デート・ア・ライブ 千早ゴースト   作:真夜中

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6話

「……そりゃあそうだよな、普通に考えりゃ休校だよな……」

 

士道は後頭部をかきながら、高校前から延びる坂道を下っていた。

 

【アハハハハ! マヌケ~、とは口が裂けても言えないね】

 

「思いっきし言ってるぞ!」

 

口が裂けても言えないね、と笑いながら言っている千早に士道がツッコミを入れる。

 

人通りが無いからこそ、ツッコミを入れることが出来た。これで人がいたら確実に士道のフラストレーションは溜まっていただろう。

 

今日は士道が十香に会った翌日だ。

 

目の前で校舎が破壊されていくのを見ていたのに、普通に登校してきてしまった自分の阿呆さに士道は息を吐いた。

 

【ほらほら、こう言うときこそ考え方を変えないと】

千早は陽気に士道にそう言う。

 

「例えば?」

 

【はぁ~】

 

あからさま溜め息に士道がイラッとするが、千早はやれやれと肩をすくめる。

 

【こういうときは……十香ちゃんとのデートコースの下見とかあるだろうに】

 

明らかに馬鹿にしたよう言い方にフラストレーションが溜まるが、いちいち真に受けてもストレスはが溜まる一方なので、息を吐いて一旦落ち着く。

 

「……そうだな」

 

さっきまでの千早との会話、昨日の夜遅くまでやった十香との会話を記憶したビデオを見ながらの反省会での寝不足が原因で思考能力が落ちていたとしても十香とデートするという約束を取りつけたことを忘れてはいけない。

 

【そうだよ。いつ会えるかわからないんだから、あらかじめ準備しておかないと】

 

「となると何処がいいか……」

 

士道は十香とのデートコースを考えるため、家への帰路とは違う道に足を向ける。

 

そして、数分と待たず、士道は再び足を止めることになった。

 

道に、立ち入り禁止を示す看板が立っていたのである。

 

「っと、通行止めか……」

 

【ちゃんと確認しながら歩かないと】

 

そう苦言を漏らすも、その道が通行できないことは容易に知れた。

 

何しろアスファルトの地面は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩落している。まるで戦争でもあったかのような有様だったのだから。

 

「―――ああ、ここは」

 

【―――そうだね。ここは】

 

士道が十香と始めて会った空間震現場の一角であり、十香と折紙のぶつけ合った剣の余波でゴロゴロと転がり、塀に頭をぶつけて気絶した場所でもある。

 

「……ドー」

 

【ん?】

 

この声は―――

 

「……い、……ドー」

 

【ああ、やっぱりか】

 

声の主の姿を見つけるとすぐにわかった。十香である。でも、士道は思考に耽っていて気がついてない。

 

「おい、シドー」

 

【お~い、ご指名ですよ】

 

十香の声がはっきりと聞こえる場所にいるのに気がつかない士道。

 

「……無視をするなっ!」

 

「―――え?」

 

【ようやく気がついたか……】

 

 

士道の視線の先。

 

瓦礫の山の上に、明らかに街中に似つかわしくないドレスを纏った十香が、ちょこんと屈み込んでいた

 

「と―――十香!?」

 

「ようやく気がついたか、ばーかばーか」

 

貌を不満げな色に染めた少女は、トン、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原形を残しているアスファルトの上を辿って士道の方へと進んできた。

 

「とう」

 

と、通行の邪魔だったのだろう、十香が立ち入り禁止の看板を蹴り倒し、士道の目の前に到着する。

 

つかさず千早が士道に言う。

 

【……昨日の今日でさっそく来たけど……どうするの?】

 

この近所に住む、おばちゃんたちやペットの散歩でこの近くを通っている人がいるため千早の言葉に士道は返事が返せない。

 

「さあ、シドー。デェトだデェト」

 

「へ……、ああ、そうだな」

 

昨日の今日でさっそく会うことになるとはつゆにも思っていなかったが、これはチャンスだと千早は思った。

 

空間震を発生させないで現界しているのでASTによる邪魔もなく、今日は学校が休校になっているのだ。これだけの好条件が揃っているのにこのチャンスを逃す必要はない。

 

【とりあえず、ひとけのないところに連れていって。後、いくらひとけのない場所だからって狼になったら駄目だからね】

 

ならねよ! と、ツッコミを要れたい士道だが、如何せん人通りがあるためにツッコメない。

 

「……どうしたのだ?」

 

「い、いや……なんでもない」

 

【さあ、路地裏に連れ込んで……あんなことやこんなことを】

 

「ちょっと、ついてきてくれないか」

 

「構わないぞ」

 

士道が路地裏の方に歩いていくと十香がすぐさま追ってくる。そして士道の隣に並び歩く。

 

士道は十香を伴って、ひとけのない路地裏に入り込む。

 

【士道、紙とペンの用意を】

 

士道は持っていた鞄の中から紙とペンを取り出す。

 

「何をしてるのだ?」

 

「あ~、昨日約束したからな……ほら、千早について」

 

「おお! そうであったな」

 

「ほれ」

 

士道が紙とペンを軽く上に向かって投げる。

 

それを十香が目で追い、

 

「なんと……っ!?」

 

空中で紙でペンが勝手に動きサラサラと字を書き出したことに目を見張る。

『はぁーい! 初めましてと言ったら初めましてだけど、それなりに会ってるから十香ちゃんのことはそれなりに知ってるよ。おっと、まだ名乗ってなかったね。ボクは千早だ。気軽にお兄さん、チーちゃん、千早様と呼んでくれてもいいよ☆』

 

「なあ、シドー」

 

「言わなくてもわかってる」

 

げんなりした十香の様子から何が書いてあったのかを予想した士道は軽く頭を押さえて溜め息を吐く。

 

その間にも千早は新しく文字を書き込んでいく。

 

『姿はボクの諸事情によって現在は士道以外が見ることはないんだけど、近いうちに見ることになるだろうからその時はよろしくね』

 

「そうなのか」

 

『そうなんですよ。まあ、後はデートを楽しんでおいでね。十香ちゃんの知らないことはまだまだたくさんあるんだからさ。それじゃあね~』

 

それだけ書くとペンが地面にポトリと落ちる。

 

その正反対に千早は上空に上がり、ちょうど士道の真上の位置でたたずむ。

 

ちょうど千早のいる位置からは下で話している十香と士道の話が聞こえないのでしょ二人が何を話しているのかはわからないが、雰囲気は悪くないのでそのまま見ているだけに留める。

 

【あ~、ハンディカムがあれば】

 

そう呟く千早は空を見上げた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

【…………初々しいね】

 

ニヤニヤとしながら下を見る千早の視線の先には手を繋ぐ士道と十香の姿があった。

 

二人がファミレスに入ってからまるで仕組まれているかのように行く先々で何らかしらのイベントが立て続けに起こっている。

 

わかる奴ならわかるだろう。これは琴里率いる〈ラタトスク〉のメンバーが原因だ。

 

個人的には文句をつけたいところだが……案外楽しそうにしている十香の姿を見るとそんな考えも失せる。

 

士道は士道で大変そうだが、それでも楽しんでいるようにも見えるから問題ない。

 

ボクの時はどうだったかな? と千早は過ぎ去りし日のことを思い出す。

 

―――こんなところに来るなんてあなたも物好きね。

 

これがかけがえのない友人との初めての会話だった。

 

そこは特別なものがあるわけではない自然に溢れた湖畔。その場所こそがかけがえのない友人である少女と始めて会った場所だ。

 

そこで絵を描いたり、動物と触れ合ったりとここでは出来ないようなことばっかりをしていた記憶がある。

 

それはそれで楽しかったのだからいい思い出だ。

 

手を繋ぎながら歩いている二人につい過去を重ねてしまう。

 

だからこそ、無粋な真似をされるのが気にくわないのだろうと、千早は思う。

 

まるで自分の思い出が汚されているように感じて……。

 

【そんなことないのにね】

 

自嘲気味に笑うが千早の目は笑っていなかった。

 

テーマパークに行ったことも、くじ引きをやることも、それらは彼女とやったことはなかったな。

 

当時にそれらがあれば連れていってあげたかったと今更ながらに思う。

 

我ながら未練がましく思うもそれは千早の本心だ。

 

それもすでに終わってしまった物語。今ある自分はその後に終われなかった亡霊にしか過ぎないのだから。

 

士道が色々とサポートを受けながら十香とのデートを続けていく。

 

五年前―――正確には千早が士道にとり憑くことにした日に見た光景が確かならば士道は精霊にとって本当の意味で特別な存在だろう。

 

時間は刻一刻と過ぎていく。

 

夕日に染まった高台の公園には今、十香と士道以外の人影は見受けられない。

 

しかもこの場所は士道の住んでいる街である、天宮市を一望できる場所でとても見晴らしがよい場所だ。

 

千早も士道と一緒に何度か来ているし、ここを選ぶとはナイス判断だと喝采の言葉を送りたいほどである。

 

綺麗な光景はそれだけで価値がある。心を動かし、今までの認識(世界)を色鮮やかなものへと変化させる。だから、この場所を選んだことに喝采の言葉を送りたいのだ。

 

綺麗な思い出ほど鮮やかに心に残るのだから。

 

【……見てるかい? 今でも世界は綺麗だよ】

 

穏やかな表情で目を閉じて千早は片手を胸元に当てる。

 

ここにはいない、彼女のことを思いながら。

 

去来する愛しさと悲しみの感情を胸に秘めて、目を開ける。

 

夕日に染まった高台の公園にいる二人は心から今日のことを楽しい思い出に出来ただろうか?

 

それに関しては出来ただろうと、千早は感じている。

 

それは十香の雰囲気を見ていればわかる。特に()()()()()()()()()()なのだから。

 

状況に差異はあれど……。

 

 

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