デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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12話

「~~♪」

 

機嫌よくアスファルトの上を歩く千早。

 

あの後、よしのんと四糸乃とは別れた。また、会う約束をして。

 

士道に憑いて学校に行かずに家にいるとやることがほとんどないので千早は基本的に暇霊なのだ。

 

四糸乃たちとの別れの時を思い出す。

 

『ぅんじゃね。亡霊のおにーさん』

 

と、よしのんがそう言うと同時、四糸乃が踵を返して走っていってしまった。

 

「今度は転ばないように気をつけてねー!」

 

千早はそう声をかけると、四糸乃たちとは正反対の方に足を動かした。

 

と、まあこんな感じである。

 

「は……!」

 

千早はあることに気がついた。

 

それは―――

 

「よしのんをじっくり見せてもらえばよかった」

 

完全に忘れていた。

 

これもすべてASTのせいだと八つ当たり気味に千早は決めつける。

 

事実完全に八つ当たりなのでなんとも言えない。

 

「はぁ……今度会ったときに見せてもらおう」

 

千早は溜め息を吐くと帰路につくのであった。

 

今度はちゃんとよしのんをじっくりと見せてもらおうと決めて。

 

「ただいま~」

 

玄関に掛かった鍵をポルターガイストでこじ開けて家の中に入る。

 

「……おかえり」

 

そう返事を返してきたのは明らかにくたびれて実年齢よりも十歳くらい老けて見える士道の姿だった。

 

「……なんか疲れてるね」

 

「ああ」

 

力なく乾いた笑いを浮かべるだけの士道の姿にかなりの危うさを感じた。

 

それはまるでクビを宣告された中年サラリーマンようだ。

 

士道が何故こうなっているかの原因について千早はだいたいの予想ができているので黙ってお茶を用意してそっと差し出した。

 

「……ありがとな」

 

差し出されたお茶を力なく啜る士道に涙が出るはずのない千早の涙腺が熱くなる。

 

4月10日から始まった怒濤の展開はかなりのストレスを士道に与えた。

 

精霊との接触、妹の豹変、自身の黒歴史を晒される危機、理不尽なギャルゲー。

 

それを考えると多大な精神負荷がかかっているのがわかる。

 

「……お疲れさま」

 

本当にお疲れさまである。

 

よくもまあ耐えたものだと素直に感心した。

 

千早であればすでに周囲に迷惑をかけるかたちでストレスを発散していただろう。

 

こうも弱っている士道にいたずらをするほど千早も鬼ではない。

 

「ああ……本当に疲れたよ」

 

士道はずずっとお茶を啜りながら何処か遠いところを見ているような眼差しで外を見ている。

 

「疲れてるなら少し寝てるといいよ。夕食はボクが作っておくからさ」

 

「そうか……ありがとな」

 

「いいって。それよりも何かリクエストはあるかい?」

 

士道は少し悩んだように首を傾げる。

 

「とりあえず……スタミナがつくやつがいいな」

 

「了解。スタミナ料理ね。だったらニンニクとかが入ってた方がいいかな」

 

今晩の夕食のメニューを考えながらそう呟く。

 

冷蔵庫の中に肉はあったので足りないとすれば野菜類だろうと、思案しなから千早はメモ用紙とペンを持つ。

 

「えーと……」

 

冷蔵庫の扉を開けて、中身の確認を始める。

 

冷蔵庫の中には挽き肉、ベーコン、卵、バターにマーガリン。それ以外は今朝の残りと牛乳、麦茶、コーヒー、調味料各種が揃っていた。

 

続いて野菜室の扉を開く。

 

ニラ、長ネギ、パプリカ、漬物が入っている。

 

「う~ん……ニラがあるからそれはレバニラにするとして」

 

後は何にしようかと千早が悩んでいると、

 

―――ピンポーン!

 

来客を告げるチャイムがなった。

 

冷蔵庫の扉を閉めて玄関に向かい誰が来たのかを除き穴から確認する。

 

確認しなくても、誰が来たのかはだいたい予想ができているがもし外れた場合のことを考えて除き穴から確認する方法を選んだのだ。

 

「やっぱりか……」

 

来た相手は当然の如く十香だった。

 

千早は玄関の鍵を開けると扉を開いて十香を出迎える。

 

「いらっしゃい、十香ちゃん」

 

「おじゃまするぞ」

 

十香が家の中に入ると、玄関の鍵を閉める。それから千早はキッチンに戻っていく。

 

「ぬ、千早。シドーは何処にいるのだ?」

 

千早がリビングに戻ってくると十香がリビングで所在なさげに突っ立っていた。

 

士道に会いに来た十香であったが、リビングに士道の姿がなく、そのため士道の居場所を知っていそうな千早に聞いたのだ。

 

「士道だったら寝てるんじゃないかな? どうにも疲れてたようだし」

 

「……そうか」

 

残念そうにしょぼんとする十香。

 

まあ十香がしょぼんとするのも無理はない。十香にとって初めて自分のことを肯定してくれたのが士道なのだ。故に士道に対して並々ならぬ執着を見せてもおかしくはない。

 

「いっそのこと添い寝でもすれば」

 

「ば、馬鹿なこと言うなっ!?」

 

十香が叫んだ。

 

「静かに士道が起きちゃうから」

 

だが、千早は平常運転。十香の叫びを全く気にしていなかった。

 

「う、うむ。だが変なこと言うな。……私にシドーと添い寝しろだなどと」

 

「しろとは言ってないよ。したらどうって進めただけじゃん」

 

「似たようなものだ!」

 

「はいはい」

 

十香を退屈させないように会話をしながらも千早は今晩の夕食のメニューを考える。

 

よしのんパンは作るのが確定しているので小麦粉は必須。夕食に必要なものをリストアップしてメモ用紙に書き込んでいく。

 

「何をしているのだ?」

 

「ん? 夕食に使う材料で買ってくる必要のあるものをリストアップしてるんだよ」

 

覗き込むように見てくる十香に千早はそう答える。

 

「今日は食べていくの?」

 

「そのつもりだぞ」

 

ならデザートも必要かなと、千早はメモ用紙に追加して書き込む。

 

「了解っと。じゃあ、ボクは買い物に行ってくるから留守番をお願いしてもいいかな」

 

千早がメモを千切り、それをエコバックの中に入れて財布を持って出かける準備を整える。

 

「構わないぞ。出来ればでいいのだが……きな粉パンを買ってきてくれないか」

 

「それくらいならいいよ」

 

「なら、よろしく頼むぞ」

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

千早はエコバックを片手に買い物に出かけるのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ターゲット……司令の自宅からエコバックを手に外出しました。恐らくは夕食の買い出しだと思われます」

 

「そう……そのまま監視を続けて」

 

〈フラクシナス〉の艦長席に座った琴里が、そうオペレーターに指令をだす。

 

「了解です」

 

オペレーターからの返事にうなずくと艦長席に座っている琴里はチュッパチャプスをくわえながらメインモニターに目を向ける。

 

そこにはエコバックを持って商店街へと向かって歩いている千早の姿が移っていた。

 

「……何か気になることでも」

 

令音が艦長席に座る琴里の傍に近寄る。

 

琴里は令音の方に振り向くことなく、モニターに目を向けたままだ。

 

「あるからこうやって監視をしてるんじゃない」

 

「だろうね」

 

特に気にしたような感じもなく淡々とモニターに視線が向けられる。

 

「いたって買い物に向かう小学生にしか見えないが」

 

そんな言葉が琴里に投げかけられる。

 

「そうね……でも安心は出来ない」

 

琴里はガリッとチュッパチャプスを噛む。

 

その表情は兄を心配する妹の顔であった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「いや~予想外の買い物までしてしまった」

 

偶然にもスーパーのタイムセールスに参加出来てしまい、想定していたよりも多くのものを千早は買ってしまったのだ。

 

それでもちゃんと買うものは買っているので問題はない。あるとすれば余計な出費を出してしまったことぐらいだろう。

 

「家に帰ったら先ずは―――」

 

家に帰ったらやることを頭なの中で羅列していく。

 

その中で何を最初にやって何を最後に終わらせるかを決める。

 

大半のことはポルターガイストでなんとか出来る千早である。不眠不休で動くことになんの問題もない。

 

「いや、ここはよしのんパンを作るべきか」

 

そんなことを悩みながら千早は歩く。

 

夕食はレバニラに砂肝をおかずに味噌汁と米。

 

なので準備を終え次第、パン作りをやるか考えていたのだ。

 

十香の精霊の力が士道に封印されたことで常時実体化出来るようになった千早は余計に暇をもて余していた。

 

元々寝る必要がないので、どうしても夜は暇になるのだ。

 

前までは天体観測もしくは読書しかなかったのだが実体化出来るようになってから料理の研鑽を積むという時間潰しが出来るようになったのが大きい。

 

実際に千早の料理の腕前は常に上がっていく状態なのだ。

 

まあそれでも作るとしたら士道の方が腕が上なのは事実なのだが。

 

「パンは……夜に作ろうかな」

 

出来たらそのまま朝食にしちゃえばいいしと、翌日の朝食まで決めると千早は空を見上げた。

 

そこには雲一つない青空が広がっている。

 

「天気予報が外れたら探しに行ってみようかな」

 

千早はそう呟くと視線を前に戻して帰路を急ぐのだった。

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