デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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26話

「……慌てる必要なんかないからね。罠とかじゃボクたちを傷つけるなんてできないんだからさ」

 

千早は時折、不安そうにする四糸乃にそう伝える。

 

と、同時にAST隊員たちを一人づつ戦闘不能にしていく。

 

走ることに必死になっている四糸乃はその事に気がつかない。

 

それでも追っ手の数が少なくなることは四糸乃の精神に安息をもたらした。

 

自分に向けられる悪意や殺意が減っていくのだから。

 

千早がこうして、四糸乃を動かしている理由は四糸乃のストレス発散のためだ。

 

動くことはストレスの発散になる。

 

千早自身はストレスの発散に何でもいいから動くことをしているからだ。

 

それは散歩などである。後は綺麗なモノを見ること。

 

この場合の綺麗なモノとは自然現象で起こるものや芸術品が含まれている。

 

「……ん~そろそろAST(あちら)も何らかしら手を打ってくるかな」

 

追ってきているAST隊員の何人かが別行動をとり始めたのだ。

 

これから相手がやってくるであろう手段を想像する。

 

確実にやってくるのは四糸乃が動かす人形の足を止めることだろう。

 

そうなった時はその状況を使わせてもらおうと千早は考えた。

 

「―――四糸乃ちゃん。ちょっといいかな?」

 

千早は今さっき考えたことを四糸乃に耳打ちするのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ちゃんと合流できたみたいね」

 

〈フラクシナス〉艦橋の大モニタを見ながら琴里が言った。

 

「それにしても……何か千早が強くないか?」

 

「シドー。千早は愛の力とやらでパワァアップをしているのではないのか? テレビのヒィロォとかはそういうので強くなってたぞ?」

 

「いや……それはテレビの中だけだから」

 

素でそんな発言をする十香に士道は苦笑する。

 

「……ぬぅ、そうなのか」

 

「それにしても本当に彼は器用だね」

 

令音が大モニタではなく個人用のモニタを見ながらそう言う。

 

「どういうこと?」

 

すかさず琴里が令音に尋ねた。

 

「これを見てくれたまえ」

 

そう言って令音が琴里に見えるように個人用のモニタの画面を向ける。

 

それを覗き込むように十香と士道がモニタの画面を覗く。

 

そこにはちょうど千早がAST隊員に向けている手のひらをぐっと握る瞬間であった。

 

「……これがどうしたの?」

 

「これはね……以前十香が彼女らのミサイルを破壊した時と同じことを決して致命傷にならない程度の威力でやっているんだ」

 

「……それは、また……随分と器用ね」

 

「それだけではない」

 

令音が個人用モニタを一旦自分の前に戻すと映像停止するとそこの部分を拡大して、それを再び琴里の前に向ける。

 

「これは……手なのか?」

 

停止して拡大された映像を見ていた士道がそう声を漏らした。

 

それを肯定するように令音がうなずく。

 

「文字通り彼は握り潰しているんだよ」

 

その映像にはAST隊員を握り潰す、かろうじて手だとわかるモノが映っていた。

 

「透明な手? だよな」

 

「うむ。私にもそうとしか見えないぞ」

 

首を傾げる十香と士道に令音が言った。

 

「ちなみにこの手からは本当に微弱であるが今までに観測されたことのない霊波が観測されている」

 

「はぁっ!?」

 

予想外の言葉に士道が驚きの声を上げる。

 

それを琴里が「うるさい!」と言って切り捨てると令音に続きを話すように視線で訴えた。

 

「幽霊なんていうデータの少ない存在だからなのでわからないことも多いがね。やっぱり本人に聞くのが一番だと私は思うよ」

 

「案外簡単に答えてくれるのではないのか? 千早は教えたくないこと以外なら聞けばすぐに答えてくれるからな」

 

「でも、これが聞かれたくないことだったら答えてくれないぞ」

 

「自分に関する情報はあんまり言わないものね。何故か家の財政を完全に管理してるし」

 

琴里の言葉に士道は乾いた笑みを浮かべた。

 

いつの間にか財政面で完全に管理されているという事実に。

 

そんなそぶりは一度も見せることなく気がついたときにはすでにこうなっていたという現実。

 

実は十香のお小遣いが〈フラクシナス〉から支給されたものではなく家に保管されていた士道と琴里の両親のへそくりであり、〈フラクシナス〉から支給されたものは十香名義の貯金通帳にそのまま入っていることを千早以外は知らない。

 

そもそも十香名義の貯金通帳があること自体を〈フラクシナス〉のクルーを含め誰一人いないのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……こ、こで……いい、ですか?」

 

「うん。ピッタリだよ」

 

十字路の中心で人形が停止する。

 

そこへみるみるうちにAST隊員たちが近寄ってくる。距離を離して遠距離からの銃撃をメインにしながら少しずつ距離を詰めていく。

 

「……それじゃ、お願いね」

 

千早の言葉に四糸乃がうなずく。

 

「……〈氷結傀儡(ザドキエル)〉!」

 

四糸乃が叫ぶと同時、その周囲に凄まじい風が巻き起こった。

 

あたりに降り注いでいた雨粒が雹のように凍結し、千早と四糸乃を覆うように渦を巻いて、吹雪のドームを形作ったのである。

 

「これでよしっと」

 

千早はこの氷嵐の結界が出来上がると満足げにうなずき、身体の内側にしまっていた『よしのん』を取り出す。

 

「…………ッ!?」

 

四糸乃が千早の取り出した『よしのん』を見て驚きに目を見開く。

 

「はい、四糸乃ちゃんにプレゼント」

 

千早はすぐに四糸乃に『よしのん』を渡した。

 

「ありが、とう……ござ、います」

 

と、四糸乃が頭を下げてきた。

 

「どういたしまして」

 

千早は満足そうにうなずくと四糸乃の傍から離れる。

 

氷結傀儡(ザドキエル)〉の上から降りて、音も立てずに凍りついたアスファルトの上に立つ。

 

そして、右手を上に翳すと千早は約十年ぶりにこの世界に生まれ落ちた時からの相棒の名を口にした。

 

「―――〈奪命霊皇(サリエル)〉」

 

 

◇◇◇◇

 

 

〈ハーミット〉が作り出した氷嵐の結界を破るために折紙がコンクリート性のビルの先端を拡大された随意領域(テリトリー)で浮遊させ、〈ハーミット〉の結界上空まで飛んでいった。

 

折紙は呼吸を整えると、ビルを持ち上げるように掲げていた手を一気に振り下ろした。

 

凄まじい重量を誇る鉄とコンクリートの塊が、吹雪のドーム目がけて落下していく。

 

―――が。

 

折紙は微かに眉を歪ませた。

 

今し方投げ落としたビルが吹雪のドームに途中まで埋まるとそのまま固定されたように動かなくなったのだ。

 

「…………っ」

 

〈ハーミット〉の結界は―――未だ、健在。

 

否―――それだけではなかった。

 

逆に吹雪のドームから落としたビルが押し出されくる。

 

「これは―――」

 

と、声を発した瞬間、耳にビーッ、ビーッ、という耳障りなブザーが届いた。

 

『折紙! せ、精霊反応が増えたわ! この反応は―――』

 

燎子の声を聞き終わるよりも速く、折紙は十メートルクラスにまで拡大していた随意領域(テリトリー)を、普段より狭い二メートルにまで凝縮させた。

 

随意領域(テリトリー)から顔を出してしまった大型装備が、重力に従って地面に落ちていく。

 

瞬間―――折紙の目の前に蒼白い輝きを放つ塊が映った。

「…………っぁ」

 

範囲を狭め防性を高めたテリトリーに、強烈な負荷がかかる。

 

そのまま強烈な衝撃が身体中を駆け巡った。

 

『折…………紙………聞…………返事……』

 

朦朧とする意識の中、自分を呼ぶ声に折紙は段々と意識をはっきりとさせていく。

 

見えるのは人型の蒼白く輝く巨人。

 

大きさビルと同じくらいであった。

 

防性を高めていた故に折紙は意識を朦朧とするだけで済んだが、同じように巻き込まれた他の隊員は起き上がらない。

 

完全に意識を失っていた。

 

「……くっ」

 

身体に走る激痛をこらえて折紙はその場からすぐに離れる。

 

瞬間―――折紙が離れたと同時に巨人の手が叩きつけられた。

 

ビルが倒壊するような大きな音が発生し、地面が陥没する。

 

「……ぁ」

 

巨人の攻撃を避けたと思っていた折紙の目の前に蒼白い輝きを放つ塊が再び目に映る。

 

それは、先ほど地面に叩きつけられた手の横から伸びていた。

 

視界全てを蒼白い輝きが覆い―――折紙は何かが潰れる音と一緒に意識が闇に飲まれる。

 

それから数秒もしないうちにAST隊員たちは全員が蒼白く輝く巨人によって意識を失わされるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「………………なんなの……あれ」

 

〈フラクシナス〉艦橋の大モニタを見ながら琴里はそう声を発した。

 

その視線の先には四糸乃が作り出した吹雪のドームの中から身体の表面を凍らせた蒼白く輝く巨人が片手で折紙に落とされたビルを押さえながら出てきている。

 

「……これはまた、ビックリだね」

 

令音が驚きでずれた眼鏡をかけなおす。

 

「…………」

 

士道は口をあんぐりと開けて固まる。

 

「おぉ……」

 

十香は純粋に驚いていた。

 

「……これは彼の仕業だろうね」

 

驚きから立ち直った令音が千早のことを観測していた計器に視線を向けながらそう言った。

 

「それって―――」

 

士道が脳裏に浮かんだ言葉を口にする前に琴里が声を発する。

 

「―――そうよ。これは間違いなく形を持った奇跡……天使の力よ」

 

「天使? だったら千早は精霊なのか? でも、千早は幽霊ではなかったか?」

 

琴里の言葉を聞いた十香が首を傾げる。

 

士道は士道で驚きで頭の中がこんがらがって思考が上手く働いていなかった。

 

が、同時に納得もしていた。千早の力が精霊のものであるということを。

 

でなければ士道が精霊の力を封印する毎に千早が力を増していく理由が説明できないからだ。

 

だとすれば何故、千早が幽霊になっているのか士道は疑問に思った。

 

霊装という強力無比な鎧を纏い、天使という絶大な力を持つ矛を使えるのに何故、千早は幽霊になっているのか士道はそこに疑問を持ったのだ。

 

琴里の話からも精霊が討たれたという話は聞いていない。仮にASTが精霊を討っているのであれば十香も四糸乃もとっくの昔に討たれていたはずだ。なのに討たれていない。

 

士道は大モニタを見つめる。

 

巨大な蒼白く輝く巨人がAST隊員を文字通り叩き潰すと消えていった。

 

その巨人が消えると同時に四糸乃が発生させていた、吹雪のドームが消える。

 

そこには〈氷結傀儡(ザドキエル)〉に乗った四糸乃と全体に罅が入って今にでも壊れそうな一メートルほどの大きさの柩を頭上に浮かべた千早の姿があった。

 

そして、千早の手には千早の身の丈以上の大きさの何かの刃が付いていただろうことを連想させる棒を持っていたのだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……大分壊れたままだけど問題なかったか」

 

千早は蒼白く輝く巨人のコアの役割を担っていた罅が入っている柩を見ながらそう小さく呟いた。

 

肩にかけるように持っている棒は刃の部分が完全に存在してないので武器としては役に立たない。

 

もっとも、刃が付いていたところで普通の武器としては全く使えないのであるが。

 

「…………完全に直るのにはまだまだ時間がかかるかな」

 

ほぼ全壊といっても過言ではない自分の天使を見て千早は溜め息を吐く。

 

柩が一つしか出なかった時点で天使の修復が全然進んでいないのが見てとれたからだ。

 

最後に使った時からの約十年の時が経っているが柩は一つしか呼び出せなかった。

 

それが意味するところはただ一つ。

 

未だに一割も千早の天使は直すことができていないということだ。

 

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