まず、儂は目方屑拿の入学を許可するに伴い、彼女の特異体質である右目、千里眼を調査することにした。
儂自身が千里眼の能力として把握しているのは、遠方を自由に見る力と、心の中を読む力の二つみ。
それだけでも十分に脅威であるが、それ以上がない可能性は保証できない。彼女が話す内容では、その二つの力の他に六眼のように呪力の流れを見る、術式を読み取ることのできる、この二つの能力があることが発覚した。
簡単に言ってしまえば、『見る』という行為に関するものであるならばどんなことでもできるのだろう。
これはなかなかに脅威だ。
救いがあるとするならば、千里眼には六眼のように呪力消費の無駄を無くすという能力がないという事と、目方屑拿の呪力量がどれだけ多く見積もっても三級術士に届かない事だろうか。
ただ納得できないのが、目方屑拿はどうやって、呪力の残穢すら遺さずに呪詛師たちを殺戮していったのかだ。
そもそも、殺害した呪詛師の拠点は北は北海道、南は沖縄までと、とてつもなく広い。それほどの広範囲を彼女はここ、京都から一歩も動かずにやってのけている。
どう考えても、そんな芸当は不可能だ。あの五条悟であっても、また、彼の友である夏油傑であっても不可能だろう。
いかな方法で為したのか皆目見当もつかない。
しかし、事実だけを並べるならば目方屑拿にはこの日本すべてが攻撃可能範囲ということになる。その上、逃げも隠れも通用しない。
あまりにも規格外。
その結論から、目方屑拿には特級を与えることになった。
○○○
ここからあたしの呪術師生活が幕を開ける。
そう思うと、胸がどきどきした。あたしの入学をサポートしてくれた蟲たちには感謝しかない。種明かしをすると、あたしの扱う蠱術の蟲たちが、呪詛師たちを殺したのだ。
蟲たちはみんな異様な姿と特性をしているが、呪力によって存在するものではない。
目方家が研究を重ねて生み出した実在する蟲だ。だからこそ、残穢を残さず呪詛師を殺すことが出来るという訳だ。
実をいうとあたし自身の術式でも裏技を使えば、残穢は残るという点に目を瞑れば問題なく殺せるのだが、蟲たちをそういう目的で使ったことが今までなかったため、結果としてこうなってしまったという訳だ。
身だしなみをチェックする。
今まで来ていた着物ではなく、黒一色の高専の制服だ。それに少し手を加えて大正時代の女学生のような着物スタイルにしている。
実家で来ていた服と似たような形にしているから、最初の何も手を加えていないときよりも身動きがしやすい。
一度深呼吸をして、教室の扉に手を伸ばす。
同い年の在学生は三人。男子が二人、女子が一人。
呪術師は男社会だと聞いていたから、同じ女子がいたのは驚きだ。どうも加茂家の子らしく、相伝術式の赤血操術の使い手であるらしい。
女子は認められるのが難しい呪術社会。その考えが強固であろう御三家の出でありながら、自分の実力を認めさせるために頑張っているらしい。
自分という存在を認めさせようとしている。その在り方に、あたしは親近感を抱いた。
男子のうちの一人はまたも御三家の禪院家の一員らしい。投射呪法の使い手なのだそうだ。
もう一人は特に御三家とはかかわりがないようで、一般の家の出と聞いている。流石に情報が少ない。千里眼が使えればすぐにわかるのだが、楽巌寺学長との縛りで普段は眼帯で目をふさいでいるから直接見ない限りは分からない。
先生の声が聞こえる。
入室が許可されたのだ。
「失礼します!」
ガラリと木の扉を開ける。
初めまして! あたしの新生活!
○○○
グッドバイ、あたしの新生活……。
空気が異様に重い……。
挨拶もしっかりしたのだが、誰も話しかけてくれない。こういう時、転校生のところにはいろいろ声をかけてくれるのがセオリーではないのだろうか?
心を読めれば楽なのだが、そうもいかないのでどうすればいいのか分からない。
というか声をかけようにも向けられる視線が滅茶苦茶痛い。あたし何かしただろうか?
「呪詛師……」
ああ、なるほど。それは納得の理由だ。
あたしがどう思おうと、高専に入学しようと、それ以前にあたしは呪詛師の一族の出なのだ。
あたしは呪詛師のレッテルを貼られている。というやつだ。
というか教師がその眼で見ているのだ。それより年下で経験不足の学生も同じような目で見るのは当然のこと。
さて、どうするか……と考えていると、先生に嫌そうに声をかけられた。どうやら加茂家の女子も一緒らしい。
内容を要約すると、一緒に呪霊を祓いに行け、だ。