デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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10話

4月25日。

 

五河家のキッチンでは、

 

「そうそう……後は生地を伸ばして型を抜くだけだよ」

 

「おお! そうか」

 

部屋着に黒いエプロンを着けた十香が興奮気味にクッキー生地を板の上で伸ばしていく。

 

実体化できるようになってから千早はたまに料理をと言ってもお菓子作りをやっているのだ。その関係もあって、たまたま家に来た十香に一緒にやらないかと誘いをかけたところ、本人がやると言ったのでこうなっている。

 

クッキーの種類は二種類。プレーン……特に何も入れていないのと、紅茶の葉を混ぜた紅茶クッキーだ。

 

その二種を作っている。

 

十香が士道の通っている高校通いだしてから時たま千早が作っていたお菓子を食べていたので十香は千早の腕前を信頼して一緒にクッキーを作っているのだ。

 

まあ、そもそもちゃんと材料の分量を計り、作り方を間違えなければそうそう失敗はしないのであるが……。

 

「こんな感じか?」

 

十香が伸ばした生地を見せてくる。

 

「もうちょっと伸ばそうか。あんまり生地が厚いと中まで火が通らなくて生焼けになっちゃうからね」

 

「うむ。承知した」

 

千早の言葉に素直にうなずくと十香は伸ばし棒でクッキー生地を再び伸ばし始める。

 

初めはおっかなびっくりだったのに今は馴れた様子でクッキー生地を伸ばしていく十香に千早は頬をほころばせた。

 

思っていたよりも好感触だからだ。

 

元々、ASTのせいで人間不信になりかけている十香が最も自然体でいられる場所が士道の近くなのだ。士道の妹である琴里や令音は十香が学校生活を送る上でのサポートや〈フラクシナス〉に寝泊まりしている関係でその二人には他の人ほど距離をとっていないが。

 

千早には……餌付けをされたので琴里以上士道未満の信頼を得ている。

 

精霊であっても餌付けは有効だったことが証明された瞬間でもあった。

 

「千早、こんな感じでいいか?」

 

「どれどれ……うん、OK。これで十分だよ。後は型を抜くだけだね」

 

どうぞと星やら木やらハートやら型を十香に渡す。

 

そして千早は十香がクッキーの型を抜く作業をしている間にポルターガイストを駆使して使った調理器具を洗い、片付けていく。

 

ガチャガチャと調理器具同士がぶつかり合う音とジャーという水道が流れる音がする。

 

それらの音は数分と持たずに消える。

 

「どうかな」

 

「ん、終わったぞ」

 

見てみると型抜きされたクッキー生地がおお皿の上に並べられていた。

 

「じゃあ後は焼くだけだね」

 

「そうか」

 

クッキー生地の乗ったおお皿をポルターガイストで持ち上げてオーブンの中へ移動させる。

 

それから千早はオーブンの火加減を調節するとタイマーをセットしたのち、十香に向き直った。

 

「それじゃ焼き上がるまで待とうか」

 

「うむ」

 

十香の後に続いてキッチンを出る。

 

それから十香は着けていたエプロンを外してテーブルのところにある椅子の背にかけると自身はソファーの上に腰を下ろした。

 

千早は椅子に座るとテーブルに置いてある新聞広告に目を通す。

 

へ~今日は肉が安いんだ。士道に買ってきてもらうかな、などと千早は考えていた。

 

「いつになったらシドーは帰ってくるのだ?」

 

「ん~……十香ちゃんは士道のことが大好きだから気になっちゃう?」

 

「な!? ななななな何でそうなる! いや、好きか嫌いかで言えば……その……好き……だが」

 

顔を赤くしながら言葉がしりすぼみになっていく十香。

 

その様子を見てるともう少し弄りたくなってくるのだから不思議だ。

 

千早はそんなことを思っているとは思えないような顔をしながら話を続ける。

 

「まあ、士道のことだからどっかで女の人を引っかけるようなことはしないだろうからもう少しで帰ってくるでしょ」

 

「そ、そうか。そう言えば千早はいつからシドーにとり憑いているのだ?」

 

明らかな話題変えだが千早はそのことは十香にはまだ話したことがなかったので受け入れた。

 

「五年前だね」

 

その当時のことを思い出すと笑いが込み上げてくる。

 

「何故笑っているのだ? 」

 

そんな千早の様子が気になったのか十香が何故笑っているのか聞いてきた。

 

「ああ、ごめんね。実はね士道は初めてボクを見たときはさ悲鳴を上げて気絶しちゃったんだよね」

 

「そうだったのか。でも何でそれで笑うのだ?」

 

「これには続きがあってね……気絶から目覚めた士道はね自作のお札を作ったりしてボクを祓おうしたんだ」

 

意味ないのにね。お札で祓われるぐらいだったらとっくの昔にこの世からおさらばしてるのにと千早はクスクスと笑っている。

 

「そ、そうか」

 

「うん。そうだよ」

 

そういえばと思い出す。

 

ほんのわずかな時間とはいえ行動を共にした義妹(精霊)のことを。

 

その当時は千早自身に色々と余裕がなく、幽霊になるほんの少し前のことだった。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

千早は首を横に振って、思考を切り替える。

 

ピピピピピピピピピピピピピ!!

 

と、そのタイミングでタイマーのアラームが鳴った。

 

「どうやら出来たみたいだね」

 

「そのようだな」

 

クッキーが焼き上がったので十香と千早はキッチンにあるオーブンの戸を開けてクッキーを

中から取り出す。

 

「お! 綺麗に焼けてるね」

 

「それにいい匂いだ」

 

各々焼き上がったクッキーの感想を口にしつつそれをテーブルの上に持っていく。

 

そこに、

 

「ただいま」

 

士道が帰ってきた。

 

「お帰り」

 

リビングに来るなり士道は持っていた荷物を下ろした。

 

「ちょうどクッキィが焼き上がったところなのだ! シドーもどうだ?」

 

十香の言葉を聞いた士道がテーブルに置いてあるクッキーに視線を向ける。

 

「ああ、いただくよ。そう言えば琴里はどうしたんだ?」

 

士道が姿の見えない琴里について聞く。

 

「私は知らないぞ」

 

「確か〈フラクシナス〉に行ってるはずだよ」

 

「そうか」

 

その時、〈フラクシナス〉では新たな計画が練られているのだが、ここにいる面子は誰も知るよしもなかった。

 

「じゃあ、お茶を用意しておくから座って待っててよ」

 

千早は士道と十香に椅子に座るように促してからキッチンにお茶を取りに行く。

 

冷蔵庫からお茶のコーヒーの入った容器を取り出すとそれを人数分のコップに注いでお盆に載せる。それから容器を冷蔵庫に戻して、お盆を持ち上げるとリビングに戻って行った。

 

 

◇◇◇◇

 

 

某所。

 

「クシュン……誰かわたくしの噂でもしていたのでしょうか?」

 

赤と黒に彩られたドレスを纏った少女がそう呟いた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

千早はクッキーを食べ終わると、士道と十香の二人だけを家に残して外へと出かけた。

 

実体化できるようになったことにより、この状態ならば士道から十メートルしか離れられないという縛りがなくなったのだ。

 

だが、実体化してるとポルターガイストの力が半減する。

 

実体化に使うエネルギーがそれだけ大きいのだ。

 

それでも士道が十香の霊力を封ずる前と比べると格段に強力になっているのだが。

 

「うーん……やっぱり自分の足で動けるっていいね~」

 

実体化できるようになってから足のありがたさを沸々と感じる千早である。

 

元々、千早自身も自分が幽霊の状態になってまでしぶとくこの世に止まることになるとは考えてもいなかったのだ。

 

なので初めの頃はひどく狼狽えたが、適当な人にとり憑いては離れるを繰り返して現在に到っている。

 

まあ、お菓子作りや料理の腕に関してはかけがえのない友人である彼女がいたからこそ覚えたのであって、それなりの腕しかない。

 

それでもそれなりに美味しく出来る辺りは彼女のお陰なのだろうと思っている。

 

「…………これは」

 

街中の商店街を歩いていると一つの絵を見つけた。

 

千早はその絵に心を奪われたかのように見つめている。

 

その絵は『精霊の花嫁』というタイトルで"彼女"が描いた絵である。それと同時に千早にとっても思い出の品なのだ。

 

その絵に描かれているのは森と湖畔と純白のワンピースを着た黒髪を腰まで伸ばした少女である。

 

これまた随分と懐かしいものを見つけたなと、思いに耽っている千早。

 

その時の表情は見た目相応の少年のものであった。




今話で十香デッドエンド編が終わりです。

そして……ヒロインが決まらない。有りにするか無しにするか……悩み中。
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