デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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22話

「…………ふぅ」

 

呆れたように溜め息を吐く千早の周りを囲むように対精霊ガトリング〈オールディスト〉を構えたASTの集団がいた。

 

何故こうなっているのというと……話は数分前に遡る。

 

ちょっとパニックになっていた千早も落ち着き―――表面上は全く普段と代わりなかったが。

 

再びデパート内を移動していると外からの爆撃によって、デパートの壁が崩壊……それから砲撃が行われたのだ。

 

その際に四糸乃は『よしのん』を爆風で外に飛ばされて追いかけるようにデパートの外へと出ていった。

 

士道と十香はそれからすぐに〈フラクシナス〉へと避難させられ、千早は一人、四糸乃を追いかけていったのだが。

 

四糸乃は天使を顕現させて、そのまま行ってしまった。

 

四糸乃の天使は巨大なウサギのようで、そのウサギの背に四糸乃はぴったりと張り付いているのが見えていた。まあ、天使を顕現したのなら四糸乃は大丈夫だと思い千早は追いかけるのを止めて現在に至るのだ。

 

「……うざったい」

 

雨のように降り注ぐ弾丸の向きを変えて全て跳ね返していく。

 

「ちっ……駄目か」

 

現界する毎にこんな風に敵意を毎回叩きつけられるんだったらそりゃあ、嫌になるわ。

 

身をもって経験するとわかる。

 

何故、十香が武器を持っていなかった士道にさえ牙を向いたのか。

 

千早も幽霊になる前にこんな目にあっていたら……絶対に今の自分は存在していないと断言できる。

 

「……四糸乃ちゃんは……本当に優しいな。……ボクとは違って」

 

こんな風に襲われるのに反撃しないで逃げるだけだなんてさ。

 

千早はある意味安堵していた。

 

自分が現在は幽霊であるという事実に。

 

「……本当に運が良かったね」

 

千早のその声はガトリングの音でASTの誰にも聞こえなかった。

 

だが、AST隊員たちは目の前の識別名〈デモン〉の雰囲気が変わったことに気がつく。

 

「え……?」

 

そして、対精霊ガトリング〈オールディスト〉がグニャリと折れ曲がった。

 

同時に瓦礫が一ヶ所に集い始める。

 

「……一体、何が起こってるの」

 

誰かがそう呟く。

 

「……ッ!」

 

その数瞬後、誰もが絶句した。

 

大きさ数メートルの瓦礫の集合体―――東洋の龍のように長い胴体を持つ物体に。

 

「こんなものか……」

 

ただ一人、頭部と思わしき場所に立っている千早はそう言うと片手を上げて、勢いよく降り下ろした。

 

それと同時に瓦礫の集合体が動き出す。

 

「っ! 散開!」

 

隊長各がこの場にいるメンバー全員に指示を出す。

 

だが、瓦礫の集合体はすでにAST隊員を体当たりで撥ね飛ばしていた。

 

彼らの装備するスラスターよりも速く動く瓦礫の集合体。

 

対精霊ガトリング〈オールディスト〉は全て折り曲げられて使えないので小型のホーミングミサイルなどで攻撃するも。

 

「そんな……」

 

全て瓦礫の集合体を構成する一つの物体となりはてる。

 

「それじゃ、そろそろめんどくさくなってきたから帰らしてもらうよ」

 

瓦礫の集合体がとぐろを巻くように丸くなっていく。

 

そして、千早のいる部分がとぐろの中心になった瞬間に爆発を起こした。

 

小型といえども複数のミサイルが一斉に爆発したのだ、それはとてつもなく大きな爆風を生み出して、瓦礫を粉塵と共に一気に広範囲に広げる。

 

その粉塵に乗じて千早は霊体化して一気にこの場から離れて、士道の半径十メートル圏内に移動するのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「~~~~♪」

 

千早は家に戻ってから、すでに五時間が経過している。

 

帰ってきた当初こそ思いっきしピリピリとしていて明らかに機嫌が悪そうだったのだが。

 

パン作りと同時に今日買った衣類の入った袋を渡すと途端に機嫌がよくなり、士道を安堵させた。

 

十香は好物のきな粉パンが食べられるということでまだかなぁ~と機嫌良さそうに待っている。

 

まるで親鳥の帰りを待つ雛ようだ。

 

「…………それは確かなのか」

 

「ええ、本当よ。これは完全に予想外だったわ」

 

リビングの片隅でこそこそ話をする士道と琴里。

 

その視線はキッチンでパンを焼きながら、ポルターガイストで器用に裁縫をしている千早に向けられている。

 

二つの作業を同時進行しながらも夕食を作っている千早に色々とつっこみがどころがあるがそれは置いておこう。

 

「……千早が逆に攻略されただなんて」

 

「だから、私も予想外だって言ってるでしょ。今日のASTに対する千早の仕打ちを見たでしょ」

 

士道の脳裏に空間震を指弾として放つ千早の姿が思い出される。

 

ブルッと鳥肌が立ち、冷や汗が流れる。ぐしゃりとなってしまった自分の姿を想像して。

 

「……AST以上にやばくないか」

 

「ええ、その通りよ。下手したらパァンよ」

 

琴里が手を鉄砲の形にしてバーンと撃つリアクションをする。

 

「……だよな」

 

途方に暮れる士道。

 

精霊の力を封印するためには士道は精霊の好感度を上げてキスをしなければならない。

 

それはすなわち……その精霊のことを好きなやつがいたらそいつから奪わなくてはならないことに他ならないのだ。

 

「あぁ……マジでどうしよう」

 

士道はその事に頭を悩ませながら千早を見ていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

翌日、五月十三日(土曜)の早朝。

 

「完成!」

 

五河家のリビングに早朝とは思えないほどの元気のある声が響く。

 

「どこもほつれてないし、左右のバランスもよし」

 

うんうんとうなずきながら千早が手に持つのはミニサイズの『よしのん』の柄が付けられた水色の寝間着上下セットだ。

 

昨日からずっとポルターガイストと手の両方を使って刺繍をしていた結果である。

 

それを丁寧に折り畳み、ソファーの上に置くと、裁縫道工を片付けたのちに千早は時計の針の位置を確認した。

 

時刻は午前6時。

 

今日は学校がないので朝食は少し遅めでも構わないかな。

 

九時ぐらいまでは自分で起きてくるまで寝かしてあげようと思い、千早はテレビを点けた。

 

『何で! その女と一緒にいるのよッ!?』

 

ヒステリックに髪を振り乱しながら叫ぶ女性を宥めようとその恋人である男性が近づくも。

 

『来ないでッ! あ、あなたが、あなたが悪いのよッ!』

 

『ぐ……ぅぁ』

 

女性に近づいていた男性の頭にガシャァン! と花瓶が叩きつけられる。

 

倒れた男性を尻目に女性は走って家の中から飛び出していく。

 

プオォー!

 

突然のクラクションに気がついた女性が足を止める。

 

その女性の視線の先にはトラックの姿が。

 

そして―――

 

女性はトラックに引かれて地面に倒れこんだ。

 

ここで番組が終了した。

 

「……修羅場だなぁ」

 

テレビを点けたらいきなりこんな展開で始まっていたのでまじまじと見ていたのだが……そんな感想しか出なかった。

 

むしろ、修羅場のシーンから見ていたので何でこうなったかわからずにいる。

 

しかも……番組のタイトルが『楽園(エデン)―――蛇に唆された者たち』という、見た限り楽園の楽の字が見当たらない番組であった。

 

何かもういいやと思い、テレビの電源を落とす。

 

さてこれから何をやろうかと考えるも家事以外には思いつくことがなく、料理を作ることにした。

 

「何があったかな?」

 

冷蔵庫を開けて中を確認するも……これといって余ったおかずはない。

 

昨日作ったおかずは全て昨日のうちに食べてしまったのを思い出す。

 

あちゃー、と千早は額を手で押さえる。

 

肉類は昨日の段階で使いきっており、さらには魚もない。

 

冷凍食品は基本的にお弁当用のものしか買っておらず、完全に朝食用のおかずがない。正直に言って……炭水化物のメインに炭水化物のおかずという朝食になってしまう。

 

「……行けるか?」

 

時計を見ると時間は七時になるかならないかというところ。

 

この時間帯ではスーパーや八百屋などは開いているはずもなく、コンビニしかない。

 

本当はバランスのとれた朝食にしたかったが今回は諦めることにする。

 

はぁ、と溜め息を吐くと千早は洗濯をするために洗面所に向かうのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あ……雨かぁ」

 

洗濯機が止まり、中から洗濯物を取り出して、洗濯かごの中に入れて庭の方に向かうも雨が降ってたので部屋干しにするしかなくなってしまった。

 

洗濯機が動いている間はまだ晴れていたので降らないと思って洗濯していたのだが、現に今雨が降っている。

 

「こうなると買い物もボクが行った方がいいかな。士道や十香ちゃんに行ってもらってもいいんだけど……濡れそうだしね」

 

自分が濡れることはまずないのでここは自分が行くべきだろうと今日の予定を組み立ていく。

 

「……おはよう」

 

寝ぼけまなこを擦りながら私服を着た士道がリビングに降りてきた。

 

「おはよう。眠そうだけど……寝れなかったの?」

 

目の下にうっすらとではあるが隈が見えたので訪ねる。

 

「あ、ああ……ちょっと考え事があってな」

 

歯切れが悪く何か後ろめたいことでもあるのか? と考えるも千早は特に深く問うことなく、ふーんと聞き流した。

 

「おはよう」

 

そこに十香が現れる。こちらは士道とは違ってちゃんと起きているようだ。

 

「おはよう」

 

「おはよう、十香ちゃん」

 

士道に続いて千早も十香と挨拶を交わす。

 

「これで琴里ちゃん以外のみんなは起きたね」

 

千早は洗濯物を干すのをポルターガイストで行うことにして、自身は朝食を作ることにした。

 

二人に座って待ってるように促すと冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注ぎそれを二人の前に置く。

 

「朝食はピザトーストだから少し待っててね」

 

「おお! 朝からそんな贅沢をしてもいいのか? それをめぐって争いが起こるのでは?」

 

あまりにも突拍子もない十香の言葉に一瞬だけ目が点になるも、すぐにいつもの調子に戻り、クスクスと笑いながら千早は言った。

 

「そんなに贅沢じゃないから安心してよ」

 

本当にいい意味で予想外な十香の発言にクスクスと笑いながらキッチンでピザトーストを作る。

 

結構天然な部分のある十香だからこその言葉なので、そのうちにこんな発言はでなくなるんじゃないかと思うと複雑な気分だ。

 

たまに度肝を抜かれるような発言もあるが、それはそれで場を盛り上げるスパイスにもなるので無くならないでもらえるとありがたい。

 

そんなことを考えながら完成したピザトーストを持っていく。

 

具材は刻んだピーマン、ハム、チーズのみのいたってシンプルなものである。

 

千早は二人の前にピザトーストを乗せたお皿を置くと、琴里の部屋まで行き扉をノックしてから話しかけた。

 

「琴里ちゃん、朝だよ。士道と十香ちゃんは起きて朝食を食べてるけど、琴里ちゃんはどうする?」

 

「うぅ~ん……後でいぃ~……」

 

「わかったよ。でも、ちゃんとお昼前には起きるんだよ?」

 

「……ふぁ~い」

 

ちゃんとわかっているのか不安になるような声音であったが起きれなかったら本人の自業自得なので千早は気にしないことにした。

 

「ま、何かあればちゃんと起きるだろうし……もう少し寝かせてあげてもいいかな」

 

そう呟くと、リビングに戻っていくのだった。

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