デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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13話

「艦長。対象は帰宅しました」

 

〈フラクシナス〉のオペレーターの一人が事務的に琴里に報告する。

 

「ええ」

 

うなずくことなく琴里は淡々とモニターを見ながら答えた。

 

「現段階では危険性は見られないようだね」

 

「そうね……」

 

でも、と続けて琴里が言う。

 

「千早は〈プリンセス〉……十香の精霊の力が士道に封印されてから()()()した。それって完全に()()()()()()()()()()()()()

 

「確かにそうだね」

 

こくりではなくカクンと令音はうなずく。

 

「令音の見解は?」

 

ぼうっとした様子のまま令音が口を開く。

 

「恐らく……今後とも彼の力はシンが精霊の力を封印する毎に上がっていくのは確実だ。本人もそれは理解していたようだしね」

 

琴里は新しくチュッパチャプスを取り出すとそれを口の中に入れる。

 

「そう……しばらくは様子見しかないか」

 

「そうだね」

 

「それはそうと……例の件は進んでる?」

 

「ん? ああ、あれか。あれなら問題なく進んでるよ」

 

令音の言葉に琴里はうなずくと艦長席から立ち上がる。

 

「なら、そろそろ……次の段階にいきましょうか」

 

「……ああ。ここの環境は彼女にあまりよろしいものではないからね」

 

琴里は令音の言葉を聞きながら艦橋をあとにする。その少し後ろから令音が追従するように艦橋から出ていくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ただいま~」

 

家に帰ってきた千早はエコバックをキッチンに持っていく。

 

その最中、十香の姿がないことに気がついた。

 

「あれ? ……帰っちゃったのかな?」

 

きな粉パンはどうしようかと思ったが、少なくともまた来るだろうから残しておこうときな粉パンをバックの中から取り出して、テーブルの上に置いておく。

 

「えーと……これは冷凍庫でこれは野菜室っと」

 

次々とバックの中から買ったものを取り出して、入れる場所ごとに品物を分けていく。

 

バックの中身を全てだすと千早はそれを畳んであった場所に戻しておく。そうしないと次に使うときに探すはめになるからだ。

 

時計を見ると五時を少し過ぎていた。

 

「う~ん……まだ時間はあるけど先に炊飯器のセットだけしておこうかな」

 

少し多めに米を磨いで、炊飯器にセットする。それから炊き上がる時間を七時にセットしておく。磨ぎ汁は鉢植えに注ぐ水として再利用する。

 

それらの肯定を全て終えると千早はリビングのソファーにパンの作り方の記載された料理本を見ながら座った。

 

よしのんパンを作るにあたり千早は基礎の確認をするのだ。

 

最近はほとんどの時間をお菓子作りや料理に割いているが味覚がないなどの致命的な欠陥があるので基礎の確認は必須である。

 

それも士道が精霊の力を封印してくれれば解決するのであるが現状だとこれしか方法がない。

 

「それに―――」

 

―――千早にとって自身が強化されるということはその分、時間が少なくなっているのと同義なのだ。

 

これからも精霊の力が封印されていけば時間がガリガリと削られていく。

 

今はまだ大丈夫であるがそのうちに本来の力の一部が解放されるのが本能的に理解している。

 

ポルターガイストのような本来の力から溢れたほんの一欠片の力ではなく本来の力がだ。

 

「そろそろ作ろうかな」

 

時間は六時になろうとしており、ご飯が七時に炊き上がるのでそれに合わせて食べられるように今から作り始める。

 

千早はパタリと料理本を閉じて、エプロンに身を包むとキッチンに向かう。

 

そして、冷蔵庫から食材を取り出すと調理を始めるのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「おーい、起きてるー?」

 

士道の部屋の扉を千早がノックする。だが、数秒ほど待っても返事がないのでもう一度声をかける。

 

「起きてるかい? 起きてたら返事が欲しいな」

 

千早はさらに十秒ほど待つも返事がないので士道の部屋の扉を音を立てないようにそっと開けて、頭だけを部屋の中に入れて中の様子を確かめる。

 

「おーい、晩御飯だ……よ……って……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……ぅ……ぅ……」

 

部屋の中ではベットに寝転がっている士道にその傍で小さく寝息を立てている十香の姿があった。

 

「はぁ……しょうがないな」

 

千早は微笑みながら軽く息を吐くと音を立てないようにそっと扉を閉めた。

 

リビングに戻ると夕食のおかずにラップをかけておく。

 

起きてきたらレンジで温めれば問題ないので千早はつくづく便利な世の中になったなと感じる。

 

レンジがあれば大半の食べ物は食べられるからだ。一部の例外はあるが。

 

「さてと……やりますか」

 

千早はエプロンを着けるとキッチンに向かう。

 

やることはもちろん……パン作りだ。

 

よしのんパンを作るのである。

 

目はラムレーズン、耳のピンク色の部分はイチゴジャム、眼帯はチョコレート、顔などの白い部分は白パンにするので問題はない。

 

時間ならたっぷりとあるので焦る必要はない。全て丁寧にやるだけだと千早は意気込む。

 

実際にこの光景を士道が見ていたら「なん……だと……っ!?」と驚愕して目を点にしていたこと受け合いだろう。

 

まあそうなれば当然……千早の機嫌が一気に悪くなるので、もしこの場にいたら決してそのことは言わずにいるだろうと予想される。

 

「……まずは」

 

薄力粉から強力粉と沢山用意してるあたりから千早の熱のいれ具合が伺える。

 

そして、千早のいつものように長い夜が始まる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……何でこうなってるんだ?」

 

士道は腹部に何かがのしかかっている重圧を感じて目が覚めた。そして、何が乗っかっているのかと視線を向ければ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

十香が寝ていた。

 

何故、十香が寝ているのかわからない士道であるが、ここで無理矢理起こすのも悪いと思ったので十香を起こさないように静かに起き上がると部屋を後にした。

 

部屋から出た士道の鼻に漂ってくる香ばしい匂い。

 

「……ああ……そういえばまだ夕食は食べないんだっけ」

 

ぐるるるると鳴る自身の腹に自分が空腹を覚えているのを感じて士道のリビングに向かう足取りは少しばかり早くなり、リビングで見た光景に絶句した。

 

「…………は!?」

 

そこには……コミカルなウサギのパンが沢山用意してあったからだ。

 

「う~ん……イマイチ納得がいかないなぁ」

 

そこに新しく焼き上がったコミカルなウサギのパンを持った千早が現れる。だが、その表情は芳しくなく何か悩んでいるようにも見えた。

 

士道がキッチンから出てきた千早に何でこうなっているのかを問いかけた。

 

「……何でこんなにパンがあるんだ?」

 

「ん? ああ、起きたんだね。今日ちょっとね……ある種の出会いがあってね。それよりもお腹空いてるでしょ? ちょっと待っててすぐに用意するから」

 

「あ、ああ……って―――」

 

士道がキッチンにそそくさと戻っていく千早を止めようとしたが間に合わず千早はキッチンの中に行ってしまった。

 

士道とすればテーブル置いてある十を越えるコミカルなウサギのパンを食べようかと思っていたので千早を呼び止めようとしたのだが間に合わなかった。

 

ドタドタと駆けてくる音が段々と大きくなり、その方向に士道が視線を向けると、駆け寄ってくる十香の姿が見えた。

 

「シドー! 何で起こしてくれなかったのだ!」

 

士道の目の前に来るなり十香はそう投げかけた。

 

「いや……起こすのも悪いと思ってな」

 

「気を使ってくれるのは嬉しいが……その、起こしてくれないと一緒の時間を過ごせないではないか」

 

もじもじとしながら話す十香に士道の頬が少し赤く染まる。

 

「あ、ああ、次からは起こすようにする」

 

「……絶対だからな」

 

「……ああ」

 

気恥ずかしそうにしている二人。

 

そこに千早がレバニラと砂肝の乗った大皿を持ってきた。

 

「あ、十香ちゃんも食べる?」

 

「……う、うむ。いただくぞ」

 

千早の言葉にたどたどしく十香がうなずく。

 

傍には少し頬を赤くした士道がいることから千早は何があったのかを予測しつつも、その事には触れなかった。

 

「了~解っと。じゃあちょっと待っててね」

 

そう言って再びキッチンへと向かう千早。その後ろ姿を追っていた十香の視線は自然とコミカルなウサギのパンへとたどり着いた。

 

「……あのパンは一体?」

 

そう呟く十香に士道は何も返せなかった。士道自身が何であんなにコミカルなウサギのパンがあるのかを把握しきれていないからだ。

 

「お待たせ」

 

千早がポルターガイストを使い一気に複数の小皿にご飯を運んでくる。

 

それらがテーブルの上に置かれるのと入れ替わるようにコミカルなウサギのパンが宙に浮いて一ヶ所に集められていく。

 

そして全てバスケットの中に丁寧に入れられる。

 

「さ、結構遅い時間になっちゃったから量は少なめだけどね。後、きな粉パンは帰るときに渡すからね」

 

食べて食べてと、テーブルの椅子を引く千早に士道たちはうなずくと椅子に座る。

 

だが時刻は十時半を過ぎた頃。千早の戦い(パン作り)はまだ始まったばかりだ。

 

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