デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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15話

「それじゃ……早速、本題に入るわよ」

 

琴里がよしのんパンinカスタードクリームを食べながらそう言った。

 

「うん、構わないよ。それで味はどうかな?」

 

「……中々いいんじゃないの? プロには負けるけど」

 

「まあね。さすがにプロには勝てないよ。所詮は初心者なんだから」

 

不味いと評価されないだけ十分だと千早は笑みを浮かべた。

 

そもそもパン作りを始めて時間的に一日も経っていないのにプロ顔負けの腕だったらどれだけ才能が豊かなのだろう。

 

少なくとも千早はそっちの分野において天才ではない。

 

それなりに芸達者ではあるが。

 

「そ、まあいいわ。本題はね……十香を家にホームステイさせることよ」

 

「いいんじゃないの? ボクは反対しないよ」

 

「当たり前よ。反対なんてさせないし、元からこれにあなたの意思は関係ないの」

 

「ならボクに言う必要はなくない?」

 

明らかに関係ないならいう必要はないのに何故、自分に話すのか千早は疑問に思っていた。

 

その答えはすぐに明らかとなった。それは―――

 

「はい、これ」

 

琴里が千早に焦げ茶色のブックカバーのついた台本サイズの薄い本を渡してきた。

 

「これは……ああ、これに書いてあることをすればいいのね」

 

千早は早速、渡された台本サイズの薄い本を開いて内容を確かめると、そう言いつつうなずいた。

 

自分に何が求められているのかを正確に理解する。

 

「そうよ……簡単でしょ」

 

「だね。……機材は最高のものを頼むよ」

 

「もちろんよ。一切の妥協はしないわ」

 

クククと示し合わせたように笑い合う二人。その表情はこれから起こる出来事が特定の人物にとっては中々に疲れることを暗示していた。

 

「なら、早めに準備をしなくちゃね」

 

「ええ、わかってるわ。すでに部隊の準備は整ってるからあとは指示を出すだけ」

 

ニヤリと何処かの悪役のような凶悪な笑みを浮かべると琴里は携帯端末を取り出す。

 

「……始めちゃってちょうだい」

 

『了解!』

 

ピッと音がしてすぐに端末の通信が切れる。

 

その直後に家の中に白衣を着た人物たちと工兵のような人物たちが次々と現れる。

 

「いらっしゃ~い」

 

千早は彼らに向けてパタパタと手を振りながら挨拶をする。

 

「はい、お邪魔させていただきます」

 

その中の代表らしき人が敬礼をしながら返事をした。

 

その人の名札には『胸に七つの刺し傷を持つ男 海藤 正芳。二つ名は七つの修羅場を生した男』と書いてあった。

 

それを見た千早は七つの刺し傷って修羅場で毎回刺されてできたのねと呆れていた。

 

特に七回も刺されているのに生きているところとか、刺される前に解決しろとか等々。

 

それ以前に二つ名が二つない? との疑問を抱いたが、深くはつっこまないことにした、そうしたつっこみは士道の役目だからだ。

 

本人がこの場にいたらふざけんな! とちゃんと返してくれただろうと用意に想像できるあたりに士道の苦労性がわかる。

 

叩けば埃ならぬ黒歴史がでる士道なのだ。これくらいのことではへこたれまい。

 

ちょっと初なのでソッチ方面での耐性が低いのでソッチ方面になるとつっこみの勢いが衰えるのは仕方がないだろう。

 

「隊長! 機材の搬入が終了しました」

 

そう海藤に話しかけるのは白衣を着たアフロの男。

 

その男が胸に着けている名札には『四十代童貞(大魔法使い) 鑚島 孟』と記載されていた。

 

「ぶっ……」

 

ひでぇと、思いながらも千早は吹き出してしまう。

 

明らかにこれは苛めだろと言いたくなるが本人が気にしていなさそうなので放置しておく。

 

「……琴里ちゃん。〈ラタトスク〉のメンバーって……全員が色物なの?」

 

「…………そうじゃなきゃやってけないのよ」

 

つまりは変人やズレた人たちじゃなきゃこの組織はやってけないのね。能力はあるけど個性が強すぎるメンバーしか集まらなかったと。

 

確かに強すぎる個性って使いにくいしねと千早はうなずく。

 

「……それにしても……このコミカルなウサギ……何処かで見たことがあるような」

 

う~んと唸りながら琴里がよしのんパンを見て首を傾げる。

 

「ふーん……そのうち思い出すんじゃない?」

 

千早はあえて〈ハーミット〉つまり四糸乃のことは言わずにいた。

 

「そうね……今はいいわ」

 

琴里は息を吐くと新しくチュッパチャプスを取り出して口に入れる。

 

「そっか……」

 

千早はそう返すと視線を窓越しに外へと向けた。

 

少しの沈黙のあと琴里が答えたくなかったら答えなくていいと前置きしてから千早に問いかける。

 

「あなたは……何で幽霊になってるの?」

 

「何で幽霊にか……」

 

千早は琴里の方に向き直る。

 

何処まで言うかそれを千早は考えたが、全てを話す気は元々ないのでほんの少しだけ答えることにした。

 

「それはね……失敗しちゃったからだよ」

 

「失敗ね……何を失敗したの?」

 

「RPGでいうところの絶対に負けてはならないイベント戦かな」

 

そう……まさしく、千早にとって幽霊となることは想定外であり、失敗と称しているが、実際には自身の敗北と変わらない。

 

()()()()()()()()

 

元々、千早は次がないことを前提にして、行動したのだがこうなってしまった。

 

現状の千早は敗北者でなかったら存在はしないのだ。

 

「……それって……badendを迎えた結果があなたってこと」

 

「そうだよ……その認識で間違ってないかな」

 

すでに終わってしまったことなので千早は明るい表情のまま表情を変えない。

 

今を楽しもうとするならその当時の記憶はあれど当時の感情は必要ではないからだ。

 

でなければパンを作ったり、士道にイタズラをしたり、士道の黒歴史生産活動を手伝ったりしなかった。

 

「そう……その原因は?」

 

「……それは秘密だよ。でも、ヒントはあげる」

 

「ヒント……ね」

 

「そうだよ。……それはね―――この先、士道が精霊の地からを封印していくのであれば自然とわかるよ」

 

「…………」

 

琴里は無言でガリッとチュッパチャプスを噛み砕くと新しいのを取り出して口の中に入れた。

 

「……それじゃあ、ボクは出かけてくるからテーブルの上にあるよしのんパンは全部食べちゃっていいからね」

 

千早はそう言いながらよしのんパンinカスタードクリームを紙袋に入れてそれをビニール袋に入れる。

 

「何処に行くの?」

 

「散歩だよ……散歩」

 

そう言いながらリビングを出て、〈ラタトクス〉の作業員たちとすれ違いながら外へと出た。

 

 

◇◇◇◇

 

 

出かけてからしばらくするとポツポツと雨が降り始めてきた。

 

今日の天気予報は晴れ。

 

それはすなわち―――識別名〈ハーミット〉―――四糸乃の現界を報せていた。

 

空間震警報は鳴っていないので静粛現界であることがわかる。

 

「……さて、何処にいるのかなぁ~」

 

そんなことを呟きつつ、千早は雨の中を進んでいく。

 

すると、雨の中呆然と突っ立っている士道の姿を見つけた。

 

「おーい、何を呆然と突っ立ってるの」

 

「お、おわっ! って……千早か」

 

ビクッとすっとんきょうな声を上げると士道は話しかけられた方に向き直ると千早の姿を確認して一息ついた。

 

「そうだよ。それでぼうっとしてたようだけど何かあったの?」

 

そう言いながら千早は士道に降りかかる雨も弾いている。ついでに士道が風邪を引かないように制服に染み込んだ水も弾き飛ばす。

 

「お、ありがとな……実は、琴里と同じくらいの背丈の子がこの雨の中傘も指さずに跳ね回ってたんだよ。しかも、その子が左手に嵌めているパペットが千早の作っていたパンと同じ形のコミカルなウサギなんだよ」

 

千早は士道の話を聞いて、士道が四糸乃と接触したことがわかった。

 

多分、さっきまで一緒にいたのだろうからまだこの近くにいる可能性もある。千早は一度、て持っている袋に目を向けると士道に訪ねた。

 

「その子がどっちに行ったか教えて欲しいんだけど」

 

「ん? 構わないけど……知り合いか」

 

「そうだよ。あのパペットがモデルのパンを作ってたんだからそれぐらい察してよ」

 

「いや……さすがにそれは無理があるから」

 

士道が苦笑して頬をかく。

 

それから士道が曲がり角の方を指差す。

 

「あそこを曲がってたから……でも、追いつくとは限らないぞ」

 

そんな士道に千早はニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。

 

「問題ないよ。これでも移動速度はかなりのものだと自負してるしね」

 

その言葉と同時に千早は士道の視界から消えて曲がり角を曲がって行った「アデュー」と言葉を残して。

 

「あ……行っちまった」

 

千早がいなくると当然、降り続いている雨が士道に当たるようになるわけで士道はまたずぶ濡れになっていく。

 

「……迎えに来てくれたわけじゃなかったんだな」

 

はぁ~、と士道が深く溜め息を吐き、ガックリと肩を落としながら帰路につく。

 

その姿はまるで捨てられた子犬のようであった。

 

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