デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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2話

「なんだ……っ、あれ……」

 

走りながら士道が顔を上方に向けてそう言った。

 

【…………】

 

その視線の先には全身をボディースーツで覆った存在が三……いや、四人いた。

 

それを見て千早は思った。

 

少し前までの士道だったらメチャクチャテンションを上げて興奮してただろうなと。

 

そんな、どうでもいいことを考えている間に士道は()()と邂逅していた。

 

距離がそれなりに離れているため声は聞こえないが千早は動こうとはしなかった。

 

【……これから忙しくなりそうだ】

 

千早の視線は何もないはずの上空の一角を見つめている。

 

士道と霊的に繋がっている千早だから分かる。目には見えないが()()()()()()()()()()()()()()

 

そこにあの子がいることを本能的に理解出来てしまう。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ」

 

情けなく転がってきた士道が塀にぶつかって昏倒した。

 

何で転がってきたんだ? と思い千早が精霊がいる方を見るとそこでは精霊とボディースーツを着た人間がお互いに巨大な剣を振りながら交戦しているのが目に入った。

 

武器が打ち合うたびに光が走り、地面が割れ、建造物が倒壊する。

 

【これは……しょうがないね】

 

これなら士道が転がってくるのも無理はないと千早は一人うなずきながら納得する。

 

とりあえず……士道が目覚めるまで士道が死なないように守らなくちゃな。

 

千早はそう思ったが同時に……でも、無理そうだなぁと思ってもいたのだった。

 

ドッカン! バッコン! と破壊の嵐が巻き起こる場所でひ弱な幽霊に何が出来るのかと言うのだろうか?

 

千早はとりあえず士道にぶつかりそうな小石などをぶつからないようにするだけで精一杯だった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「…………はっ!」

 

と士道は目を覚まし、

 

「うわッ!」

 

とすぐさま叫び声を上げた。

 

それもそうだ。目覚めてすぐに人の口の中から人の手が出て自分の瞼を開いているのだから。

 

【おお! 目覚めたか士道】

 

そんなショッキングな光景を見て目が覚めない奴はいない。そう千早に文句を言おうとした士道だが、

 

「……ん? 目覚めたね」

 

妙に眠たげな顔をした見知らぬ女性がいたのでその言葉を飲み込み、千早に視線だけで抗議を送る。

 

「だ、誰ですか」

 

「……ん、ああ」

 

女は垂れていた前髪を鬱陶しげにかき上げた。

 

軍服らしき服を纏った、二十歳くらいの女である。

 

【……見た目からして特徴的でいかにも不健康そうな人だね】

 

この女性は特徴的だ。分厚い隈に飾られた目、軍服のポケットから顔を覗かせている傷だらけのクマのぬいぐるみ。

 

まさしく特徴的である。

 

「……ここで解析官をやっている、村雨令音だ。あいにく医務官が席を外していてね。……まあ、安心してくれ。免許こそ持っていないが簡単な介護ぐらいならできる」

 

【ヤブ医者だー! 安心できる要素が一つもない 】

 

「…………」

 

千早のいう通り安心できる要素がまるでない。

 

この女性の方が明らかに士道よりも不健康そうに見えるのだから。

 

さっきまで気絶していて、今目覚めた士道よりも不健康そうに見えるあたり明らかに不健康だろう。

 

どちらが介護される方か、多数決を取れば令音が圧勝するのは明白だ。

 

それから士道は令音の言動や行動に振り回されつつも自分がおかれた状況を説明されていき、ここの司令官に会うことになった。

 

千早はというと適当に話を聞き流しながらフラフラと漂っていた。

 

今いる場所が〈フラクシナス〉と呼ばれる場所の医務室であることとかどうでもよかったのだ。

 

「な、なあ……千早はここが何なのか分かるか?」

 

士道が令音に聞こえないように囁くような声で千早に問いかけた。

 

【そうだねぇ……】

 

千早は淡色で構成された機械的な壁や床に視線を移してから答えた。

 

【どっかの組織の秘密基地じゃないの?】

 

そう言いながら千早はキョロキョロと視線をあちらこちらに動かす。

 

「……そうだよなぁ」

 

考えても答えなど出るはずもなく、士道はふらふらと足元のおぼつかない令音の背だけを頼りに、進んでいくのだった。

 

そして、どれぐらい歩いた頃だろうか。

 

「…………ここだ」

 

通路の突き当たり、横に小さな電子パネルが付いた扉の前で足を止め、令音が言った。

 

【あははは!……本当に秘密基地なんじゃないの?】

 

横に小さな電子パネルが付いた扉を見て楽しそうに千早は笑う。

 

千早が笑っていると、次の瞬間、電子パネルが軽快な音を鳴らし、滑らかに扉がスライドする。

 

【ほらほら! やっぱり、そうだよ。ここは秘密基地だよ】

 

秘密基地だと思わせる展開に千早のテンションがうなぎ登りに上がっていく。

 

「……さ、入りたまえ」

 

令音が中に入っていく。士道もそのあとに続いた。そして、千早も続いた。

 

そして、扉の向こうに広がっていた光景に、目を見開く。

 

【キタァァァァァァ!!】

 

その光景はまさしく昔の某特撮ヒーローの悪の組織が使う秘密基地の司令部にそっくりであったからだ。

 

そこは船の艦橋のような場所だった。千早がくぐった扉から、半楕円刑に床が広がり、その中心に艦長席と思しき椅子が設えられている。

 

さらに左右両側になだらかな階段が延びており、そこから下りた下段には、複雑そうなコンソールを操作するクルーたちが見受けられた。全体的に薄暗く、あちこちに設えられたモニターの光が、いやに存在感を主張している。

 

士道も士道でこの光景には驚いたのだが、千早の反応のせいで驚きが吹き飛ばされていた。

 

「……連れてきたよ」

 

令音が、ふらふらと頭を揺らしながら言う。

 

「ご苦労様です」

 

艦長席の横に立った長身の男が、執事のような調子で軽く礼をする。ウェーブのかかった髪に、日本人離れした鼻梁。耽美小説にでも出てきそうな風貌の青年だった。

 

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平と申します。以後お見知り置きを」

 

「は、はあ……」

 

士道は頬をかきながら、小さく頭を下げる。

 

「司令、村雨解析官が戻りました」

 

神無月が声をかけると、こちらに背を向けていた艦長席が、低いうなり声を上げながらゆっくりと回転した。

 

そして。

 

【……やっぱりか】

 

千早は苦笑しながら小さく呟いた。

 

「―――歓迎するわ。ようこそ、〈ラタトスク〉へ」

 

深紅の軍服を肩掛けにした少女。

 

大きな黒いリボンで二つに括られた髪。小柄な体躯。どんぐりみたいな丸っこい目。そして口にくわえたチュッパチャプス。

 

千早の予想した通りの人物……格好、口調、全身から発する雰囲気など、違いは数あれどその少女は間違いなく士道の妹……五河琴里だった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

千早は士道が〈ラタトスク〉の司令である琴里から精霊と対精霊部隊であるASTの説明を聞いてから、その場を去った。

 

その際に待てと士道が視線で千早に訴えたが【頑張ってね】と微笑みながら千早は床下へと沈んでいったのだ。

 

そして誰もいない機械のケーブルや部品などが複雑に入り乱れている場所に千早はいた。

 

【……ASTか】

 

ASTは千早が()()()()()()時には存在していなかったので、ある特殊な期待を込めて琴里の話を聞いていたのだが……期待外れであった。

 

対精霊部隊でありながら精霊を()()()()が出来ていないのだから。

 

それが何よりの不満であった。別に千早は精霊が殺されればいいと思っているのではなく……ある目的を達成出来そうにないから不満に思っているのだ。

 

()()()怪物である精霊。それを殺せない……いや、殺せるくらいの力がなくては千早の目的は達成出来ない。

 

千早が望み望まぬ未来のことを考えると余計にだ。

 

自嘲気味に笑うと千早は祈るように目を閉じた。

 

―――望み望まぬ未来にたどり着いてしまった時には精霊を殺す……いや、殲滅出来るだけの力を人間が手にしていることを願って。

 

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