デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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21話

士道と十香の痴話喧嘩みたいなのが終るのを見計らい千早は話しかけた。

 

まあ、痴話喧嘩というよりは士道の説明不足で起きた出来事なのでことのなり行きを見守っていただけに過ぎないのだ。

 

「もういいかい……お二人さん」

 

「あ、ああ……」

 

「うむ」

 

うなずきながら返事をする二人。

 

「ところで千早は何故ここにいるのだ?」

 

「ああ、それはね……たまたまこの子が現界するときにその場所にいたからだよ」

 

この子の部分で千早は四糸乃に視線を向ける。

 

「まあ、そのあとは十香ちゃんもご存じのAST……十香ちゃんにとって一番分かりやすい言い方だと、メカメカ団だね。それと軽くドンパチして今にいたる」

 

「そうか……でも、よかったのか? そうなると千早はメカメカ団のやつらに目をつけられたんじゃ」

 

「目をつけられたって別に構わないよ。どうせASTにボクをどうこうできる力はないしね」

 

やれやれと肩をすくめながら千早は断言した。

 

「どういうことだ?」

 

「そのままの意味だよ。幽霊を物理的にどうにか出来ないのに今のボクをどうこうできるはずがないってね」

 

千早はそう言いつつ、何処から取ってきたのかメジャーを使って四糸乃のウサミミフードの大きさを測っていた。

 

そして、その大きさを紙にメモしていく。

 

『千早くんさぁー、何してるのよ?』

 

「ん? 大きさを測ってメモを取ってるのと図面作りだけど」

 

当たり前のようにすらすらと答える千早。

 

『よしのん』に返事をしている間も手は休まずに動いている。

 

そこにすかさず士道のつっこみが入った。

 

「何のためにやってんだよ」

 

「霊装擬きの服を作るために決まってるじゃん」

 

何を当たり前のことをと笑う千早に士道は頬をひきつらせる。

 

そんな士道の様子を無視しているのかそれとも気がついていないのか千早は四糸乃の胴回りや背丈等も淡々と測定していく。

 

四糸乃も四糸乃で表情を変えずになすがままにされているが、実際にはくすぐったかったりしている。

 

『千早くんさぁ、四糸乃の身体をまさぐってるけどさ……その事については何か感想はないのかな?』

 

「ふむ……お肌はスベスベで触り心地はよく、変に贅肉も付いてないから健康的だね!」

 

ぐっと親指を立てて斜め上の感想を言う千早にガクンと士道が脱力した。

 

「シドー、どうしたのか?」

 

そんな士道を心配して十香が士道の肩を支えるように掴む。

 

「い、いや……何でもない。ただ、急に力抜けただけだから」

 

と、表情を取り繕いながら士道は大丈夫だからと十香に伝える。

 

『そんな答えが聞きたかったんじゃないんだけどぉ。もぅ……ちゃんと答えてよぉ』

 

拗ねたように言う『よしのん』に千早は何か悪いことを思いた少年のような顔つきになる。

 

「じゃあさ……」

 

一旦、計測を止めて四糸乃の背後に回ると千早は後ろから垂れかかるような格好になると、その耳元に顔を近づけた。

 

「後でこっそり教えてあげるよ。ここはギャラリーがいるからさ」

 

「……っ!」

 

四糸乃はビクッと震えるとそのまま動きを止めた。

 

なので、千早はそのまま四糸乃の前に腕を回して軽く抱きしめる。

 

「おお! シドー! あれは千早に見せてもらったドラマにあったワンシィンの一つだぞ」

 

その行動を見ていた十香が興奮ぎみに指を指しながら士道の肩を掴むとゆさゆさとその肩を揺すった。

 

「そうか……それ以前に俺は何であんなに千早がベタベタとくっついているのかを知りたいんだが」

 

それが不思議でならなかった。千早とこの精霊に一体なんの繋がりがあるのか。

 

知る限り千早とこの精霊が出会ってからそんなに日が経っていないはずなのに一方的に千早に好かれているこの少女は一体何をしたのだろう。

 

でも、平和的にコンタクトが取れるので千早さまさまだなと士道は思った。

 

「それは……もちろん決まっているじゃないか! 小動物みたいで癒されるからだよ!」

 

声に力を込めてそう宣言する千早。

 

当然のことだと一人うなずいている。

 

『よかったね、癒しだってさ』

 

四糸乃に向けて『よしのん』がそう言うと、四糸乃は小さくうなずく動作をした。

 

そのしぐさが千早の琴線に触れる小動物的癒しらしく、ついでとばかりに〈フラクシナス〉で計測されていた千早のご機嫌メーターの数値は八十を軽く越えて九十に差し掛かろうとしている。

 

その数値を見ていた琴里と令音はきしくも同じことを思った。

 

これ……完全に攻略されてない?

 

そこまで思い立ったと同時に千早が大量に作っていたよしのんパンのことを思い出す。

 

「……ああ、すでにあの時から攻略されてたのね」

 

琴里のそんな呟きに令音はそっとうなずくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……ふむ……手触り的にこれが一番近いか……いや、こっちか……ううーん」

 

手に持った布の触り心地を難しい顔をしながら吟味する千早。

 

無人なので色々と普通の人が見たら悲鳴を上げる光景が広がる中、ただ一人、士道だけが頭を抱えていた。

 

「……どうしてこうなった」

 

そう呟く士道の視線の先には着飾った四糸乃と『よしのん』。そして……千早にパシられる十香の姿が映っている。

 

ここまではまだいいとしても……衣類が空を駆け回り、布は宙で様々な形に折られたりしていた。

 

「どうしてって? それは決まってるでしょ……ちょうど服屋と衣類の生地を売っているお店があったからだよ」

 

そんなことも言わないとわからないのか、と小バカにしたように言う千早。

 

「わかるか!」

 

反射的にそう返すが千早は全く相手にもせずに、

 

「じゃあ、次はこれをいってみよう」

 

ノリノリで四糸乃の着せ替えを始めている。

 

「千早、これでよいのか?」

 

「お、ありがとね、十香ちゃん」

 

十香から幾つかの帽子を受け取ると千早は四糸乃にとっかえひっかえ被せていく。

 

『んとさぁー、何でよしのんまで着替えさせられてるわけ? 』

 

「バランスの問題」

 

片方だけ着飾っても見映えが悪い。やるなら両方やってこそだ。

 

千早は気合いを入れてますますヒートアップする。

 

「…………これだ!」

 

天恵が降りてきたのか、かっ! と目を見開くと宙を漂っている、幾つかの衣類と帽子を選びそれを手元に寄せる。

 

それをかごに入れると、士道の財布をポルターガイストで抜き取り、その中身を見る。

 

「…………ちっ」

 

「人の財布の中身を見てその反応は何だよ!?」

 

財布を取り戻そうと士道が財布に向かって手を伸ばすも、中身を全て抜き取られ、かごに入れられた衣類と共にレジへと送られた。

 

「ちょ!?」

 

慌てる士道とは裏腹に千早はやりきったような清々しい笑顔を浮かべていた。

 

「千早……きな粉パンとアスパラのベェコン巻きは頼んだぞ」

 

「もちろん。十香ちゃんの分は多めにしておくからね」

 

「うむ」

 

そんな会話をしている千早と十香に気かつかずに財布の有り金全てを使われた士道はうなだれていた。

 

後に『よしのん』はその時の士道は『詐欺によって全てを失ってしまった中年のおじさんのようだったよ』と明言している。

 

 

◇◇◇◇

 

 

それから数十分経って士道が再起動もとおい復活を果たす。

 

未だに有り金全てを使われたことによる精神的ダメージは色濃く残っているが。

 

「いやぁ……いい買い物だったよ」

 

元凶である千早が先ほど買った衣類の入った袋を見る。

 

パンパンに膨れ上がった袋には溢れんばかりの衣類が顔を覗かせている。まるで詰め放題の袋のようであった。

 

「十数年振りの衣類の買い物だからついついテンションがおかしくなっちゃったよ」

 

「そのせいで……俺の財布がすっからかんだけどな」

 

財布が軽くなり寂しく感じる士道は世の中のお小遣いの少ないお父さん方もこんな寂しさと戦っているのかと思いを馳せる。

 

「……大丈夫。士道の財布の代わりに琴里ちゃんのお財布が軽くなるから」

 

ぐっと親指を立てて宣言する千早に『ふざけんじゃないわよ!』と琴里のつっこみが入るがそれは士道の耳にしか届かず、士道がその声の高さに顔をしかめるだけに止まった。

 

『ねぇねぇ、千早くん。次は何処に行くのかなぁ?』

 

くるりと前を歩いているというか漂っていた千早が振り向く。

 

「そうだねぇ……ボク的にはこの荷物を家に運びたいかな」

 

傍に浮いている衣類の入った袋に視線を向ける。

 

それからすぐに視線を戻すと、

 

「だからさ……家に遊びに来る? 」

 

軽く友達を誘うようにそんなことを言った。

 

「……ぇ」

 

四糸乃が驚き目を見張る。

 

そして、四糸乃が新たに言葉を紡ごうとした瞬間―――ずるべったぁぁぁぁぁぁぁん!

 

いつかの日みたいに盛大にずっこけた。

 

「んむっ!?」

 

呆然と目を見開く。

 

千早の身体はデパートの床に押しつけられて、その上に四糸乃が乗っかっている。

 

しかも、目の前に映るのは、蒼玉のような瞳。

 

そこで気づく。

 

―――ちょうど、唇のあたりに、妙に柔らかい感触があることに。

 

「―――っ!?」

 

数秒のあと、今自分がどういった状況に置かれているのかを、理解した。

 

転んだ四糸乃の前にいたので巻き込まれたのだと。

 

「……」

 

―――無言のまま、四糸乃が身を起こす。その際、ようやく二人の唇が離れた。

 

「……舌をいれた方がよかったかな? それともジョジョネタに走った方がいいのかな? どう思う?」

 

「知るかぁ!?」

 

唇を離すなり、いきなりそんなことを聞いてきた千早に士道はがっくりと力が抜ける。

 

てか、ジョジョネタに走るって余裕ありすぎたろと士道は思った。

 

そんなことを言っていた千早は千早で内心パニックになっていた。唇を奪われたのは今回のことを含めると二回目だからだ。

 

一回目は完全に不意討ちで、二回目は今回の四糸乃の下敷きになってである。

 

舌を方れたがいいのかな? 等の発言はパニックになっていた千早が咄嗟に言い出したことで本人も何でそのチョイスになっているのか理解していない。

 

意外と予想外の出来事に弱い千早である。

 

「…………」

 

四糸乃はそんな千早を見て首を傾げていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……最高値に達したわね」

 

「……そのようだね」

 

〈フラクシナス〉で〈ハーミット〉、十香、千早の好感度やご機嫌などを数値化して見ていた琴里と令音。

 

その視線は千早の数値に向けられている。

 

それは最高値に達していた。

 

「まずいわね。……どうやって説得しようかしら」

 

千早がいる影響か〈ハーミット〉の士道に対する好感度は中々上がらず、〈ハーミット〉に対する千早の好感度はすでに最高値に達している。

 

その事実が琴里を悩ませる。精霊の力を封印するためには士道に対する好感度を上げて、キスさせなくてはならない。

 

それはすなわち―――

 

よくあるドロドロした昼ドラや連ドラみたいな事態を引き起こすということだ。

 

琴里は司令官として初めて胃がキリキリと痛んだ。

 

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