デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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25話

「……っ!?」

 

軽く飛ぶように移動をする千早の目にASTの姿が映った。

 

装備した武器の数々が唸りを上げているのが見え、その悪意や殺意が誰に向けられているのかよくわかる光景にギリッと歯を噛み締める。

 

移動速度を上げてその場に向かう。

 

―――クゥォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオォォォ―――

 

と、耳鳴りが残るような奇妙な咆哮が千早に聞こえてきた。

 

近くにつれて先ほどの咆哮を上げた正体が見えた。

 

巨大なウサギの人形―――四糸乃の天使である。

 

「……これは」

 

人形を中心に、地面がパリパリと音を立てて、放射状に白くなっていった。

 

おそらく凍っているのだろうと千早は見切りをつける。

 

寒さや暑さをほぼ感じないゆえに見た目から判断する他ないのだ。

 

こういうときに不便だと思うも千早はどんな場所でもいつも同じように活動できるから仕方がないと割りきる。

 

どうせそう遠くないうちに取り戻すのだから。

 

千早はよりピードを上げて四糸乃の元に向かう。

 

そして今度はゴォォォォォォォォォォォォォォ―――と、先ほどよりも大きな、まるで機械の駆動音のような咆哮を上げて、人形が身を仰け反らせるのが見えた。。

 

AST隊員たちが浮遊していた空域を離れる。

 

その瞬間、人形が頭部を元の位置に戻したかと思うと、耳をつんざく不快な高音とともに、口にあたる部分から、青い光線のようなものを吐き出す。

 

「……れいとうビーム……っ!?」

 

さすがにこれは驚いたのか千早が目を見開く。

 

完全に予想外であった。

 

しかも、AST隊員を二名ほど氷付けにしている。

 

「って!? ちょ、待って!」

 

巨大なウサギの人形がその場から走り去っていく。

 

千早も追いかけるも前にはASTがおり、四糸乃に追いつく前にぶつかるのはすぐにわかった。

 

「ああ、もう! 本当に邪魔くさい!」

 

心底煩わしそうに言いつつも千早はさらに移動速度を上げるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「「「……ッ!?」」」

 

五河家にいた琴里、士道、十香の三人が外の光景に驚きを露にする。

 

視界一面に雨が降り注ぎ、しかも、地面に触れた雨粒が、一瞬のうちに凍りついているからだ。

 

「これが……四糸乃の天使の力ね」

 

「……千早のやつ……大丈夫なのか?」

 

「大丈夫じゃないの? だって、空間震に直撃しても平気なのよ」

 

この言葉を聞いて、それもそうだなと、士道は納得した。

 

空間震が効かないのに、凍りつくぐらいでどうにかできるわけない。

 

そう思うとむしろ、地域への影響の方が気になった。

 

「一応……ええと〈フラクシナス〉とやらに行った方がいいのではないか?」

 

十香がそんなことを言う。

 

それと同時に家の前をずんぐりとしたフォルムの、全長三メートルはあろうかという人形が通り過ぎた。

 

しかもその背に、緑色のコートを着た少女を乗せていた。

 

「あれは……あのときの」

 

そう、あれは、四糸乃であった。

 

デパートで士道と千早と一緒にいた少女だ。

 

「まったく……千早は何をしてるのよ。……こうなったら十香の言う通り一旦〈フラクシナス〉に行くわよ」

 

琴里はそう言うと〈フラクシナス〉に自分たちを転送するように連絡をするのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ああっ……もう! 本当に邪魔くさいな……っと」

 

左右から近接戦闘用高出力レイザーブレイド〈ノーペイン〉を抜いてAST隊員が二人で千早に襲いかかってくる。

 

千早は冷静に左右の二人に向かって手を伸ばすと指弾を放って迎撃した。

 

「がっ……」

 

「ぎっ……ぁ……」

 

まるで高速で走る車に轢かれたかのようにして二人のAST隊員が見に纏っていた装備を完膚なきまでに破壊されて吹き飛んでいく。

 

その結果を見ることなく千早は四糸乃の元へと急ぐ。

 

足止めするかのように次々と現れるAST隊員たちに対してだんだんと苛立ちが募っていく。

 

AST隊員たち(あっち)は完全に殺る気なのにこっちが手加減する理由もないんじゃないのか? と。

 

これでもし四糸乃に怪我を負わせていたらマジギレする自信が千早にはあった。

 

「……はぁ」

 

何かを捨て去るように一度息を吐くと千早の雰囲気ががらりと変わる。

 

「そこまで命が惜しくもないのならよいだろう」

 

ピタリと動きを止めて自分の方に向かって来るAST隊員たちにに向けて片手を手のひらを開いた状態で向ける。

 

「……潰れていろ」

 

ぐっと千早が手を握る。何かを握り潰すかのように。

 

瞬間、千早に向かって来ていたAST隊員たちが下へ向かって墜ちていく。

 

手足は砕け、纏っている装備が身体にめり込むようにしてひしゃげている。

 

そこまで見ると千早は先の方を見据えて移動を再開した。

 

すでに千早の関心は四糸乃の方に向けてあり、ASTに対する気遣いはとうに消え失せていた。初めは手加減していたが限界がきたのだ。

 

自分だけが狙われているならまだ千早も手加減していたのだが、今回は自分以外も狙われている。むしろそっちが本命と言えるだろう。

 

だからこそ千早は手加減を止めた。

 

本気は出していないが手加減は止めたのだ。

 

千早にとって『ほんの少しでも愛情を向けている対象に危害を加える輩』それは完全に手加減の対象から外れる。

 

この場合の愛情は友愛、家族愛、異性に向ける愛、それらすべてが含まれており、自分は含まれてない。

 

四糸乃が自分に優しさを向けないように千早は自分に愛を持たない。

 

自分に対するご褒美は愛を向ける対象のついででしかないのだ。

 

故に千早は愛していない存在を()()()()()()()()()()()()()()()

 

千早がAST隊員たちの命を奪わないのは単純にそれを士道が望まないからだろうから。それが理由に他ならない。後は琴里が他の精霊のことを考えた際に人を殺してしまうのはなるべく避けた方がいいと考えているからだ。

 

それらがなかったら千早は完全に殺る気でいた。

 

殺しに来るのだから殺されても仕方があるまいと。

 

「来たぞっ!」

 

「撃てぇ!!」

 

雨のように放たれる弾幕を完全に無視して千早は撃ってくるAST隊員同士の方に銃身を無理矢理向けさせる。

 

「やめ……っ!」

 

お互いに撃ち合い墜ちていくAST隊員たちの間を悠々と通り過ぎていく千早。

 

ASTが精霊に対する同情や慈悲を持たないように千早も敵対する者に同情や慈悲を持たない。

 

何故そうするのかを理解してもそれは変わらない。

 

そして、千早は四糸乃の姿を完全に捉えた。

 

千早は、大きな声を上げて呼びかける。

 

「―――四糸乃ちゃぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

「…………!」

 

猛スピードで駆けていた、人形の背に張り付いている四糸乃が、ピクリと反応を示す。

 

どうやら、千早に気がついてくれたらしい。

 

「……邪魔」

 

千早は四糸乃に呼びかけた時の声とは違ってひどく冷淡な声でそう言うと付近を飛んでいたAST隊員たちをまとめて吹き飛ばした。

 

そのまま一気に加速して千早は人形の背に張り付いて、凍りついた路面を滑るように移動している四糸乃に並走して、それから徐々に速度を落としていき、やがて停止する。

 

そして鈍重そうな人形が身をかがめたかと思うと、その背に張り付いていた四糸乃が、涙でグシャグシャになった顔を上げた。

 

「や! 四糸乃ちゃん。お久しぶりだね」

 

「……千早さ、ん……」

 

四糸乃が身を起こして、うんうんと首を縦に振る。

 

その際に四糸乃が人形の背に空いた穴に差し込んでいた腕か抜かれる。四糸乃の指にはそれぞれ指輪のようなものが輝いており、そこから人形の内部に細い糸のようなものが伸びていた。

 

十中八九これで操り人形のように動かしているのだろう。

 

「……まずは顔を拭かないとね」

 

千早はハンカチを取り出すと四糸乃の顔を優しく拭う。

 

「……ん……」

 

特に抵抗することもなく四糸乃は千早に顔を拭かれていく。

 

「……これでよしっと」

 

四糸乃の顔を拭い終わると千早はそのハンカチをしまう。

 

「四糸乃ちゃんに渡す物があるだ」

 

「……?」

 

四糸乃が問うように首を傾げる。

 

「それは―――」

 

と、千早がしまっていた『よしのん』を取り出そうとした瞬間。

 

千早の後方から光線のようなものが放たれた。

 

それは千早の肩を射抜き、四糸乃の肩口と頬のあたりを掠め、後ろへと抜けていく。

 

千早にとって命中しても意味のないものなのでそのまま無視を決めて、四糸乃が怪我をしてないかを確かめる。

 

「…………かすり傷か……」

 

千早はほっと安心したように息を吐くと振り向く。

 

そこには、仰々しい装備に身を包んだ折紙が、巨大な砲門を掲げながら浮遊していた。

 

「……折紙か」

 

しかも、それだけではない。いつの間にか千早と四糸乃の周囲にはAST隊員たちが集結しつつあった。

 

千早が四糸乃の元に着くときに吹っ飛ばしたのも一緒に来ているらしく数が増えている。

 

「ぅ―――ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……ッ」

 

すぐ前方からそんな声が聞こえて千早は顔の方向を元に戻した。

 

四糸乃が、AST隊員たちの姿を見て、ガタガタと身体を震わせている。

 

「大丈夫だから……落ち着いて」

 

千早はそんな四糸乃を抱きすくめると、赤子をあやすようにその頭を優しく撫でる。

 

「…………は……ぃ」

 

か細いながらも返事が帰ってきたので千早は「いいこ、いいこ」と撫でながら言う。

 

「総員! 撃てぇ!」

 

AST隊員たちのリーダーが攻撃命令を下す。

 

その瞬間、一斉に折紙を含めたAST隊員たちが攻撃を開始する。

 

激しい銃撃音に加えて、爆発音まで響き渡る。

 

それらが千早と四糸乃めがけて飛んでくる。四糸乃は音だけしか聞こえていないが千早は攻撃を仕掛けてくるAST隊員たちの姿を見ていた。

 

「……ここだと話ができないから移動しようか」

 

「…………」

 

四糸乃が首を縦に振り、肯定を示す。

 

飛んでくるモノ全てを千早が振り返ることなく反らしていく。

 

その間に四糸乃が人形の背に空いた穴に手を差し込む。

 

それを見た千早は、四糸乃の背後に腰を下ろすと片手を四糸乃の身体の前に回して、顔の向きだけをAST隊員たちの方に向ける。

 

「……ノーコン」

 

と、千早はAST隊員たちを嘲笑する。

 

そして顔の向きを元に戻すと残った片手も同じように四糸乃の身体の前に回す。

 

「それじゃ……行こうか」

 

「……はぃ」

 

四糸乃が人形を動かす。

 

降りしきる雨を弾き、風をきって猛スピードで進む。

 

そのあとを追いかけるようにAST隊員たちが追ってくるも千早にはどうでもよかった。

 

大事なのは四糸乃の安全ただ一つ。

 

「…………っ」

 

何やら迷っている様子で四糸乃が千早のことを見ている。

 

言いたいことがあるが恥ずかしくて言えないのか口パクになっている。それを見て千早は軽く笑ってしまう。

 

「ああ、もうっ! 可愛いんだから! 四糸乃ちゃんの好きに動いていいよ。追ってくるのは全部ボクがどうにかしておくから。気にせずに気の向くままに動いて」

 

千早がそう言うと四糸乃は小さくうなずく。

 

こうして、雨と氷の世界に包まれた天宮市での精霊と対精霊部隊の追いかけっこが幕を開けた。

 

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