10日……それが士道がギャルゲーをクリアするまでかかった期間だ。
幾度となく古傷を抉られ、精神を鍛えられた士道はまさしく精神的に打たれ強くなっていることだろう。
これなら精霊から心ない言葉を受けても多少は大丈夫なはずだ。そう思いたい。
そして、実地訓練を行うことになったが千早はそれには参加しないと予め士道に言っている。
理由としてはその行為が無粋だからだ。
これが本番のであったなら、ついていったのだが……練習ならば冷やかしたところで意味などない。
冷やかすならば本番が一番。そうでないとなんやかんや言い訳されて冷やかす意味がないからだ。
【……頑張れ、士道】
ぶっつけ本番でポカを犯さないようにと練習させられている士道に内心で敬礼しながら千早は感じた。
精霊が現界する気配を。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――
空間震を報せる警報が鳴り響く。
そして士道が〈フラクシナス〉に回収された故に、千早は上空に引っ張られながら、来禅高校を見据える。
その視線は 避難している生徒たちに向けられていた。
◇◇◇◇
〈フラクシナス〉から転送されてくる士道を待っている間、千早はずっと来禅高校を見ていた。
空間震と共に現界する精霊を捉え、ASTが学校の中へと入って行った精霊を囲むように展開している。
【……来たか】
今度は問答無用で地面の方へと引っ張られる。
もちろん、その先には士道の姿があった。
千早は士道に声をかけずに、その後ろから気がつかれないように見ている。
士道がごっそり削られた校舎の壁から校舎の中へと入っていく。
その後をゆっくりと追いかける。
そして、階段を駆け上がっていくのを見届けると千早は一旦、校舎から出た。
【……精霊は何処かなっと】
〈フラクシナス〉からのバックアップを受けている士道とは違って幽霊である千早は士道について行けば自ずと精霊の元に辿り着けたのだがそうはしなかった。
校舎の外側から探していると、
【……!?】
目の前の校舎の外壁を砕いて光の奔流が千早を呑み込んだ。
【……いやぁ~、ビックリした】
ふう、と額を拭う動作をしながら千早が驚いたように砕かれて中の様子が見えるようになった校舎の中を覗く。
そうやって覗いている間もさっきと同じような光の奔流が幾ども千早を呑み込む。
光の奔流が止まり、改めて校舎の中を確認するとちょうど士道が精霊と対話していた。
千早のいる位置からは何を話しているのか聞こえはしないが……まあ、険悪な雰囲気ではないことは確かなようだ。
それだけ見届けると千早は満足そうに笑みを浮かべた。
精霊の雰囲気からしてもう士道に対して攻撃……それも、死ぬような攻撃はしないだろうと判断したからだ。
それからは漫才を見ているかのようであった。
さっきまでビクビクしていたのにもうある程度仲良くやっているからだ。
黒板に『十香』と士道が書いて精霊がその名前をじっと見つめ、小さくうなずいた。
その後、士道と少し話すと精霊が唇の端をニッと上げた。
どうやら士道は精霊を笑顔に出来たようだ。
そのとき、突如、校舎を凄まじい爆音と振動が襲った。
【無粋な……全くもって無粋なことを】
そう言う千早の声はひどく冷淡であった。
千早は外にいるASTを排除したい衝動に刈られるも現時点で
士道が精霊をもう
そのもしものことを考えてもしょうがないと思考を切り替えて士道の傍にいき、小さな破片や流れ弾からその身を守る。
飛んでくる流れ弾や校舎の瓦礫を反らしていく。
「……千早ッ!?」
士道が大きな声で自分のことを呼びそうになったので千早は手で静かにとジェスチャーする。
でも、すでに千早と言う単語を言っているので〈フラクシナス〉の方に聞こえているだろうと千早は推測する。
【ほらほら、ボクにかまってないでキミにはやることがあるでしょ】
「―――十香ッ!?」
思い出したかのように精霊に呼びかける士道。
【それがその子の名前なんだ】
千早の呟きに士道がうなずく。
「……っ」
士道に名を呼ばれたことで精霊―――十香は視線を外から十香に移してくる。
未だに凄まじい銃声は響いていたが、二年四組の教室への攻撃は一旦止んでいた。
「早く逃げろ、シドー。私と一緒にいては、同胞に討たれることになるぞ」
「…………」
【さっきまでは士道を殺そうとしてたのにここまで心配してくれるようになるなんて……】
千早の中で十香の評価が上昇していく。ちなみにASTに対する評価は駄々下がりだ。好意と言う点でだが。
【ある程度はボクが守ってあげるからさ、士道のやりたいようにやって。出来ればなるべく十香ちゃんの傍にいてね。その方が安全だからさ】
「……おう」
士道は唇を一文字に結ぶと、十香の足元に座り込んだ。
「は―――!?」
十香が、目を見開く。
「何をしている? 早く―――」
「知ったことか……っ!? 今は俺とのお話タイムだろ。あんなもん、気にすんな。―――この世界の情報、欲しいんだろ? 俺に答えられることならなんでも答えてやる」
「……!」
十香は一瞬驚いた顔を作ってから、士道の向かいに座り込んだ。
【いやぁ、銃撃の嵐をあんなんもんって】
クククと愉快そうに笑う千早。
こんな彼だからこそ憑いたのだと改めて認識する。
その間も絶え間なく降り注ぐ銃撃の嵐の被害を士道の周囲に出さないようにやり過ごす。
現時点で千早が出来ることはポルターガイストのみである。
それの効果範囲は千早が行動出来る圏内に限りと条件はつくが。そもそも力自体が弱いためあまり使い勝手はよくないのだが、今回に限れば問題はなかった。
今の段階だと二㎏を越える重さのは動かせないが銃弾の重さ程度なら動かせる。特に今回は向きさえ変えてしまえばいいのだから尚更だ。
例えそれが、
まあ、この力を使って某柱の男の技を再現出来るが……所詮は見てくれだけだ。
そんな関係ないことはさておき。
千早は雨霰と次々に降り注ぐ銃撃の嵐を反らしていくのであった。
◇◇◇◇
銃弾の嵐が収まると千早はボロボロになり中が外から丸見えになった校舎から外へとでた。
十香を炙り出すための攻撃が一時的に止んでいる最中にASTの人員の顔を拝んでおこうと思っての行動だ。
先ず最初に目に入ったのが、士道のクラスメートである鳶一折紙の姿だった。
巨大なガトリング砲を装備していることからさっきまでの銃弾の嵐は彼女が起こしたものだと判断する。だが、ただ巨大なだけのガトリング砲では精霊に傷一つつけることすら出来ないのは分かっているはずなので、十香を炙り出すために使っていたのだろう。
精霊相手に切り札となるような武装がないのによくやると感心する千早であるが、こちら側としては完全に無粋なので帰ってもらいたいところだ。
立場が違うのだから。
ふと、背後で向かい合って話をしている十香と士道の姿にかつての自分と
それでも、十香見たいに相手を攻撃したりはしなかったが。そこは状況の違いだろうと自分を納得させる千早。
すでに終わってしまったことだが、その時の思いは未だに心の中に色濃く残っている。千早にとって最も大切な思い出だ。
だからこそ、二人の話を邪魔するような輩に対して敵意を抱く。
場合によっては士道の中にある力の一部を借りてでも十香と士道の会話を邪魔させないようにするつもりだ。