デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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32話

「久しぶりだね」

 

狂三が椅子に腰をかけるなり、千早はそう言った。

 

その声音には懐かしむような響きが大きく含まれている。

 

「ええ……本当に久しぶりですわ」

 

狂三の方も似たようなものであり、四糸乃と『よしのん』は二人の話をただ単に聞いているだけであった。

 

「……それでさ、今日はどうしたの? 学生をやってるのに堂々とサボってさ」

 

「あら? わたくしが学生をしているのを知ってましたの……せっかく驚かせようと思っていたのに残念ですわ」

 

クスクスと笑いながらそう言う狂三。

口では残念と言いながらも全然残念そうではない。

 

「まあね……でも、サボるのは駄目だよ」

 

「ふふ……大丈夫ですわ」

 

「ふーん……ならいいけど。とりあえず、元気そうだね」

 

「ええ、もちろんですわ。義兄さまは……微妙そうですけど」

 

狂三の言う通り、千早の状態は微妙だ。それも、体調ではなく存在としての意味だが。

 

『千早くん体調悪いの?』

 

心配そうに『よしのん』が千早の顔を覗き込む。

 

「……そうなんてすか?」

 

四糸乃はもしかして自分のせいで無理をさせたんじゃないかと心配になっている。

 

「狂三ちゃんが言ったのは体調のことじゃないよ」

 

だから、心配しないでと千早は伝える。

 

そんな二人と一体の様子を意味深げな笑みを浮かべながら狂三は眺めていた。

 

「その……狂三さんと千早さんは、兄妹なんですか?」

 

「そうだよ。義兄妹だけど」

 

「どちらかと言うと義兄さまがそう言っているのでわたくしはそれに便乗しているのですが」

 

『どういうこと?』

 

疑問の声をあげる『よしのん』に千早が苦笑気味に答えた。

 

「ボクは結構昔からと言うか初めて空間震が起こったときに現界した精霊だから、それ以降に現界した精霊はみな妹みたいなもんなんだよ。人間みたいに血の繋がりはなくてもさ」

 

それぞれが個として初めから存在する精霊に血の繋がった存在はいない。

 

いるとしてもそれは特別な場合でしかない。元は一つの存在が二つに別れたなどだ。

 

それに扱う力もそれぞれ違う。

 

霊力は同じだが形を持った奇跡である天使や力を使うのに代償を払う必要性の有無などの違いがある。

 

狂三や千早は代償を払う必要があるタイプである。その分、幾多の能力を持っているが……。

 

「……そんなに前から現界出来ていますのに一向に背が伸びる兆候がないのも考えものですわね」

 

「意外とボクが気にしていることを突いてくるね」

 

若干傷ついたような表情をする千早。

 

自らがエターナルショタであることを認めていても背が低いを指摘されるのは中々心にくるのだ。

 

「わ、私よりも背が高いから大丈夫です!」

 

千早を慰めようとしたのだろう四糸乃の言葉。

 

でも、それだけしかないのだ。

 

琴里や四糸乃のより少ししか背が高くない……つまり、五十歩百歩と言われても否定できない。

 

「……五十歩百歩ですわね」

 

「ぐふっ……」

 

千早の心に鋭く尖った言葉のナイフが突き刺さる。

 

ガタンとテーブルに頭から突っ伏して、千早が轟沈した。

 

「ち、千早さん……っ!?」

 

『千早くーん!?』

 

「あらあら……義兄さま、さっさと復活したらどうなんです? あんまり傷ついてないでしょうに」

 

はぁ~、と溜め息を吐きながら千早が突っ伏していた顔をあげる。

 

その表情は年老いた老人とまではいかないが、疲れているようであった。

 

「……若干は傷ついているんだけど」

 

「まあまあ……そんな些細なことは気にしないでください」

 

両手を合わせてにっこりと微笑みむ狂三に千早は再び溜め息を吐きそうになる。

 

だが、それだと話が進まないので我慢するのであった。

 

「単純に今日は顔見せが目的だったのかな?」

 

「まあ、それもありますわね」

 

『んじゃあ……何しに来たの?』

 

『よしのん』が疑問の声をあげるも、狂三が人差し指を唇の前に持ってくる。

 

「それは……秘密ですわ」

 

小さく首を傾げながらそう宣言する狂三に不安が募る。

 

「まあ、無理に聞いたりはしないよ。無理をすると周りに被害が出そうだしね」

 

「懸命ですわ。それでは……またお会いしましょう」

 

狂三はそう言って席を立つとファミリーレストランから出ていった。

 

その時の動き一つ一つが周囲の男性陣の視線を集めていたのは言うまでもない。

 

 

◇◇◇◇

 

 

『ねえ……千早くん』

 

「何?」

 

ファミリーレストランから出て市内の公園のベンチに座っていると『よしのん』が唐突に話かけてきた。

 

なんだろうと疑問に思いながらも千早は『よしのん』の話に耳を傾ける。

 

『千早くんはさ……義妹と士道くん、どっちの味方なのかな?』

 

「どうして……そんなことを?」

 

『うーん……なんていうのかな、なんか危ない感じがしたんだよね』

 

危ない感じがしたという『よしのん』。千早はそれを否定できない。

 

「そっか……ボクは士道の味方だよ。彼はボクにとっても特別だからね」

 

「……特別ですか?」

 

首を傾げながら聞き返してくる四糸乃にうなずく。

 

「そうだよ。それを言ったら狂三ちゃんにも特別な存在なんだけどね」

 

そう言うと空を見上げる。

 

空を見上げる千早の視界に青空のは所々に浮かぶ雲が映っていた。

 

つられるように四糸乃のも空を見上げる。

 

「……精霊たちにとって特別な存在とは別の意味で特別な存在なんだよね」

 

千早の胸に去来する過去の思いで。

 

それは、今なお鮮明に思い出せる。

 

「あ、あの……わ、私は千早さんのと、特、別ですか?」

 

勇気を振り絞るようにしながら四糸乃が千早のことを下から上目遣いで見つめる。

 

そして、『よしのん』が下手なこと言ったらわかってるよね? と無言の圧力を千早に放つ。

 

「特別だよ」

 

ぎゅっと千早が四糸乃の手を握る。それから目線を四糸乃に合わせる。

 

そして、顔を近づけて額をピッタリとくっつけると小さな声音で話し出す。

 

「だから、四糸乃ちゃんにだけ教えてあげるボクの正体を」

 

「え? 精霊の幽霊じゃないですか?」

 

「それ以外にもあるんだよ。ボクが精霊の幽霊であることには変わらないけどね」

 

穏やかな声音のまま千早は瞳を閉じて、そのまま二、秒

ほど経ってから話を再開した。

 

「ボクは……と言うか"千早"と"精霊"は本来は別物だったんだよ」

 

「どういう……ことですか?」

 

自嘲するように少しばかり千早は微笑む。

 

ここにいない誰かのことを思いながら。

 

「ボクは"千早"は本来は生まれるはずがなかったんだよ。"精霊"の心が壊れなければね」

 

初めて"精霊"が現界したときに"精霊"が受け入れてしまった霊の念に心が壊されてしまわなければ"千早"は生まれなかった。

 

隣界で数年の時間を要して壊れた心と霊の念が融合して千早が生まれたのだ。

 

「ボクの天使〈奪命霊皇(サリエル)〉は他者の魂を集めて使役する。それが本来の能力でその補助的な力に直接的に魂を集めやすいように他者の命を削る力などがあるんだよ。そして―――"精霊"が心を壊した原因となる代償。それは、魂を集めた際にその魂の念を受け入れること」

 

この代償がなければ千早は生まれなかった。

 

その場合は千早ではなく"精霊"として別の名を持っていただろう。

 

「一億人ぐらいの念を一度に受け止めたから許容量を越えちゃったんだよ」

 

運がなかったよねと千早は笑う。

 

「……で、でも、そのおかげで千早さんと会えました」

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの!!」

 

千早は四糸乃のことを両手で抱きしめる。

 

「あ~、もう! そんなことを言ってくれるのは四糸乃ちゃんだけだよ」

 

人目も憚らず四糸乃に頬擦りをする。

 

周りはそんな千早のことを物珍しそうな顔で見ていた。

 

「……っぁ……」

 

周囲の視線に気がついた四糸乃は自身が注目の的であることを恥ずかしく思い、顔を赤く染める。

 

だが、千早はそんな四糸乃の様子に気がつかずに、ありのままの気持ちを行動に表していた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「何を話してたのかわかった?」

 

〈フラクシナス〉の艦橋で千早と四糸乃のデート? を監視していた令音が艦橋下で、同じように監視をしているクルーたちに声をかけた。

 

「いいえ……わかりません。完全に不明です」

 

「そうか」

 

仕方がないと割りきり、令音は別のことに思考を向ける。

 

時崎狂三。またの名を〈ナイトメア〉と呼ばれる精霊。

 

彼女を監視しているモニタに映るのはASTの隊員と思わし気少女と命の取り合いしているところだ。

 

だが、その闘争もすぐに終わる。

 

天使を出す暇もなく狂三が首をはねられたのだから。

 

地面に崩れ落ちる首のない狂三の身体。

 

それを数秒ほど見つめるとASTらしき少女はその場から去っていった。

 

「高校にある霊力の反応は?」

 

「已然変わりありません」

 

「そうか」

 

顎に手を手を添えながら狂三が複数いる原因を考える。

 

先ほど殺された狂三と高校にいる狂三に服装以外の違いがない。

 

そうなると当然、天使の力だと考えられるが狂三の天使の力が分身だけだとは考えられない。それだけならあまりにも弱い。形を持った奇跡にしては非力すぎる。

 

それゆえに令音は狂三の分身は天使の力の一部であると考える。だが、これが力の一部だと真の力はどんなものなのか予想もつかなかった。

 

「千早に聞くしかないか」

 

神無月からの報告で千早が狂三と一緒に行動していた時期があったことを聞いていたのだ。

 

令音は眉間を指でほぐしながら狂三についてわかっていることを頭の中で纏め始めた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「………………はぁ~~」

 

『ねぇ……いつまで四糸乃に抱きついてるつもりなのかなー?』

 

「う~ん……もう少し」

 

ぎゅうぅ~、と人目も憚らず四糸乃を抱き締め続ける千早。

 

その表情はとてもリラックスしていた。

 

もっともその顔を四糸乃が見ることは出来ないが。

 

「あ、あの……そ、そろそろ」

 

「……仕方ないか」

 

残念そうな声を出しながら千早が離れる。

 

その時にはリラックスしていた表情は消えて、普段通りのものに戻っていた。

 

「……もっと時間がある時までお預けかな?」

 

いたずらっ子のような笑みで四糸乃の耳のそばで囁くと千早はすぐに離れる。

 

「え……」

 

「さ……いこうか」

 

四糸乃の手を握り、歩き出す。

 

何かを言いたそうにしている四糸乃に千早はただ微笑むだけで何も言わない。

 

ただ機嫌良さそうなことに変わりはなかった。

 

 

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