デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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18話

「いってらっしゃーい!」

 

顔や手など、身体のあちこちに湿布を貼り付けた士道を家から笑顔で送り出す。

 

士道は今にでも倒れそうにふらふらと歩いているが千早はそんな士道の動きを見なかったことにした。

 

そんな士道を見送ると家の中に戻る。

 

「十香ちゃんは忘れ物はない?」

 

リビングに戻ってきた千早がソファー座ってニュース番組を見ている十香に話しかけた。

 

「うむ。その心配は無用だぞ。すでに昨日のうちに終わらせているからな」

 

「それは何より」

 

キッチンでお弁当箱に具材を詰めて、それが終ると保存用の袋にお弁当箱を入れてキッチンから出る。

 

「はい、お弁当」

 

「うむ……今日は何が入っているのだ?」

 

「それは開けてからのお楽しみだよ」

 

十香の質問に千早は微笑む。

 

そう……お楽しみだよ、と心の中で反芻してキッチンに戻る。

 

実体化できるようになってから千早はキッチンにいることが多くなったと自分で自覚している。その反面、士道がキッチンに入ることが少なくなった。

 

朝は基本的に寝ることがないだろうと千早が作り、夜はたまに士道が作っている。

 

ふと、時計を見ると士道が出かけた時間からすでに十分近くが経過していた。

 

これなら士道が途中で十香と合流することなく学校につくだろうと予想できたが、ふらふらと歩いていたのでそこが不安要素であるがこれ以上出発を遅らせると遅刻してしまう可能性が出てくるので十香を家から送り出すことにする。

 

「そろそろ行こうか」

 

「ぬ……行ってもよいのか?」

 

行ってもいいのかと確認してくる十香に千早はうなずく。

 

「もちろん」

 

「では、行ってくる」

 

「うん。いってらっしゃーい」

 

座っていたソファーから立ち上がり、鞄を持つと十香はリビングから出、玄関へと移動していく。

 

それを見送ると千早はテレビの電源を消して、ガスや電気の消し忘れがないかを確認する。

 

「よしっと」

 

確認して問題がなかったので、戸締まりをして家から出ていく。

 

外に出ると今日はずっと晴れだと思わせるような快晴の空が広がっており、雲一つ存在していない。

 

「さてと……行きますか」

 

千早は天宮市の大通りに向かって歩を進めた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「うーん……」

 

大通りの路地裏の塀の上に座り難しい顔で首を傾けている一人の少年がいた。

 

「……やっぱりなぁ」

 

悩ましげにそう呟く少年―――千早はあることを悩んでいた。

 

それは自分の正体を告げるかである。

 

時が経てば確実に知られることなので自分から言う必要はないのだが……千早の目的を達成するとなるとあらかじめ教えておいた方がいい可能性もあるからだ。

 

知られたら知られたで確実に面倒なことになるのは確定しているが……自分の目的を達成させるためには協力してもらう必要があるかもしれないから困っている。

 

すでに一度失敗しているのだから。前回が一番可能性があったのに失敗したのだ……だからこそ次がない。

 

次の機会を作れるほどのことはもう出来ないと感覚的に理解できてしまったのが一番の理由だからだ。

 

前回で敗北なら今回は惨敗もしくは完敗になるだろうと千早は予想している。

 

約束された破滅……それを回避するすべは千早にはほぼ残されていない。

 

だからこそ十香の天使〈鏖殺公(サンダルフォン)〉に期待している。

 

千早の義妹は直接的な火力においては完全に千早の知っている天使の中では最も低い。だが、その分、能力が強力である。もしもの時は時間稼ぎをしてもらおうと思っているくらいには。

 

でも、千早の目的を達成するには鏖殺公(サンダルフォン)の火力だけでは足りない。他にも火力のある天使を持つ精霊の力がいる。

 

他に千早が知っている精霊は一体だけ。それも言葉を交わしたこともなければ相手が千早のことを知っているわけではない。

 

ただ単に千早が幽霊となって漂ってい時に偶然遭遇したに過ぎないのだから。

 

「はぁ~……本当に前途多難だ」

 

千早は思いっきし溜め息を吐いた。

 

そうして今度は空を見上げる。

 

「………………」

 

ぼーと思考を放棄して空を眺め続ける。

 

そして、しばらくすると。

 

ウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――

 

街中にけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「うわっ……!」

 

びっくりして千早はバランスを崩してひっくり返って塀から落ちた。

 

落ちたところで千早にダメージはないので普通に起き上がる。それから頭をかいて、落ち込んだ表情をする。

 

「あ~……何で気がつかなかったんだろ? 弛み過ぎたかな……空間震が起きることに気がつかなかっただなんて」

 

本当に駄目だわと落ち込む千早はとぼとぼと裏路地から大通りへと出る。

 

すでに人々は避難しており完全にゴーストタウンとなっていた。

 

「幽霊が闊歩する街だからゴーストタウンになったねこれで」

 

ハハハハハハと笑う千早だが内心ではそろそろ士道は〈フラクシナス〉に転送されたかなと思っていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

〈フラクシナス〉の艦橋でモニターを見ていた面々の全員が絶句していた。

 

「え……?」

 

精霊の出現予測地点の映像に合わされたメインモニタに千早が映っていたからだ。

 

いくつもの店が建ち並ぶ大通りのど真ん中をとぼとぼと歩いていた。

 

「千早……」

 

そう士道が言った途端、何もないはずの空間に、水面に石を投じた時のような波紋ができていた。

 

「な、なんだこりゃ……」

 

「あら? 士道は見るの初めてだっけ?」

 

琴里がそう言うのとほぼ同時に、空間の歪みがさらに大きくなり―――

 

画面に小さな光が生まれたかと思った瞬間、爆音とともに、画面が真っ白になった。

 

「―――っ! 千早は!」

 

空間震に直接巻き込まれた千早を心配して画面を見つめる士道。

 

やがて画面が回復して街の姿が映し出される。

 

街に、穴が開いている。

 

そうと表現のしようがなかった。

 

今まで幾つもの建物が並んでいた通りの一部が、浅いすり鉢状に削り取られている。

 

そこにあったはずの店や街灯や電柱、さらには道路の舗装に至るまで、全てが、無くなってしまっていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

その頃、地上ではというと―――。

 

「いや~、びっくりしたよ……まさか空間震に直撃するだなんて」

 

あはははと陽気に千早が笑っていた。

 

『おにーさん……それは笑い事じゃすまないよー』

 

「だよねー」

 

と言っておきながらも笑うのを止めない。

 

「……ごめん、なさい」

 

「気にしない気にしない……仮に生身であってもこの程度でどうにかなるほどボクは弱っちくないからね」

 

謝る四糸乃をおどけたように千早が励ます。

 

『いやいや、空間震をこの程度って……おにーさんは化物か何かなのかな?』

 

「フッフッフ……個人的にはラスボスだと思ってるよ」

 

四糸乃の現界によりポツポツと雨が降り始める。

 

『えぇー幽霊ってどぉっちかというとザコキャラじゃないの?』

 

「そんなことを言うよしのんはこうだー」

 

楽しそうに笑いながら千早が『よしのん』の頭をグリグリとする。

 

『い~や~! 四糸乃助けて! おにーさんにグリグリされてるぅ~』

 

助けてと言いながらも声は楽しそうなので四糸乃は千早を止めるべきか悩む。

 

そもそもこんな風に自分に接してくれる存在は千早以外にいなかったのでどうしたらいいのかわからないのが正しいのだが。

 

それでも『よしのん』が本気で嫌がっているわけではないので四糸乃はとりあえず現状維持とした。

 

「ククク……どうやら頼みの四糸乃ちゃんに見放されたようだね」

 

まるで悪党のように笑う千早に『よしのん』が器用にパペットである身体を震わせる。

 

『よ、よしのん……大ピンチの予感……』

 

「さあ……次はこれだ」

 

バッと千早の腕が『よしのん』に向かっていくかと思えば、

 

「ふぇ……?」

 

四糸乃に向かって動き、四糸乃の被っていたウサミミフードが取り払われた。

 

「うんうん……」

 

千早がフードが取り払われた四糸乃を見て満足そうにうなずく。

 

フードが取り払われたことで四糸乃のふわふわした海のような青色の髪の全体像が表に出てくる。

 

「え……きゃ!?」

 

フードが取り払われたことに気がついた四糸乃のが慌ててフードを被ろうとするがそれを千早が止める。

 

「えぇ~、このままでいいじゃん。せっかくの可愛い顔が隠れちゃうよ」

 

「……か、可愛い、だなんて」

 

『お! おにーさんにわかってるねー。四糸乃は可愛いでしょ』

 

「もう、今さらでしょ。四糸乃ちゃんが可愛いのは……いや~、本当にマジで……」

 

食べちゃいたいくらいだよと、内心で言葉を続ける。

 

こんな風に思ってしまう理由は千早にとってかけがえのない友人である彼女が原因だ。その彼女が千早の性癖を形成したと言っても過言ではない。

 

むしろ、その通りなのだから。

 

一言で言うと彼女は……変態だった。それも神無月に匹敵するほどの。

 

両刀使いでロリとショタがストライクゾーンだった。しかも、狡猾であり、決してその事を悟らせないほど隠すのが上手かったのだ。

 

「あぅぅぅ……」

 

恥ずかしさのあまり四糸乃がその場に屈み込む。

 

と、そこに一発のミサイルが飛んできた。

 

「はぁ……来ちゃったか」

 

飛んできたミサイルを千早が向きを変えることであらぬ場所へとミサイルが飛んでいく。

 

『あー! 四糸乃の苛める、悪い人たちがやぁって来たよ』

 

「ひっ…………!」

 

現れたASTの面々に身体を強張らせて四糸乃が震える。その様子を千早は横目で観察しつつASTに向かってフレンドリーに片手を上げる。

 

「ハロー」

 

そんな千早に返されたのはガトリング砲の洗礼だった。

 

バラバラと雨のように放たれる弾丸の向きを全て変更することでガトリング砲の洗礼をやり過ごす。

 

「ちっ……」

 

舌打ちが聞こえる。

 

どうやらAST隊員の誰かが舌打ちしたようだ。

 

千早は士道の中に封印されている精霊の力の一部を拝借して自身が扱える力の上限値を一時的に上昇させる。

 

「……さて、こんな身なりでもボクは年齢的にはお兄さんなので四糸乃ちゃんのことを守ろうと思います」

 

そう宣言するなり千早はおもむろに右手をAST隊員の一人に向ける。

 

その手はギュッと握ってある。ただし、親指が人差し指で押さえられていた。

 

その手から親指が弾かれる。

 

そして、その手を中心に空間に波紋が走ったかと思った瞬間、AST隊員の一人が身に付けていた顕現装置(リアライザ)と持っていた装備を完膚なきまで破壊されてビルに叩きつけられていた。

 

「こんなものか……」

 

そう呟く千早の声は誰にも届いていなかった。

 

誰もが先ほど顕現装置(リアライザ)と持っていた装備を完膚なきまで破壊されてビルに叩きつけられたAST隊員に向けられていたのだから。

 

〈フラクシナス〉のメインモニタにもこの映像が映っていた。

 

その光景に琴里すらも言葉を失っていた。

 

元々、〈ハーミット〉と仲良さげにコミュニケーションをとっている千早の存在に驚いていたのもあったのだがこれはそれ以上の衝撃を残していた。

 

千早が行ったのは指弾。それも……空間震を指弾として飛ばしたのだ。

 

現在確認されている全精霊すらもやっていないことゆえに〈フラクシナス〉内部は緊張に包まれる。

 

特に士道は自分の中にからごっそりと何かが無くなっている感覚があるゆえにそれが顕著であった。

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