メイデーア転生物語 ~二人の紅の魔女の物語~   作:メイデーアアニメ化して下さい

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ここから始まる、二人の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。

 

 

私達とお父様がやってきたのは、馬車で三時間はかかる港町カルテッドだ。

カルテッドはおもて向きは華やかな街だが、路地裏に入ると各国の "よろしくない" 品物が手に入る闇市があり、お父様はよくここで魔術に使う材料を揃える。

 

少なくとも、十一歳になったばかりの私達が誕生日に来るような場所ではないけれど、特に怖くはない。

お姉ちゃんなんかはここに来ると毎度、依然として目を煌々と輝かせてあちこち歩き回っちゃうんだから、お父様か私がしっかりと見張っていないと、危ない商人の方に連れ去られてしまいそう。

 

 

まぁ、オディリール家の目が光るうちは、もっと言えばお父様やお母様がいる間は()()()()()をした商人は、きっと新しい魔法の材料にでもされてしまうわね。

 

 

「これはこれはオディリール(きょう)。例のものは手に入りましたよ。ささ、こちらへ」

 

 

御用達のお店でお父様は何かを買うようだった。

 

店主がお父様を店の奥へと招く。お父様は私たちに店の中を見ているようにと言いつけて、そのまま去っていく。

 

 

世界の骨董品を扱う店なだけあって、店内は少し古臭く、曰く付きの物が多い。けれど、何かと魔術に使えるものも多かったりするから、そこはお相子と言ったところだ。

 

私は何度もお父様と一緒に通っているから、しっかりと触れていい物とそうでない物の違いは弁えているけれど、お姉ちゃんは少し違った。

 

 

「ねぇマキア、見てみて!......じゃじゃーん! 喋る本よ!」

 

「お姉ちゃん、ほんとにダメだからねっ! それ、開けたら中に引きずり込まれちゃう本だから!」

 

 

私の必死の説得(言いくるめ)もあって、今も尚「アケテ、アケテ」と呻いている怪しい古書を、渋々元の位置に戻すお姉ちゃん。

その後、懲りずにまた古書を抱き抱えて「だめ?」と私に訴え掛けて来たけど、没収したらようやく諦めてくれた。

お姉ちゃんに抱えられた本が、どこか下卑な事を考えているように感じられて、とてもイラッとする。もちろん離させた。

 

そんなに瞳を潤わせたって、釣られちゃうのはお父様とお母様だけだって言ってあげたい......可愛いけど。

 

 

「むぅ......マキアもいつか、絶対に私の見る目が間違っていなかったって事を認めることになるんだから!」

 

「もう、お姉ちゃんったら......せめて、もうちょっと危険の無さそうな物を選んでよ」

 

例えば、歌声に反応して船が沈む、ミニサイズの魔術模型とかね。

若干ふて腐れつつも、私の後を着いて来ながら店内を見渡す姉ちゃんは、世間的に見てもやっぱりお姉ちゃんらしくないらしい。

 

『あら、貴女達がオディリールさんの所の娘達ね? ほんっとに可愛いわぁ~! お名前、何て言うの?』

 

『は、初めましてこんにちは! 私はマキア・オディリールって言います! そしてこっちが私のお姉ちゃんの、アリア・オディリールです!......ほら、お姉ちゃん挨拶挨拶!』

 

『ぁ......ぇと......お、おはようございましゅ、ます......』

 

『あははっ、妹の背中に隠れちゃって、とっても可愛いじゃない!』

 

『ふ、普段はもっと元気なんですよ、お姉ちゃんは......』

 

今より小さい頃に、初めて町の人と出会ってお喋りした時のお姉ちゃんは、普段の元気っ子属性はどこへ行ったのやらと思っちゃうくらい、人見知りだった。

 

そう、どちらかと言うと、世話の焼ける可愛らしい妹みたい。

 

 

なんだか可笑しくなって、お姉ちゃんの頬を軽くつつくと、「ふにゅ」と可愛らしい声を上げて反応してきた。

やっぱり、お姉ちゃんは私がしっかりと守ってあげないとね。

 

 

という訳で、お姉ちゃんと共にさっきの本に重たい荷物を載せたりして遊んでいたら、窓越しに馬車を見つけた。

 

ボロを纏った一人の少年が、その馬車から黙々と積荷を降ろしている。

しかし、私が注目したのはそこではない。

 

「ん、そんなに外ばっかり見ちゃって。どうしたの? マキア」

 

「見て、お姉ちゃん。......あの子、指輪なしで魔法を使ってる」

 

 

不思議そうに私を見つめてくるお姉ちゃんを尻目に、思わず窓にへばりつく。

私達より、少し年上かしら......

一見すると、幾つもの木箱を重ねて、軽々と持ち上げているように見えるけれど、実は荷箱に浮遊魔法がかけられている。杖も呪文もなく、ただ自らの感覚と才能だけで。

 

 

「凄い、凄すぎるわ。浮遊魔法って難しいのに!」

 

「ふーん......でも、私達は火の魔法が得意だからさ、仕方ないのかもね......ってちょっと! マキアー!」

 

後ろの方でお姉ちゃんが何か叫んでいる気がするが、浮遊魔法を扱っている男の子が気になりすぎた私は、思わず店を飛び出た。

 

 

ボサボサにのびた黒髪。ひどく痩せた体。しかしその髪の間からは見える瞳は、魔術師の世界では最高位とまで吟われている、美しい "(すみれ)色" だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、貴族が嫌いだ。

 

 

理由なんてものは、言うまでもない。奴らは偶々()()に産まれただけの癖に、先代の人々が残した輝かしい功績を利用して、あたかも自分たちがそれを行い、一番優れているかの様な態度を取る。親の七光りもいいところだ。

 

おまけに奴らと来たら、行う行動全てが醜いもんで、それはもう直視出来たものではない。

俺の売られてきた町、カルテッドで禁止されているはずの奴隷売買なんてものも、元々はきな臭い噂のある貴族が大まかな原因の元になっている。

 

性格のいいお貴族様なんてものは、所詮夢物語なのだ。

 

 

「ねえ。何をしているの」

 

 

今日もいつもと何ら変わりのない、親分(屑野郎)にこき使われるだけの日々。

そんな時に、一人の少女が作業に勤しんでいる俺に話しかけてきた。

 

手足は忙しく動かしつつも、横目でそいつを見る。

 

 

臙脂色、と言うのだろうか。

鮮やかなドレスを着飾り、透き通った薔薇色の髪をリボンでくくった、紺青を少し清らしくしたかの様な、美しい瞳を持つ少女。

 

ああ。まさに俺の思い描いていた、大嫌いな貴族そのものじゃないか。

 

 

しかしそいつは、どうやら俺の答えを待ち望んでいるようで、不思議そうにこちらを見ている。

我ながら嫌味ったらしい言い方しか出てこないが、勘弁してほしい。

 

「何って見たらわかるだろ。積荷を降ろしてるんですよ、貴族のお嬢様」

 

「魔法を使って荷物を浮かせているんでしょう? 私さっき、見たわ。.......あっ、私これでも魔女なのよ。それで、貴方の魔法が面白いなって」

 

「.........」

 

 

 

何なのだろうか。

 

親に借金のカタとして売られ、こんなところで地獄のような人生を送る自分への当て付けか。

嫌悪感が止めどなく溢れてくる。近くにこいつの親が居たら、俺は殴られてしまうんだろうな、なんて事を考えながら、目の前の無邪気なお嬢様をからかう。

 

 

「奴隷の仕事を見ているのが面白いなんて、さすがはお金持ちのお嬢様だ。見た目の通り、意地が悪い」

 

「な......っ」

 

 

どうせ時期に、何かに感染した足から腐り落ちて死ぬのだ。この世への恨みつらみは、今のうちに名一杯吐き出しておこう。

「凄いわねって言いたかったのよ」だの、「私は意地が悪いんじゃなくて、そう見えるだけ」だの、口うるさく言ってくるお嬢さん。

 

 

全く、どうしてこうも邪魔しかしてこないのか。

 

 

「ようやく追い付いたわよ、マキア!」

 

 

「あ、お姉ちゃん......」

 

 

俺に行き場のない罵詈雑言を浴びせられ、大人しくなったマキアと呼ばれた少女の元に、もう一人同い年ほどの少女が現れた。

 

こちらもまた、先程の少女にお姉ちゃんと呼ばれてるだけあって、二人の大まかな見た目の変化に目立ったところはない。

強いて言うなら、『マキア』と言われる少女より目元が鋭く尖っていて勝ち気なのと、髪の長さが肩の少し下辺りまでしか伸びていない所だろうか。

 

どうやらこの貴族は、双子の姉妹だったらしい。

 

 

俺は二人を無視して荷物を降ろす仕事を再開させていると、姉妹の姉の方が話しかけてきた。

 

「......ね、ねぇ、貴方」

 

「何だよ、お嬢さん。俺はあんたと違ってそう暇じゃないんだ。なんせ休憩なんて物もない、使い捨ての奴隷なんだからな」

 

こうして人の嫌味をひたすらに呟くだけに成り下がってしまった自分の頭も、嫌になる。

でも、仕方ないだろう。生憎、こんな人生なのだから。

 

 

「もしかして、西のフレジール皇国出身?」

 

 

「......そうですが、何か」

 

 

内心、少し驚いた。

俺を買ったあの奴隷商と何か繋がりでもあったのだろうか。流石は貴族......と言いたい所だが、この少女達に限っては、恐らくその様な事はないだろう。

 

純粋な碧い瞳がこちらを見抜く度、視線を逸らしたくなる。

 

妹よりも勝ち気なのか。宝石の様に太陽の光を吸い込んで輝くその目は、少しだけいたずらな笑みを浮かべた後、嬉しそうに目を細め、

 

 

「───見つけた」

 

 

......ああ、クソったれな神様。

 

一体俺が何をしたと言うのでしょうか......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく、見つけた。

 

マキアがヒロインだと言うのなら、『メイデーア』の主人公は、ある意味この子だろう。

 

......トール・ビグレイツだ。

 

 

後ろで可愛い可愛い私の妹が、チャリチャリと不愉快な金属音を鳴らす、彼の両足に付けられている歩幅ほどしかない鎖を、あれだけ言われたのにも関わらず、心配そうに見ている。

 

 

ああ、本当に私の自慢の妹だ。

 

 

「少し、触るわよ」

 

「なっ.........」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

何を、と言いかけたのか、トールが足に嵌められた鎖を握り締める私から、離れようとする。

 

でも、私が呪文を唱えた方が先だった。

 

 

「メル・ビス・マキア───鉄の鎖は溶け落ちる」

 

 

第一呪文と第二呪文を丁寧に唱える。

私の付けている指輪が淡く光り、握った場所から赤く熱を帯びて鎖がドロドロと溶けていく。

 

これは、私たちの得意な【火】属性の熱魔法であり、呪文で指定した場所以外にその熱は伝わらない。

 

彼もマキアもびっくりしたのか、目を丸くさせ、トールに至っては火傷も何もない自分の足に驚いていた。

マキアは『私も出来たのに!』と少し残念そうな目で私を見て、ぽかぽかと軽く胸を叩いてくる。

 

 

でも姉としては、この後起こる危ない出来事にマキアを巻き込みたくないから。

 

 

「どう? 魔法って凄いでしょう?」

 

「.........まずい、親分が来る」

 

 

どうやら、この優しい少年は私を少しだけ心配してくれているらしい。

 

「......流石、マキアの将来の騎士さん」

 

 

「小僧! 積荷は運び終わったのか!」

 

 

怒声が響き、少年が私達を庇うように前に立つ。

 

いかにもな海賊風情の、頭にターバンを巻いたガタイのいい男が、野太い声を上げて奴隷少年を殴る。

 

 

「どういうことだ!? てめえ逃げようとしやがったな!」

 

 

体の軽い少年はそのまま背後の荷箱に体を激しく打ち付け、咳き込んだ。

 

「マキア、その子を少し見ておいて。私が相手しとくわ」

 

「で、でも危ないよ......」

 

 

「あ? なんだこの生意気なガキ」

 

体格差のある私は、男に胸ぐらを掴まれて宙に持ち上げられる。

 

「あらあら、そんなに怒らなくてもいいんじゃない? お兄さん」

 

「飄々としたその態度は気に入らねぇが、とんでもねぇ上玉だ。こりゃ高値で売れるぞ」

 

 

「親分、その娘は貴族ですよ! 手を出してはいけません!」

 

 

『うるせぇ』と言おうとしたのだろうか。喧しく唾を飛ばして喋る男が、少年を再び殴ろうと───

 

 

その時、空から一羽のカラスが舞い降りて、男の頭を鋭い嘴で(つつ)いた。

男は悲鳴を上げて、私をブンブンと振りながらカラスを追い払おうとする。私は物か? 酔いそう......

 

 

「マキア、アリア、外にいるのかい? ......おや」

 

 

カラスの鳴き声を聞いたお父様が、店から出てきてくれた。

カラスはお父様の肩に止まる。あの子はお父様の使い魔、フレディだ。

 

お父様は男に掴み上げられている私を見て、すっと怖い顔になった。

 

 

「オ、オ、オディリールの旦那様!?」

 

どうやらお父様を知っているようで、男の顔はすっかりと青ざめている。

 

よっしゃ、絶好のいたずらチャンスね。

 

 

「マキア、マキア! 思いっきりつねってやりましょ!」

 

「......お姉ちゃん、やっちゃおう!」

 

 

少年を見ていたマキアを呼び寄せて、青ざめた男の片腕にすーっと手を伸ばし、二人で力の限りつねってやる。

この後の男の反応を脳内で想像し、少し笑みが溢れてしまった。

 

「痛っ、このクソガキ何してやが.......あっつぅう!!」

 

 

「あはははっ! 私たちは熱体質を持つ【火】の申し子よ? 中々治りづらい火傷をお見舞いしてあげるわ!」

 

「ふふっ......お姉ちゃん、笑いすぎだよ!」

 

外にも関わらず、あまりにも予想通りの反応過ぎて、思わず二人して大笑いをしてしまった。

 

可哀想に、丹精込めてつねったやったから、きっとあの火傷は三ヶ月は治らないわね。

 

 

あまりの熱さに、男はパッと私を離した。

このままじゃ、地面に尻餅をついてしまうけれど、そこは問題なし。

 

奴隷少年(トール)が、私に手をかざして浮遊魔法を展開してくれたからね。

 

 

「よし、マキア。もう貴女の誕生日の()は決まったわね?」

 

「うん──お父様! 私、この子が欲しい!」

 

「え?」

 

 

「絶対、絶対、この子が欲しいです! お父様」

 

 

 

お父様に咲いた笑顔で駆け寄る、強い眼差しで訴えているマキアの姿に迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では一つ聞いておこう。マキアはこの子を、いったい何に使うんだい?」

 

「使うだなんてとんでもない。この子に私たちを使()()()()()()んです!」

 

私はただただ必死に、お父様にねだる。

 

誕生日プレゼントが無理なら、ああ言ってこう言ってでも、この子は買うべきだと思ったのだ。

 

 

オディリール家は五百年続く魔術の名門だが、近年は衰退の一途を辿っていることを私は知っていた。

荒野を出て王都に行けば、没落貴族だとか悪い魔女の一族だとか.......

没落の理由は色々あったけれど、一番は後継者不足だ。一族復興のためには、数多くの優秀な魔術師を我が家から輩出しなけらばならないのだった。

 

 

お父様は「ふむ」とあご髭を撫でる。私の意見を、様々な角度から思案していたのだろう。

 

すると、にやにやと少しいたずらっぽい笑みを浮かべるお姉ちゃんが、背後から私の肩越しに頭を出し、お父様に懇願した。

 

「お父様、マキアの分のプレゼントじゃ無理なら、私たち二人のためのプレゼントとして、この子を買ったらどう?」

 

 

依然として笑みを絶やさないお姉ちゃんは、本当に賢いんだとつくづく感じる。

お姉ちゃんの良いアイデアと助け船に心を奪われた私は、こっちを向いてピースと笑顔を浮かべるお姉ちゃんに、感極まってがばっと抱きついてしまう。

 

いつもは無邪気で可愛くて人見知りなお姉ちゃんも、私が危ない目に会いそうになったりしたら、こう言ったかっこいい一面も見せてくれるのです。

......でもなんだか、お姉ちゃんの私に触る手付きが少しいやらしいような。

 

 

「はっはっは、なるほど。お手上げだよ、二人とも。......では奴隷商よ、この子を買いたいのだが」

 

「こいつは既に買い手がついているんですよ。残念だけど......」

 

 

男は最初こそ威勢良くお父様の申し出を断っていたけど、徐々に目元はとろんと溶けて、ぼんやりとした顔つきになる。

 

 

「で、いくらだね?」

 

 

お父様が更に、後押ししてくれた。

 

 

 

私たち親子の瞳は、少しばかり魔力を帯びていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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