デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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28話

「や、お久しぶり」

 

『やっはー、お久しぶりー』

 

「何か呼ばれてるようだから来たけど……何か問題でもあったの?」

 

『ぅんや……この前は千早くんにお礼を言えなかったからさ、ちゃんとお礼を言っておこうと思ってねー』

「それなら気にしなくてもよかったのに」

 

千早はそう答えながら周りをキョロキョロと見回す。

 

その行動に疑問を持ったのか『よしのん』が訪ねてくる。

 

『どうしたの?』

 

「ううん……ちょっと確かめることがあってさ」

 

千早は顔を四糸乃の方に戻す。

 

「それで……検査は終わったの? ボクのせいで予定よりも長くなってると思ってたんだけど」

 

『んー、一応……第一検査だけはね。まだあるらしいけど、千早くんにお礼を言いたくてさ。特別に少しだけ外に出してもらったんだー』

 

言って、〈フラクシナス〉を見るように、『よしのん』が空を仰ぐ。

 

『あ、それとさー、『計画の実行はいつでも』って言ってくれってオクトーバーが言ってたって言えばすぐにわかるって教えてもらったんだけど』

 

「お! そうなんだ。意外と早かったな……教えてくれてありがとね」

 

なら、後は都合のいい日を待つだけ、と千早は内心で考える。

 

『ふふ、うんじゃ、まーたね』

 

『よしのん』が小さな手を振る。

 

と、四糸乃がピクリと肩を揺らすと、躊躇いがちに顔を千早の方に向けてきた。

 

「どうしたの?」

 

「―――あ、の……」

 

「ゆっくりでいいよ」

 

千早は四糸乃を安心させるように少し屈んで微笑む。

 

「また……おうちに、遊びに行っても……いい、ですか……?」

 

言って、恐る恐るといった様子で千早の方に視線を送ってくる。

 

「うん。いつでもおいで」

 

千早がそう言うと四糸乃は顔を明るくしてから頭を下げ、パタパタと走っていった。

 

『ふふっ、偉い偉い。頑張ったねー』

 

「……うんっ」

 

なんて会話を『よしのん』としながら。

 

「……元気そうで何より」

 

千早は小さくうなずくと、唇の端に笑みを浮かべた。

 

これからやることを思い浮かべて。

 

「さて……そんなに長くはいられないだろうけど、やれることはなるべくやっておかなくちゃ」

 

短い時間、空を見上げてから家の中に入る。

 

オクトーバーから準備が完了したとの連絡があった計画を実行するのをいつにするのか決めるために。

 

 

◇◇◇◇

 

 

計画を実行できないまま、時が経ち……もう少しで五月から六月へと変わりそうになっていた。

 

「悪いね。中々計画を実行できなくて」

 

「構いませんよ。デリケートなことですし」

 

〈フラクシナス〉の一角で一人の少年と青年が資料に目を通しながら話していた。

 

少年の方は千早。もう一人は、オクトーバーこと神無月恭平である。

 

「資料を見る限り……もうそろそろ次の段階にステップアップしてもよさそうだね」

 

「ええ……例の計画の方もとりわけ穏やかな雰囲気の人員を集めているので問題はないでしょう」

 

千早と神無月の目を通している資料には現在の四糸乃のことが記載されている。

 

精神状態から性格まで。

 

「人見知りや恥ずかしがり屋な面は少しでも解消しないと今後人間社会で生きていくのは大変だからね」

 

「無理な矯正はストレスを溜めることにしからないので、少なくとも彼女が普通に話せるぐらいになればいいでしょう」

 

「そこら辺が妥当だよね。少なからず話せれば恥ずかしがり屋だってわかってくれるだろうし、話せれば人見知りも少しはよくなると思うよ」

 

四糸乃について記載された資料を机の上に置くと次は十香について記載された資料を手に持つ。

 

「十香―――彼女についてはこれといった問題はそうそう起こりえないでしょう」

 

「だね。少なくとも性格的に大きな問題はないから後は人間社会で暮らせるようにサポートすればなんとかなるしね」

 

「ええ、楽なものです」

 

「本当……手のかからない子で安心だよ。……少し寂しいけどね」

 

そう言って小さく笑う千早。

 

「そんなものですよ。でも、まだまだ抜けている部分があるので油断はできませんけどね」

 

「そうだったね。十香ちゃんって案外天然だしね……」

 

十香の珍回答を思い出して千早は頬を綻ばせる。

 

「ええ……」

 

神無月がうなずく。

 

十香について記載された資料に書かれている注意事項はなるべく士道の近くにいられるようにすることだ。

 

それ以外は記載されていない。

 

基本的に士道が傍にいれば十香の精神は安定する。

 

故に十香に対する対応は士道の傍にいられるようにすることが優先されるのだ。

 

「……確認されている精霊は〈イフリート〉、〈ウィッチ〉、〈ディーヴァ〉、〈ハーミット〉、〈ナイトメア〉、〈プリンセス〉、〈ベルセルク〉そして……〈デモン〉と識別名を付けられたボクか」

 

「……いつの間にそこまで調べたんですか?」

 

そう問うってくる神無月に千早は淡々と答えた。

 

「んー……普通に調べただけだよ」

 

「なら、知り合いの精霊はいましたか?」

 

「いたよ」

 

「誰です?」

 

興味深そうに千早に聞いてくる神無月。

 

「識別名〈ナイトメア〉……彼女は一時期ボクと一緒に行動してたからね」

 

千早はその当時のことを思い出すように虚空を見つめていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

約十六年前。

 

―――某所。

 

「はぁ……何でこの子のお守りなんてしなくちゃいけないんですの?」

 

腕に抱いた赤子をあやしながら不満そうな顔で抗議してくるつい先日()()となった彼女に千早はニヤリと唇を歪める。

 

「何事も経験だよ……()()ちゃ()()

 

「こんな経験をしても今後役立つとは思えないのですけど……」

 

「案外馬鹿にならないものだよ? 何処で役立つかわからないんだからさ」

 

「そう言われましても……」

 

困り顔で赤子をあやす狂三。

 

そんな狂三を千早はニヤニヤと人の悪い顔をしながら見ている。

 

「ふふ……ボクたちにこうやって小さな命とふれあう機会は早々ないから、結構貴重なんだよ」

 

「んー……力加減を間違えて潰してしまわないか怖いんですけど」

 

腕に抱いている赤子のことを見ながら狂三がぼやく。

 

その様子は本当におっかなびっくりであり、腕に抱いている赤子のことを案じていた。

 

「『―――』なら、ボクが潰れないように守ってるから大丈夫だよ」

 

狂三の腕に抱かれている『―――』は寝息を立てている。

 

『―――』は産まれてからまだ半年ほどしか経っていない子なのだ。

 

「何で急にこんなことを?」

 

「そうだね……本当だったらもっと時間をかけて色々教えたかったんだけどさ」

 

千早は外に視線を向けると自嘲気味に言った。

 

「あまり……時間がなさそうなんだよね」

 

「……そうですか」

 

「うん」

 

それから半月ほどベビーシッターの真似事をして千早と狂三は別れた。

 

千早はその数日後『―――』の元から去っていったのだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「―――思えば……ずいぶんと時が経ってたなあ」

 

千早が幽霊として活動をしだしたのが士道にとり憑く数年前なので、空白の期間が存在する。

 

「……時がですか?」

 

「うん……ボクも幽霊になった後すぐに動けたわけじゃないからね」

 

「……ほう」

 

本当に大変だったなあ、としみじみ思う。

 

千早にとって完全に予想外のことだったのだから。

 

「……じゃ、ボクは帰るよ」

 

「会っていかないんですか?」

 

その言葉に千早は首を横に振る。

 

「いいよ。別の日に会いに来るからさ。それに……今はボクよりも他の人とある程度話せるようにした方がいいからね」

 

そうしないと彼女のためにならないから、と言って千早は、霊体化して〈フラクシナス〉から地上へと戻っていった。

 

「……ふう、司令に伝えることができましたね」

 

神無月は眼鏡を人指し指でクイッと持ち上げると〈フラクシナス〉の艦橋に向かって移動を開始した。

 

千早が〈ナイトメア〉と既知であるという事実を伝えるために。

 

本当は既知ではなく義兄弟なのだが……その事を神無月が知るよしもなかった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「よっと……」

 

地上に戻ってきた千早は辺りに人がいないのを確認すると実体化した。

 

そして、家に帰る道すがら千早は自身のことについて考える。

 

「……どうするかな」

 

そう声に出して、千早は少しばかり空を見上げる。

 

その視線は先程までいた〈フラクシナス〉を見つめているように感じられた。

 

千早は現在……全盛期の力の三割近くの力を取り戻している。

 

日に日に回復していく分もあるので特に力を使うような事態が起こらなければ徐々に回復していくであろう。

 

どれくらいの期間で完全回復するかは不明であるが……。

 

それでも士道が新しく精霊の力を封印すれば一気に千早の力も回復する。

 

そして……完全に回復すると―――

 

「―――そうなったら……お別れかな」

 

完全に回復したならばもう、千早が士道にとり憑いている意味もないのだから。

 

そして、目的を果たすのみ。

 

「……まあ、できる限り残せるものは残せるようにしておかないと」

 

千早は自分がいなくなった後のことを考える。

 

精霊たちがある程度自立して生活をできるように。

 

「……泥を被ることも考慮しておかないと駄目かな」

 

もし……自分以外の精霊を滅ぼしえるモノが存在したならば、それは確実に滅ぼさなければならない。

 

数少ない同胞の安全のために。

 

そのためなら……喜んで手を汚そう。

 

すでに幾多の怒り、嘆き、悔やみ、憎しみ、絶望を受け入れているのだから。

 

今さら……それらが増えたところで意味はない。

 

すでに、手遅れなのだ。

 

「……いや、考える必要はないか」

 

だって、そうだろうと千早は続ける。

 

ここにはいない誰かに話しかけるように。

 

「他の精霊にやらせてトラウマを作るよりも……ボクが全てを終わらせればいい。そうすれば万々歳だ」

 

そう言った瞬間の千早の目には剣呑な光が宿っていたがすぐに霧散する。

 

「今日の夕飯は何にしようかな? 味覚も感じられるようになったことだし……麻婆豆腐でも食べようかな」

 

思考をがらりと今日の夕食のことに変える千早であった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

―――某所。

 

山林の奥深くに、雑草が生い茂り、廃墟となっている小さな家があった。

 

窓は汚れ、家の戸は外れている。

 

その家の中には一つだけポツンと金属製の箱が鎮座していた。

 

そして、箱の脇には写真立てが一つある。

 

その写真立ての中に入っている写真には赤子を抱き抱えている千早の姿が写っていた。

 

写真の端には、写真に写っている赤子の名前が記されている。

 

―――『士道』と。

 

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