとつ付けられた姿をみたことがない。
まるで、トウコが先生として、オレたちに指導をおこなっているような感じだった。
相手のトレーナーとポケモンにすら、気を使っていたしな。
前に一度、イッシュ地方のチャンピオンであるアデクさんが特別講師として授業に来てくれたとき、トウコと戦ってくれることを期待したんだけどなあ。
ちょうどその日に、ベルが風邪でダウンしやがったせいでトウコは授業をサボってお見舞いに行ってしまい、アデクさんとトウコのドリームマッチが実現することはなかったのだ。
あの後、ベルに対する風当たりがいっそう強くなったのはオレと同じ思いのやつらが、たくさんいたからだろう。
……一度くらい、あの完璧なトウコが負ける姿を見てみたいという、ほの暗い気持ちがあったのかもしれないけれど。
ベル本人はわけがわからない様子でおろおろしていたが、オレもあの時ばかりは、ほかのやつらに乗っかって罵倒したっけか。
いまになって思い返してみれば、トレーナーズスクールで初めて出会ったときから、ベルはトウコにべったりだった。ベルに聞いた話じゃ、7歳のころからの幼馴染みなんだっけか。
勉強以外はなにをしても人並み以下のベルは、いつも雛鳥のようにトウコにくっついていた。
他人を拒絶してまったく相手にしない(話しかけても無視する)トウコも、なぜかベルにだけは気を許していて、それがまたオレたちには面白くなかった。
どんくさいのに。弱いのに。ポケモンバトルが出来ないくせに。
なんでお前なんかが、トウコの隣にいるんだよって。
「そもそも、ベルのせいでトウコがどれだけ迷惑を……」
チェレンがそこまでいいかけたところで、研究所の奥からアララギ博士がやってきた。
そしてその後ろから、助手と思しき白衣の人たちが数名モンスターボールの入ったカプセルの山を運んできていた。
その光景に周りから興奮した歓声が聞こえ始める。
チェレンですら、無言のまま視線はカプセルを追っている。
かくいうオレも興奮を隠しきれない。
今までの会話なんて全部どっかにぶっとんでいった。
いよいよ、いよいよオレのポケモンを手にできるんだ…っ!!
「ハーイ、みんな。トレーナズスクールでの番号順に名前を呼ぶから、呼ばれたら出てきてねー」
そうして、次々に見知った顔のやつらが名前を呼ばれ、ポケモンを受け取っていく。
もらったやつらは研究所の別室に移動し、簡単なガイダンスのあとで旅の幸運を祈ってのポケモンバトルをおこなう。
トレーナーズスクール時代にもさんざんやったポケモンバトルだが、今回は自分のポケモンを使ってのバトルだ。やはり思い入れが違ってくる。
ここで圧勝して、これから始まる旅に勢いをつけてやる!
「トウヤくーん、トウヤくんいませんかー?」
って呼ばれてるし!?
気づけば、いつの間にか目の前の机からチェレンの姿もなくなっていた。
ぼ、ぼんやりし過ぎだろオレ……
「す、すいませんっ!!」
あわてて立ち上がり博士のもとへ向かう。
かるく注意を受けたあとで、決めていたほのおタイプのポケモン「ポカブ」を受け取る。
うおお、オレの、オレのポケモンだっ!!
「ポケモンはあなたの大切なパートナー、かわいがってあげてね」
「はい!オレ、こいつと一緒にイッシュ地方のチャンピオンめざしてがんばります!」
「おっ、おおきく出たねえ。でも、その心意気はいいわよ!その夢がかなうよう祈っているわ!」
「へへっ、ありがとうございます!」
「じゃあ、奥の部屋で待っててね。ガイダンスの後でポケモンバトルをしてもらうから」
「はい!」
そのときのオレは。
自分のポケモンを手にしたうれしさで、もう有頂天というか、夢見心地だった。
「トウヤくん!あなたをこの瞬間から、正式なポケモントレーナーと認めます!」
これから始まる旅への期待。
チャンピオンになるという目標。
ワクワクする気持ちとドキドキする気持ちが混ざって、でもそれが気持ちよくて。
今の自分ならなんだって出来るのではないかという根拠のない万能感。
だから。
だから今、この瞬間の出来事も、なんだか現実じゃないように思えて。
「……これで全員。約束通り許可をいただきます。アララギ博士」
イッシュ地方のチャンピオン?
忘れてたのかオレは?
それとも、目をそらして、気付かないフリでもしてたのか?
しりもちをついたまま、ゆっくりとうつむいていた顔をあげる。
オレと同じように、魂が抜けたような状態でいるたくさんの「ポケモントレーナー」たち。
そのなかには、チェレンの姿もあった。
つい数分前まで活気と希望にあふれていた研究所内は、絶望に満ちていた。
うすうすは、分かっていた。トレーナーズスクール時代から、そうだったから。
でも、ここまで絶対的だっただろうか。圧倒的だっただろうか。
こんな、まるで、かつてテレビで見た、あの伝説のトレーナーよりも、はるかに。
しらない。
アレは、なんだ!?
あんなもの、ポケモンバトルですらないじゃないかっ!!
本能が理解を拒絶する原初的な恐怖で、カチカチと歯が音を立てる。
無意識のうちに震えが止まらなくなった身体を抱きしめた。
自身の無様な姿を気にするプライドも余裕も、目の前に悠然とたたずむ「彼女」にこっぱみじんに破壊されていた。
「彼女」だって、今日オレたちと同じポケモンを貰ったばかりのはずなのに。
だから、だけど、それゆえに。
今日ここで無理やりに、力ずくで理解させられてしまった。
これから先、たとえどんな旅をして、どれだけ成長したとしても。
どんなポケモンを捕まえたとしても。
オレたちは、トウコに勝てない。
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「……んぅ?」
マメパトの鳴き声で目が覚めた。
どうやらトウコが帰ったあと、いつの間にやらふて寝をしてしまったらしい。
なんとも情けない話である。
と、いうか。
「み、見送りっ!おかーさんなんで起こしてくれなかったの!?」
がばっ、と身体を起こす。
窓から見える景色は、もう薄暗くなっている。
トウコが出て行ってから、ずいぶんと時間が経過してしまったようだ。
これでは、さすがにトウコも出発してしまったのではないだろうか。
なんてことだろう。
なんの役にも立てないとしても、せめて友人として、旅立つ彼女にエールを送りたかったのに……
「うー、おかーさ……」
「おはよう」
「わひゃあぁぁっっ!!?」
すぐ真横から聞こえてきた声に、まぬけな悲鳴をあげてしまった。
寝起きで注意力散漫だったとはいえ、まさかベッド横にいたとは。なんで無言でそこにいたのか。
部屋の暗さもあり、まったく気配に気づかず、本気で心臓が止まるかと思った。
ベッドから出ようとした不安定な体勢での衝撃であったため、バランスを崩し倒れそうになったが、流れるように自然な動作でトウコがすっと抱きとめてくれた。
「あ、あ、ありがとお……」
「いや、あたしのせいだから。ごめんね、おどろかせて」
それもそうだ。
いや、そうじゃないって!
「トウコ?なんでまだいるの?旅は?」
まさか、私の見送りを待っていてくれたのだろうか。
うわ、だとしたら本当に申しわけなさすぎるんだが。
トレーナーズスクール時代から迷惑をかけ続け、最後もこのザマは情けなさすぎである。
だが、どうやらそうではなかったらしい。
私からゆっくりと身体を離したトウコは、旅用の肩掛けカバンから1枚の紙をとり出した。
「ベルに報告があるの。これ読んで」
「報告?」
とりあえず言われるがままに紙を受け取り、部屋の電気をつけ紙を眺める。
そこには。
「パートナー制度?」
この世界における新人トレーナーが旅をする際は、基本的に一人旅だ。
授業で習った話によれば、そもそも新人トレーナーの旅におけるメインの目的は見識を広げることであり、トレーナーズスクールで仲のよい友人がいたとしても、一緒に旅をしては、個人の自主・自立性の成長が損なわれるとかなんとか。
その代わりというわけではないが、旅先で初めて出会ったトレーナーとであれば、同行は認められるというガバガバぶりである。
旅は道連れ世は情けという考え方なのだろうか。
まあでも確かに、アニメのサトシくんもそんな感じで旅してたもんね。
だが、トウコに渡されたこの紙には今回のみの特例措置として、同じトレーナーズスクールの人物の同行を認める旨が記されていた。
なんでも、このトレーナーは傑出した才能を持っており、特定の相手といることで、より成長が見受けられると判断したため、例外的に希望を認める、とのことらしい。
「えぇー……」
なんだこれ。いいのか、ありなのかそんなの。
しかもこの場合、私が旅の許可をもらっていなくても問題ないとのこと。
うわ、アララギ博士の印も押してあるし。なに考えて許可を出したんだろう博士。
「あたし、ベルと旅がしたい」
「……」
私、呆然。
というか、トウコはどうやってこの書類と許可を獲得したんだろうか。
まあ、博士の印が押してある以上は合法なんだろうけども。
「ね」
「え、とお……」
私の手をきゅっと握り、真っすぐに澄んだ目で見つめてくるトウコ。
どうしてこうなった。
どうしてこうなった!
超展開に混乱したまま、寝起きでよく回らない頭で必死に考える。
いやまあ、寝起きじゃなくてもたかが知れてる頭ではあるが。
トウコのことは好きだし、離れ離れになることで泣いてしまうくらいにはさびしいと思っている。
だから、どんなやり取りがあったにしても、一緒に旅が出来るのは私にとってありがたいことだ。
原作の件だって、そもそも私は重要な存在ではないのだから、要所で邪魔をしないようにおとなしくしていれば問題はないだろう。
でも。
だけど。
「私……」
「うん」
「ポケモンバトル、できないし……」
「うん」
「トレーナーでも、ないし……」
「そうね」
私が旅の認可をもらえなかった最大の理由。
この世界の人間としての致命的な欠陥。
ポケモンバトルに対する、適性の無さ。
前世の記憶と知識による価値観が半端に残ってしまっている私は、この世界の残酷さに対する耐性が絶望的なまでに無い。
痛いのも。
怖いのも。
辛いのも。
苦しいのも。
悲しいのも。
全部駄目な、どうしようもない私には。
大好きなポケモンの身体の一部が千切れ飛んだり、血が流れてしまう可能性のあるポケモンバトルなんてできない。
それどころか、下手をすれば相手や自分の身にすら危険がおよぶかもしれないのだ。
トレーナーズスクールでは、ポケモンのレベルや覚えている技も弱めだったので、そういった悲惨な事故は起きなかったが、それだってたまたま運が良かっただけだろう。
私程度のあたりさわりのない無様なポケモンバトルでも、かろうじてなんとかなっていたが、旅に出るとなればそうはいかない。
トウコと同じように旅をしているトレーナーはより高みをめざしてバトルを挑んでくるだろうし、凶暴な野生のポケモンだってところせましと存在している。
その過程で、まったく残酷なシーンに遭遇しないでいることなど、できないだろう。
私はきっと、それに耐えられない。
どんな形であれ、結果としてトウコに迷惑をかけてしまう。
今まで以上にトウコの足手まといになるだろう。
そして、それでも絶対に、トウコは私を嫌いにならないのだとわかってしまうのだ。
そんな、一方的に私が甘えてしまう関係が、許されていいはずがない。
なのに。
「だいじょうぶ」
なんでトウコは、そんなにやさしい目で私を見るのだろう。
根拠のないその言葉が、どうしてこんなに安心できるのだろう。
しらず、視界がにじみだす。
トウコは、ずるい。
つかんでいた手をはなし、ゆっくりと差し伸べてきた。
私が握り返すことを、確信しているような様子で。
「一緒にきて、ベル」
「……っ」
「あたし、ベルがいないと、やだ」
トウコはずるい。
いっつも無表情なくせに、こんなときに、とびっきりの笑顔を見せてくるなんて。
「わた、しも……」
不安が無いといったらウソになる。
原作の展開を滅茶苦茶にしてしまうのではないかという恐怖は、物心がついて以来、つねに私のなかに存在している。
この残酷な世界に対して無力すぎる心配事なんて、それこそ数えきれないくらいに。
……でも、もういいや。
「……私も、一緒がいい」
諦めることには、わりと慣れていた。
この世界に来た最初のころにはほんの少しだけ持っていた自分に対する自信は、もう欠片だって残っていない。
手をのばしてみても届かないものばかりだったから、弱すぎる自分がいやになった。
でも。
トウコだけは、いつだって私の隣にいてくれて。
手を差し伸べ続けてくれて。
だから、つまり。
「……うれしい。これからもよろしくね、ベル」
強くなりたい。
この手を掴まずにいるくらいなら。
先の見えない未知の世界へ飛び込んでいっても構わないって。
そう、思ったのだ。
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
ベルがいる。私の隣に。それが、すごくうれしい。
「うぅぅ……どきどきするねえ」
ベルに同行を承諾してもらってからすぐ、ベルの両親からも認めてもらい、旅支度に数日を費やした。
そして今日、あたしたちは旅に出る。
二人で。
「このあたりに生息してるのは、ヨーテリーやチョロネコくらいだから」
「そーゆー問題じゃないのお!あっ、ちゃんと携帯食料とか持ったよねえ私!?」
「リュックに入れてたでしょ。無くてもあたしのあげるわよ」
「それもそーゆー問題じゃないのお!」
あたしの言葉にころころとめまぐるしく表情を変えるベル。かわいい。
いつだって一生懸命で。
喜怒哀楽のはっきりしているこの子が、いとおしくてたまらない。
やさしすぎるベルはとても傷つきやすく、見ていることしかできないあたしは、もどかしくて仕方がなかった。
「けど、これからは……」
「これから?なにがこれから?」
「ふふ、秘密」
「なにそれー、トウコが意地悪だよおー」
隣にいる。
ずっと、ずっとだ。
どうでもいいことだが、あたしにはポケモンバトルの実力が人並み以上にある。
実績さえ積み重ねていけば、文字通り一生、ベルと共にいることだってできるはずだ。
いや、してみせるのだ、この旅で。
むう、と拗ねた顔でこちらをジトーっとにらんでいるベルに笑みが浮かぶ。
「あ、また笑ったあ」
「なにそれ、まるであたしが笑わないみたい」
「や、そんなことはないけど……でも、ここ数日で雰囲気変わったよねえトウコ」
「そう?」
わざと素知らぬ態度をとる。
それは変わるに決まってる。
これからずっと、邪魔もなくあなたと二人でいられるのだから、うれしくならないはずがない。
「そうだよお。でも私、トウコの笑顔きれいだし、いいと思うよお!」
「そ、ありがと」
ベル。
ポケモンバトルが苦手で。
痛いのも、怖いのも、辛いのも、苦しいのも、悲しいのも、全部嫌いなあなた。
そんなあなたが、あたしを受け入れてくれることが、あたしをどれだけ救っているのか。
きっとあなたは知らないのだろう。
親友だと、あの日あなたはそう言ったっけ。
でも、あたしはその関係では嫌だと言ったら、あなたはどんな顔をするんだろう。
「トウヤくんたちはもうひとつめのジムに着いたかなあ?」
「かもね。まあ、どうでもいいでしょ。べつに」
「えぇー……」
だって本当にどうでもいいから。
ベルのことを自分よりも下だと思っていたあんなやつらは、心底どうでもいいのだ。
まあ、博士にベルの旅を許可させるのに役立ったことは認めるけれど。
トレーナーズスクール時代は、あいつらがベルからわざと距離をおいていたことで、気兼ねなくベルと二人だけでいられたが、ベルに対する扱いの酷さは許せるものではない。
……それすら、ベルとの関係を深めるために利用したあたしの方が、どうしようもないけれど。
「まずは1番道路を進んでカラクサタウン!一本道だから迷わないし、半日もあれば着くよお」
「道中はあたしから離れないでね」
「それはむしろこっちからお願いします!あ、ツーちゃんもよろしくねえ!」
「タジャ!」
研究所でもらったあたしのポケモンにも、わざわざしゃがんで話しかけるベル。
ツタージャもベルの魅力が分かっているのか、あたしに対してより、なついた様子で擦りよる。
三匹のなかでベルにとって一番マシと思われるポケモンを選んだ甲斐はあったのだろう。
くさタイプには弱点が多いが、それはトレーナーのあたしがどうにかすればいい。
……ちょっと身の程も弁えず、ベルにベタベタし過ぎなのは不快なので、今日の夜にでも調教しておこう。
「えへへ。ツーちゃんかわいいねえ、トウコ!」
「そうね、かわいいわ」
お日さまみたいな笑顔に胸がはねる。
あたしは、ベルが好きだ。
友達としても。ちがう意味でも。
ベルと初めて出会い、気持ちを自覚したときから、あたしはこの感情と生きてきた。
ベル以外の誰にも否定はさせない。
まあ、されたところであたしの気持ちは揺らがないけど。
ふにゃり、とあたしに笑いかけてくるベルを抱きしめそうになる自分を押し殺し、帽子を撫でるだけにおさえる。
まだ旅は長い。
ベルがあたしのことを好きになってくれるよう、ゆっくりがんばればいい。
これからは、ずっとふたりなのだから。
「タブンネ見つかるかな、タブンネ。回復役はパーティに必須だよお!」
「先発組に狩られてるんじゃないかしら」
「もう!もう!なんでそんな怖いこと言うのお!」
「いや、確率の高い予想だし」
「うわあん!!」
あの日、ベルがあたしとの別れをさびしいと言ってくれたとき、あたしは決めたのだ。
絶対にベルと離れない。ずっと一緒にいる。
邪魔はさせない。
誰にも、絶対に。
エゴだとわかっているが、もう止まらないと決めたから。
だから、あたしは誓いを立てた。
ベルの一生を手にすると決めた以上、これから先、あたしはベルを守るために全てを尽くす。
心身ともにだ。
あたしと一緒にいることで、ベルに向けられるあらゆる害意を排除する。
「ねえ、ベル」
「ううぅ……なぁに?」
「……大好きよ」
あなたの好きとは違う意味を乗せて言葉を紡ぐ。
気づくはずもない彼女は、案の定、恥ずかしそうにありがとうとあたしに笑いかける。
ああ。
自己満足でも構わない。
だって、この世界でベルをもっとも笑顔にすることができるのは。
「私も、トウコのこと大好きだよおっ」
あたしだって、胸を張って言い切れるから。
私を好きになってくれる美少女より、美少女同士がいちゃいちゃしてるのをみたい。