デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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14話

「ふぃ~……休憩っと」

 

時刻は午前六時。十香が〈フラクシナス〉に戻り、士道が再び寝静まった後も千早はよしのんパンを作り続けていた。

 

その数はゆうに五十個を越えている。つまり、かかった材料費もばかにならない。

 

しかも何を思ったのか途中からよしのんパンクリームパンバージョンやあんパンバージョンすら作り始める始末である。

 

後になって思い返すと「……やりすぎた」と千早は乾いた笑い声を上げていた。

 

肉体的には疲れるはずがないのできっと精神的に疲れていたのだろうと千早は一人納得する。

 

リビングのテーブルの上に置いてあるよしのんパンが異様な空間を作り出しているが。

造形パターンも数種類作ってるあたりもう千早がどれだけやり込んだのかは語る必要もないだろう。

 

明らかに作りすぎてしまったが後悔はしていない。反省はほんの少しだけしているが、正直に言ってそれよりも優先すべきことがある。

 

今もオーブンの中にはよしのんパンカレー味が入っているのだから。

 

「……ふぅ」

 

どうにも止まらなかった結果がこれだよ。

 

千早は朝日が差し込む窓へと視線を向ける。

 

目下最大の案件は……よしのんパンをどう処理するかだ。捨てるのは完全に選択外なので士道の朝食になるのは確定しているが、千早はそれだけで処理できるはずがないとわかっているので頭を悩ませているのだ。

 

そんなこんなでパンが焼き上がる。

 

「……本当にどうしよう」

 

これで一応ラストなのだが……如何せんここにくるまでの量が多く、仮に士道がお昼ようにも持っていった場合でも余りそうなほどだ。

 

千早は十香ちゃんも食べるだろうけど、せいぜい二個か三個だろうからあまり数は減らないと思い、何かないかと考えていると。

 

あることを思い出した。

 

そう―――〈フラクシナス〉のクルーたちだ。

 

彼ら彼女らならきっと全てを配っても数が足らないはず。

 

それならばチャンスはあると思い千早はよしのんパンの行く先を勝手に決めた。

 

味は……悪くないはず、と自信を持って宣言できないのが悲しいことだがそれはしょうがないと妥協する。

 

「……な、なんだよこれ……!?」

 

寝癖を手櫛で整えながらリビングに入ってきた士道がリビングのテーブルの上に大量に置かれているよしのんパンを見て目を丸くする。

 

リビング中を漂うパンの薫りが士道の食欲をそそり、空腹を訴えるが士道はそれどころではない。

 

明らかに多すぎる量に愕然としていた。

 

……こんなに食えないと。

 

「あ! おはよう士道」

 

千早がリビングに来た士道に気がついて話しかけた。

 

「……これが全部朝食なのか?」

 

恐る恐る士道がテーブルの上に大量に置かれているよしのんパンを指差す。

 

「そんなに士道は大食らいじゃないでしょ? もしかして全部食べる気だった?」

 

「い、いや、そうじゃなくてな……何でこんなにあるんだ?」

 

そのことね、と千早はうなずくとリモコンでテレビを点けてチャンネルをニュース番組に変えてから言った。

 

「ちょっと……作りすぎちゃった」

 

「ちょっとってレベルじゃねえよ!!」

 

テヘッと笑う千早に士道が吼えた。

 

「静かに静かに……近所迷惑になっちゃうから」

 

あまりにも煩かったので千早はそう言って士道に静かになってもらうとする。

 

「だがなあ……これはちょっとじゃねえよ!」

 

声のトーンを下げつつも怒鳴るという器用なまねをする士道だが、千早はすでに話を聞いていなかった。

 

「あーハイハイ。次から気をつけるから」

 

何とも適当な返事にイラッとくるも、これだけのために朝の貴重な時間を潰すのは建設的ではないと士道は忍耐の道を選ぶ。

 

「……あー……それで、ここにあるやつは適当に食べていいのか?」

 

「ん? ああ、構わないよ。色々と中身にバリエーションがあるから注意してね」

 

千早はテーブルの上に大量に置いてあるよしのんパンを食べるにあたっての注意をすると後片付けを始める。

 

「……わかった」

 

何で朝から疲れなくちゃならないんだと、溜め息を吐きつつ士道はよしのんパンに手を伸ばすのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

その日の昼休み。

 

「五河……なんだそのコミカルなウサギのパンは?」

 

殿町が士道の昼食だと思われるパンについて聞く。

 

「ああ……これな……作りすぎたそうなんだ」

 

「作りすぎってどれくらいなんだ?」

 

「……ざっと五十を越えていた」

 

「はぁ?」

 

予想以上の数に殿町が口をポカンと開けて固まる。

 

せいぜい、五個か六個ぐらいだろうと思っていたのであろうが桁が違った。

 

「……それにしても昨日、千早が作っていたのを貰ったが普通に美味しかったぞ」

 

そこに十香が加わる。

 

「えっ!? 十香ちゃん、これ食べたの」

 

十香がこのパンを食べていたことに殿町が驚く。

 

「……なら十香も食べるか?」

 

驚く殿町をスルーして士道が十香も一緒にどうかと誘う。

 

「む……いいのか?」

 

「ああ、俺一人だと……食べきれなさそうだしな」

 

そう言いつつ鞄の中から十個近くのよしのんパンが取り出される。

 

「……何でそんなにあるんだよ」

 

「さっき言っただろ……作りすぎたんだと」

 

鞄の中からコミカルなウサギのパンが出てくる光景に殿町はおののき、士道は乾いた笑みを浮かべた。

 

「てか……千早って誰だ?」

 

殿町の言葉で士道は思い出す。そう言えば殿町は千早のことを知らないなと。千早が自身にとり憑いている幽霊とは言えないのでどう説明しようか悩んだ結果。

 

「ああ、千早は……ほら、この前教室にいつの間にかいた小学生くらいの少年を覚えてるか?」

 

「ああ……って、嘘だろ!」

 

士道の言葉で千早が誰なのかわかったのだろう、殿町は反射的にそう言っていた。十香にも嘘だよなと視線を向けて。

 

「嘘ではないぞ。実際に私もその場を見ていたからな」

 

「……マジかよ」

 

十香が肯定したことにより、殿町はそれが真実だと認識する。

 

「殿町も食うか?」

 

「いいのか?」

 

士道に差し出されたよしのんパンを殿町が受け取る。

 

「十香にも言ったけど俺だけで食べきれそうにないからな」

 

十個以上あるよしのんパン、その全てを一人で食べるのはかなりきつい。

 

大きさもそれなりにあるので、三個か四個食べればお腹が十分に膨れるほどだ。

 

それも元々、大食らいではない士道に食べろというのは酷な話である。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「う~ん……今日は雨が降らないと」

 

千早は天気予報を見ながらそう呟いた。

 

突然の雨。それが四糸乃とよしのんが現界した証になるので今日の天気さえ確認しておけば会える確率がわかると考えられた。

 

十香がおこなった静粛現界。それができるなら空間震の警報が鳴らないのに四糸乃とよしのんが現界できていたことに説明がつく。

 

千早の義妹は空間震を発生させる現界も静粛現界もある程度コントロールするすべを得ているので他の精霊もある程度コントロールすることは可能だろうと千早は見ている。

 

「……この状況はなんなの?」

 

「あ、いらっしゃい―――」

 

声がした方に千早が振り向く。

 

「―――琴里ちゃん」

 

リビングの入口には怪訝な表情を浮かべた黒いリボンで赤い髪を纏めた士道の妹、五河琴里の姿があった。

 

「……そこはおかえりじゃないの?」

 

「うーん……なんとなく家に帰ってきたんじゃなくてボクに用があって来たんじゃないかなって思ってさ」

 

「あたりと言えばあたりよ」

 

「以外とボクの勘も捨てたものじゃないね~」

 

からからと笑う千早に不気味なものを感じる琴里の額から汗が流れる。

 

「本題に入る前に……このパンはなんなの?」

 

「よしのんパンだけど……」

 

「何でこんなにあるのよ」

 

「作りすぎたからだけど……それが?」

 

首を傾げてきょとんとしながら言う千早にビキッと青筋が立つが、そこはなんとか抑えながらも琴里は話を続ける。

 

「…………まあ、いいわ」

 

「あ、そう。とりあえず食べてみる?」

 

千早はテーブルの上に大量に置かれているよしのんパンの一つを琴里の傍に浮かばせて持っていく。

 

「……そうね……いただくわ」

 

そして、琴里がよしのんパンにかぶりつく。

 

「こ、これは……っ!」

 

カッと目から光線のようなものが出ている描写が浮かび上がる。

 

「柔らかなの表面の皮の中にはふわふわの生地! そして、それを全て台無しにするネバネバした日本特有の発酵食ひごばっ……!」

 

琴里がよしのんパンを口から吹き出して後ろ向きに倒れた。

 

「あ、ごっめーん! それなんの気の迷いか作っちゃった納豆よしのんパンだった」

 

全く悪かったという謝罪の心が感じられない言い方だが、琴里は返事が返せなかった。

 

千早が気の迷いで作った納豆よしのんパンによって琴里の味覚が重大なダメージを受けているからだ。

 

しばらくもがいていたが、やがて動きは緩慢になり始める。

 

そして……ビクン……ビクン……と痙攣するだけになった。

 

さすがに不味いと思った千早が琴里の傍に近寄る。

 

「なんてものを食わせてくれたのよっ!!」

 

と、琴里が納豆よしのんパンの千早の口の中に突っ込んだ。

 

それをなにくわぬ顔でモシャモシャと食べると千早は言った。

 

「味覚がないから完全に味がわからないんだよね」

 

「……なんですって」

 

ショックを受ける琴里。もちろんショックの原因は千早に味覚がないことではない。自分と同じ苦しみを味あわせることができなかったからだ。

 

その後、琴里が納豆よしのんパンによって破壊させられた味覚をなんとか取り戻してから本題に入るのだった。

 

 

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