デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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17話

三時間後。

 

すでに夕食は食べ終わり、千早は士道を嵌める準備を淡々と進めていた。

 

千早が担当するのはお風呂イベント。

 

「……ククク」

 

悪どい笑みを顔に張り付けた千早は見た目からは想像できない邪悪さを醸し出している。

 

もし、四糸乃が見ていたら即座に逃げ出していただろう。

 

完全に悪党の顔をしていた。

 

それはもう誰がどう見ても悪党面だった。今回ばかりは本人も認めるであろう。

 

これからやろうとしていることを考えるならば。

 

「さて……行くか」

 

千早は士道を嵌めるために動き出した。

 

風呂のスイッチをいれる。

 

これで午後八時を回った頃にはお風呂が沸くだろう。

 

あとはその時が来るまで待つだけだ。

 

千早はリビングでゲームをしている琴里の隣に座るとテレビの方に視線を向けながら小さな声で話しかける。

 

「……お風呂が沸き次第いつでもいけるよ」

 

「……わかったわ。すでに家のあちらこちらに小型の隠しカメラをセットしてあるから士道が油断した瞬間を狙うわよ」

 

そう言いながら琴里がほんの一瞬だけ士道に視線を向ける。

 

士道は何かと警戒した様子であり、上手い流れを作らないと嵌めることは出来ないと確信を抱かせられる。

 

お風呂イベントというなの王道ハプニングを警戒しているのだろう。

 

だが、いくら警戒をしていてもそれは無意味なのだ。

 

元々愉快犯的な気質の千早と頭の切れる司令モードの琴里を同時に相手して知を持って乗り越えられるほど士道は頭がよくない。

 

「お、もうそろそろ八時になるね」

 

「そうね……」

 

ここからは打ち合わせ通りにと千早と琴里がアイコンタクトを交わす。

 

それから少しするとお風呂が沸いたことを報せる音が鳴る。

 

「士道。お風呂沸いたみたいだから、先に入っちゃって」

 

計画開始である。

 

「そうそう入ってきちゃいなよ。どうせ琴里ちゃんはまだゲームを続けるみたいだし」

 

「……風呂ね」

 

士道が上擦った声でそう答える。

 

だが、千早はその時の士道の疑り深い表情を決して見逃さなかった。

 

士道が懸念しているのは十香とのお風呂イベント王道のハプニングだということはわかっているのだ。

 

だからこそ千早は言う。

 

「十香ちゃんは琴里ちゃんとゲームを一緒にすることになってるから入るなら今のうちだよ?」

 

ここで重要なのはゲームを一緒にするとだけ言っておくことだ。

 

「……そうなのか?」

 

疑り深くなっている士道には今一信じられないことだったのだろう琴里にそれが本当なのか問いかけた。

 

「ええ、本当よ」

 

琴里がなにくわぬ顔で答える。

 

と―――そのとき。

 

「琴里、待たせたな。さあ、勝負だ!」

 

士道の背後からそんな声が響いてくる。

 

と、同時に千早と琴里がほくそ笑んだ。

 

「十香!?」

 

「ぬ、どうしたシドー。おかしな顔をして」

 

「い、いや……どこ行ってたんだ?」

 

「ん。琴里が一緒にゲェムをしようと言ってきたのだが、なにぶん今日は少し冷えるのでな。荷物の中から、膝にかけるものを探してきたのだ」

 

「……っ、な―――」

 

十香の言葉に士道は思わずよろめいた。

 

この士道の反応までもがすでに予想されていたことも知らずに。

 

「……ふろ、いってくる……」

 

「いってらっしゃーい」

 

ふらふらとリビングを出ていく士道の背に千早が言葉を投げかける。

 

「? シドーはどうしたのだ?」

 

「……さあね」

 

さあねと言いながらも琴里の目は明らかに計画通りと物語っていた。

 

「……それじゃボクはボクでやることがあるから行くね」

 

「……ええ、任せたわよ」

 

「任された」

 

千早は十香と入れ替わるようにリビングを出ると、士道の恥ずかしい黒歴史の数々が封印されている箱を開けに行く。

 

それらは全て千早が隠し撮りしたやつだ。

 

「愛などいらぬ……っ!」やカエルをメメタァしている写真や邪気眼に目覚めたときのボイスレコーダーが残っているのだ。

 

これらのことは士道は知らない。

 

【アーハッハッハ! 】

 

霊体化してどこぞの魔王のように高笑いを上げる。

 

それからすぐにまた実体化して平常通りに振る舞う。

 

あまりにも上手くいくのでおかしくてたまらないのだ。

 

上手くいくこと事態に不満はないが……あまり上手くいきすぎるとかえってつまらなくなる。

 

「くふ……そろそろ投入する頃かな」

 

疲れている士道が風呂でうとうとするのは〈フラクシナス〉のクルーたちもほぼ間違いないと計算している。仮にそうでなくても疲れている士道が普段よりも長く風呂に入ると読んでいるので、風呂に入った時点で王道のお風呂イベントを回避するすべは士道に残されていないのだ。

 

千早がそう呟いた頃。風呂場では―――

 

「―――っ! 馬鹿者! でっ、出てくるな……っ!」

 

十香が士道の頭をむんずと掴み、湯船に沈めていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

深夜。

 

〈フラクシナス〉の艦橋に千早はいた。

 

そこにはクルーたちがモニターを開き、五河家の中を士道を担いで移動する、黒い戦闘服に目出し帽(バラクラバ)という、アメリカの特殊部隊みたいな格好をした男たちが数名映っていた。

 

「……さて、始めようか」

 

千早はまるでここの主であるかのように館長席に座ると足を組んで偉そうにほくそ笑み、

 

「レッツ! トトカルチョ!」

 

と声高く叫んだ。

 

「オォーーーー!!!」

 

とノリよく叫ぶ〈フラクシナス〉のクルーたち。

 

「さぁーて……今後の展開を予想だ!」

 

その言葉と同時にモニターが切り替わり三つの選択肢が現れる。

 

① 士道が十香と朝まで寝床を共にする

 

② 士道が十香に対して性衝動(リビドー)を爆発させる

 

③ 途中で十香が目覚めて士道がボコボコにされる

 

「さあ、選んで! 制限時間は十秒!」

 

ピッ! ピッ! と次々に選択肢が埋まっていく。

 

そして、十秒が経過する。

 

艦橋の中央モニターにその結果が出る。

 

「①が10票。②が意外にも5票。③が15票だ! そして……今回のトトカルチョには皆さまの休暇がかけられているので見事に正解した方には休暇をプレゼント! さあ、結果を楽しみに待っててね」

 

千早は最後に〈フラクシナス〉クルーのショタコンたちにウインクすると霊体化して五河家に戻って行った。

 

ナチュラルに千早に順応しているクルーたちだが、それは初めからそうであったわけではないわけではなかった。ぶっちゃけると千早が年齢的に合法ショタだったので一部のショタコンたちが幽霊? そんなの関係ねえとばかりに千早を受け入れたのだ。

 

だからこそ千早は〈フラクシナス〉で休暇をかけたトトカルチョを行えていたのだ。ちなみにこの事を琴里は知らない。

 

神無月はシュールスレミングによる臭い責めにより真面目モードから変態モードへと変わっているため役に立たず、令音は知っていたが琴里も知っていることだろうと思って何も言っていなのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

翌日。

 

「な……!? なんだ、この臭いは……新手の敵襲か?」

 

リビングにやって来た十香が鼻を袖口で覆う。

 

五河家のリビングには今、十香が今まで一度も嗅いだことのない強烈な臭いが充満していた。

 

「……あ、おはよう」

 

「ぬ、千早か……この臭いはなんのなのだ?」

 

キッチンから現れた千早に十香が聞いた。

 

「臭い? ああ、これのことね」

 

と、千早がキッチンから缶詰の缶を持って来て、それを十香に近づける。

 

「臭っ!……それを近づけるでない」

 

「ごめんごめん」

 

ヘラヘラと笑いながら制服の袖口で鼻を覆う十香に謝る。

 

十香は少し千早から離れると警戒した様子で口を開く。

 

「……それが……原因か」

 

「そうだよ。シュールスレミングっていう世界一臭い食べ物だよ」

 

この場に士道がいたら確実に千早の名前を叫び、すぐさま消臭活動をしていただろう。

 

千早は感じていないがすでにリビングはシュールスレミングの臭いがひどく、十人いれば確実に十人が臭いと答えるぐらいだ。

 

仮に一万人規模だったらその中の一人か二人はいい臭いっていう可能性もあるが、それはよっぽど奇特な人しかいないだろう。

 

千早に関しては現在、味覚も嗅覚もないので全く意味をなさないが、これがもし嗅覚のあった状態なら確実にくっさと鼻を摘まんで遠ざけているはずだ。

 

まあ、それでも……きっと使っているだろうが。

 

「まあ、いいや。それよりも士道は?」

 

千早がそう聞くと、十香は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「し、知らん……!」

 

「あ~、なるほど……」

 

「ぬ……なんだ、その全てわかってますよ的な顔は」

 

「ん。事実その通りなんだけど」

 

「な、何!?」

 

驚く十香に千早はほらとテレビを点ける。

 

そして、チャンネルを特殊なものに変えると―――

 

「な、ななななななな……」

 

ギョッとした表情で口をパクパクさせて十香が身体を硬直させる。

 

何故ならそこには……十香と一緒に眠る士道の姿があったからだ。

 

千早からしたらこの程度でどうしてそこまで動揺するのかわからないのだが。そこは二人して恥ずかしがりやだからと納得している。

 

一緒に寝るくらいで大袈裟なと声に出しそうになるのを必死に押さえて千早はポーカーフェイスを保つ。

 

「……とまあこんな理由で知ってるわけ」

 

テレビを消して十香の方を向くとすでに十香はいなくなっていた。

 

「なら、今のうちにやっておくかな」

 

千早はリビングの窓を全開にして換気扇を回す。それから消臭剤『ラフレシア』を使ってシュールスレミングの臭い消しを始めるのだった。

 

ただ、消臭剤なのに何で臭い花である『ラフレシア』の名前を使っているのかという疑問がつきないが。

 

効果は確かなようなので本当に意外だ。

 

もっと相応しい名前があるだろうにとも思うが千早が何を言おうともメーカーが変えようと思わない限り変わらない。

 

ポルターガイストで複数本纏めて使って一気に消臭していく。

 

「……こんなもので平気かな」

 

とりあえず、もう消臭剤を使う必要はないだろうと思うまで使うと千早はそれらを流し台のしたにしまうのだった。

 

「……おはよう」

 

そう言いながらリビングに入ってくるのは琴里だ。

 

「あ、おはよう」

 

リビングに入ってきた琴里にそう返しつつ千早がキッチンから出る。

 

「……これを任せるわ」

 

「了解」

 

琴里がキッチンから出てきた千早に一枚の紙を渡す。

 

それには、士道と十香のお弁当の中身を同じにするようにと書かれていた。

 

「それじゃ、早速作り始めるけど……朝食はいる?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

「わかった。適当に作っておくね」

 

「適当でも手は抜かないでね」

 

「はいはい」

 

千早は苦笑すると朝食を作り始めるのだった。

 

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