デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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36話

和室に備え付けられているテーブルを挟んで両者とも腰を下ろす。

 

耶倶矢、夕弦、千早の組み合わせと十香、士道、令音の組み合わせだ。

 

「……」

 

顔にスキンケア用のクリーム丁寧に塗っていく千早。

 

誰も喋らないのは千早のせいだ。

 

また、何かやるんじゃないという疑念が晴れないのだ。

 

「ん? 話はしなくていいの?」

 

「……してもよかったのかい?」

 

「もちろんでしょ」

 

「じゃあ、始めようか」

 

千早がうなずくと令音が音頭をとる。

 

「では、先ず私から話そう。私たちは――― 」

 

令音が〈ラタトスク〉についての説明を耶倶矢と夕弦に簡潔にする。

 

精霊との対話を目的とする組織として。

 

その際、十香自身も精霊であることが伝えられる。

 

ただ……精霊の力を封印する云々は説明されなかったが。

 

信用を得てないのに力を封印するなど確実に怪しまれる。封印のことを話すなら信用を得てからが大事だ。

 

「―――とまあ、こんな感じだね」

 

令音は一通り説明を終えるとスズッといつの間にか用意してあったお茶を啜る。

 

「……苦い」

 

そう言ってすぐにお茶の入った湯飲みをテーブルに置いた。

 

「そう?」

 

令音が苦いとテーブルに置いたお茶と同じものが入った湯飲みを素知らぬ顔で飲む千早。

 

そんな千早の様子に士道に十香、耶倶矢と夕弦も同じようにお茶を口に入れる。

 

「苦ァッ!?」

 

一口口に含んだところで四者が同時にそう言って悶える。

 

だから苦いと言ったのにと、令音が四人の様子を見ながらそう言うが四人はそれどころではないようで聞こえていなかった。

 

水、水ぅ……と形容しがたき表情で水を求める姿はまるで―――亡者のようである。

 

と、とてもひどいことを考えつつ千早は()()()()()()

適当に集めて纏めて乾燥させて作ったお茶を飲んでいた。

 

「……あ」

 

そこで何かを思い出したかのような顔で他の湯飲みを見ると自分の飲んでいるのと完全に同じ色をしているを知った。

 

内心でやっちまったぁ……、とほんの少しだけ反省しつつ表面上は特に気にした様子を見せずにいる。

 

「……ふぅ。ごめん、ごめん……ボク用のと一緒のにしちゃってたよ」

 

と、千早は悶えてる四人に軽く謝罪をする。

 

だが、四人とも令音の用意した水を飲むのに忙しいのか……特に反応しなかった。

 

まあ、正確には反応したかったができなかったが正しいのではあるが……。

 

そんな四人の様子に肩をすくめるとお茶を部屋に置いてある緑茶パックで淹れたお茶に変える。

 

それから千早は自分のお茶を飲みながら、横目で四人が復活するのを待つのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……話を再開しても大丈夫かい?」

 

令音が水をごくごくとがぶ飲みする千早以外の四人に告げる。

 

四人は水を飲みながら、器用にうなずく。

 

「……まあ、彼女らは水を飲むのに忙しそうだから、君の話を聞かせてくれ」

 

令音は横目で耶倶矢と夕弦をチラリと見てから千早にそう言った。

 

「OK。何から話そうか」

 

「できれば君が今日まで何をしてたのかを聞かせてほしい」

 

了解~、と軽い口調で返事をしてから千早は話しだした。

 

「つい先日まで隣界で療養してて、ある程度怪我も治ったから現界したら海の上。それから日本に戻る途中で耶倶矢ちゃんと夕弦ちゃんに遭遇。そして、現在に至る」

 

「なるほど……」

 

「そんでもって、まだボク自身本調子とはいえないから天使を出しても全力は発揮できないのでよろしく」

 

そこまで言うと千早は湯飲みにお茶を追加して飲む。

 

「……本調子じゃない上に全力を出さずに万全の精霊をボコせるって」

 

「そこは年期の違いだよ」

 

ちっちっち、と人差し指を左右に振る千早。

 

ぐぬぬ……と悔しそうな視線を千早に向ける耶倶矢と夕弦の様子を見て士道は苦笑いする。

 

「ところで……何が原因で千早は二人と戦ったんだ?」

士道はそれなりに気になっていたことを尋ねた。

 

千早が耶倶矢と夕弦相手に勝ちを納めたのは知っているが、何で戦うことになったのか、その原因はなんなのか気になったのだ。

 

「それについては我が答えよう」

 

すると、耶倶矢が神妙な顔つきで声を上げた。

 

「先ずは我ら―――颶風の御子・八舞について話さなければならない」

 

「説明。夕弦たちはもともと八舞という一人の精霊でした」

 

「だが、幾度目かの現界の時か、八舞は二つに分かれた」

 

士道は眉をひそめながら二人の顔を交互に見る。髪型や表情こそことなるも、二人は非常によく似た顔立ちをしていた。それこそ、双子どころかクローンと言われても信じてしまいかねないくらいに。

 

「なんでそんなことになったのだ?」

 

十香が首を傾げながら二人にそう聞く。

 

「それを知るのは天に座する運命の女神のみよ。ふん、性悪な彼の女神は随分と退屈と倦怠に苛まれているようだ。時折、道理も条理も通らぬ出鱈目な賽の目を好むことがある」

 

「ん……?」

 

「要約。よくわからない、と耶倶矢は言っています」

 

「おお……そうか」

 

「情緒がないぞ」

 

夕弦の説明でようやく理解した十香がうなずくと、耶倶矢が不満げに声を上げた。

 

調子を戻すようにコホンと咳払いし、あとを続けようとするも。

 

「二人に分かれた耶倶矢ちゃんと夕弦ちゃんはお互いの存在を認識……いや、存在が分かれた瞬間から自分たちがどうなるのかを理解していたかな。……やがて一つに戻ることを」

 

千早に台詞を盗られる。

 

「おい! せっかく我が説明しているのに……」

 

「解説。しかしもう、本来の八舞の人格は失われてしまっています。つまりその際、八舞の主人格になれるのはどちらか片方のみなのです」

 

「ええい! 夕弦も無視するな! と、とにかく我らどちらが主人格となるかを争っているのだ」

 

「だけど……それと千早はなんの関係が」

 

ここまでの話しと千早になんの関係がと士道は内心首を傾げる。

 

「それはこれから話す」

 

耶倶矢はそう返事を返すと一度、深呼吸してから続けた。

 

「今まで我らはどちらが真の八舞になるかを決めるために九十九回ぶつかりあってきた。そこで、まだ一度も勝負してない内容があッたのでそれで勝負をすることになった」

 

「ふむ……それはいったい?」

 

令音がいつの間にかメモ帳を取り出していた。それに対して特に触れることもなく耶倶矢は言った。

 

「……それは、『魅力』だ」

 

「……魅力?」

 

「うむ、魅力だ。九十九戦目の決闘は我と夕弦のどっちが魅力的かで決めようとしたのだが……」

 

ここで一旦、耶倶矢が口を閉ざして千早のことを睨む。

 

「千早が鼻で笑ったのだ!」

 

ビシッと人差し指を千早に向ける耶倶矢。その話を聞いて争った原因って完全に千早がいけないじゃんと士道は思った。

 

「あえて言わせもらおう……ボクにとって四糸乃ちゃんこそが魅力的であってそれ以外は普通か論外!」

 

ピシャリと言い切る千早に、おぉ~と感心の声を令音が上げる。

 

「そこまで思われているとはね」

 

「うん。そうなんだよ……あの、思わず抱きしめたくなる小動物のような可愛さ」

 

うなづきつつ恍惚とした表情を浮かべる千早。

 

その表情は見た目が少年である千早にミスマッチしており、背徳感が漂っている。

 

「本当……食べちゃいたいくらいにね」

 

うっとりとした様子でそう言う千早に周りがドン引きするも、本人は全く気にしておらず、むしろその反応が正常だと思っていた。

 

「要約。つまり、夕弦たちはどっちが魅力的かを聞いてるのに別の女の魅力を語られて腹が立ったので攻撃したら見事に返り討ちになりました」

 

夕弦がうっとりとした様子の千早を視界の外に追い出しながらそう言った。

 

「なるほどな……」

 

士道は溜め息を吐きつつ項垂れる。

 

思っていたよりもドロドロしたものではなかったからで、変に悪い方へと考えていたので気が抜けたのだ。

 

それでも……千早が襲われたのは千早が原因なのでかばう気は全く起きなかった。

 

「四糸乃が聞いたらよろこぶな」

 

「だろうね……でも、恥ずかしがりそうだ」

 

十香の言葉に令音がうなずく。それを聞いていた士道は実際に赤面して恥ずかしがる四糸乃が容易に想像できてしまう。

 

「恥ずかしがる四糸乃ちゃん……カメラを用意しておかないと」

 

千早はすでに耶倶矢や夕弦のことを頭の隅に追いやり四糸乃の可愛い写真をどうやって撮影するかの算段をたて始めていた。

 

しっかりと緩んだ表情で完全に思考がそっちの方へシフトしてしまっているのがこの部屋にいる誰にも理解できてしまう。

 

「千早では我らの魅力が理解できないようなのでな……貴様、確か士道と呼ばれていたな。貴様を裁定役に任ずる」

 

「裁定役って……」

 

突然、裁定役に任ずると言われて困惑する士道。

 

「理解。そういうことですね。千早が駄目なので士道にお願いします」

 

耶倶矢の言っていることを正確に理解している夕弦は困惑している士道にそう畳み掛ける。

 

「いや、だから詳しい説明をだな……」

 

「なに、簡単なことよ―――」

 

ふっと芝居がかった仕草で士道を指差す。

 

「―――士道、貴様を()()()()()()方が真の八舞になる!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

士道は何故そうなるという驚きの叫び声を上げる。

 

「なッ!? 」

 

十香は目を見開き絶句し、令音は冷静にどうやって耶倶矢と夕弦に自分のことをある程度信用させるかの算段を練り始める。

 

驚く士道の叫びを耳にした千早はというと。

 

「……カメラよりもハンディの方が……でも、画像が荒くなるし……いっそのこと〈ラタトクス〉にある機材を借りて撮影という手も」

 

未だに四糸乃の恥ずかしがる姿を収める方法を考えることに没頭しているのであった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

時は過ぎ、十八時四十分。

 

日が沈み、日中の茹だるような暑さも少しばかり改善された。それに合わせるように日中は聞こえ続けていた蝉の鳴き声もキリギリスのそれへと替わっている。

 

あのあと千早がトリップから戻ってくるとすでに話し合いは終了しており、士道たちは修学旅行の方へと戻っていった。

 

ただ、耶倶矢と夕弦の二人が士道の近くにいられるように手を回すため令音が連れていったため、現在は千早は一人で行動しているのだ。

 

「……あ」

 

「……なんであなたがここにいる」

 

せっかくなので温泉に入ろうと思い、この旅館の名物である露天風呂の方へ向かっていると……鳶一折紙と遭遇した。

 

ピシリ、と空気が凍る。

 

この場には千早と折紙しかいない。

 

精霊と精霊を狩る者。相容れぬ両者が出会ってしまった。士道というストッパーがいないのに。

 

「……答える必要があるとでも」

 

明らかに機嫌の悪くなる千早。そんな千早に対して折紙は無表情のまま答える。

 

「そう……でも、一般人の安全を守るのも私の役目」

 

「一般人を守るのもね……ふうん……とりあえず殺る気は無いよ。そっち次第だけどね」

 

千早としては士道や十香の修学旅行を台無しにするつもりは全くないので自分から仕掛ける気はなかった。

 

また、折紙は折紙で現在顕現装置(リアライザ)を取り上げられているため一般人と変わりないので仕掛ける気はなかった。例えあったとしても目の前にいる精霊を討伐できるヴィジョンが浮かばなかったのもあるが。

 

「ならいい。……だけど次は」

 

千早の横を通りすぎながら折紙は小さな声でそう告げる。

 

「できるものならね」

 

と、千早は対して期待してない風に返事を返すとそのまま露天風呂の方へと歩きだした。

 

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