デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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狂三キラー
29話


「わたくし、精霊ですのよ」

 

六月五日、月曜日。

 

黒板の前に立った転校生の言葉に、来禅高校二年四組の教室はシンと静まりかえった。

 

ちょうどその頃……千早はというと―――

 

『―――それが貴様の罪! 貴女の業! 』

 

仮面で素顔を隠した人物が狂人染みた笑みを浮かべながら、恰幅のよい中年の男性とその妻に拳銃を突きつける。

 

と、コーヒーを飲みながら千早はドラマを見ていた。

 

「……フハハハ!! 己が作り出した闇に喰われて死ぬがいいっ!!」

 

二回ほど銃声が響き、恰幅のよい中年の男性とその妻が床に倒れる。

 

それから、場面が変わり、屋敷の外に仮面で素顔を隠した人物が出てくると同時に、屋敷に火の手が上がった。

 

「はは、ははははははははははっ!」

 

そんな高笑いでドラマが終わった。

 

『この番組は超強力消臭剤『ラフレシア』でお馴染みの、バビロニア製薬の提供でお送りいたしました』

 

バビロニア製薬。それは、千年以上続く貴族の家柄を持つ男性が起業した会社である。

 

「いや~……味覚があるっていいねー」

 

千早はテレビとは全く関係のないことをぼやいた。

 

リモコンを操作してテレビのスイッチを落とすと、千早は軽く伸びをしながら洗面所へ向かう。

 

そして、今日も日課となっている家事をこなしていくのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ん~……タイミングが悪いなぁ」

 

洗濯物を干している途中に五河家の固定電話がなった。

 

千早は軽く溜め息を吐きつつ、電話の受話器をとる。

 

「もしもし?」

 

『千早……ちょっと聞きたいことがあるんだけど』

 

電話の相手は琴里だった。

 

「どうしたの? 何か忘れ物でもしたの?」

 

こんな時間から電話がかかってきたので千早はそう思っていた。

 

だが、琴里から聞かされた言葉に声を詰まらせることになる。

 

『時崎 狂三って知ってる? 何でも今日、士道の通う学校に転校してきたのよ。自己紹介時に自分のことを精霊と言ってね』

 

「…………」

 

『どうなの?』

 

「確かに……狂三って名乗ったんだね」

 

千早は確かめるように聞き返す。

 

『ええ、そうよ』

 

返ってきた言葉は肯定であった。

 

ハァ……と内心で思いっきり溜め息が出る。

 

千早としては自分が知っている人間社会で使える裏技をできる限り教えていたので、それを使われることに何の戸惑いもないが……まさか、高校に入ってくるために使うとは予想外だった。

 

「ボクの知ってる狂三ちゃんであってるのなら……確実に精霊だよ」

 

識別名〈ナイトメア〉―――千早が現在確認されている精霊のデータを〈フラクシナス〉で閲覧した時に少なくはあったが精霊の画像が載っていたので、それで確めたから間違いない。

 

時崎狂三が千早の知っている狂三なのならばではあるが。

 

その時の情報が確かであるならば……千早の知っている時の狂三とは性格が変わっているのは確実だ。

 

一万人以上の死者を出しているのはこの前初めて知ったが、その理由についてはある程度予想がつくため千早は気にしていないが……問題は約十六年の歳月。

 

人だろうが精霊だろうが精神的に大きなショックを受けると性格に影響が出るのは変わらない。

 

それに……今さら一万人以上の死者を出しているといっても千早は初めて現界した時には一億を越える人を殺している。

 

『なら、どんな力を持っているかわかる?』

 

「ある程度はね……お互いに手の内は言ったからね、大まかにだけど……」

 

まさか……高校に転校生として入学するとは思っていなかった。

 

完全に予想外だった。千早には出来ないことだ。背丈の問題でよくて中学生が限界なのである。

 

『具体的には?』

 

「そうだね……時間に関する能力だね。だから、監視するにしても近づかないことをオススメするよ」

 

忠告はした。後はそれに従うかは琴里が決めるだろう。

 

千早は何か急に精霊との遭遇率が上がったなぁとしみじみと思っていた。

 

十香が現れてからほぼ月に一回のペースで遭遇している。

 

『そう……時間に関する能力……厄介ね』

 

「まあ、士道の近くには十香ちゃんもいるし多少のことならなんとかなると思うけど……」

 

『そうね……十香がいるなら多少のことなら心配ないわね』

 

最悪……ASTをおとりして士道の身の安全を確保するつもりだ。

 

それで駄目だった千早自身が戦うつもりである。

 

これが初の義兄妹ゲンカになる可能性があるのかと思うと千早の気分は重くなる。再会する前に争いになる可能性を考えるはめになったのだから。

 

士道と義妹(狂三)どっちかを天秤にかけて選ばなくてはならないといけないことになる。

 

「はぁ……」

 

『どうしたの?』

 

「ん? なんてもないよ。また、何かあったら教えて」

 

『ええ、その時はまた連絡するわ』

 

そう言って電話が切られる。

 

と、千早は受話器を元の位置に戻すと同時にポルターガイストで冷蔵庫の中から直径二十センチのボウルを取り出すと、スプーンを持ち出して、その中身のゼリーを食べ始めた。

 

いわゆるやけ食いである。

 

誰が好んで義妹(狂三)が士道を傷つけることを考えなくちゃいけないのだ。

 

可能性は零ではないが……考えたくないものでり、千早の望んでいないことでもある。

 

できれば仲良くしてほしいが……それも、あまり期待できない。

 

昔一緒に面倒を見た子を襲ってほしくないのだが。

 

千早は「ままならないな」と呟きながらボウルの中身のゼリーを頬張った。。

 

 

◇◇◇◇

 

 

下校時刻。

 

士道は識別名〈ナイトメア〉時崎狂三に学校の案内をしていた。

 

それを、天宮市上空一万五千メートルの位置から秘匿組織〈ラタトスク〉の有する空中艦〈フラクシナス〉が監視している。

 

不定期的に現界し、そのたびに世界を壊していく危険生命体『精霊』。

 

それをデレさせて無力化をするという、何とも滑稽な、しかし困難な任務を帯びた機関員たちは、今まさに作戦行動中であった。

 

〈フラクシナス〉中心部に位置する艦橋には、司令官たる琴里を含め三十名の機関員が揃っている。皆各々の持ち場に就き、慣れた手つきでコンソールを操作していた。

 

そこには千早の姿もある。

 

〈フラクシナス〉いる誰よりも識別名〈ナイトメア〉時崎狂三のことを知っているから招聘されたのだ。

 

「好感度、五十・五。変化してません」

 

「精神状態、オールグリーン、安定してます」

 

「霊波百五十・0。前時間との誤差マイナス三・四。許容範囲です」

 

「―――ふむ。とりあえずは良好か」

 

〈フラクシナス〉艦橋の中心に位置する艦長席にふんぞり反った琴里は、チェリー味のチュッパチャプスを口の中で転がしながらそう言った。

 

「とりあえず、琴里ちゃんもものを口に入れながら喋るのは止めようね」

 

行儀が悪いと千早が琴里の頭にメモ帳を叩きつける。

 

「あたっ……」

 

叩かれたところを片手で押さえながら琴里が千早を抗議の目で睨む。

 

「はいはい。睨んだところで何も変わらないからね」

 

それを軽く受け流す千早。

 

厳つい強面でもない琴里が睨もうにも迫力がない。

 

「ボクはこれから夕食の準備をしなくちゃいけないだから帰るよ」

 

霊体化して一気に地上まで戻ろうとする千早に琴里が待ったをかけた。

 

「おかずは何?」

 

「ハンバーグとマッシュポテト」

 

「デラックスキッズプレート風で頼むわ」

 

「デザートは?」

 

「ゼリーで」

 

「了解」

 

そう返事を返すと同時に千早は霊体化して〈フラクシナス〉からいなくなった。

 

『量もあるから急ピッチで作らなくちゃな』

 

急速に士道の十メートル圏内に引っ張られていくさなかそう呟く。

 

特に買い物などをしない時など帰りがあっという間なので時間の短縮になるなと千早は便利機能のように思っていた。

 

その機能もこういうときにしか役に立たないのであるが。

 

まあ、離れた場所からすぐに駆けつけられるので千早は特に不満はなかった。

 

地上に着くと辺りに誰もいないのを確かめてから千早は実体化する。

 

そして、士道のいる、来禅高校の方に一旦視線を向けると呟く。

 

「……狂三ちゃんは気がついているのかな? 士道にボクがとり憑いていることを」

 

それに―――士道があの時の赤子の成長した子だってことを。

 

気がついているなら士道に危害を加えるような真似はしてほしくないが、あの時からすでに十六年は経過している。

 

その年月故に狂三の性格が変わっていて、士道のことを襲うのに戸惑いすらないのではないかという心配が千早の胸を駆け巡るのだ。

 

一応〈フラクシナス〉から琴里らが監視をしているが、心配なものは心配なのだ。もしものことを考えると余計に。

 

「考えれば考えるほど気が滅入るからヤメヤメ」

 

頭を左右に降って、今までの考えを吹き飛ばす。

 

悪く考えるから悪い方に思考が誘導されていくのだ。だったらいい方に考えればいい。

 

千早は無理矢理にでもいい方に考えようと思考を切り替える。

 

が、その場面が全く思い浮かばないのは何故だろうか?

 

「……どうにも一波乱ありそうなんだよね」

 

悪い予感がぷんぷんと匂ってくる。

 

千早としてはその予感は外れてほしいが、それは無理だろうと半場諦めていた。

 

少なくとも……何かしらの目的があって士道に近づいたのだろうから。

 

多分……自分のことは知られていないと千早は思っているがそれもすぐに知られるだろう。

 

明日、釘を刺しに行くのもいいかもしれない。

 

霊体化して士道に憑いていき、学校が終わったら実体化して、狂三に話しかければいいと考えると千早は来禅高校の方に向けていた視線を元に戻すと家に向かって歩きだした。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ただいま」

 

家に帰ってきて夕食の準備を初めて、しばらくすると士道が家に帰ってきた。

 

「おかえり」

 

「ああ、ただいま」

 

「今日の夕食も十香ちゃんは来るのかな?」

 

キッチンで複数の作業を同時進行しながら千早はそんなことを士道に聞いた。

 

毎日と言っていいほどの割合で来るのだから本来なら聞く必要のないことなのだが、一応聞いておくものだろう。

 

「来るぞ。あと、精霊が転校してきたんだけど……名前は時崎狂三って言う」

 

「うん。知ってるよ。琴里ちゃんから連絡があったからね」

 

「どうやって戸籍を作ったのか気になるだが……精霊って不定期に現界するだろ? なのにどうやって」

 

「あるちゃっあるよ。例えば戸籍とかを管理している人と仲良くなるか、自分でやるかの二択だけどね」

 

それ以外に精霊が戸籍を作る方法はない。

 

ちなみに千早は前者であった。

 

「……自分でやるって犯罪じゃね」

 

「まあ、後者のはそれなりに長い期間現界していた精霊じゃないと無理だろうけどね」

 

「だよな」

 

「うん。きっと戸籍のことなんて考えつかないだろうし」

 

そもそも戸籍なんてなくっても困らないだろうし。

 

隣界に消失するからね、と千早は言う。

 

「そうだよな。じゃあ、狂三って結構昔からいる精霊なのか?」

 

「そうだよ。少なくとも士道の年齢と同じくらいはあるからね」

 

「……は?」

 

「ま、とっとと着替えておいでよ」

 

さあ、いったいったと千早は士道を士道の部屋へと押していく。ポルターガイストで……。

 

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