デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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27話

ASTたちを退けた千早は四糸乃を連れて家に戻った。

 

「四糸乃ちゃん、ちょっとそこに座っててね」

 

千早は四糸乃を家の壁にかかったテレビの前のソファーに座らせる。

 

それから千早はテレビを点けるとある映像を流す。

「これから四糸乃ちゃんにやってもらいたいことがあるからそれを分かりやすく説明するからさ」

 

「…………?」

 

首を傾げつつも四糸乃はテレビに視線を向ける。

 

同時に千早はリモコンを使ってある映像の再生を行う。

 

再生された映像には四糸乃も何度か会った士道と話したことは無いに等しい十香の姿が映っていた。

 

この映像は士道と十香がキスをした時の場面を撮ったものであり、これから来るであろう士道とやってもらうつもりで千早はこの映像を流している。

 

本人らがいたら今頃千早は追いかけられているだろうが、追いかける本人らがいないのでそんなことにはならない。

 

映像がちょうど士道と十香がキスをしているシーンで止める。

 

その行為が何を示しているのか理解していないのか四糸乃は不思議そうに目をパチクリとしていた。

 

「これをやって欲しいんだよ」

 

千早が四糸乃にそう言う。

 

すると千早の目の前に四糸乃の顔が近づく。

 

そこで千早は自身の説明不足を悟った。

 

あ……最初に士道の名前を言うのを忘れてた。

 

と、千早が悟っている間にもお互いの顔が近づき―――唇が重なる。

 

「…………っ!」

 

仕方がないと千早は半場自棄っぱちに近い心境で四糸乃の精霊の力を吸収。そして、繋がっている経路(パス)から士道の方へと四糸乃の力を流していく。

 

唇が離れると様子のおかしい千早に四糸乃が小さく首を傾げた。

 

「違い……ました、か……?」

 

「いや……違わないんだけど……」

 

千早がそう言うと、四糸乃はこくりと首肯した。

 

「千早、さんの……言うことなら、信じます」

 

と、その瞬間―――四糸乃の纏っていたインナーが光の粒になって空気に溶け消えていく。

 

そして……家の外で降っていた雨が止む。

 

四糸乃の肩が、驚いたようにビクッと震える。

 

「…………っ、ち、千早さ……これ―――」

 

四糸乃は何が何だかわからないといった様子で、目をぐるぐると回した。そして半裸状態の身体を隠すように、身をかがめる。

 

そんな反応をする四糸乃に千早は以前作成した『よしのん』の絵柄の付いた寝間着を渡す。

 

「いろいろと言いたいこと聞きたいことがあると思うけど先にそれを―――」

 

と―――そこで。

 

「あ……」

 

四糸乃がリビングの窓の方を見た。

 

雲の切れ間から―――太陽の光が、注いできている。

 

引き寄せられるように光の当たる場所へと四糸乃が移動した。

 

「暖か―――い……」

 

まるで初めて太陽の光を目にしたかのように、四糸乃が小さな驚嘆を発する。

 

いや、おそらく初めてだろう。

 

千早は思い起こす。自分自身の経験から。

 

起こっていることは違うが四糸乃の場合は水と冷気を操る性質から、彼女がこちらの世界に現れた時はいつも、雨が降っていた。

 

「き、れい……」

 

ぼうっと、呟くように。

 

四糸乃が、天を見上げて言う。

 

千早も、つられるように顔を上にやった。

 

そして、すぐに四糸乃が見つめていたものを見つける。

 

雨上がりの空には―――見事な虹が、かかっていたのである。

 

「そうだね……」

 

千早は四糸乃の隣に立つと、そのまま虹を見つめる。

 

それは士道たちが家に戻ってくるまで続いていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「…………何か顔色おかしくか?」

 

「ははは……何いってるの?」

 

もう、やだなーとほがらかに千早は笑うが確実に顔色は悪かった。

 

正確には―――

 

「―――だったら何でさっきから色とりどりに変色してんだよ!?」

 

「……へ? マジで……」

 

キョトンとした様子で千早が聞き返す。それに士道はうなずく。

 

千早は離れた場所にいる琴里や十香、四糸乃にも視線を向けると全員にうなずかれた。

 

そこへ、令音が鏡を持って現れる。

 

「とりあえず、見てみるといい」

 

そう言われ、鏡を見てみる。

 

「……わぁお……気持ち悪!?」

 

紫色になったり虹色になったり、真っ赤になったりと実に気持ち悪かった。

 

「こうなった原因に心当たりはないかな?」

 

「……ああ、あったね」

 

千早はすぐにその原因に思い至った。

 

「……それはなんなの」

 

かなりひきつった表情で琴里が千早に訪ねる。

 

「ちょっと霊力のコントロールが乱れてるんだよ」

 

「…………そ、うなん、ですか……?」

 

「ああ、うん。きっとそう……」

 

千早にはそれ以外に理由はないとわかっていた。

 

千早の実体化を維持している霊力。それに今はテレビやラジオでいうところのノイズが走っている状態なのだ。

 

「それはどれぐらいで治るのだ? 正直不気味で視界に入れたくないのだが……」

 

「しばらくすれば治るよ。簡単にいうと慣れない作業をしたからこうなったんだし……顔の造形が変わらないだけましだしね」

 

「…………そ、そうか」

 

士道はその言葉に苦笑するしかなかった。

 

「まあ、それはいいわ。それよりも何で四糸乃の力を千早が封印してるのよ」

 

「それはボクが些細なミスを犯したからに決まってるじゃない。だからこうなってるんだし」

 

何故か胸を張って堂々とする千早に琴里は頭を抱えたくなった。

 

真面目な時とそうじゃない時の差でストレス感じているからだ。

 

ある意味……神無月と同じだった。

 

「それは威張ることかぁ!」

 

そう叫んだ琴里を誰が責められようか。

 

「はい、静かに」

 

「アダッ」

 

ゴンッ! と千早が琴里の頭にタライを落とした。

 

ガランガランと床に音を立てて落ちるタライ。

 

琴里は両手で頭を押さえて床に屈む。

 

「だ、大丈夫か?」

 

士道が琴里の傍に寄り、屈む。

 

「お……おにーちゃん!」

 

涙目になった琴里が士道を見つめる。

 

「さて……静かになったところで」

 

支配者となっている千早に誰も文句を言えなかった。

 

五河家には千早が仕掛けたトラップ―――先程のタライなど―――が幾つも仕掛けられている。

 

もちろん、シュールストレミングス十年物も仕掛けてあるのだ。

 

ちなみに最大のトラップは対象を閉じ込めてシュールストレミングスを爆発させるというものである。

 

爆発するのは二十年物。三十年物というあっちゃいけない物まで用意してある。それを何処で調達したかは秘密だ。

 

千早の資金源が宝くじであるのと同様の秘密。

 

「……う、うむ」

 

十香がごくりと唾を飲み込む。

 

「……?」

 

四糸乃は『よしのん』と一緒に首を傾げる。

 

「……ふむ」

 

令音は千早のことを何を話すのか聞き逃さないようにじっと見ていた。

 

「ざっくばらんに言うとボクは精霊の幽霊」

 

「本当にざっくばらんだな!」

 

「いや、だから最初にそう言ったじゃん」

 

やれやれと肩をすくめる千早。

 

そして、仕方がないなあと千早は首を左右に振る。

 

「もっと細かく言うと……十年ぐらい前に方向性の違いでちょっと本気の殺し合いをしたんだよ」

 

「言い方軽ッ! 何だよそのバンドの解散理由みたいな理由わ!?」

 

「や、だって事実だし」

 

千早が霊装と天使を全壊に近い状態にまで壊しすことになった戦いである。

 

「……それで相手はどうなったのだ?」

 

「倒したよ。そして、ボクは幽霊になったけどね」

 

あっけらかんとした様子で千早はそう答えた。

 

「……そうか」

 

と令音がかけている眼鏡の位置を直す。

 

「あとは……追々話すことにするよ」

 

「むぅ……これ以上は話してくれないのか?」

 

「今はね」

 

千早はそう言うと霊体化する。

 

そして、画用紙に文字を書き出した。

 

『実体化を維持してると色とりどりに変わっていく自分が気持ち悪からしばらく霊体化してるね』

 

書き終わると千早はペンを元に会った位置に戻して、画用紙はテーブルの上に置いたのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「な……なんじゃこりゃぁぁぁぁッ!」

 

四糸乃の力を封印した日から、二日。

 

五河家の隣に、マンションのような建物が聳えていたのである。

 

二日前までは空き地だったスペースに、ドン、と。

 

「気がつかなかったの? 昨日の深夜から作られてたのに?」

 

と、士道の後方から千早が言ってきた。

 

「……マジかよ」

 

「マジだよ。これは一応、精霊用の特設住宅だから、見た目は普通のマンションでも、物理的強度は通常の数百倍、顕現装置(リアライザ)も働いてるから、霊力耐性もバッチリらしいよ。そのお陰で多少暴れても、外に異常は漏れないってさ」

 

「……そうか」

 

士道は千早からこのマンションについて語られていくうちにだんだんと遠い目になっていった。

 

「つまり……天使を顕現しても少しの間ならもつんじゃないかな。まあ、ボクがやったら一撃で破壊する自信があるけど」

 

「絶対にするなよ! 絶対だからな!」

 

「しないよ。十香ちゃんや四糸乃ちゃんのために作られた家なんだからさ」

 

士道の隣に千早がやって来る。

 

「まるでそれ以外だったら壊すって言っていように聞こえるのは俺の気のせいか?」

 

「気のせいってことにしていればいいと思うよ」

 

不安しか残さないような返事に士道は本格的に心配になってきたが……深く考えないことにした。

 

千早の面白がっている表情を見たからである。

 

これは自分の反応を見て、楽しんでいる顔だったからだ。

 

「後、十香ちゃんは明日にはあっちに引っ越すから……間違い……いや、子作りをするなら今日か明日がチャンスだよ!」

 

ぐっと親指を立てる千早。

 

「な……何言ってやがる……!」

 

「期待しないで待ってるよ……孫の顔を」

 

士道が顔を赤くして怒鳴ると、千早はからからと笑いながら家の中に戻っていった。

 

「……てか、おまえは俺の父親かよ! 何だよ孫って」

 

そう士道がつっこみをいれるもすでに千早は家の中に戻っていった後であったのでその声は聞こえていなかった。

 

「…………てかもう、家に戻ってるのかよ」

 

その事に気がつくと士道は、やり場のない気持ちを吐き出すように大きく溜め息を吐いてから家に足を向けた。

 

と―――

 

「ん……?」

 

士道は不意に眉を上げた。

 

可愛らしいワンピースを纏い、頭に顔を覆い隠すようなキャスケットを被った少女が、飛び跳ねるように走ってきたからだ。

 

「! 四糸乃!?」

 

士道は少女の名を呼んだ。身に纏っているのは霊装ではなかったが―――間違いない。

 

何しろ、少女は左手に、ウサギのパペットを着けていたのだから。

 

さらに、キャスケットにはウサギのパペット『よしのん』が刺繍されているのだから間違えるはずがなかった。

 

千早お手製のものである。

 

もて余す時間を使って研鑽を積んだ千早渾身の逸品であった。

 

ちなみに十香には鏖殺公(サンダルフォン)の刺繍がしてあるキャスケットが千早から渡されている。

 

『やっはー、士道くん』

 

パペットが口をパクパクと動かしながら、甲高い声を響かせてくる。

 

『うんとさー、千早くん知らない?』

 

「ん? 千早なら家の中にいるから呼んでこようか?」

 

『お願いするよ。ありがとねー』

 

「ああ、ちょっと待っててくれ」

 

士道はそう言うと家の中に入る。

 

「千早ー! 四糸乃が呼んでるぞ」

 

「およ? 何かあったのかな?」

 

士道に呼ばれた千早が首を傾げながら玄関へと歩いてくる。

 

そして、入れ替わるように士道が靴を脱いで家の中に上がる。

 

「さあ? 俺は千早がいるか聞かれただけだしな」

 

肩をすくめる士道に千早は、うーん、と首を傾げつつも外へ出るのだった。

 




最近サブタイトルは付けた方が良いのか悩んでます。
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