デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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19話

「……討ちに来てるんだから当然討たれても文句は言えないよ」

 

千早はそう言うとASTに背を向けて四糸乃の方に振り向く。

 

「ここは、お兄さんが守って上げるから安心してね」

 

おちゃらけた様子で四糸乃に向けてウインクすると、そのまま宙にふわっと浮かぶ。

 

「さ……いつでもどうぞ? 軽く捻り潰してア・ゲ・ル」

 

カモーンと小馬鹿にしたように挑発する千早。

 

小馬鹿というよりも完全に馬鹿にしていたが。

 

「……っ、お前ぇぇぇ!!」

 

AST隊員の一人が冷静さを失い千早に襲いかかる。

 

先ほど千早によってやられた隊員の親友であった。だからこそ親友の仇である千早が許せかった。

 

銃で駄目なら接近戦をと対精霊レイザー・ブレイド〈ノーペイン〉を引き抜いて、千早に切りかかる。

 

「……え?」

 

だが、それは空を切り裂くだけで肝心の千早を捉えることができなかった。

 

確実に千早の首に叩き込まれるはずだったのだが、千早はそのAST隊員の右側でにやにやと人の悪い笑みを浮かべて―――

 

「―――バァーイ」

 

と、軽くその肩をトンと押した。

 

押されたAST隊員はものすごい勢いで吹き飛ばされて幾つもの建物を突き破って行った。

 

そして、数十メートルほど吹き飛ぶとようやく地面を転がる。

 

その光景を〈フラクシナス〉のメインモニタで見ていた面々は絶句していた。

 

精霊の反応がないのにAST隊員を戦闘不能に追い込むその力に。

 

メインモニタからは音声が聞こえないがそれでもそこの様子がわかる。

 

「……ねえ、士道。千早があんなことできるってあなたは知ってた?」

 

「いや……知らない」

 

士道は琴里の質問に対する答えを明確に返せなかった。

 

知らないのだ。士道は千早が幽霊になった理由も幽霊になる前は何をしていたのかも。

 

訪ねても適当にはぐらかされるだけで、最後には「そのうち教えて上げるよ」と言っていた。

 

それゆえに士道は千早が話してくれるまで待っていたのだが……今回のことは聞かなければならないと思ってしている。

 

特に妹である琴里がなにがなんでも聞き出すと気合いを入れているのを間近で感じているのだから。

 

「……あ、また吹っ飛んでった」

 

令音がメインモニタを見ながらそう呟いた。

 

メインモニタには羽虫を払うかの如くASTを蹂躙する千早の姿が映っている。

 

しかも、満面の笑みを浮かべながら蹂躙しているので、どこぞの魔王のようだ。

 

「……うわぁ」

 

それにはもう呆れたような声しか出なかった。

 

物理的ダメージ無効、遠距離効かない、近距離ぶっ飛ばされる。

 

これ……ムリゲーだろと士道は思った。

 

ASTの装備では千早に有効な武器は一つもない。

 

確実に負け決定のイベントと同じだ。

 

そんなAST隊員たちに対して無双する千早のことをドン引きしながら見ていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「はい……ドーン」

 

また一人と幾多の民家をぶち抜きながらAST隊員がぶっ飛ばされる。

 

『わぁーお……おにーさん無双だ』

 

感心しているのかそれとも呆れているのか判断が別れるような声で『よしのん』が四糸乃に話しかける。

 

「……うん……でも、あの人、たち……いたそう」

 

『もぅ……あいつらは四糸乃のことを苛めてくるやつなのに心配するなんて四糸乃は優しいなぁ。本当に四糸乃の優しさを見習ってほしいくらいだよー』

 

『よしのん』の言葉に四糸乃は首を横に振る。

 

「……そん、なことない……私はいたいのもこわいのも……きらいだから。きっとあの人たちもそうだと思うから」

 

「それならそれでいいんじゃない?」

 

そこに千早がやってくる。

 

『おにーさんが来たってことは終わったのね』

 

「もっちろんだよ! 全員ボコボコにボコったぜ! 」

 

ブイサインを決める千早。

 

ボコボコにはしたが殺してはいない。

 

半殺し以上は何人もいるが殺してはいないのだ。

 

正確には〈フラクシナス〉の中から士道や琴里に見られてるだろうから、禍根を残さないように殺さないようにボコボコにしたといったほうが正しい。

 

『どーもみんな、よしのんのことが嫌いみたいでさー。こっちに引っ張られて出てくると、すーぐにチクチク攻撃してくるんだよねぇー』

 

言って『よしのん』がわははと笑ってみせる。

 

「正確には『よしのん』じゃなくて精霊だから攻撃してくるんだよ」

 

『へぇーそうなんだ。精霊だからチクチク攻撃してるんだねぇー』

 

「そう、なんで……すか」

 

「そうなんだよ」

 

世界を殺す災厄―――精霊だから襲われる。

 

この場合の世界とは人のことを指しているが人以外の世界にとっても精霊が現界するときに発生する空間震は災厄だ。

 

空間震を起こすから精霊は狙われる。それ以外にも精霊が原因で大切な人を失った人が精霊に復讐しようとして襲ってきたりもするが……。

 

「それじゃ……少しデパートに行ってみない?」

 

「……デパート……ですか?」

 

『悩むんなら行っちゃおうよ。まだよしのんたちは行ったことないんだしさぁー』

 

「……行きます」

 

『よしのん』の後押しもあり、四糸乃がデパートに行くのを了承する。

 

「それじゃ……行こうか」

 

そう言うと同時に四糸乃の手を千早が壊れ物を扱うかのように優しく握る。

 

「あ……」

 

と、小さく四糸乃が声を漏らすが、散々抱きつかれたりしていたので触れられることに対しての耐性ができていたため降っている雨が千早に襲いかかることはなかった。

 

『エスコートは頼んだよおにーさん』

 

「任せといて……これでもデートなら何度かしたことがあるんだよ」

 

千早は自信満々に答えると四糸乃の歩く速度に合わせて歩をデパートに向けて進めていく。

 

『そういえばさー、おにーさんの名前はなんていうのかな?』

 

「おお! そういえば言ってなかったね。ボクは千早。気軽に千早さま、チーちゃん、千早と呼んでくれていいよ」

 

『千早くんねー。さま付けってすごい偉そうだよー』

 

「よしのん……ボクは、くん付けで呼ばれるほど若くはないんだけどね。四捨五入すると三十路だし」

 

千早の誕生は今から約二十数年前。

 

幽霊となったのは士道にとり憑く十年ぐらい前。

 

今思えば色々あったなと懐かしく思う。

 

『千早くんは完全に見た目詐欺だねぇー』

 

「自他共に認める合法ショタだからね」

 

そう……成長しないことで一時期不貞腐れる時期もあったがそれを乗り越えた。

 

あのときの自分は相当めんどくさかったなとしみじみそう思う。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……なんなのよ……あれは」

 

回収されたAST隊員たちは先ほどの少年のことを思う。

 

あれは精霊ではないのか? と。

 

だが、機材を用いて精霊かを判別すると精霊ではないと結果がでてくる。

 

まるで……悪夢のようだ。

 

少年の形をした悪夢。〈ハーミット〉を庇い、一方的に自分たちを蹂躙する少年。

 

いや……もはや少年と呼ぶのもおこがましい。

 

「……あれで精霊じゃないなんて」

 

「じゃあ……あれは人なの? ……あんな人間なんているわけないじゃない」

 

「あれは……識別名〈デモン〉だそうよ。精霊に匹敵する殲滅対象に指定されたわ」

 

悲壮感が漂う中にそんな声が聞こえてきた。

 

その声の主は全身にワイヤリングスーツを纏った燎子である。

 

「識別名〈デモン〉ですか……」

 

「ええ、そうよ。識別名〈デモン〉いわゆる悪霊ね。観測班によると〈ハーミット〉と〈デモン〉は一緒に行動しているらしく。今はデパートの中にいるわ」

 

顕現装置(リアライザ)は屋外での運用を前提としているため屋内では本来の性能を発揮することが難しく、精霊が建物の中から出てこない限り手を出すことが難しい。

 

故に燎子はこの時間を使い精霊を殲滅するための作戦を練るのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「それにしてもさ」

 

「……なん、ですか」

 

『どうしたん?』

 

「これはこれで変わったことやってるなって思ってさ」

 

デパートとの中に入った千早と四糸乃と『よしのん』は重力に逆らって天井を歩いているのだ。

 

『そんなこと気にしなくていいじゃないのぉー。何事も経験だよ。ケ・イ・ケ・ン』

 

「こんな経験はしなくてもいいと思うんだけど……」

 

『もー……ノリが悪いなぁ、千早くんは……よしのんは悲しいよ』

 

ヨヨヨと『よしのん』は器用に顔を背ける。

 

「その悲しみはすぐに晴れるからどうでもいいとして」

 

『ヒドッ! 千早くんはよしのんを無視するのかい!? 』

 

「えー……そんなことあるわけ…………ないよ?」

 

『その不自然な間の取り方はなんなのさ? しかも、語尾は? って……』

 

驚くように『よしのん』が手をパタパタと振りながら口の部分を大きくあける。

 

本当にどうやって動かしてるんだろ?

 

と、不思議でならない。

 

千早のようにポルターガイストが使えるなら話はわかるが、四糸乃にそんな能力はない。故に不思議なのだ。

 

「気にしない気にしない……四糸乃ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「うん……千早さんのいう通りよしのんも気にしなくていいと思うよ」

 

『ガーン! 四糸乃に見捨てられた……』

 

器用にも『よしのん』の耳がペタンと垂れ下がる。

 

本当に器用だと感心する。よく片手でそんな風に動かせるな、と。

 

そんな会話をしながらデパートの中心部部に着いてしまった。

 

二人とも背丈的に歩幅はそれほど大きくないが、足取りは軽やかだったのですんなりと着いたのだ。

 

仮にこれが人がたくさんいるときだと倍の時間がかかったと思われる。

 

「見捨てられたんじゃなくて……気にしちゃいけないってことだよ」

 

『四糸乃は常によしのんの味方だと思ってたのに……』

 

しくしくと泣き真似をしながらチラッチラッと四糸乃の方にあざとく視線を向ける『よしのん』。

 

「さすが、よしのん! あざといね」

 

『ぅんもー! しっつれいだねぇー 千早くんはさぁ。四糸乃もそう思わない?』

 

「……うん。本当のことでも……言っていいことと悪いことが、あります」

 

以外と四糸乃も『よしのん』があざといと思っていたようだ。

 

それはさすがに『よしのん』も驚いたのか口を大きく開けて固まる。

 

千早はそんな『よしのん』に内心でドンマイと言うと話題を変えるように四糸乃に話しかけた。

 

「それはそうとさ……四糸乃ちゃんはお菓子とか食べたことある?」

 

「お菓子、ですか? ……ない、です……。いつもあの人たちに追いかけられちゃうから」

 

『ホントにさー、ひどい連中だよねぇ』

 

「そうだね……だったら今度何かしらお菓子を持ってきてあげるよ」

 

確か……クッキーとかポッキーとか色々あったはずと家の中に買い置きしてあるお菓子類を脳内でピックアップする。

 

「……いいん、ですか」

 

「もちろん」

 

上目遣いで覗き込むようにしてくる四糸乃に千早は胸を張ってうなずいた。

 

 

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