デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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33話

時刻は午後三時を過ぎ、千早は五河家に戻ってきていた。

 

四糸乃は隣にあるマンションに帰っており、夕食時には家に来ることになっている。

 

「………………」

 

無言でガサゴソと物を漁る千早。無表情で淡々とやっているので何を目的としているのか分からない。

「……これじゃない」

 

リュックサックを手に持ち、それをすぐにしまう。

 

目的の物を入れるための入れ物を探しているのだが、中々にちょうどいい大きさの物がない。

 

千早は思い出の品を五河家に持ってくるつもりなのだ。

 

そのために入れ物を探している。

 

狂三に会ったことで元々保管していた場所に死蔵しているよりも誰かしら人の目につく場所に保管しておこうと思ったのだ。

 

それに……それを見せながら話した方が自分について理解がしやすいだろうとの思いもある。

 

「……どうせなら思い出は残しておきたいからね」

 

いずれ別れの時が来るのだ。それなら、少しでもみんなの思い出に残るようなことで話の種になるのもかまわない。

 

加速度的に無くなる時間。別れへのカウントダウンは無情にも進んでいく。

 

「……願わくば……きれいに終われることを……」

 

自嘲するような笑みを浮かべながら千早はそう小さく呟いた。

 

その声は空気に溶けるようにして消えていくのであった。その時の千早はいつになく希薄に見える。

 

ただ……その姿を見たものは誰もいなかった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

―――見るはずのない夢。

 

それを見ることは千早に時間が無くなってきていることを報せる。

 

内側に巣食う負と呼ぶしかない思念の塊に溺れる―――()()と呼ぶべき存在。

 

「……い…………早!」

 

耳元を両手で塞ぎ、うずくまっている。

 

「おいっ! 千早!」

 

呼ばれる声に導かれるように千早の意識が浮上する。

 

「……何?」

 

目を開けると千早はそう言う。

 

視界に映るのは自分のことを心配そうに見つめる士道と十香、四糸乃であった。

 

「何? って……さっきから千早の存在が薄くなったり濃くなったりを行き来してたからだろ……何があったんだ?」

 

「……なるほど」

 

士道の言った言葉で千早は自分の身に何が起こっていたのかを理解した。

 

いつの日か来るとは思っていたがまさか今日とは……タイミングが悪い。

 

千早は溜め息を吐きたくなった。

 

「……突然だけどボクはしばらく消えることになるから」

 

「どういうことなのだ?」

 

「うん……ちょっと呼ばれてるんだよ……体に」

 

「……ん? 体ってどういうことだ? 千早って幽霊だよな?」

 

首を傾げる士道の様子から千早は自分が幽霊であることしか伝えていたかったのを思い出す。

 

「誰が死んでるって言ったよ」

 

「いやいやいやいや!! 普通……幽霊って聞いたらすでに死んでるって思うだろ!」

 

そう言う士道に千早は確かにそうだろうけどさと答えつつ、やれやれと首を横に振る。

 

「それで……その、千早さんの状態となんの関係が?」

 

おずおずと四糸乃が小さな声でそう言った。

 

「まあ、ぶっちゃけると体に魂が呼ばれてて、少しの間と言っても体に魂が定着するまで眠らなくちゃいけないだけなんだけどね」

 

千早は明るい声でそう言うが内心はそんなに穏やかではなかった。

 

今は士道が大変なのに傍にいることができないからだ。

 

「ってことは戻ってくるんだよな?」

 

そんな千早の内心に気がつくことなく士道は確かめるように千早に尋ねた。

 

「うん。もちろんだよ」

 

その言葉にホッとした様子を見せる。ただ、四糸乃の方が早かったが……。

 

「どのくらいで戻ってくるのだ?」

 

「さあ? 早いかもしれないし遅いかもしれないし……運次第だね」

 

困ったもんだよ、と肩をすくめる。

 

問題が起こっている最中のことなので余計にそう感じてしまうが千早本人が意図的にコントロール出来ないことなので仕方がなく受け入れているのだ。

 

『じゃあ、お土産はよろしくー』

 

場を和ませようとしたのか『よしのん』がそんなことを言う。

 

「ちょ、ちょっと、よしのん……」

 

四糸乃が慌てて『よしのん』の口を押さえる。

 

そんな光景に思わず頬が緩む。

 

霊力を封じられていなければ見ることは出来なかったであろう光景を見ることが出来ただけで千早は士道に精霊の力を封印することは間違っていなかったと再確認した。

 

それでも一抹の不安は拭えない。

 

士道の身体は精霊の力を全て封印しても大丈夫なのかと……。

 

ただでさえ、一人一人が強大な力を保有しているのだ。

 

何かしらの影響が出てもおかしくはない。

 

今のところは大丈夫そうではあるが……いつ限界を迎えてしまうのか心配である。

 

士道はそんなことを考えたことはないだろうが千早は最悪の事態を想定していた。

 

だが、対策は出来ていない。あるにはあるがそれはある意味最終手段であった。

 

それは―――精霊を殺すこと。

 

千早にはそれ以外思いつかなかった。

 

「身体が戻ると何か変わるのか?」

 

「ん? そんなに変わらないよ。せいぜいパワーアップするくらいかな」

 

「パワーアップ……って……」

 

と、微妙そうな顔をする士道。

 

「例えるならさ……今のボクってさ版権版のロボット大戦ゲームでいうと技の数が三つくらいしかない上に弱いユニットなんだけどさ」

 

「……いやいや……今のままでも十分だろ」

 

「そう? まあ、身体に戻ると技の数が増えて、威力も特殊効果も基礎能力も全部上がるんだよ」

 

幽霊状態の時では使えなかった能力もある。それが解禁される。

 

「……例えば?」

 

「軍勢の召喚とか」

 

その言葉に士道は顔をひきつらせた。

 

なんとも物騒な技だからだ。

 

『なんかさー、もっと平和的なのはないのー?』

 

『よしのん』が聞いてくるが千早は残念そうに首を横に振る。

 

「ないんだよね~……眠るように死ねる技はあるからそれが平和的なのかな」

 

千早の天使は殺傷能力に関してはかなり高い。その代わり千早自身の力などは低かったりするが。

 

「まあ……そろそろボクはいくよ」

 

どんどん薄くなっていく千早。

 

それを見送る士道、十香、四糸乃。

 

「は、早く帰ってきてください」

 

「……OK。頑張ってみるよ」

 

頑張るも何もこればかりは完全に運任せなので、頑張ってみるよとしか言えない。

 

千早は薄れいく意識の中、身体が引っ張られる感覚に身を任せるのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……あぁ……痛い……」

 

千早は胸部から腹部にかけて走る痛みによって目を覚ました。

 

そして、自らの胸元を見るとすぐに痛みの原因が判明する。

 

それは大きな刃が刺さっていたからだ。

 

背まで貫通して、定期的に少量ずつ血が流れ出ていく。

 

「ゴホッ……刺さったままだったんだっけ……」

 

咳き込みながらも刃の刺さっている理由を思い出す。

 

「……抜くか」

 

千早は胸元を貫通している刃を両手で挟むと一気に引き抜いた。

 

パタタ……ッ、と血が引き抜いた刃から飛び散り、刃の引き抜かれた胸部からは血がドクドクと流れ出ている。

 

カランカラン……と抜かれた刃が音を立てて床に落ちる。

 

「……ッ……隣界じゃなくて樹海に身体を置いてたからか棺の上に落葉が山盛りだ」

 

痛みのことから意識を逸らしながら千早は起きる。

 

「〈奪命霊皇(サリエル)〉」

 

そして、天使を呼び出すと手に持っていた刃の欠けた棒を床に落ちている刃に向ける。

 

すると、刃が浮き上がり、千早の持っている刃の欠けた棒に引かれるように動く。

 

それは棒の刃の欠けた部分にくっついた。

 

これで〈奪命霊皇(サリエル)〉の武装の一つが修復を終えたのだ。後は棺と霊装のみ。

 

霊力に関しては棺と霊装の修復を終えればすぐに回復すると予想している。

 

今の千早の姿は幽霊の時とは違い、霊装を纏っていた。

 

胸部から腹部にかけて縦に破けており、そこから血が滲んでいる。霊装は教皇が着ているような荘厳な法衣を連想させるようなものであり、さらに法衣の部分部分には瞳が刺繍されている。

 

だが、今はそれもズタボロ状態であった。

 

ところどころに穴が開き、破けてもいる。

 

「……隣界に消失(ロスト)し始めたか」

 

千早は光となって消える。

 

その場には血痕と落葉しか残っていないのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

【―――ああ、彼は行ってしまったか】

 

男なのか女なのか、低いのか高いのか分からないような声音を響かせる『何か』がいた。

 

【なんともタイミングが悪かったか……】

 

残念そうに呟く『何か』。

 

【せっかく二人っきりで会えるチャンスだったのに残念だ】

 

『何か』は特徴を一切悟らせない。実像は存在の解像度が粗く、声に関しても特徴が一切聞き取れないのだから。

 

隣界へと消失(ロスト)してしまった千早はこの『何か』についてはある程度しか知らない。

 

お互いにお互いのことを多少なりとも知っていることに関しては全く知らないのだ。

 

【……彼の望みは何なのか聞きたかったのだが】

 

『何か』はそう言うとその身体を闇の中へと溶けて消えていった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

千早が消えてから五河家のキッチンには士道が立っていた。

 

今まで千早がやっていた家事を士道がやっているからだ。

 

千早が消えてから士道の実妹を名乗る少女と遭遇したり、狂三が士道のことを『食べよう』とする、さらには妹の琴里が精霊であり、その力を再封印するなどの事件があったが、士道はなんとか無事に生きていた。

 

そして、現在は七月になり、修学旅行の準備も始まっている。

 

その前にテストがあるのだが。

 

「……いつになったら帰ってくるだか」

 

ここにはいない家族のことを思い浮かべる。

 

帰ってくると言っていたのだから帰ってくるのは間違いない。

 

千早の仕掛けたトラップに引っかかることすでに数回。

 

士道は何でトラップを解除しなかったんだと文句を言うつもりだった。

 

シュールストレミングによって数着の服が駄目になり、琴里に関してはシュールストレミングの十年物をくらい、十香はきな粉の海に溺れ、四糸乃はホラーハウス体験をしてしまっている。

 

四糸乃が泣いたことで天宮市は土砂降りにあうわ、琴里はキレるわ、十香は引きこもるわで大変だったのだ。

 

故に士道は千早が帰ってきたら文句を言うつもりなのだ。

 

「むぅぅ……シドー! これはなんと言うのだ?」

 

テスト勉強をしていた十香が国語の問題集を持って士道のいるキッチンに押し掛けてきた。

 

「ああ……少し待ってくれ」

 

火を消してから士道は十香の元へといく。

 

内心では千早がいれば今頃俺もテスト勉強出来てたんだよなぁと思いながら。

 

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