デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

23 / 36
23話

「それじゃあ、買い物に行ってくるから留守番はお願いね」

 

「ああ、わかった。気をつけてな」

 

じゃあ、お願いねー、と士道に返事をすると千早はエコバッグを片手に家から出ていく。

 

「行ってきます」

 

言って鍵をかけると、千早は雨の中を歩き出した。

 

ちゃんと傘を指して。

 

今回傘を指した理由はいたって単純だ。

 

今日が休日で人が多いからそれに限る。

 

―――そして、どれくらい歩いた頃だろうか。

 

「…………あッ!?」

 

商店街に向かう道の途中。見覚えのある後ろ姿を認めて、千早は足を止めた。

 

その、ウサギのような耳のついた緑色のフードを見つけて。

 

「よ……四糸乃ちゃん……ッ!」

 

千早は喜色の笑みを浮かべてその名を口に出した。

 

そう、昨日の空間震によって破壊されて立ち入り禁止となっていたエリアの向こうに、精霊・四糸乃の姿があったのである。

 

千早は立ち入り禁止となっているエリアの中に入り四糸乃の方に向かって行く。

 

四糸乃は静粛現界によって現界しているので現在はまだASTに測されていないのだろう。

 

「おーい!」

 

千早が声をかけた瞬間、四糸乃が、ハッとした様子で振り向いてきた。

 

顔を蒼白にして歯をカチカチと鳴らし、全身を小刻みに震わせ始める。

 

「……ひっ、ぃ……っ」

 

そして、今にでも泣き出してしまいそうな顔を作り、右手をバッと高く掲げる。

 

千早は衝撃を受けた。

 

完全に怯えられていると。

 

「…………」

 

ショックのあまりに傘を地面に落とし、四つん這いになる。

 

「……っ!?」

 

瞬間、手を振り下ろしかけていた四糸乃が呆気にとられたような顔を作る。

 

そして、恐る恐るといった調子で右手を元の位置に戻し、千早の様子を窺い始めた。

 

「……………」

 

その事に気がついていない千早はぶつぶつと地味にいじけていた。

 

グリグリと地面にのの字を書くとアスファルトで舗装された地面がのの字に削られていく。

 

「……話しかけただけで怯えられた」

 

本来だと涙が出ないのに涙が出そうだ。

 

その時にふと気がつく。

 

「……よしのんは?」

 

千早は四つん這いのまま改めて四糸乃に視線を向ける。

 

その左手にはやっぱり『よしのん』の姿は無かった。

 

「…………」

 

「……もしかしてなくしたの? それで今はよしのんを探してたりするの?」

 

「……!」

 

千早が言った瞬間、四糸乃がカッと目を見開いた。

 

そして千早の元にパタパタと走り寄ってきたかと思うと、頭をガッと掴み、問いつめるように揺さぶってくる。

 

「……っ! ……っ!?」

 

「とりあえず落ち着いて」

 

言うと、四糸乃がハッとしたように千早の頭から手を離した。

 

千早は彼女の様子を窺いながら身を起こすと、もう一度問いかけてみた。

 

「よしのんを探してるでOK?」

 

四糸乃が、何度も力強くうなずく。

 

それから、不安そうな瞳を千早に向けてきた。まるで、『よしのん』の所在を問うように。

 

「あ~……ごめん。ボクは今知ったばかりだから何処にあるかわからないんだ」

 

千早がそう言うと、四糸乃はこの世の終わりを告げられたかのような顔をして、その場にヘナヘナとへたり込んだ。

 

そしてそのまま顔をうつむかせ、「ぅえ……っ、ぇ……っ」と嗚咽を漏らし始める。

 

「あ、ああ、泣かないで!? あ、ええと……ボクも一緒によしのんを探すからさ?」

 

泣く四糸乃の姿を見てそう言うと、四糸乃が泣くのを止めて徐々に顔を明るくして、うんうんと力強く首を縦に振ってくる。

 

四糸乃が泣き止んで千早はホッと安堵の息を吐く。

 

「それで、よしのんは何処でなくしたの?」

 

問うと、四糸乃は逡巡するように視線を動かしてからその桜色の唇を動かした。

 

「……き、のぅ……」

 

そして、ウサギの耳付きフードをきゅっと握って顔をうつむけ、目元を隠すようにしながらたどたどしく言ってくる。

 

「こわい……人たち、攻撃……され……気がついたら……、ぃなく、なっ……」

 

「……ASTね」

 

千早が言うと、四糸乃はこくんと首を縦に倒した。

 

ふふ……どうしてくれようかなぁ。

 

内心で不気味に笑いながらASTに対して怒りのボルテージを上げていく千早。

 

もちろん、四糸乃を怖がらせないように決してそれを表に出さない。

 

「それじゃ……よしのんを探しに行こうか」

 

「……は……ぃ」

 

四糸乃が勢いよく首肯する。

 

「レッツゴー!」

 

四糸乃と手を繋ぐと、傘をポルターガイストで自分のところに引き寄せる。

 

そして引き寄せた傘を自分と四糸乃の間に固定するとゆっくりと歩き出す。

 

初めて傘を使うのか興奮気味に繋いでないない方の手をパタパタと振る四糸乃の歩幅に合わせて。

 

 

◇◇◇◇

 

 

それから二時間ほど探し回るも『よしのん』は見つからなかった。

 

「うーん……誰かに拾われたかなぁ」

 

「……そ……んな」

 

今にでも泣き出してしまいそうな四糸乃。

 

「……う~ん…………琴里ちゃんを頼るか」

 

昨日のことは〈フラクシナス〉内部で観察してただろうし、精霊のためなら人海戦術もとってくれるだろう。

 

「…………」

 

何やら考えている千早のことを微妙に期待したような眼差して四糸乃が見つめる。

 

「じゃあ、一旦家に行こうか。彼処ならよしのんが何処に行っているのかわかるかもしれないし」

 

「……はぃ」

 

ぎゅっと千早の手を握ると四糸乃は小さくそう呟いた。

 

その言葉を聞くと千早はうなずき、歩き出す。

 

家に向かう際もよしのんを探すのは忘れない。

 

途中で四糸乃の方から可愛らしい音が聞こえてくるも千早はあえて聞かなかった。

 

家に着いたら皆の昼と一緒にご馳走しようと思いつつも、四糸乃が家に来たら皆驚くだろうなぁ、と内心でクスクスと千早は笑いながらウサギの耳の付いたフードを深く被る四糸乃のことを優しく見ていた。

 

士道が見たことのないような表情で。

 

そんなことを四糸乃は知らなかった。例え、フードを深く被っていなくとも千早との付き合いが短い彼女は気がつくことはなかっただろう。

 

その時の千早の表情が意味するものを。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ただいまぁ~」

 

家に着いた千早が真っ直ぐにリビングに向かう。

 

そのすぐあとを四糸乃が音もなく追従する。

 

「ああ、おかえ……り……っ!?

 

 

ごく普通に対応していた士道であったが千早の背後から現れた四糸乃の姿を見て固まる。

 

「琴里ちゃんは?」

 

そんな士道の様子を無視して千早が尋ねる。

 

「……ま、まだ……寝てるぞ」

 

「仕形がないなぁ~」

 

やれやれといった様子でぼやきつつ、千早は言った。

 

「起こしてきて。その間にボクは昼の準備をしておくからさ」

 

「あ、ああ」

 

ちょっと言葉に詰まりつつも、返事を返す士道。

 

士道はそれからすぐに琴里を起こしに向かった。

 

「それじゃあ、四糸乃ちゃんはソファーに座って少し待っててね」

 

キッチンに入ると冷蔵庫の中身をざっと確認する。

 

「…………本当に無いな……仕形がない」

 

牛乳と卵を取り出すとパタンと冷蔵庫を閉じて、流し台のしたからボウルを取り出す。

 

その作業の合間にちらりと四糸乃の方を見やる。

 

そこには、ソファーに座りながら、物珍しそうに辺りを見回す四糸乃の姿があった。

 

「……来たか」

 

ドタドタと駆けてくる音がリビングに近づいてくる。

 

千早はその音の発信源が誰だかわかっているので慌てることなく、キッチンの上の方にある戸棚からホットケーキミックスを取り出す。

 

それをボウルに入れて卵と牛乳と一緒に混ぜていると……慌てた様子の琴里がリビングに入ってきた。

 

「千早! 状況説明!」

 

「買い物に行ったときに四糸乃ちゃんと遭遇。それからよしのんが行方不明になってることが判明して探してたんだけど見つからないから琴里ちゃんの力を借りようと思ったわけ」

 

「……そう」

 

とだけ言うと、琴里は携帯を取り出しながらいそいそとリビングから出ていった。

 

それを千早が見送っていると流し台に溜まっていた水がボコボコと隆起し、弾丸のようになってテレビの方に向かって放たれる。

 

「……もう、何やってるのさ?」

 

それをテレビの画面に突き刺さる前にポルターガイストで止めながら千早がぼやく。

 

「あ、いや……助かった。テレビを点けたら驚かれてな」

 

ホッとしたように息を吐く士道。

 

四糸乃といえば、瞑っていた目を開いたのち、慌てたように千早と士道に頭を下げてきた。に

 

「いや、気にすんな。俺も驚かせて悪かったな」

 

「そうそう……壊れたらその分、士道のお金が減るだけだったから」

 

そんな千早の言葉にぎょっと目を剥く士道。

 

「……それは……本気か?」

 

「ふふ……もちろんだよ。四糸乃ちゃんを怖がらせた罰だよ」

 

ハイライトの消えた目が士道のことを見つめる。

 

士道はごくり、と唾を飲み込む。

 

そして、直感する。

 

ヤバい……これはマジでヤバいと。

 

士道はとてつもない悪寒に襲われる。

 

もしかして……自分は起こしちゃいけない何かを起こしてしまったのではないか?

 

そんな疑問が士道の思考を占める。

 

「まあ……昼も出来たし食べようか」

 

「……あ、ああ」

 

キッチンの方からミニサイズのホットケーキが焼けたそばから宙を漂いながら、テーブルに置かれた皿の上に乗せられていく。

 

その光景を見て士道は思った。

 

このつっこみどころ満載のこの光景を見慣れてしまったしまった自分は何なのだろうか? と。

 

そう士道が黄昏ている間にもどんどん焼き上がったホットケーキが運ばれてくる。

 

「さ、四糸乃ちゃんもどうぞ」

 

千早はミニサイズのホットケーキを一口サイズに切り分けて四糸乃の目の前に差し出す。

 

食べていいのかと窺ってくる四糸乃に千早がうなずく。

 

そしてフォークを手に取り、一口サイズになったホットケーキを一口、口に運ぶ。

 

「…………!」

 

すると四糸乃はカッと目を見開いて、テーブルをぺしぺしと叩いた。

 

「ん?」

 

そのしぐさを微笑みながら見ていた、千早に気がつくと恥ずかしそうに目を逸らしてしまう。

 

その後四糸乃は、何かを伝えたいんだけど、言葉を発するのが恥ずかしい、みたいな顔を作ってから、ぐっ、と千早に親指を立ててきた。

 

「それは……よかったよ」

 

どうやら気に入ってくれたらしい。千早は笑みを深める。

 

それを見ていた士道は、この光景だけなら微笑ましいんだけどなぁ……と思っていた。

 

ぶっちゃけると、目からハイライトの消えた千早のことが忘れられずにいるのが原因だ。

 

千早はパクパクと食べていく四糸乃に牛乳を渡したり、味に変化をもたらせるために、メープルシロップやジャムなどを取り出すなどしていた。

 

それから少しして、四糸乃はホットケーキを食べ終わる。

 

使った食器を流し台に置き、ジャムやメープルシロップ等はあった場所に戻しておく。

 

「それじゃ、後は琴里ちゃんからの連絡待ちだから少しゆっくりしようか」

 

千早はそう言いながら、流し台に置かれている食器を洗い始める。

 

「……そうだな」

 

士道はそう返事を返しつつ、右耳にインカムを付ける。

 

そして、四糸乃と話始める士道を見ながら千早は一人、ぼそりと呟いた。

 

「……あ~あ……未練が増えちゃったなあ」

 

千早は嬉しさと悲しさが混ざったような表情を浮かべていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。