デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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20話

「ふぅ……ここでいいのか?」

 

〈フラクシナス〉下部に設された転送装置で地上まで送られた士道は、右耳に装着した小型インカムに向かって声を投げた。

 

『ええ。精霊と千早も建物内に入っているわ。千早がいるからファーストコンタクトにはよっぽどのことがない限り失敗しないでしょうが……ちゃんと注意しなさい』

 

「……了解」

 

士道は頬に汗を垂らしながらそう言うと、インカムから手を離した。

 

その行動を観察している五つの目に気づかぬまま。

 

 

 

 

 

「…………よし、後を追おうか」

 

『……千早くんも悪だねぇー』

 

「ククク……よしのんも人のこと言えないよ」

 

そう言ってから千早は、あ……ボクって人じゃなくて幽霊じゃん、とからから笑う。

 

それに釣られるように『よしのん』もからからと笑った。

 

そんな二人を見て四糸乃もくすりと本人の知らぬ間に口元に笑みが浮かんでいる。

 

現界してからこんな風に誰かの後を追いかけて行くのに、意外とワクワクしたからだ。

 

『よしのん』以外の誰かと何かをすることがなかった四糸乃にとって初めての経験であった。

 

千早に手を引かれ、『よしのん』に会話を任せながら四糸乃は一人は思う。

 

―――この人は何で私を襲ってこないの?

 

それがえらく気になった。

 

ASTに襲われた恐怖がある故に四糸乃は千早が何で自分のことを襲わず、抱きしめたり、よしのんパンをくれたり、手をつないだりするのかわからない。

 

本当は私のことを騙しているんじゃないかとさえ考えるが、そうであってほしくないという思いもある。

 

信じたいけど信じられない。

 

だから、四糸乃はヒーローである『よしのん』に会話を任せて……千早を観察する。

 

本当にこの人はいい人なのかを知るために。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「なあ、琴里よ」

 

『何よ?』

 

「……全く見つからないんだが」

 

『ちゃんと隅々まで探したでしょうね?』

 

「上から下まで一通りな」

 

インカムを使って琴里と話し合う士道のことを五つの目が見ていた。

 

その五つの目の正体である、千早と四糸乃と『よしのん』はいつ士道が自分たちに気がつくか賭けていたのだが……そのすべてが外れてしまい、新たにいつまで気がつかないかを賭けていた。

 

ちなみに、天井で重力に逆らった状態で全く気がつかれない。某蛇の名を持つスパイのようにダンボールを被って移動しているのにだ。

 

『ねぇねぇ、千早くん』

 

「なにかな、よしのん」

 

『あの、ラッキースケベェなおにーさんはいつになったら気がつくんだろうねぇ』

 

『よしのん』の視線が右手でインカムを押さえながら左右をキョロキョロと見渡す士道に固定される。

 

しかも、その声からは退屈さが漏れていた。

 

「うーん…………どうだろう?」

 

改めて考えてみると四糸乃が消失(ロスト)しても気がつかないんじゃないかと千早は心配になってくる。

 

上を見ればすぐにわかるはずなのに見ない士道にその心配が強くなっていく。

 

気がついてもらおうと思うのなら声をかけた方が早いのだが……こうも気がつかれないといつまで気がつかないか気になってしまう。

 

『精霊の反応は消えてないのは確かだから行き違いになってる可能性が高いわ』

 

「……だよな~」

 

困ったように士道が息を吐く。

 

『私たちの方からはいるのはわかっても詳しい位置まで特定できるわけじゃないから頑張ってね士道』

 

「……ああ、気長に探すよ」

 

そう言うと士道はインカムの通信を切った。

 

それから両手を万歳して伸びをすると、士道の視界にダンボールが映り込んだ。

 

「…………はぁっ!?」

 

それを見た士道がすっとんきょうな声をあげる。

 

それもそうだろう、何せ天井に重力に逆らうようにダンボールがくっついているのだから。

 

士道が驚き固まっているとそのダンボールが落ちて中から二人とパペット一体が出てくる。

 

「いや~、ようやく気がついたよ」

 

『本当だねぇー、んもう……まぁーちくたびれちゃったよ』

 

そんなことを言いながら千早と『よしのん』はからからと笑う。

 

四糸乃にいたっては無表情であった。

 

「士道さあ……気がつくのが遅いよ」

 

「いやいや……気がつくのが遅いっていつから後を追ってたんだよ」

 

士道が軽く溜め息を吐きながら千早に問いかける。

 

「いつからって最初からだよ」

 

「そっからかよ!? 」

 

まさかの最初っからだという事態に士道は己の不注意さを嘆く。

 

気がつかなかったせいでどれだけの時間を潰したことか……。

 

『本当だよぉー。おかげで、よしのんは暇で暇でしょうがなかったよ』

 

「ごめんよ。士道が鈍くて……」

 

ウッ、ウッ、と泣き真似をする千早。

 

「そこまで酷くはねえよッ!?」

 

さすがにそれはないと憤慨するも士道の味方はここに誰もいなかった。

 

『気にしないでよ、千早くん。全部あのおにーさんが悪いんだからさぁ』

 

『よしのん』が泣き真似をする千早の頭をポンポンと慰めるように撫でる。

 

「ありがとう。まあ、本音五割の冗談は放っておいて」

 

「五割は本音なのかよ!」

 

千早の言葉につかさず士道のつっこみが入った。

 

相変わらずのキレである。

 

『あはは! 愉快なおにーさんだね』

 

「でしょ」

 

『よしのん』につられて千早も笑う。

 

そんな千早を観察するようにじっと四糸乃が見つめる。

 

「……仲いいな」

 

士道は笑い合う千早と『よしのん』を見てそう呟いた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「攻撃許可は?」

 

デパートから数十メートル離れた位置からデパートに視線を向けている折紙が背後にいる人物に問う。

 

「審議中よ」

 

そう答えるのはASTの隊長を勤めている日下部 燎子である。

 

「弱虫〈ハーミット〉だけならともかく……〈デモン〉が一緒にいるから審議が長引いてるのよ」

 

「そんなの……まとめて相手にすればいい」

 

殺る気満々の折紙に燎子は溜め息を吐きたくなる。

 

何でもこうも面倒のかかる娘なのだと。

 

実際にその面倒以上に腕がいいのが余計に厄介なのだが、そんなことはおくびにも出さずに燎子が言う。

 

「〈デモン〉と戦闘をした人員は全員がすぐには戦闘できないのよ。今のところランクは不明だけど最低でもAは確定」

 

「それがなに? ランクなんて関係ない」

 

「あなたはそうでも……上は違うのよ」

 

精霊を殺そうとする折紙と精霊を撃退できればいいと考える上層部。

 

その考え方の違いによりこの状況は出来上がっていた。

 

上層部がOKをすればすぐにでも折紙は単身デパートへと向かうだろう。

 

その事をわかっている燎子は頭が痛かった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

士道と合流した千早、四糸乃、『よしのん』の三人と一体はデパート内のフードコートにいた。

 

『いやー、ありがとね、おにーさん。アイスなんて初めて食べたよ』

 

バニラアイスを食べる四糸乃に変わって『よしのん』が礼を言う。

 

ちなみにアイスは盗んでない。ちゃんとお金を払っている……士道が。

 

千早はお金なぞ持っていない。仮に持っていたとしても四糸乃の現界時の空間震に直撃しているので結局ないことは確定していた。

 

「は、はは……そうか」

 

さらに言うと四糸乃が食べているアイスはそれなりにお高いアイスだったりするので士道の財布は悲鳴を上げている。

 

「後でお金は上げるから」

 

「……その金ってまさか……」

 

ふとした予感が士道の脳裏をよぎり、もしやというような表情で千早を見た。

 

「……琴里ちゃんのお小遣いだけど?」

 

当たり前のように千早は言い切った。

 

「……知られたら琴里が怒るぞ」

 

「いや、大丈夫でしょ……一応、働いているようなものなんだし」

 

『……少しお話しする必要がありそうね』

 

士道の耳にはインカム越しに琴里の冷えきった声が聞こえていた。

 

そんなことは知らない千早は四糸乃の隣に座って料理雑誌を見ている。

 

時折、「……これいいな」と千早がペンで印を付けているので、これも買わなくちゃなぁと士道は思っていた。

 

ちなみに士道と四糸乃、『よしのん』の自己紹介は済ませてある。

 

千早という両方とも知っている人物の紹介によりすんなりといった。

 

「……ところでさ、十香ちゃんには言ったの?」

 

「何をだ?」

 

十香に何か言うことがあったか? と私道は首を傾げる。

 

その様子を見て千早はやれやれと肩をすくめた。

 

「はぁ~……その様子だと言ってないみたいだね」

 

千早は溜め息を吐きつつ話を続ける。

 

「十香ちゃんはさ……士道がいないと駄目な娘なんだよ。それなのに置いて来ちゃったんでしょ」

 

『ねぇねぇ、千早くん。その十香ちゃんって誰なんだい?』

 

「ああ、そういえば……よしのんたちは知らなかったね。十香ちゃんは四糸乃ちゃんと同じ精霊だよ」

 

『へぇー、そうなんだ。案外近くにいるもんなんだねぇ』

 

「でしょ~」

 

のんびりと世間話をするように話す千早と『よしのん』に士道がつっこみを入れる。

 

「……何でそんなにあっさりとしてるんだよ! もっとこう驚くこととかあるだろ」

 

そんな士道に千早が言う。

 

「今さらでしょ」

 

もともこもない言葉だった。

 

「それにさ……見てみなよ」

 

そう言いつつ千早が士道の背後を指差す。

 

「? …………え? と、十香……」

 

つられるようにして背後を見た士道が身体を硬直させる。

 

全身がびしょ濡れで、ついでについ今し方全力疾走でもしてきたかのように、荒く肩で息をしていた。

 

「―――シドー」

 

十香が身体をゆらりっ、と揺らしながら声を発してくる。

 

ただ名を呼ばれただけなのに、士道の背筋に寒気が走った。

 

「―――あ、あれだけ心配させておいて……」

 

「え……?」

 

「くつろいでるとは何事かぁぁぁぁぁぁっ!」

 

だんッ!―――!

 

十香が叫び、足を打ち付けた瞬間、その位置を中心に床がベコンッ! と陥没し、周囲に放射状の亀裂が入った。

 

「な、ななななななな……」

 

突然の事態に、士道は目をむいて戦慄したが千早と四糸乃と『よしのん』には特に変わりはなかった。

 

「あ、今叫んだのが四糸乃ちゃんと同じ精霊の十香ちゃん」

 

『へぇー、あの子が四糸乃と同じ精霊なんだねぇ』

 

と、千早と『よしのん』はのんびり会話をしていた。

 

のんびり話してないで助けてくれと士道が視線を千早に向けるも、

 

自分でどうにかしなさい、と千早は視線だけでそう士道に伝える。

 

「……い、いん、ですか? あの、ままにして」

 

小さな声で四糸乃が千早に訪ねる。

 

「いいのいいの。士道がちゃんと説明しなかったのが悪いんだから」

 

ちゃんと説明していればわかってくれたはずなのに説明をしなかった士道が悪いと、千早は士道の味方に今回は付かないことにした。

 

「十香ちゃんが落ち着くまで待ってようか」

 

「……はい」

 

『それで構わないよ』

 

そうして、二人と一体は痴話喧嘩のようなことをしている士道と十香のことを見やるのだった。

 

 

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