デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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30話

夕食の時間になると五河家のリビングが賑やかになる。

 

琴里に士道に千早に十香に……そして、四糸乃が加わり、五人での夕食になるのだから。

 

四糸乃の精霊の力が封印されてから数日たった時から度々見られるようになった光景。

 

それも、終わり。

 

今は各々がリビングでテレビを見ながらくつろいでいる。

 

そんな中、唐突に千早が手をパンパンと叩いた。

 

「どうしたんだ?」

 

千早の傍でお茶を飲んでいた士道が千早に視線だけを向ける。

 

「士道は知らないことだろうし、琴里ちゃんも十香ちゃんも四糸乃ちゃんも知っているかわからないことがあるから、今のうちに話しておこうと思ってね」

 

「ん? 何だそれは」

 

「……なん、ですか……?」

 

十香と四糸乃が千早の方に顔を向けると首を傾げる。

 

「精霊ってさ……大きく分けると二種類いるんだよ」

 

「二種類?」

 

「そうなのか?」

 

「そう、なんですか……?」

 

『へー、そうなんだ』

 

「…………」

 

各々の反応を見ながら千早は続きを話す。

 

「そうなんだよ。覚えといて損はないよ。一つはボクたちのような精霊なんだけど、もう一つは反転精霊っていうだよ」

 

「反転……精霊? それは普通の精霊と何が違うんだ? 」

 

士道は当然の如く聞き返し、琴里は黙って千早の話を聞き逃さないように注意を傾け、十香と四糸乃も知らないのか千早が続きを話すのを待っている。

 

「基本的に大きな違いはないけど……ただ単純に普通の精霊よりも危険なんだよ」

 

「危険……ね」

 

「そう、危険。コンタクトをとることすら自殺……いや、どっちかというと殺されに行くようなものだからね」

 

『へー、そんな精霊もいるだ。何で千早くんは知ってるのかなぁ?』

 

四糸乃の左手に着けられているコミカルなウサギのパペットである『よしのん』が器用に首を傾げる。

 

「そりゃあ……決まってるじゃないか。ボクが幽霊になる前に方向性の違いで殺しあったのが反転精霊だったんだから」

 

いやー、あの時は大変だったよと千早は懐かしむように笑う。

 

「いやいや! そこは笑うところじゃないだろ!?」

 

「まあ、そこは気にしないで」

 

「まあ……それはわかったから。話の続きを聞かせてくれないかしら」

 

琴里がチュッパチャプスの桃味を口に加えながら言う。

 

その態度はふんぞり返っており、とても偉そうであった。

 

「だね。遭遇することはほぼないはずだけど覚えておいてね。因みに反転精霊っていうのは精霊なら誰もがなり得るものだから」

 

「む……それはどういうことなのだ?」

 

「それはね……個人差があるけど反転精霊は精霊が過度な負の感情によってなるものなんだよ。だから、精霊なら誰もがなり得る可能性がある」

 

「何で、そんなことを千早が知ってるのよ」

 

琴里の言うことことはもっともである。何故、そんなことを千早が知っているのか、その疑問の答えはすぐに千早自身の口から語られた。

 

「知ってるも何も反転精霊は霊装や天使すらも変える上に性格まで変えるし……知っている理由は単純に知る機会があったからだしね。まあ、普通に生活をしていたら本当に滅多なことでは反転しないから心配しなくてもいいよ」

 

「それじゃ……ASTがやっている行為って」

 

「まさしく、自分で自分の首を絞めているのと一緒だよ。倒せるはずがないのにわざわざ人類の敵にしようとしてるんだから」

 

本当に馬鹿だよねと千早は言う。

 

それっきり、リビングは沈黙に包まれる。

 

各々が思考に耽り、会話が途切れたからだ。

 

「……なあ、千早。反転精霊ってどうやって見分けるのだ?」

 

「ああ……そういえば言ってなかったね。簡単だよ、顔もしくは雰囲気でわかるから」

 

「……それだけなのかよ」

 

「そうだよ。士道だってさ雰囲気的に落ち込んでいる人とかわかるでしょ。それと同じだよ」

 

一目見ただけでわかるぐらいに雰囲気が変わる。

 

実際に目にしている千早はともかくそれ以外の面子にはいまいちなようで、わかったようなわかってないような曖昧な感じてあった。

 

だが、千早としてはそれで十分であった。反転精霊に対する注意ができたのだから。

 

あらかじめ知識として少しでも知っていれば警戒してむやみに近づくことはしないだろうと。

 

『んまー、その話は置いといてさ。千早くん、明日は暇かな?』

 

『よしのん』がずいっと千早の顔の前に出てくる。

 

「うーん……三時ぐらいまでなら大丈夫かな」

 

ちらりと千早は士道の方に一瞬だけ視線を向けるとそう返事をした。

 

元々、明日は狂三の様子を見るために時間を空けていたので暇かと聞かれると実際には暇だったのだ。

 

学校の中では士道の近くに十香と千早は認めたくないが折紙の姿があるので少しは安全だろうと思っている。

 

まあ、いざとなったら折紙を餌にして逃げてくれればいいとすら千早は思っていた。

 

『だったらさー、よしのんと四糸乃と一緒に出かけない?』

 

「いいよ」

 

千早は即答した。それも、『よしのん』が言い終わるのと同時にだ。

 

「朝は食べてく?」

 

『う~ん……四糸乃どうする?』

 

『よしのん』が四糸乃の方に顔だけ向ける。

 

「……食べます」

 

「うん。なら気合いをいれなくちゃね」

 

千早がそう言った瞬間に十香の耳がピクリと反応した。

 

「なら、明日の昼用にきな粉パンを所望する」

 

「いいよ」

 

これもまた即答だった。

 

「なんと……!」

 

まさか受け入れられるとは思ってもいなかったのだろうか十香は驚くも、すぐに喜びに満ちた表情を浮かべた。

 

「だったら俺も。明日はサンドイッチで」

 

「同じパン類だし構わないよ」

 

これもまた即答であった。

 

「じゃあ、私もおにーちゃんと一緒のサンドイッチで!」

 

いつの間にか琴里のリボンは白色のに戻っていた。

 

「了解。琴里ちゃんのはフルーツミックスにしてあげる」

 

フルーツ類は何があったかなぁ~、と千早は冷蔵庫の扉をポルターガイストで開けると冷蔵庫の中身を物色しだす。

 

この光景にも慣れたのか誰もつっこみをいれない。

 

そのことを千早は若干悲しみつつもいちいち答える必要がないから別にいいかとも思っていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

翌朝。

 

五河家のリビングからはパンの焼ける匂いが漂っていた。

 

リビングにあるテーブルの上には、『よしのん』の形をした、よしのんパンが複数用意され、それ以外にもグラタン入りのパンやシンプルにチーズと野菜しか乗っていないピザが存在していた。

 

明らかに朝から食べるようなものではなかったが、誰もそのことを注意する人がいなかったのも拍車をかけた原因の一つだ。

 

キッチンからは油の跳ねる音が鳴り、ドーナッツや揚げパンが続々と量産されていた。

 

千早は揚げパンから余分な油を落とすと、きな粉をまぶす。それが終わるとタッパーに詰める。

 

ドーナッツには溶かしたチョコレートをかけたり、シナモンをふったり、シンプルにそのままだったりと複数の種類を用意していた。

 

「サンドイッチは士道たちが出かける少し前に作り終えればいいから後にして」

 

機嫌良さそうにテレビのCMで流れる歌を口ずさみながら千早はテンポよく動き続けている。

 

しかも、ポルターガイストで宙に浮いている食器類もカチャカチャと音を立てていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

―――隣界。

 

()()は殻の中で自らの目覚めを待っている。

 

閉じ込められた殻の中でひたすらに。

 

怒り、憎しみ、嘆き、悔やみ、怨み、それらを糧にしながら。

 

喋ることもなく、動くこともなく……ただ目覚めの時を待ち続ける。

 

負の感情を糧にして成長をし続ける。殻を破り、誕生するために。

 

()()は眠り続けていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

『おー! 今日はいつになく豪勢だね! 』

 

五河家のリビングを見るなり『よしのん』が甲高い声でそうコメントをした。

 

「いやー、つい気合いが入っちゃって……味覚が戻ったら前よりも上手くできてさ」

 

「……これって食品は大丈夫なのか?」

 

からからと笑っていた千早に士道がそう問いかける。

 

「問題ない!」

 

力強い言い切る千早。

 

そして、千早は懐から一枚のチケットの様なものを取り出す。

 

「何なのだそれは?」

 

十香がいち早く千早の取り出したチケットに気がついた。

 

「ふっふっふ……これはね。宝くじの三等賞のチケットなんだよ」

 

千早の手に持っている宝くじの三等賞のチケットは一等賞だと十万円というものであり、三等賞は五分の一の二万円が貰えるのだ。

 

「宝、くじ……ですか?」

 

「うん、そうだよ。ボクの資金源は宝くじだからね」

 

後で換金しなくちゃと呟きながら千早は懐にチケットを戻す。

 

「資金源って……宝くじってそんなに当たるものなのか?」

 

士道の疑問はもっともだろう。普通に考えて宝くじを資金源と言えるほど当たる確率は低い。

 

「ボクだからこそって感じだからね。年末とかに機械を使わないでルーレットを使ってやってる宝くじなら、その会場にいければ普段から使ってるポルターガイストでどうにでも出来るしね」

 

「うっわぁ……ズルいわね」

 

琴里が引き気味に言う。

 

「……まっ、さすがにそれはやる必要がないからやらないけどね」

 

「それって……やる必要があったらやるってことよね」

 

「嫌だなー、勿論……やるに決まってるじゃない」

 

グッと親指を立てて宣言する千早。

 

士道はすでに千早だから仕方がないと諦めており、黙々と朝食を食べていた。

 

『さっすが千早くん。ぶれないねー』

 

「でしょ」

 

「でも、やり過ぎ、は駄目です」

 

「大丈夫だよ。ほどほどにしてるから」

 

場所は色々変えてるしね、とぼそりと誰にも聞こえないように言いながら千早はなにくわぬ顔でパンを咀嚼する。

 

実際には本気でやったら目をつけられるから本気でやれないだけなのだが、誰もそんなことを知るよしもなかった。

 

「お弁当の方はすでに作り終わってるから各自で持っていってね。仮に間違えて持っていってもボクの責任じゃないから」

 

「ああ、さすがにそれは自己責任だろ」

 

「テレビとか見てるとそれまで人のせいにされてるところがあるから一応言っておかないといけないかなと思ってね」

 

「む……私はさすがにそこまで恩知らずではないぞ」

 

心外だと訴えてくる十香に千早は笑いながら「一応だよ。一応」と返している。

 

と、四糸乃が席を立つ。

 

『それじゃ、おめかししてくるから一度、〈フラクシナス〉に戻るね』

 

「了解」

 

『あとあと、おめかしした四糸乃が可愛くてもおいたは駄目だからね』

 

『よしのん』が茶化すようにそう言うと慌てて四糸乃が『よしのん』の口を押さえる。

 

「ご、ごめん……なさい……」

 

ペコペコと頭を下げる四糸乃。

 

「ふふ……気にしなくてもいいよ。期待して待ってるからね」

 

「……はい」

 

小さく返事をすると四糸乃はペコリとお辞儀をしてパタパタとリビングから出ていった。

 

『期待して待ってるってさ……頑張っておめかししなくちゃね』

 

「うん……よしのんも手伝ってね」

 

『もちろんだよ!』

 

そんな会話をしながら四糸乃は五河家を後にするのだった。

 

「さらっとハードルを上げたわね」

 

「だな」

 

と、笑顔で四糸乃のことを見送る千早を見ながら呟いた兄妹がいた。

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